GGO Tmc 裂傷と弾痕   作:Moldapo

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6話 荒野の雫

「まったく...誰の店で暴れてやがるんだ」

 

 

 黒のタンクトップで余計に強調された坊主頭のガタイのいい男は、ショットガンを持ち上げそれを肩で支えつつ呆れていた。

 

 ゴリ「お前がいるといつもろくな事がネェ」

 

 呆れ顔の中に若干笑いのようなものが含まれていて、逆にそれが威圧感を放っている。

 

 新「こ、今回はおれじゃねぇよ」

 

 新「だいたい初めて来たわけだしっ」

 

 新「今回はアイツのせいだ!」

 

 コートの男に向かって指をさしつつ、顔を引きつらせながら答える。

 

 シノン「...ねぇ」

 

 新「えっ?...あっ」

 

 シノン「説明してちょうだい」

 

 あたふたしている彼に不信感をあからさまに出した彼女の視線が突き刺さる。

 

 ムスタング「フンッ...馬鹿なゴミだ...」

 

 新「ちょっとおまえ...「ねぇ」

 

 

 ゴリ「...今日は店仕舞いだ。みんな帰ってくれ」

 

 新「了解だ!」

 

 ゴリ「お前らは残れよ、」

 

 周りの連中にそう声をかけると彼を一睨みした。

 

 

 ムスタング「いや...俺は帰らせてもらう」

 

 ゴリ「なんでぃ、俺に用があったんじゃないのか?」

 

 ぞろぞろと店を出て行く者たちを見ながらショットガンをしまい、倒れたテーブルを立てて腰掛けながら質問した。

 

 ムスタング「確かにあったがそんな気は失せた...」

 

 そう言うとコートの男もまた彼を睨みつけた。

 

 ゴリ「...わかるぜ、その気持ち」

 

 腕組みをしながらしみじみとした顔で出口へと向かう彼を背中で見送る。

 

 新「あっ、おまえ!ちょっと話があるんだよ!」

 

 ムスタング「...興味ないな」

 

 振り向かず答えた男は去り際にこう付け加えた。

 

 ムスタング「...いずれ、もう一度戦うことになるだろう...」

 

 新「...なっ」

 

 外の世界に溶け込んでいくその男の背中は、どこか儚く、しかしどこか頑強で強い意志のようなものを感じた。

 

 

 ゴリ「さて...」

 

 ゴリ「俺もおまえに聞きてぇことは山ほどあるし、早く話さねぇと連れの姉ちゃんがワシントンを爆撃しちまいそうだ」

 

 いかにも不機嫌そう、いや、不機嫌の骨頂ともいうべき姿の彼女はいつまでたっても話し出さない彼に威圧の矛先を集中させていた。

 

 新「わかってるよっ。ごめんシノン!落ち着いてくれ!」

 

 シノン「...」

 

 シノン「......はぁ...」

 

 シノン「やっぱり、あんたといると疲れるわ...。」

 

 

 私の苛立ちを彼に向けても意味はないとわかっていたけど、どうにも釈然としない気持ちもあって結果的に私の思ったことを素直に彼に伝えた。

 

 いろんなことが起きすぎて忘れていたけど、ここに来る途中や戦っている時などにたまに見せる彼のまっすぐで真剣な姿は、人の心を惹きつける力があるのはわかっている。

 まだはっきりとはわからないけど、私もそのような姿に惹かれている自分もいるような気がしていた。

 

 でも、私は自分のやるべきことと彼自身の気持ち、あの後輩の女の子とのことが私の中でその気持ちよりも前にあることを理解している。

 あの時は動揺もしていたし、彼に抱いた感情は一過性のものだと私は断定して、そのはっきりとはわからない気持ちに蓋をして自分の中にしまい込んだ。

 

 

 

 

 

 

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 ゴリ「少し煙たいな...」

 

 そう言った店の店主はカーテンと窓を開け、冷えた暗い荒野の風を店の中に招き入れた。その風が店の中の煙だった空気と混ざり合い別の何かに変わっていった。

 

 

 新「えっと、どっちから話せばいいんだ...?」

 

 店の客が私達二人になったところでようやく彼の話が始まる。

 

