2人が店の中に入ると、店内の様子が薄明かりとともに明らかになった。驚くことに店内は、先ほど人が外へと吹き飛ばされてきたにも関わらず、重い静寂が保たれていた。
所々にある蝋燭の灯りがゆらりと揺れ、文字通り招かれざる客を怪しく歓迎した。
とはいっても、歓迎したのは「店」だけであり、その店にいる「プレイヤー」たちは歓迎する素振りなどは全く見せない。
俺たちが店に入るやいなや一瞬視線を向けたと思ったら、各々まるで何事もなかったかのように今まで通りに過ごしだした。
複数人で話をしている者、一人で佇む者、酒を飲むものなどいるがこちらを見向きもしない。しかし、各々目線はそのままに殺気だけをこちらへ向けている。というとんでもない雰囲気の店だった。
新(おいおい...どんな店だよ)
シノン(ただのカッコつけでしょ?)
そう言って彼女はズカズカとその薄くモヤのかかったような店の奥へと進んでいき開いてる席へと腰を下ろした。それにつられて殺気も移動する。
シノン「あなたは来ないの?」
新「行くって、...街の店とはかなり違うな」
穴の空いた入口の方を見て彼女はこちらへ声をかけた。それに反応するように俺もゆっくりと椅子へと向かう。
シノン(どれも見せかけの殺気、つまらないものね)
はぁ、と息を吐く彼女のつまらなさそうな横顔を横目に俺は今一度、店内を見渡した。
中央にある入口から見て、店の最奥。そこはバーカウンターのようになっていて後ろの棚には数多くのお酒の瓶が見事な配列で並んでいる。そして、フロアに当たるスペースに机と椅子が乱雑に並べてあり、俺たちが腰を下ろしたのはそこの一角だ。
左右の壁には黒いカーテンがしてある大きな窓が2つずつあり、昼間であれば明るいのだろうかと感じさせる。壁には手配書を模した張り紙が貼ってあり、おそらくランキング上位の者達の写真が出ているのだろう。
天井は普通の建物より少しだけ高く、木目のはっきりした針葉樹が使われていて、しっかりと組み合わされる形で屋根部分を支えている。
照明が蝋燭のせいか、ここから見えるのはそのくらいだったがその全てに弾痕がはっきりと残っており、恐ろしさを物語っていた。
「いらっしゃいませ~」
新「...っ!」
唐突にこの店の雰囲気に似ても似つかない優しげな声が聞こえ、思わず仰天した。
シノン「えっ、あなたのお店なの?」
???「いえいえ~違いますよ、僕はここのバイトです」
新「ああ、バイトね...俺たちマスターに会いたいんだけど」
バイト「あ~、マスターなら今いないんですよ、もう少ししたら戻ると思うんですが」
シノン「...そう。じゃあ待つわ。あなたは、プレイヤー?」
バイト「はい、もちろん」
にこやかに笑う若そうな彼は、この店のそれとはまさに正反対の雰囲気を
「おい!ラッツ!バーボンだ!」
ラッツ「はい、ただいま~」
ラッツ「あなた達もお飲み物が決まったらなんなりと~」
ラッツと呼ばれたバイトの男はふわりと一礼するとお酒の用意をするためカウンターの方へと歩いていった。
シノン「...あんな子をバイトにするなんて、ちょっと変わってるわね。」
新「...まぁ、そうだな」
シノン「あれじゃあ雰囲気台なしね」
シノン「寄せる雰囲気じゃないけど、ここ」
いつもの雰囲気を取り戻した彼女にホッとした俺は
新「それでさシノンっ!いいわすっ...」
シノン「あなたはなにか飲むの?」
シノン「え?なに?」
新「...。あーまぁいいやっ、早く戻ってこねえかな、マスター。」
そうこうしていると周りの殺気にも慣れてきたのか、よくみてみると周りの連中はさほど強そうな感じはしなかった。特に複数人で座っている者達の中には、強がるために無理やり殺気を放っている者もいるということに気がついた。
俺たちはそれぞれ軽めのヘイスト効果のあるお酒、といってもただの飲み物を頼んでマスターの帰りを待っていた。
ふとカウンターの方へ目をやると、数ある座席の中でただ一人だけカウンターに席をとっている者がいることに気がついた。
その男の顔までは見えないが、背後からみるとまるでスーツのような格好に長めのトレンチコートを羽織った清潔感の漂った風貌をしていた。しかしなにかが気になった。
新(おいシノン、あいつどう思う?)
シノン(どうって、別に普通だと思うけど)
はっ、とどことなく感じていた違和感に気が付きシノンへ言葉を投げかける。
新(普通なのがおかしいんだ...あいつだけ殺気を放っていないんじゃないか?)
