「貴様ぁーーーー!よくもカテレアを!俺から奪い、子をなすなど到底許せるか!挙げ句になんだこれは?貴様ら裏切ったのか!?」
「裏切るも何も無い。俺は我が主を守る為に、その障害である貴様を排除するだけだ。″たまたま″貴様らの軍事行動中だっただけの話だ。それに」
俺とクルゼレイが対峙し、言葉を交わす。
ここは正しく戦場だ。
俺達の周囲には兵と兵がぶつかり、魔力が飛び交い、険が弾ける。
ある意味予想通りクルゼレイは現れた。堂々と正面から、兵を引き連れて。
あまりの事に報告を受けた時は笑ってしまい、現場指揮をとる魔王サーゼクスの騎士、沖田殿も呆れていたものだ。
挙げ句の果てに口上無しからの不意打ちを仕掛けてきて、これだ。俺でなくとも文句の一つは出るだろう。
それに、だ。
「それに貴様から得る許しなど何処にあると言う?棄てられた男の嫉妬など憐れだな。なぁ、お前は本当に新なる魔王なのか?憐れすぎて殺したくなるぞ?はっきり言ったたらどうなんだ。今日は俺とカテレアの幸せを壊しに来たと。あくまでもサーゼクス討伐はついでなんだと。なぁ憐れな憐れなクルゼレイ」
まるで己の物の様にカテレアの事を話す奴が心の底から気に食わない。カテレアは誰の物では無い。俺の主で妻ではあるが物では決して無い!
腹が立つ。クルゼレイを消し去りたい。渦の団内での評価に変動は現れるだろうが、この男を放置するよりかは遥かにましだ。
故に挑発染みた発言をした。俺もまだまだ未熟なのだろう。反省はしよう。しかし後悔など断じて無い。
「き、貴様ぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!俺に対してその物言い!覚悟は出来てるのであろうな!こうなったからには手段は選ばん!何としてでもカテレアを我が手に!貴様の娘も人形の様になぶってくれる!シャルバには貴様が裏切った故に殺したと伝えておく事にしようか!はははっ、塵一つ残さず消え、ぎゃっ!?」
「黙れ、貴様の声は耳障りだ」
激昂し狂った様に笑うクルゼレイの左腕を瞬時に斬り裂く。
「クルゼレイ様!?お前いきなり何を!?」
その直後奴の眷属と思わしき男が魔力を放つ前にその場を離れながらクルゼレイの腕を斬り裂いた刀を投擲し、それは眷属の男の命を消し去る。
「いきなりも何もここは戦場。油断した者が悪い。それにしてもクルゼレイ、あれだけ大口叩いてその程度か?俺程度にその様とは情けないものだ」
「う、腕が!俺の腕が!?き、貴様許さんぞ!?」
「クルゼレイはそればかりだな。そんなのだからカテレアに棄てられるんだよ」
「お前ら!こいつを殺」
「
「せ―――――な、なんだそれは!?どこから出したのだ!その刀剣達は!?」
クルゼレイが先ほどまでの威勢を他所に困惑した声音で叫ぶ。奴の眷属など分かりやすい程に脅えている。
さもありなん。俺の言葉の直後、俺の背後には20にも及ぶ名の在る聖剣、魔剣が浮遊しているのだ。そしてその切っ先は奴等に向けられている。
「俺がどこからと聞かれて答える馬鹿に思えるのか?なら尚更滑稽だよ。貴様はそんな馬鹿にしていた男に殺されるのだから」
「何故だ!何故エクスカリバーがここにある!?何故デュランダルが!?それにアロンダイトにレーヴァテイン!?何故その様な″所有者のいる″剣を貴様が持っている!?」
どうやら話を聞いていないようだ。
「もしやそれは偽物か!?それならば納得出来る!ははは、臆するなよお前達!形にまどわさ」
「ぐはっ!」
俺は奴が言い終わる前にデュランダルを奴の眷属に放つ。突然の攻撃に反応すら出来ずにデュランダルに貫かれ、眷属の一人は消滅した。死体すら残さずに消え去った。
「とうとう狂ったか?それとも現実を認めたく無いのか?オーラを見れば分かるだろうに。これは間違いなく聖剣、魔剣の類いであると」
まぁ偽物と言うのは間違いでは無いのだが、訂正する理由も無い。精々本物と思い込んでおくが良い。
「く、クソ、クソがぁーーーーーーーー!」
「クルゼレイ様!ここは引きましょう!」
「貴様!俺に逃げろと言うのか!?それでも誇り高き真なる魔王の眷属か!?」
「命あっての物種です!生きていれば好機は現れます!何卒、何卒今はっ!」
クルゼレイが絶叫にも似た悪態をさらすのを必死に宥める眷属の女。場違いにも思う。良き眷属だと。
それに見れば分かる。その女も奴の他の眷属も相応に強者であると。先に殺した二人としても不意打ちにより絶命したが、本来ならば苦戦していてもおかしくない強者であったであろう事も。
故に情けない。これ程のもの達が何故この様な男に尽くすのか。と言うか勿体なくすらある。
