GGO Tmc 裂傷と弾痕   作:Moldapo

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3話 緑と砂の境界線

 

 

 

 

「お前は右を見てろっ!!」

 

 アサルトの男は額から流れる汗を目に見える緊張として感じながらベレー帽をかぶり直し、左側の岩場に隠れた今となっては最後の仲間に指示を投げかける。

 相手がスナイパーであることはすでに明白であり、今もなお、樹木が鬱蒼(うっそう)と茂る森の中で自分たちの命を狙っている。そのような事実が判断を鈍らせ、手足の自由を徐々に奪っていく。

 震える足に一発気合を入れ、自分たちの助かる道を模索しひねり出した策を色違いのベレー帽の仲間に伝える。

 

「相手はおそらく1人!場所はわからねぇが、狙いはMOBのドロップ品だろう!おれが囮になって飛び出すからお前はその間に全力で砂漠へ抜けろ!」

 

 今回のスコードロンでの目的は、この森のダンジョンでのボスモンスター「ショック・フロッグ」の討伐だった。独自の器官を持つこのカエル型のモンスターは、喉袋で精製される音玉を破裂させて発生させる強力な衝撃波での攻撃が特徴で、現に1人が衝撃波をまともに受け気絶したほどだ。今回のレアドロップ品はまさにその音玉を作り出す「ショック・フロッグの喉袋」という超高額アイテムだった。

 

「おれの持ってる音玉は2つだ!お前は必ず喉袋を持ち帰れ!」

 

 苦戦を強いられたものの喉袋をドロップし喜びをあらわにしようとした矢先、スコードロンのリーダーであるプレイヤーがいきなり撃ち抜かれてしまい、内心わけもわからず逃げてきたというわけだ。

 街に転送されているはずのリーダーに恥じない為に、なんとしてでもこのアイテムは持ち帰ると心に決めた。

 

「いくぞ!!」

 

 そう言うとアサルトの男は音玉をスナイパーがいるであろう前方に向かって思い切り放り投げた。同時に相方が走り出す準備をする。音玉が地面にぶつかる瞬間、けたたましい破裂音とともにその地点を中心にして空気上に大きな波が発生し、文字通り衝撃波として周りの木々を激しく揺らした。

 

「うおおぉぉぉ!!」

 

 囮役を買って出た男は気合と刹那を持って前方に飛び出した。自分はここでやられるかもしれないが全員の報酬を守る為にはそれも悪くない、という言うなれば覚悟を決めた男の心情はまさしく兵士のそれだった。

 

「なんとか逃げ切ってくれっ...!」

 

 男はそう願いを込めて相方が走っていった方向を確認すると、そこには胴体を撃ち抜かれ今まさに拡散しようとしている仲間の姿があった。

 

「なんっ......だとっ...!?」

 

 目の前の光景に頭がついていけず、硬直した四肢を動かす事が出来ない状態で男が最後に見たのは、真横から伸びている自分の額へと一直線に続く真っ赤な予測線だった。

 

 

 

 

 

 

 

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 最後の1人が撃ち抜かれたであろうその音を、私は塔の中に取り付けられた螺旋階段(らせんかいだん)をかなりの勢いで飛び降りながら確認した。

 一つ前の射撃から目標の敵が左の森の中にいることは明らかだが、塔の頂上からでは木々の生い茂った葉のせいで森の中はほとんど確認することが出来ない為、大体の位置がわかったその瞬間から私は新たなSP(スナイプポイント)に向かって隼の如く階段を降下した。

 そして丁度良く森の中が確認できるポイントに到着し、左の森がよく見渡せる位置でPGM へカートⅡを展開した。

 

 シノン(...相手は強いっ...!でもまだこっちには気がついてないはず...!)