シノン(...言われてみれば)
彼女もその違和感に気が付き、注視しようとカウンターを見た時、入口の方から気配がした。
シノン「あら、マスター帰ってきたんじゃない?」
彼女がそう言う前、俺は只ならぬ気配が背筋を凍らす感覚を味わっていた。
新「違う...っ!!!伏せろっ!」
彼が机を蹴るのとほぼ同時に、入り口の外からけたたましい音と無数の弾丸が店の中になだれ込んできた。
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「ヒャアッハアアアーー!!!!!」
数えきれないほどの空薬莢を撒き散らしながらその男は「XM214 ガトリングガン」、通称「マイクロガン」の6つある銃身を目の前の建物に向かって全弾発射する勢いで発射した。
100発/秒という発射速度を誇り、あたった時には何も感じることなく死ぬと言われ「無痛ガン」という似ても似つかない異名を持っている。
本来、攻撃ヘリや航空機に装備されるものであり、軽量化がなされたこのモデルでも現実では到底1人では扱うことのできない重量と反動を持った銃である。
店内にいた者の半分ほどがこの銃の餌食となり、言うまでもないが木造の壁は穴だらけとなった。
新「...大丈夫か!?」
シノン「ええ...なんとか...」
咄嗟に倒したテーブルの影に隠れて難を逃れた彼らだったが、無理やり引っ張られたせいか、同じく隠れた彼女は頭を片手で押さえながらそう言った。
そして彼は入口の外に佇む数人の男たちの姿を覗き見つつ、店内の悲惨な状態を横目に確認した。
シノン「一体何が起こったっていうの...?」
新「静かに、今は目の前の敵だ」
店内へと入ってきた男たちを確認しながら彼は真剣な眼差しでそう告げた。
???「おい!俺の手下を殺ったやつがいるこたぁわかってるんだ!」
???「出ぇてきやがれ!まぁ、生きてたらなっ!」
先頭の太った男が笑いながら吐き捨てるように言うと話の全貌がわかった。目的はどうやら報復で、先ほど入り口で飛散していったプレイヤーの仲間のようだった。
「おいっ、あいつもしかしてゲイブじゃねえか...?」
「あの粘着プレイで有名な!?」
「確か拠点は東の方だったはずじゃ...」
周りがざわつきだしたことをいいコトに太った男は続ける。
ゲイブ「ぐふふ、いま出て来れば10キルぐらいで許してやろうじゃないかぁ、なぁ?」
仲間の男たちがそれにつられてイヤらしく笑うと男たちは乱暴に周りを探しだし始めた。
シノン「ねぇ、どうするの?」
いつの間にか彼の隣で状況を覗いていた彼女が訪ねてきた。
新「相手は5人。親玉さえ潰せばあとは雑魚だろう」
シノン「...でも少し距離があるわね」
新「まぁそこはなんとか大丈夫だ、あとは......いやっ待て!」
腰にかけてあるナイフの一本に手をかけていた彼は天井にある気配を察知して自らを制した。
「...ゴミどもが」
その直後、天井から特徴的な
はずだった。
天井の横に伸びた柱の上に立ったコートの男は、何を思ったのか太った男達の方向からかなり
ゲイブ「なにをっ!?」
男が驚いた直後、跳ね返った無数の弾丸が彼らを取り囲むかのようにして襲いかかる。仲間の男たちの体や手足、そして男の大きな銃本体にその軌跡を終結させ、そのすべてをデジタルエフェクトとして飛散させた。
ゲイブ「...えっ?」
ゲイブ「...あっ...あぁっ......」
銃を失った男は驚愕し震え上がる。
柱の上にいた男は、スタッと床に降りると膝をついて震え上がる男に向かってゆっくりと足を進める。
「...貴様のように雑魚を連れて粋がっているやつを見ると虫酸が走るんだ...」
ゲイブ「...やっ...やめっ...」
まるで感情を持ち合わせていないようなその男の死神のような目からは恐怖しか感じ取れない。
「...どうした?死にたくないのか?」
泣き出した男の前で立ち止まると、今度は壁ではなく額の中央に冷たい眼差しとともに持っていた銃を無機質に構えた。
「...クソどうでもいい」
男は引き金を引こうと指に軽く力を入れた。
その刹那、
背後からの殺気と音のような速さで近づいてきた2本のナイフが、今まさに自分の急所を狙って一気に伸びてきている最中だった。
「...なんだ?」
耳を突く金属がぶつかり合う音とともに、その攻撃を持っていた銃で受けた男は競り合いながら疑問を投げかけた。
新「ざけんじゃねぇぞ!」
憤慨した彼は、競り合ったナイフを思い切り押し返され、後ろに飛んだのち空中で一回転して床に着地した。