 ゴリ「すこし待て」

 

 ゴリ「おいッ!ラッツ!いつまでそこに隠れてるつもりなんだ!」

 

 店内に響き渡る声で名前を呼ぶとカウンターの下から頭を押さえた白い髪の背の小さな男が顔を出す。

 

 ラッツ「...あれ?もう大丈夫なんですか~?」

 

 今の今まで隠れていたであろう彼にすこし呆れたが、無事だったことに少しだけ安堵した。

 

 ゴリ「今日はもうお前の仕事は終わりだ。帰っていいぞ」

 

 ラッツ「でも、店がめちゃくちゃですよ~...」

 

 ゴリ「これくらい俺一人で何とかしておく」

 

 ラッツ「...じゃあ、あとはお任せしますね」

 

 そう言うとバーテンダーの姿をした彼はこちらに向かって一礼すると「また来てくださいね」と笑顔を残し店を出て行った。

 

 シノン「そういえばなんであの子を雇ってるの?」

 

 ゴリ「将来酒場をやりたいんだと。それでそん時のための勉強だってな。まぁ、抜けてるとこはあるが意外としっかりしたやつだ。」

 

 いつも助かってる、と彼は付け足す。

 

 ゴリ「そういえば、自己紹介がまだだったな」

 

 ゴリ「俺の名前はゴリだ。本業は武器屋だが、見ての通りこの酒場で情報屋もやっている」

 

 ゴリ「こいつとはこのゲームを始めた時にお互い最初に話したプレイヤーだった。つまり同時にキャラを作ってたってことだ」

 

 新「笑えるな、」

 

 ゴリ「そんなこともあってか、よく同じスコードロンにも参加したもんだが、俺がこの店を始めてから急に疎遠になってな。最近連絡が来るまではまるっきりシカト決めてくれてたぜ。」

 

 新「悪かったなっ」

 

 ゴリ「そんなこんなでこいつとは長い付き合いってわけだ。」

 

 ゴリ「まぁ武器と情報に関してはかなり自信があるおっさんってところだな。」

 

 ゴリ「そんで、姉ちゃん。名前は?」

 

 シノン「...情報屋ならわざわざ言う必要ないかもしれないけど、私はシノン。スナイパーよ。」

 

 新「...おいおい、」

 

 ゴリ「いや、いいんだ。こういう奴は嫌いじゃない」

 

 ニヤリと笑った彼は私の言った言葉にまんざらでもない様子だった。

 

 

 ゴリ「じゃあシノン。お前はここに来たわけだ。なんでかって言ったらそいつは情報だ」

 

 ゴリ「ここに来るのは、武器もしくは情報を売りに来る奴と買いに来る奴しかいない。」

 

 ゴリ「お前は情報を買いに来た、違うか?」

 

 急に目つきが変わった男にただならぬ雰囲気を感じたがここで引くわけにはいかない。

 

 シノン「情報に自信があるなら私が何を求めているかも分かるんじゃない...?」

 

 新「...っ!」

 

 ゴリ「こいつぁ、たまげたな...」

 

 口に生えたヒゲを触りながら男はさらにニヤリと口角を上げて笑う。

 

 ゴリ「...いいだろう、気に入った。本来ならばそれを俺に言わせるのにも金がいるが、答えてやろうじゃないか」

 

 男はその鋭い視線を少しもそらさず、こちらをまっすぐ見ていたと思ったら腕を組み直し視線を床に落とした。

 

 ゴリ「......」

 

 ゴリ「お前は...」

 

 

 ゴリ「...ヘカートをドロップしたな...」

 

 

 シノン・新「!!!」

 

 

 ゴリ「そして...自分を倒したスナイパーを探している...」

 

 

 

 シノン(なんで!?こいつ!?)