 

 そう思い索敵に集中する。

 普段の索敵では隠れ方がいわばザル(へたくそ)な連中ならばなんの苦労もないが相手が手練れ、ましてやスナイパーとなると索敵は困難を極める。しかし先程の戦闘で大体の位置を掴んでいるこちらと、こちらの存在すら気がついていないかもしれない相手では、どちらが有利であるか問うのも馬鹿らしく感じるほど明らかである。

 

 シノン(...こっちから動く必要は全くない...向こうが姿を見せれば...!)

 

 おぼろげな夜の冷たさと静寂の中、木々達が揺れて、こすれ合う葉が囁くように、風の奏でる音以外はなにも聞こえない。

 

 シノン(...どこっ...?どこなのっ...!?)

 

 さすがの彼女にも焦りが見え始めた、その時、

 

(ガサッ!).

 

 シノン「...っ!!?まさか右っ!?」

 

 かなりの挙動で銃口を、まさに音のした右の森へと移すと、木の陰から顔を出しかけている人影らしきものが確認できた。その木本体に向かってすぐ様引き金を引いた。

 爆音と共にガンバレルの中が燃焼ガスで満たされ、行き場を失ったガス達は目の前に装填された.50BMGを押し出しながら圧力により瞬間的に加速、700mmもある砲身を一直線に駆け抜ける。銃口を抜けるその瞬間、弾速は秒速825mに達しマズルブレーキの横穴へガス達が噴煙を上げながら解放され同時に相殺しきれない反動が狙撃手の肩に重くのしかかる。

 この間わずか0.2秒の刹那に狙撃手の腕が試される。

 特大の弾丸は音速を超えるスピードで一直線に1本の樹木に向かって突進し、その軌跡の後に轟音を響かせていく。

 狙いは正確に幹の中心を捉え、めり込むどころか木に弾が触れる瞬間から木片を撒き散らしながら貫通というには生やさしく、まるで爆撃とも言えるような威力で弾丸の何倍もの穴を開けながら、後ろの人間ごと上下半分に吹き飛ばした。

 

 シノン「...えっ!?」

 

 全てをやりきった彼女だが驚くのも無理はない。

 たった今空中を舞っている上半身の男はライフルを持っているのではなく、ベレー帽をかぶっていたからである。

 

 シノン(まさか!?残ってた2人のうちのひとりなのっ!?)

 

 シノン「...くっ!」

 

 急いでボルト・アクション式であるこの銃のボルトを後ろに引き、薬室への装填・閉鎖・空薬莢の排出を同時に済ませ、銃を構えなおそうとスコープを覗き込む。

 その瞬間、ぞくっという嫌な気配をほぼ脳を介さず身体で感じ取り、その発生源たる場所、吹き飛ばした木の逆側にあたる先程アサルトの男達が隠れていた左側の岩場を覗き込んだ。

 

 覗き込むよりも数瞬前、

 

「残念だ...」

 

 怪しく光る銃口を1mmたりとも彼女の頭からそらさずに、そうもらすとスコープに写るこのゲームではとても有名なスナイパーに向かって己の銃弾を撃ち込んでいた。

 故に彼女が最後に確認できたのは、レンズ越しにもわかる狩猟者(ハンター)の目つきと冷たい瞳でこちらに銃口を向けているサングラスの黒服の男が、口角を上げながら溢れたその笑みを口元で表している姿と男の銃AI AW50だけだった。

 

 

 シノン「はやっ...!?」

 

 同時に彼女の視界は無に消え、最終セーブポイントへと転送されていくようだった。

 

 

 

 

 

 

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 首都「SBCグロッケン」。

 人類が宇宙へ進出してから地球にあった文明はどことなく変化していったがそれを感じ取れるものは多くはいなかった。そして宇宙戦争が勃発、高度な文明を有する彼らの前に人類は敗北した。少しでも自らの文明を残すため人類は宇宙移民船団を結成し、巨大な宇宙船で滅びた地球に降り立った。地球に残る過去の技術を駆使しながらもう一度文明をスタートさせていくのであった。

 その時の宇宙船の上に作られたのがこの街である。という設定になっている。

 

