GGO Tmc 裂傷と弾痕   作:Moldapo

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2話 月明かりの世界

 

 

 

 

 

 シノン「...BoB Tmc?」

 

 リーファ「そうなんですよ!今度開催されるBoBはなんでもツーマンセル(Tmc)での2人1組のチーム戦での大会みたいなんです!」

 

 突然の呼び出しを受け、日もまもなく落ちる頃に酒場へ到着した私たちを迎えてくれたのは、まるで新しく見つけてきた美味しい喫茶店でも紹介するような穏便な笑みと高揚感をまとった彼女の顔とつい先程更新されたという情報だった。

 

 新「公式のチーム戦か、いろいろおもしろくなりそうだな」

 

 シノン「詳しいルールとかの情報は出てる?」

 

 リーファ「いえ、今わかってる情報なんですけど、この他には開催日時と申し込み方法だけなんです...。でもでも〜!この後のGGO NEWSで特別放送するみたいなんですけど、そこで詳細が発表されるんじゃないかって!」

 

 新「なるほど!結構手間がかかってるじゃん!」

 

 リーファ「ですよね!楽しみ〜」

 

 新「お互いステをどれかに極フリ状態でも組んだらどのスタイルでも結構いけそうだ」

 

 新「でもなんでこんな急にツーマンセルなんて、」

 

 シノン「まぁ今までツーマンセルでの協力プレイを好んでするプレイヤーなんてなかなかいなかったから無理もないわね」

 

 新「確かに...。完全に利害関係が一致してないと協力は確かにあり得ないな」

 

 シノン「このゲームはあくまで目的のターゲットを倒すゲーム。スコードロン以外での人との協力にはそれなりのリスクがあるわ。」

 

 シノン「相手の動きがかえって邪魔になってしまうことだってあるし」

 

 シノン「結局、信じられるのは自分の強さだけ。」

 

 シノン「報酬の問題もあるしね」

 

 そう、MOB狩りをしに行くならまだしも協力すること自体稀なゲームだ。相手に隙をみせればこっちだってやられる可能性がある。ましてやリアルマネートレーディングを採用しているこのゲームならリアルでの知り合いでもない限りなおさらだ。大体私は私自身が強くなる為にこのゲームを始めた。確かにスコードロンにも参加したことはあるがそれは自分の為であって、周りとの連携にそれほど重きを置いているわけではない。

 

 

 シノン「私はパスかな」

 

 リーファ「え〜!シノンさん出ないんですかぁ!?」

 

 新「おいおい、まだ詳細すらわかってないぞ?」

 

 シノン「確かに少し興味はあるけど、協力とか連携するのに向いてないの、私」

 

 シノン「もともと1人で索敵から射撃までやらなきゃだし」

 

 新「それもそうか、でも狙撃中に後ろとか気になるだろ?」

 

 シノン「初心者でもあるまいし、もうそんな心配してないわよ。クリアリングは充分してるし、大体ちゃんと集中しないと当たるものも当たらないわ」

 

 リーファ「でもシノンさんあの時のBoBではお兄ちゃんとすごくうまく協力してて、ちゃんとしたツーマンセルみたいでしたよ!」

 

 シノン「...あれは事情が事情だったから、本来なら真っ先に撃ち殺してるわ」

 

 シノン「とにかく、今回私はパス。2人とも出るならペアになっちゃえば?」

 

 店のドアへ向かおうと立ち上がりながら去り際に爆弾を落とすように放ったその言葉に2人は「えっ!?」という言葉をもらし、お互いの少し赤らんでいる顔を見合った。

 

 リーファ「べ、別に大丈夫ですよっ!...あたし初心者だし脚引っ張っちゃうから...あっシノンさん!?どこ行くんですか?」

 

 新「俺だってリーファち...おいシノンっ!」

 

 シノン「どこって戦場よ、私は1人でも充分やっていけるわ」

 

 シノン「...もちろんあなた達との関係は切らないから安心して」

 

 若干不安そうな顔をしたリーファの事が気になりドアに手をかけたが立ち止まり、緊張を少し緩めた笑顔でそう語りかけた。

 

 リーファ「...シノンさん...」

 

 シノン「...応援は絶対するから。」

 

 シノン「なんならリズに頼んでみたら?こいつと組みたくないのなら」

 

 新「おいおい、俺は別にリーファちゃんとペアでも全然構わないぜ?」

 

 リーファ「だからいいですよ...。あたしはまだ始めて半年くらいだし、新センパイはもう歴戦の勇者みたいなものじゃないですか」

 

 新「そんなことないって、俺はリーファちゃんと組みたいよ」

 

 リーファ「ありがとうございますっ、でもいいんです!私...もっと強くなってから...脚を引っ張らないようになってから新センパイと組みたいんですっ!」

 

