銀河英雄伝説 エル・ファシルの逃亡者(新版)   作:甘蜜柑

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第一一章:指導者エリヤ・フィリップス
第113話:資格がないなら手に入れればいい 802年12月9日~12月下旬 カトヤ・ペロンパー国立墓地~シャンプール市


 八〇二年一二月九日、俺とチーム・フィリップスはシャンプールに帰還した。星都シャンプール郊外のジョード・ユヌス宇宙港では、大勢の市民が出迎えてくれた。

 

 宇宙港を出た俺は、星都シャンプール市郊外のカトヤ・ペロンパー国立墓地を訪れた。冷たい風が頬を撫でる。亜熱帯とはいえ、一二月はさすがに寒い。雨が降っているとなればなおさらだ。

 

「傘をお差しください」

 

 ハラボフ大佐が傘を取り出したが、俺は首を横に振った。

 

「やめておこう」

「体を冷やしてもよろしいのですか?」

「君が心配するのはもっともだ。でも、彼らが雨に打たれている。自分だけ傘を差すわけにはいかない」

 

 俺は少し遠くに視線を向けた。墓石が雨に濡れている。先輩が雨に打たれているのだ。こちらも同じようにするのが礼儀ではないか。

 

「墓石は表札のようなものです。死んだ者は厚い棺の中で眠っておりますので、雨に打たれたりはしません」

「ああ、そうか。彼らと苦しみを分かち合うことにはならないのか」

「その通りです。そして、さらに大きな問題があります」

「なんだ?」

「司令官が傘を差さなければ、部下も傘を差せません」

 

 ハラボフ大佐は俺の目をまっすぐ見て言った。

 

「俺が間違っていた。傘を差そう。部下に寒い思いをさせたくないからね」

 

 俺は自分の過ちをようやく理解した。自分一人が寒い思いをするのはいいと思っていた。だが、部下に寒い思いをさせるわけにはいかない。

 

「お聞き入れいただき、ありがとうございます」

「感謝するのは俺の方だ。間違いを正してもらったんだから」

「恐縮です」

 

 ハラボフ大佐は眉一つ動かさずに答えた。どんな時でも彼女のポーカーフェイスが崩れることはない。

 

 軍人数百名が傘を差し、雨に濡れた参道を踏みしめながら進む。おしゃべりな者も言葉を発しようとしない。礼儀にこだわらない者も神妙な面持ちをしている。誰かに命じられたわけではない。墓地に漂う空気がそうさせるのだ。静まり返った空間に、足音と雨音だけが響く。

 

 俺は二人の副官と並んで歩いた。右側のハラボフ大佐は俺に傘を差しかけた。左側の次席副官ディッケル大尉は一人で傘を差している。俺が傘を持っていないのは暗殺対策であった。ハラボフ大佐が言うには、両手が空いていた方が逃げやすいのだそうだ。言いたいことはわかるが、相合傘をしているみたいで、微妙に恥ずかしい。

 

 昨年の暗殺未遂事件の後、ハラボフ大佐は俺の安全に神経質になった。俺と休憩時間を合わせたり、俺の官舎の隣室に引っ越したり、俺が出席する飲み会に必ず顔を出したりするのは、身辺で警護するためである。俺が仕事中に食べたり飲んだりするものを用意したり、俺が外で食べたり飲んだりするものを毒見したり、俺が非番の日に弁当やおやつを差し入れたりするのは、毒殺を防ぐためである。いつの間にか警護員資格まで取っていた。傭兵時代に知り合った身辺警護のプロを何人も推薦してきた。

 

 そこまでしなくていいと思うのだが、ハラボフ大佐は無意味なことをしない人である。過剰に思える暗殺対策も必要なのだろう。

 

 副官とは別に護衛部隊もついている。俺を取り巻く兵士八名は、第一辺境憲兵隊から選りすぐられた精鋭だ。一個小隊がチーム・フィリップスを守り、四個小隊が墓地全体の警備にあたる。墓地に通じるすべての道に兵士が配置された。狙撃ポイントになりうる場所はあらかじめ押さえた。

 

 厳重な警護のおかげで、俺たちは何事もなく目的地にたどり着いた。真新しい墓石が林のように連なっている。第九次イゼルローン攻防戦で亡くなった者のために設けられた区画だ。

 