 

 彼女は咄嗟に今装備しているMP7を彼に構えるため腰に手を伸ばした。

 後ろ腰に下げてあったその銃を一刻も早く男へ向けるために急いで構える。

その瞬間、窓の外から銃弾が飛来し彼女の構えた銃は弾き飛ばされてしまった。

 驚いて外を見ると白い髪の男が真っ直ぐこちらに銃を構えていた。

 

 ゴリ「...言っただろ、しっかりしたやつだって...」

 

 目の前の男に目線を向き直すと、そこには巨大な岩のようなオーラを持った威圧感の男がいた。

 

 シノン「なんで...そのことを...」

 

 ゴリ「お前も言っただろ...俺は情報屋だ。情報には自信がある...」

 

 ゴリ「そして...その男の居場所を...俺は知っている...」

 

 シノン「!!!」

 

 シノン「どこなの!!?」

 

 ゴリ「...」

 

 ゴリ「それが人にものを尋ねる態度かい?姉ちゃん」

 

 男がここぞとばかりにニヤリとする。

 

 シノン「っ...い...いくら出せばいいのよ...」

 

 ゴリ「金はいらねえ、ただ、膝をついて「教えてください。お願いします。」と俺にいえば教えてやろう...」

 

 シノン「...っ!...」

 

 

 シノン「...」

 

 

 シノン「......っ...」

 

 

 シノン「...教えてく...」

 

 

 

 

 

 

 新「そこまでだ!」

 

 

 

 

 

 

 そう声が聞こえ、私が確認できたのは本当に見えないほどの早さで男の後ろにまわり、抱えこむ形で2本のナイフをクロスして喉に突きつけている激怒した彼の姿だった。

 

 新「...いい加減にしろ...やり過ぎだ。」

 

 ゴリ「おぉっと...怖いねぇ...」

 

 白い髪の男が窓から中に飛び込み、ナイフの彼に銃を構えたが、男は右手を上げてそれを静止した。

 

 ゴリ「ラッツ...銃を降ろせ、確かにおれも熱くなりすぎた」

 

 そう言うと白髪の男は構えていた銃を静かに降ろした。

 

 

 ゴリ「すまなかったな姉ちゃん、俺も昔から負けず嫌いでな」

 

 ゴリ「非礼を詫びよう...」

 

 ナイフから開放された男が頭を下げながらそう言うと、膝立ちだった私はそのまま力が抜け座り込んでしまった。

 

 

 新「いくらお前でも俺の知り合いにやって良いことと良くないことがあるぞ...」

 

 新「特に今のシノンは必死なんだ!自分の銃を取り返すために!」

 

 新「その気持ちがッ...お前にわかるか!?」

 

 ゴリ「...わかってるって、本当に悪かった。」

 

 バツの悪そうに頭をかく男は、確かに反省している様子だった。

 

 新「立てるか?シノン?」

 

 手を伸ばしてくれた彼の手を取ろうとしたが、ここで手をとってしまうと今後自分がわからなくなってしまいそうで、私はうつむいた。

 

 

 そして、

 

 

 シノン「...大丈夫よ...自分で立てるから...」

 

 ありがとう...、と彼の好意を断り、重い足にいつもよりたくさんの力を込めて立ち上がった。

 

 シノン「...ゴリさん」

 

 ゴリ「なんだ?」

 

 

 シノン「こちらこそ本当にごめんなさい...」

 

 

 私は自分のつまらないプライドによって周りに迷惑をかけたことを恥じて、その主たる人物へ向かって非礼を詫びた。

 

 ゴリ「...本当にたまげたなぁ!!ますます気に入った!!」

 

 大きな声とともに新しい宝でも見つけたような顔をした男はこちらへ歩み寄ってきた。

 

 ゴリ「俺が思ったよりずっと出来た人間のようだ。」

 

 ゴリ「シノン。おれも協力しよう!」

 

 そう言って男はたくましい筋肉質の立派な手を差し出してきた。

 

 私はいろいろな気持ちを整理する為に一度息をつき、

 

 

 シノン「こちらこそ、恩に着るわ」

 

 

 その手とガッチリと握手を交わした私は、出会ってまだ間もないがとても信頼できる仲間と巡り会えた嬉しさで、思わず頬がほころんでしまった。

 

 そして、それは目の前に悠然と立つこの店の店主たる男もまったく同じだった。

 

 

 

 

 

 

 

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 かなり損傷してしまった木造の酒場を後にした私達は、冷えた荒野で綺麗に散りばめられた星空に照らされながら、ログアウトするために街へ戻る道をバギーにまたがり走っていた。さらに言うと、あの情報屋の店主と次の約束をこじつけていた。