 新「...そうか」

 

 新「実力的にはリーファちゃんは脚なんて引っ張らないと思うけど、リーファちゃんの中のなにかが、まだっていってんならそいつに従うのが正しいってもんだな」

 

 リーファ「...センパイ」

 

 新「まぁいいさ。強くなる為の最低限のアシストは今まで通りしてやるから後は自分で納得いくまで強くなれるといいな」

 

 リーファ「...ありがとうございます」

 

 新「っま、俺にも当てがないわけじゃないし」

 

 シノン「あら?あんたにそんな知り合いいたっけ?」

 

 新「舐めてもらっちゃあ困るな、これでも顔はきく方なんだよ。」

 

 そう言うと端末からメッセージを誰かへと送信しているみたいだ。

 

 リーファ「シノンさん、私リズさんに頼んでみます!」

 

 シノン「ええ、きっといい返事をくれると思うわ」

 

 そう言うと私はドアにかかった手に力を込めて押し込み、鈴の心地よい音を聞きながら酒場を後にした。

 

 

 

 

 

 

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 兵士A「シノンさん!シノンさん!...」

 

(はぁ...まったく)

 

 酒場を出てからというもの一体何人の人に声をかけられたのだろう。リーファから次の大会「BoB Tmc」の開催の知らせを耳にしてから町の様子はどこかいつもと違っていた。埃と硝煙の立ちこめるこの薄暗い街を行き交う人々は自分の中の気持ちを抑えきれずに無意識にどこか活気だっている。

 おそらく次の大会が2人1組で行われることに人々の関心は向いていて優秀な相方を探して様々なところを探しているといった具合だろうか。

 

 普段の彼女に面と向かって話しかけてくるプレイヤーはそんなに多くない。それこそトッププレイヤーの1人でもある彼女に、憧れや尊敬の眼差しで見ているものや挨拶をしてくるものはかなりいるのだが直接要件をもって話をしてくることなど今まで数えるくらいしかなかったのだ。

 

(これだからこのアバターは嫌なのよ)

 

 ただでさえ女性プレイヤーが少なく、むさ苦しい男の世界のようなゲームだ。筋骨隆々のガチムチ兵士のようなアバターがほとんどで稀にチャラチャラしたイケメン風プレイヤーなどがいるが女性アバターでさらに彼女ように端整で可憐なアバターはごく稀にしか出てこない。彼女自身は自分のアバターについてはまるで興味がないといった様子だが周りのプレイヤーたちの感情は彼女のそれとはまったく逆なものであることは火を見るよりも明らかだった。

 

 アサルト使い「シノンちゃん!次の大会聞いた?」

 

 無視、怒り、睨み、軽蔑、蔑み、様々な方法を試した彼女だったが次から次へとやってくるプレイヤーたちを黙らせるにはどれも軽めのジャブにしかならず、だんだん彼女の周囲に集まりだし、誰が彼女と組むのかで賭け事をしている連中すらいるほどだった。

 

(もう、いい加減にして)

 

「あっ、シノンさんじゃないですかぁ」

 

 唐突な聞きなれた声の居所に私はそのわずかな期待を突破口とするため為、急いで反応を返した。

 

 シノン「シ、シリカちゃん?奇遇ね、こんなところで」

 

 シリカ「いえいえ、少し買い物をしてただけなんでぇ」

 

 シリカ「それにしてもシノンさんすごいたくさんの人を連れていますねっ」

 

 にこやかに笑う彼女は私の周りに集まった有象無象について私の連れだとでも勘違いしたのか的外れな見解を披露してくれた。

 

 シリカ「そういえばシノンさんっ、次の「BoB Tmc」は誰とペアを組むんですか?」

 

 シノン「あーそれなんだけど...」

 

 シノン「私は今回の大会には出ないつもりなの」

 

 同時に周りからどよめきとも感じられる声が聞こえてきた。

「今回シノンさん出ないみたいだぞ」

「通りで反応が薄いと思ったんだ」

「か〜今回も撃たれたかったぜ」

 徐々に解散の兆しを見せ始めた烏合の衆をさらに取り払う為に彼女は会話を進める。

 

 シノン「シリカちゃんは今回の大会は出るんでしょ?」

 

 シリカ「はい!でもまだこれからペアの人を探そうかなって思ってて」

 

 生簀(いけす)の真鯉たちが巻かれた餌の元へと泳いでいく。

「おいおい、あっちの子もなかなか可愛くないか?」

「俺はこっちの方がタイプ!」

「相方募集ってか?」

「オタコン、聞こえるか?」

 すっかり取り囲まれた彼女の困り顔を横目に今回はごめんと横から路地裏へと脱出に成功した私はメッセージで今度なにか奢るから、という簡単なメールを彼女に送信した。安堵の表情を浮かべながら月が陰るこの暗闇の世界を見上げ、1度大きく息をしてからこれから向かうフィールドでの動きをシュミレートしながら路地裏を抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