 現役・退役・予備役を問わず、軍人は国立墓地に埋葬される資格を与えられる。戦死者と殉職者はウェイクフィールド、公務以外の理由で亡くなった者はその他の墓地に埋葬されることになっている。軍人にとって、ウェイクフィールドへの埋葬はこの上ない名誉であった。しかし、誰もが名誉を望むわけではない。故郷や思い出の地への埋葬を希望する遺言を遺し、ウェイクフィールド以外の墓地に埋葬される戦死者は少なくなかった。

 

 この区画にある墓標は三〇〇〇を超える。おびただしい数であるが、第九次イゼルローン攻防戦の戦死者の一パーセントにも満たない。三〇〇〇の命が失われ、三〇〇〇の人生が中断され、三〇〇〇の家族が不幸になっても、軍事的には「取るに足らないこと」なのだ。

 

「…………」

 

 俺は第九次イゼルローン攻防戦慰霊碑の前に立ち、何も言わずに頭を下げた。死という絶対的な事実の前では、何を言っても嘘になる。

 

 墓地を出た後、エルゴン星系政府主催の戦勝祝賀式典に出席した。祝うべき勝利などないし、称賛されるべき勝者などいない。第九次イゼルローン攻防戦は勝者なき戦いだった。けれども、式典を辞退するわけにはいかなかった。地方部隊にとって、地元政府との友好関係は何よりも重要なのだ。

 

 不本意ではあるが、これも仕事だと割り切ることにした。多くのマスコミが式典会場にやってくる。メッセージを伝えるには絶好の機会ではないか。

 

「私は失敗し、誤断し、逡巡しました。それでも勝てたのは、兵士が奮戦したからです。私が称賛に値するのであれば、兵士はその一〇〇倍の称賛を受けるべきであります。そして、彼らの犠牲に報いていただきたいと思います。戦没者の遺族が困窮しないよう、ご協力ください。傷病兵が手厚い治療を受けられるよう、ご協力ください。この戦いを最後に除隊する兵士が再就職できるよう、ご協力ください。よろしくお願いいたします」

 

 俺は兵士や遺族への支援を強く訴えた。自分の指揮によって、多くの者が生命や健康を失った。何をしても償いきれるものではない。それでも、できるかぎりのことはしたかった。

 

 このスピーチは大きな反響を呼んだ。主戦派は諸手を挙げて称賛し、犠牲者への支援を強化するよう求めた。反戦派は俺を嫌っていたが、犠牲者支援という大義名分には逆らえず、動きが鈍い政府に矛先を向けた。左右から突き上げられたトリューニヒト政権は、支援の充実化と迅速化を約束した。

 

 このようなやり方に批判がなかったわけではない。反戦派ジャーナリストのパトリック・アッテンボロー氏は、支援の必要性を認める一方で、「責任回避のために犠牲者を利用したのでは」と疑った。右派言論界の大御所ジョージ・ビルジン氏は、「人命を惜しむのは安っぽいヒューマニズムであり、偽善である」という立場から、フィリップス批判を繰り広げた。中立政党「新しい船出」の参謀長グエン・キム・ホア二世は、「見え透いた茶番。呆れるね」と吐き捨てた。中立派政治学者マリア・ビドリアレス博士は、「税金を使うことしか考えていない」と批判した。

 

 俺の采配も賛否両論を呼んだ。消極策が最善の選択肢だったかどうか、消極策によって損害を抑えられたかどうかが問題になった。

 

「マスコミは敵に自殺的攻勢を強いたことを名采配だというが、大きな誤りだ。損害の三割は自殺的攻勢によって生じている。早めに積極策に切り替え、主導権を取りに行くべきだった。そうすれば、敵に効果的な打撃を加えることができたし、早期撤退に追い込むこともできた。結果として損害を抑えられたはずだ。消極策は明らかに失敗だった」

 

 平和将官会議議長シドニー・シトレ退役元帥、サジタリウス安全保障研究所理事イアン・ホーウッド予備役大将、軍事評論家ジュスタン・オランド退役准将らは、俺の誤りを冷静に指摘した。彼らの分析は、第一辺境総軍幕僚チームの分析とほぼ一致していた。

 

「本当につまらない用兵だ。空気をまったく読んでいない。強い同盟軍が弱い帝国軍をさんざんにやっつける。それが戦争の醍醐味ではないか。フィリップスは一三二億人の期待を裏切った。ほとんど利敵行為だ」

 

 評論家ジョージ・ビルジン氏、人倫新聞編集長グンドルフ・フォン・クラウヴェル氏、救国同志会会長クロード・ウィズダム退役少将らは、俺の弱腰を厳しく批判した。彼らの主張は、戦争にドラマを求める人々の心情を代弁するものだった。

 