 空気の一部が発光しここSBCグロッケンに舞い戻ってくる敗戦兵(デフィートアーミー)は数知れない。無論セーブポイントに死に戻りしてくるシステムからか、最初の街にも設定される首都であるこのポイントに戻ってくるものは多い。

 

 シノン「くっ!...はぁ、はぁ...なんでよ!?」

 

 先程のスナイプ戦のせいかまだ息が上がった状態で戻ってきた彼女は、直前の戦闘のイメージが焼き付いた映像を思い返しながら、自分の判断ミスを悔いた。

 

 シノン(あの状況で右は絶対あり得ない!それにあのベレー帽の仲間が全員もう死んでるって勘違いしてたっ!)

 

 少し考えれば気がつけたかも知れない。おそらく相手の男は彼女の1発目の銃声でこちらの存在を把握したはず。後は弾道を追って噴煙で位置を割り出し撃ち込んだといったところだろう。

 自分のミスのせいで勝てたかもしれない勝負を取り逃がしてしまったことにどうしても納得いかなかった彼女は、リスポーン近くのネオン管が彩色よく点灯している看板の下で自分を律した。

 

 シノン「それにしてもあの銃は...。」

 

 男の使っていたスナイパーライフル、アキュラシーインターナショナル AW50は彼女の扱うPGM へカートⅡと同じ50口径の弾薬を使用するアンチマテリアルライフル(対物狙撃銃)の一つである。L96A1のモデルを大型に再設計し.50BMGの弾薬を扱えるようにしたモデル。システムはPGM へカートⅡとほぼ同じだが装弾数が5発とのAW50の方が2発ほど少ない。

 

 PGM へカートⅡと同等クラスの大口径ライフルを扱い実力も私と同等かさらに上をいくスナイパーの存在に私の中の向上心が刺激され、さらに強くなりたいという気持ちを押し出してくる。

 

 シノン「次会うときは必ずっ......!」

 

 そう心に決めた私はさらに強くなれるかもしれないという高揚感とその逆の悔しい気持ちをうまく自分のものにして前へと進んでいく原動力とすることが出来た。

 ふと周りをみてみると、集中していた為気がつかなかったが、先程のスコードロンのベレー帽の集団も近くにリスポーンしていることに気がついた。そして、なにやら深妙な面持ちで話し込む彼らの話の内容がこちらへも流れてきた。

 

「くそっ!やっぱり喉袋がドロップしてやがる」

「嫌な予感はしたんだけどランダムドロップだよな?これって?」

「でもおれたち2人共一番高かったメインアームドロップしてますよ...」

「おれも一番高い防具をやられた」

 

 心臓が一度ドクンッと大きく脈を打ち、浮かんだ一抹の不安が杞憂(きゆう)に終わることを心から願った私は、アイテムストレージの確認を急いだ。

 

 シノン(...お願いっ!!どうか...ここにいて...!!)

 

 しかし彼女の願いは届かなかった。

 アイテムストレージの装備品の欄の空白になったメインアームの表示を目の当たりにし彼女の目の前が白くなりかける。なんとかそれに耐えログの確認をする。行動ログには「You dropped PGM Hécate Ⅱ」の文字があり彼女は言葉を失った。

 

 消えていった彼女の相棒は今まさにどこにあるのか。数えきれないほど彼女と同じ敵と戦ってきたその銃は、今まさに彼女のもとを離れゆき、永遠の別れとなるのではないかと頭をよぎったその瞬間、彼女は諦めという選択肢を排除した。

 

 シノン「...違う!私の相方はあの銃だけっ!絶対に取り返す!」

 

 気合をいれ自らの不安で押しつぶされそうな心を奮起させた彼女、この広い世界の中で離れていってしまった唯一のパートナーを探し出すことができるのだろうか。

 今夜は月が陰り、風も肌でやっと感じるほど穏やかな空気がその場を覆っていたが、彼女はその風をも切るかのように急いでマーケットへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 




閲覧ありがとうございます。
次回もお楽しみに。
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