「良い部下を持っているじゃないかクルゼレイ。が貴様だけは逃がさない。貴様はここで死ね」
「ふん!貴様に誉められた所で嬉しくとも何ともない。むしろ不快だ!それにやはり眷属などいらん!カテレアが勧めるから揃えてはみたが、結局は訳立たず。貴様すら仕留められない者共などいらんわ!」
その言葉が決定打になったのだろう。眷属の女は表情が分からない程にうつ向き一歩下がる。幾人かの眷属も同様でそれらの者共は手にしていた武器から手を離していた。
残りの眷属は己の王の言葉に怒りを表情に滲ませいる。
ふむ、どうやら俺の仕事はなくなりそうだな。
「我が王よ、それはつまり僕達は貴方に支える価値もないと、そう仰るのですか」
うつむいた一人の青年が声をだす。
その声は怒りは無い。むしろ感情と思われるものが一切含まれていなかった。
「ふん。初めから貴様らに価値など見出だしていない。中々に有能だと聞いたから眷属にしてみただけだ」
「貴方は私達に王道を見せて下さると仰っていたではありませんか。あれは嘘だったのですか?」
今度は別の女が声をだす。この女もまた感情が含まれていなかった。
「夢を見せてやったのだ。むしろ感謝されても良いくらいだろう」
「私達は貴方を信じていた。尊敬もしていた。優しかった。慕っていた!だから尽くしてこれた!なのに、なのにそれが貴方の本音なのか!?」
そしてクルゼレイを諌めていた女が顔を上げて叫ぶ。その瞳からは涙で溢れ、純粋に悲しんでいることが分かる。
「あんなものパフォーマンスに過ぎん。有能なら可愛がってやるさ。現に可愛がってやっただろう?お前達は容姿は優れているからな。男には女を与えた。女には俺が直々に相手をしてやったのだ。俺の種を嬉しそうに受け入れていたじゃないか」
全員が絶望ににた表情を浮かべた。先ほどまでの怒り狂っていた者共も全てがが。
主に裏切られたのだから。仕方が無いだろう。
「お前らに最後の仕事をやる。あの男を殺せ!殺した者は褒美にまた俺が可愛がってやるぞ?」
そしてこの男は気が付かない。自身が全てを無くしつつあると言うことに。
「どうした!何故誰も前に出ない!俺の命令が聞けないのか!」
そして一人の女、初めにクルゼレイを諌めていた女が前に出た。
「はは、そんなに俺に可愛がってほしいのか?なら殺せ!そいつを殺し俺の眷属である証明をしてみろ」
「声をかけるなゲスが!」
女は無感情な表情で涙を流しながらクルゼレイに言う。
「初めはアスモデウスに見初められた事を純粋に喜んだ。次に貴方の優しさに惹かれた。貴方に抱かれ愛されていると思った。でも違った!でもそれだけならまだ良かった。側にいれることが幸せだった!一生支えると決めていたのに、貴方は私達の心を騙し裏切った。もう良い。全てがどうでもいい」
そして女が俺に語りかけた。
「ねぇ私を殺して。もう生きてる価値も否定された私には生きてる事がつらいの。そこの剣で簡単に殺せるのでしょう?」
「お前は何を言っている!いいから奴を殺せ!お前達も早く行け!」
「もう俺達は貴方の眷属ではない、そう言ったのは貴方なのに勝手を言うなよ。貴方が、いや、テメェーがやればいいだろうが!騙すなら最後まで騙せよ!なんでこんなところで本当の事言うんだよ!騙されてたら俺はあんたの為に戦ったさ!みんなだってそうだ!それをテメェーが壊したんだ!」
また一人の男が涙を流しながら訴える。その男は悲痛な迄に顔を歪ませ魂からの叫びの様に声をだす。
そしてそれは他の全員が思っていることなのだろう。
それを見てクルゼレイは漸く己の失った物に気付き、そしてそれを
「やはり最後に頼れるのは俺だけと言うことか」
切り捨てた。
いつの間にか奴の腕は元に戻っており、体からは魔力が溢れ出ている。やる気は十分と言った所か。だがそれでは眷属達があまりに不憫だ。
「貴様がやる気なのはわかった。がその前に貴様の眷属に聞きたい。死にたいか?この男を殺したいか?それとも生きたいか?」
「………死にたくはない」
一人がポツリと呟いた。
「………でも生きるのも辛い」
また一人が呟く。
「………こんな男でも主を手にかけたくない」
そしてそれは増えていく。
「死にたく」「辛い」「殺したくない」
要約するとこの3つ。しかし生きたいとは言わないあたり、己の境遇を悟っている故か、それとも絶望しているからなのか。
「もういい。面倒だ。貴様も、お前達も全て俺が消してやる。これが俺の最後の慈悲だ。苦しまずに逝け!」
突然クルゼレイが言葉と共に魔力の波動を放つ。それの効果範囲は予想できる限りでは俺とそして眷属達が含まれている。
まったく面倒なのはどちらだ。まだ話し途中だと言うのに!