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 永遠とも呼べる静寂を秘めた闇夜の砂漠は茫然と広がる砂の海となって人々へ何を感じさせるのだろう。

遥か先まで広がる地平線の開始点である森林と砂漠の境界線、通称フロンティエールと呼ばれるこの場所で、1人のスナイパーがその静寂に紛れ、塔の頂上から今夜の獲物を狩る機会を狙っていた。

 

 PGM へカートⅡ、全長1380mm、有効射程距離が2kmを越えるといわれ.50BMGの弾薬を使用する為、口径・銃身、はたまたマガジンすら見慣れぬ大きさを誇っている。特徴として先端に高性能大型マズルブレーキが搭載されており、これは発射時に排出されるガスを穴の空いた横方向へ逃がし後ろへの反動を大幅に軽減、使用者への負担を最大限なくす為である。バイポッド・モノポッドも標準装備で匍匐射撃での初弾の精度は恐ろしく高くなっており、ボルトアクション対物ライフルとしてはとても人気が高い部類に入る名器である。

 

 彼女はスコープを覗きながら愛銃の意思を感じるかの如く集中していた。渇いた風の音だけが世界を支配する中、絶好の獲物を探し出すにはそう長い時間はかからないはずだ。

 

 シノン「...遅いわね」

 

 実は1時間ほど前、砂漠から森林地帯へ入っていく5人体制のスコードロンを発見した私は、砂漠側にある崩れかけた塔の頂上で彼らの帰還を待っていた。おおよそ検討はつくが森の中のダンジョンで大型MOBと戦闘し、その道中も報酬メインで狩りをしてくる為、様々な戦利品を所持しているはずだ。それゆえになかなか戻ってこない彼らに対して若干の苛立ちが募り始めた。

 

(...まったく、確かにここのエリアは少しレベルが高めだけど、いくらなんでも遅す......っ!?)

 

 苛立ちがため息にまで変化した矢先、ここからはよく見える、木々が刈り取られ地面が剥き出しになった一本の車道のような場所でついにスコープは彼らを捉えた。

しかし、なにやら様子がおかしい。

 

 シノン(3人しかいない!?しかもあれは...戦闘中!?)

 

 銃を構え砂漠へと抜ける為、こちらに向かって走ってくる色違いのベレー帽をかぶった3人の兵士の様子をスコープ越しに観察しながら、その焦りを直に感じ取り、私はもう一度気を引き締め直した。左後方に光学系ブラスターライフルを装備した男、その10m手前右には軽機関銃、さらに10m前方中央にアサルトライフルを構えた男たちが、後方を確認しつつも焦りの表情で砂漠を目指している。

 

 シノン(...追われている?いや、逃げているの方が正しいかも)

 

 スコープ越しにみえるその状況から、スコードロンの2人は狩りの途中でやられてしまったのか、強力なMOBの奇襲にでもあったのか、それとも......。

 そんなことを考えていた時、道の途中の岩場の陰に先頭のアサルトの男が身を隠し、走ってきた方角を索敵するように注視した。しかし、それは同時にこちらにとってはまるで狙ってください、といっているかのように背中を差し出していることになる。

 

(...どちらにしろ、どんな時も後方に注意(チェック・シックス)よ)

 

 トリガーに指をかけスコープ越しにアサルトの男を狙おうとした刹那、なぜ彼らが戦慄しているのか答えがはっきりとわかった。

 彼らよりも奥、前方の森の方角から火薬の弾ける音が空気を振動させ、それとほぼ同時に後方を走っていたレーザーの男の頭を吹き飛ばした。

 

 シノン(...っ...スナイパー!?)

 

「なんてことしやがるっ!」

 

「まずいですよぉ、このままだとアイテムが...」

 

 岩陰に隠れた男たちの会話が続けられるも、その内容は頭には入ってこなかった。私は今さっき目の前で起こった射撃にただただ息を飲んだ。

 

 シノン(...走ってる男の頭に直撃させたってこと!?しかも木々が交錯する森の中から...!?)

 

 シノン(...強いっ!)

 

 

 ただならぬ気配を感じとった彼女は目標を手前の2人からまだ見ぬ未知の敵へと変更した。

 波を打つ脈動がさっきまでの自分のそれとは比べ物にならないくらい大きくなったのを感じたが、これは恐れではないことを彼女はわかっている。

 なぜなら、先程のたった1発の銃撃で彼女を戦慄させるほど、相手は手練れのスナイパー。そんな敵と戦える高揚感からか、無意識に彼女は笑っていたからである。

 

 

 

 

 

 

 




続きます。
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