新「そいつは確かにおれも気に入らねえ、おれも殺そうとしてた...」
新「だからって武器をわざわざ壊してから殺す理由もないだろッ!」
「...」
新「虫酸が走るんだよ!無抵抗の人間を殺す奴は!」
「......」
一定の距離を取りつつ言葉をぶつける彼をいかにも
「...甘いな...おまえも死ぬか...?」
初めて見せたこの男から出された殺気は、先程までの見せかけの殺気とは比べ物にならないほどの圧力を感じさせ、まさに死神の形を模しているようだった。
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「お、おい、あいつってもしかしてッ!」
目の前で繰り広げられる
「ま、間違いねぇ!手配書のなかにあったんだ!...そう!ムスタング![
「初めて見たがあいつがそうなのか!?」
「確かランキングは9位だよな!」
周りがざわつき出すのを感じ、男はより一層醒めた表情をあらわにした。
ムスタング「...お前も含め、どいつもこいつもうるさいハエだな」
新「なんだと!?てめぇ!!」
ムスタング「...ひどく低脳で大きな声を出すことしか出来ないゴミクズと言ったんだが?」
そう言うと男は持っていたCBJ-MSを2本のナイフを構えている彼に向かって、正確には彼の頭上の柱の金属部分に向かって発射した。
この銃はPDWとしては時代遅れともとれるUZI風の外装となっているが、長所である片手でも扱えるほどの機動力を兼ね備えつつも、伸縮式ストックに黒色のポリマーフレームという安定性も考慮されている。
その外観はかなり近未来的なものとなっており、マガジンの種類が多く最大100連のドラムマガジンまでもが使用されている。
使用弾薬は6.5mm×25 CBJで貫通力特化の銃弾だが、通常の弾薬と比べかなり軽く、この銃では無理だが、初速が最大秒速830mまでに達する高速弾でもある。
その弾が案の定、金属に跳ね返りこちらに向かって迷いなく飛んでくる。
新(この正確さ...おそらくプレイヤースキルッ!)
その銃弾を体の重心をずらしつつひらりと避けてみせると周りのざわつきがさらに加速する。
「おい!あっちのやつも見たことあるぜ!」
「確か名前は...新だッ!」
「ランキング19位の[
新「ヘッ!普通に死ぬけどなッ!」
「ちょっとまてよ!あっちの隠れてる娘って...」
「えっ...!?まさか...!?」
「ランキング17位、[冥界の女神」の...」
「「シノンちゃんだ~!!!」」
シノン「...」
机の影からどこかを見るわけでもないが軽蔑するような眼差しで彼女は答えた。
どよめきともとれる周囲の歓声は、まるで世界のスターたちに遭遇した時のように憂かれ気分だった。
ムスタング「ふっ...興が削がれたな」
鼻で笑うような姿を見せた男は、構えていた銃を静かに下ろした。
その若干の笑みを浮かべた男の姿を見た彼は、戸惑った。
なぜなら自分の中の男に抱いた最悪の印象が少しだけ間違っているかもしれないと感じさせるほど、その時の男の雰囲気は妙に優しかったからだ。
新「...おまえさ」
新「...っ!」
疑問を確信へと変えるため、男へ声をかけようと言葉を発した時、
ゲイブ「...へへっ...みんな吹き飛んじまえばいいんだ...」
気の狂ったような表情で爆弾らしきものを操作している男の姿がそこにはあった。
新「っやべぇ...!」
ムスタング「チッ...!」
先ほどの戦闘のせいか、2人と男との間には結構な距離が空いてしまっていた。
新「間に合わっ...」
直後、耳を重く突く低音のドォーンという大きな音が店の中に広がった。
一同みな吹き飛ぶという思考を実らせ目を
「おいおい、俺の店がめちゃくちゃじゃねーか。」
野太い声と同時に、煙の上がったショットガンを構えたガッチリとした体躯のいい男が言ったのは、彼の目の前にいた太った男を豪快に吹き飛ばしたあとだった。
そして、続けてこう言った。
「なぁ?新」
新「...うるせぇよ、ゴリ...」
シノン「...えっ?...まさか知り合いなの...!?」
机から出てきていた驚く彼女を横目に彼は、彼女の怒っているような雰囲気を肌で感じつつ、いろいろ起こりすぎた今の状況を、このあとどう整理するのかを考えることに必死で、頭の中が真っ白になる感覚を生まれてはじめて味わったのであった。
モブって本当に好きです。
次回からようやく進展がありそうです。
続く。