俺は眷属の前に躍り出て片手を前に突きだし
「行け!」
待機していた剣群に命じた。
刹那、周囲は音と光に包まれた。
††
「シロウ殿の様子はどうだろうか」
そう呟いた瞬間の事だった。
シロウ殿とクルゼレイ・アスモデウスが対峙していると思われる方向から大音量の爆音と、眩いほどの光が放たれた。
私がそれを見て思った事は何て事ない。
まぁ大丈夫でしょう。あの方も我々に劣らない程に滅茶苦茶ですから。
と、この程度であった。
私はあの方と戦った事がある。それゆえの感想だ。
剣での試合なら十中八九私が勝つでしょう。しかし死合いならば分からない。
それほどにあの方の戦闘者としての能力は一級品なのだから。
††
クルゼレイの魔力砲と俺の刀剣達の衝突した衝撃により視界は煙に包まれ、砂が巻き上げられた事により何も捉える事が出来ない。
後ろからは咳き込む声が人数分聞こえるので無事だろうとは思う。
そしてクルゼレイは
「やったか?ふははは!他愛もない!俺に逆らうからこうなるのだ!」
耳がいかれているのかそんなことを大声で言っている。そんなことをすれば俺に居場所を教えているのと同じなのだが、ある意味今が好機だ。
俺は奴の存在を無視し、俺達の周囲に残った剣を待機させる。
「それでお前達はどうしたい?全てをお前らの希望通りにはいかないだろうが、ある程度は融通してやる。それに俺に従わず死ぬのも良いだろう。好きにすれば良い。それと勘違いしているかもしれんが降伏したところで死ぬことはない。罰は受けて貰うが魔王サーゼクスは甘い男だ。死刑になどならん 」
捲し立てる様に言った。煙が晴れればそれは戦闘開始と言う意味を持つ。故に悠長にしている余裕は残念ながら無いのである。
「あんたを信じて良いのか?」
「知らん。信じるも信じないもお前達次第だ。だが俺が今お前達を騙すリターンがあるのか?既に主に裏切られ、絶望しいるお前達を騙すリターンが何処にある?はっきり言う。お前達は有能だ。詳しくは手合わせもしていないゆえ明言出来んが、立ち居振舞いを見てれば分かる。だからお前達には力を貸して欲しいとすら思う。あの男に使われるのが勿体なくすら思う。だから俺は騙されるかもしれないと言うリスクを背負ってでもお前達と言うリターンが欲しい 」
「私達に価値はあるの?魔王に捨てられた私達に」
「それこそ知らん。と言うか人に答えを求めるな。己の価値は己の行いで証明するもの。そして俺一人に委ねて良い答えではない。だがあくまで俺からすればお前達を捨てる奴の心理が理解出来んと答えよう」
「貴方は僕達を欲してくれるのですか?」
「再三言っているが不安ならいくらでも言ってやる。お前らの力を貸してくれ」
「貴方は私達を愛してくれるのですか?」
「俺が今愛すると言って信用出来るか?そんなもの感じない位忙しくなるから気にするな。それに俺は妻子持ちだ」
ぷっ、と誰かが笑う。つられる様に笑い声が聞こえてきた。
むぅ、俺は何か笑わす様な事を言ったか?まったく見に覚えが無い。
だがまぁ良い。絶望されているより笑った方が良い。
「で、どうする。生きたいのならそこで見ていろ。死にたいのなら何処へなりと行くが良い」
『貴方の仰せのままに、私達の命は貴方の物へ、我が主よ』
生きたいと言うことで良いようだ。
それにしても我が主ときたか。そんなつもりはなかったのだが、彼等に対する責任はとらなくてはいけないな。
しかしである。
「困った。おれは低級悪魔だからお前達を眷属に向かいいれ出来ん。上級悪魔になるまで待っててもらえるか?」
そうなのだ。実は俺ことシロウ・レヴィアタンは主であり妻であるカテレアと同じ姓を名乗ってはいるが悪魔政府からは低級悪魔として認識されている。
何故なら元テロ組織に所属しており、魔王とコンタクト後も昇給試験を無視してきた。今まで気にしなかったが、まさか此処でその弊害が来るとは人生分からない物だ。
そんな俺を他所に未来の眷属達は唖然としている。先ほどまでの泣きはらし、漸く笑えたその顔をだらしなく目と口を開いて俺を見ている。
「低級と聞いて驚いたか?それとも低級が上級に勝てないと思ったか?ならば嘗められない様に俺もお前達に示そう。俺がどんな悪魔なのかを」
そして俺は眷属達に背を向ける。向かう方向はただひとつ。未だに狂った様に笑い続けるクルゼレイ。
そこに向けて未だ晴れない視界の中皮肉を込めて言った。
「行くぞ魔王クルゼレイ・アスモデウス!兵の貯蔵は充分か!!」
クルゼレイの笑い声が止まった。
なんかやっちゃった感がある。
反省はするが後悔はない!!