 

 

 

 

 

 ゴリ「今日はもう遅い。その男の情報は日を改めてから話そうと思う」

 

 新「えっ?今何時?...ってもう3時か!?」

 

 新「明日起きれる気がしないッ...」

 

 新「シノンは大丈夫か?」

 

 シノン「私は昼からだから意外と大丈夫かも」

 

 新「俺明日1限からだぜ!?単位落としそうだッ!」

 

 ゴリ「おまえらなぁ...」

 

 シノン・新「あっ...!」

 

 ゴリ「...そういう情報はマナー違反だから俺の専門外だ、他言はしねぇよ」

 

 ゴリ「にしてもランキング上位の2人がまさか学生とは...」

 

 ゴリ「プロも商売上がったりだな」

 

 新「溜息つくんじゃねぇよッ、だいたいお前のほうが獲得クレジット絶対多いし」

 

 ゴリ「それは情報屋だからな...」

 

 シノン「それでいつにするの?」

 

 ゴリ「早いほうがいいだろう、明日大学があるって言うならその次の日、時間は昼ごろ。土曜日だしいつでも大丈夫だろ?」

 

 シノン「そうね。私は大丈夫。」

 

 新「おれは多分夜じゃないと無理だからシノン行っててくれ」

 

 シノン「...そう。わかったわ」

 

 ゴリ「それで場所だが、俺の店は思ったより直すのに時間がかかりそうだ。だから信頼できる知り合いの店の場所を借りようと思うんだが...」

 

 シノン「...かまわないわ...」

 

 ゴリ「なぁに、心配するな。お前たちのよく知っている店だ」

 

 シノン・新「...えっ」

 

 

 

 

 

 

 シノン「まさかリズとも知り合いとはね」

 

 新「あの子も同じく武器屋と情報屋だからな」

 

 バギーが重いエンジン音を鳴らしながら軽快に走っていく中、私は彼に掴まっていた。

 今回乗っているバギーは比較的小型の4輪バギーであり、一応2人乗りだがバイクのように運転席のすぐ後ろに座席があるため、必然的に体が密着してしまう。

 

 シノン「あのさ...」

 

 新「なんだ?」

 

 シノン「さっきは...ありがと」

 

 シノン「私を...かばってくれたでしょ...?」

 

 新「どうしたんだ?急に?礼ならさっき聞いたぞ」

 

 シノン「うん...でも...あらためて言っとかなきゃって...」

 

 新「どういたしまして」

 

 シノン「私がけしかけたのに...」

 

 新「けどあれはどっから見てもあいつが悪いだろ!」

 

 シノン「...あんなに怒っているあなたを見たのは...初めてだったから...」

 

 シノン「だから...うれしかった...」

 

 新「そうか...」

 

 その後バギーの音のみが聞こえる静かな時間が流れる。

 言葉をかわさない時間がこんなにも長く感じるのはなぜだろう。

 どことなく次の言葉が見つからず、私は気まずそうに黙ってしまった。

 

 それを感じ取ったのかどうかはわからないが彼が切り出す。

 

 新「シノン...取り返せるといいな...おまえのヘカートを...」

 

 シノン「...そうね...」

 

 新「おれができることだったらなんでも言ってくれ」

 

 新「シノンの役に立てれば、おれもうれしいからさ...」

 

 微笑んだやわらかい顔で話す彼にとうとう私は言った。

 

 シノン「ねぇ...」

 

 

 

 シノン「どうしてあなたは...直葉ちゃんが好きなの...?」

 

 

 

 新「...えっ?」

 

 

 シノン「なのに...なんで...優しいの...?」

 

 

 新「本当にどうした...?シノン?」

 

 

 

 シノン「......なんでも...」

 

 

 

 シノン「ないわ......」

 

 

 

 この街へと続く色鮮やかな光が降る夜の世界で一台のバギーが星空の下を駆けていく。

 砂しかないはずのこの道に一滴の雫が星の光とともに流れたことを知るものはこの世界では一人しかいない。

 

 

 

 

 




シノン...
続きます。
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