「フィリップス提督の判断は正しい。慎重に戦い、決戦を欲する敵の意図を挫いた。追い詰められた敵は暴発した。最小限の犠牲で最大限の戦果を得たのだ。名将の用兵と言うべきではないか」

 

 ジーグル社顧問サンドル・アラルコン予備役上級大将、退役軍人連盟理事ハムザ・スラクサナ退役少将、軍事評論家ナポレオン・ロンメル氏らは、俺を擁護してくれた。彼らの態度は、英雄が完全無欠であってほしいと願う人々の心情を代弁していた。

 

「彼らに擁護されてもなあ……」

 

 俺は渋い顔になった。アラルコン提督とスラクサナ将軍は、熱烈な親フィリップス派である。他の司令官が消極策を取ったら、アラルコン提督は弱腰だと批判しただろう。ロンメル氏は軍事評論家を名乗っているが、基礎的な軍事知識すら持っておらず、反リベラルのネット論客として人気を集めている。こういう人々に擁護されてもありがたくない。

 

 どういうわけか、新興宗教「光に満ちた千年王国」も俺を褒めたたえた。キルヒアイス元帥が退却するまで持ちこたえたことが、素晴らしい偉業なのだそうだ。

 

 真実がどうであれ、政府は同盟軍が勝利したと言い張った。勝ったのだから恩賞を与えなければならない。

 

 俺はハイネセン記念特別勲功大章や国防軍殊勲章など四つの勲章をもらった。総司令官に与えられる勲章のランクは、勝ちっぷりに比例している。普通の勝利なら国防軍殊勲章、大勝利なら国防軍殊勲星章やハイネセン記念特別勲功大章、歴史的勝利なら自由戦士勲章といった具合だ。この程度の戦果でハイネセン記念特別勲功大章をもらえたのは、政府の都合であろう。

 

 ヤン・ウェンリー元帥は最後に顔を出しただけなのに、ハイネセン記念特別勲功大章を与えられた。帝国軍を決意させた功績を評価したのだそうだ。人々は国防委員会が迷惑料を払ったのだと噂した。

 

 最も活躍したダスティ・アッテンボロー大将は、ハイネセン記念特別勲功大章を授与された。今回で三度目の受章となる。国父の名前を冠する勲章は、自由戦士勲章の次にランクが高い勲章である。彼の功績はこの勲章にふさわしいものだった。ハイネセン記念特別勲功大章所持者のD上級大将は、「なぜあんな奴にハイネセン勲章が……」と文句を言ったが、同調する者はいない。

 

 二番目に活躍したヘラルド・マリノ中将も、ハイネセン記念特別勲功大章を授与された。第二次ヴァルハラ会戦以来、二回目の受章である。俺の生え抜きの部下では、初のハイネセン記念特別勲功大章複数所持者となった。

 

 ジャスパー大将、ラヴァンディエ中将、ゾンバルト中将の三名も、ハイネセン記念特別勲功大章を授与された。第四艦隊はいいところがなかったが、隊員が戦況そっちのけでスコアを稼ぎまくったおかげで、要塞艦隊に匹敵する戦果をあげたように見えた。そのため、司令官と抜群のスコアをあげた分艦隊司令官二名が最高の恩賞を受けた。

 

 シェーンコップ大将、リンツ中将、デア=デッケン中将、ブルームハルト少将、ポプラン少将、コーネフ少将、シェイクリ少将、ヒューズ少将、コレット少将らは、宇宙軍殊勲星章を授与された。殊勲星章は宇宙軍最上位の勲章で、英雄的な活躍をした者に与えられる。

 

 パエッタ大将、ビューフォート中将、バルトハウザー中将、カプラン准将らは、宇宙軍殊勲章を授与された。その名の通り、殊勲章は殊勲者のための勲章である。

 

 ホーランド大将、アップルトン中将らは、銀色五稜星勲章を授与された。銀色五稜星勲章は所属に関係なく、抜群の勇気を示した者に与えられる。殊勲星章や殊勲章には及ばないものの、名誉だといえる。

 

 ムルティ少将が地上軍殊勲星章、妹とマルコフスキー少将が地上軍殊勲章を授与された。シェーンコップ大将らとともに上陸部隊を破った功績によるものだ。

 

 スコアをあげた軍艦乗りや艦載機乗り、上陸部隊と戦った陸戦隊員や地上軍軍人なども、功績に応じた勲章を授与された。

 

 功績がないのに勲章を授与された者もいる。スコアが抜群に高ければ、貢献度がゼロでも殊勲星章や殊勲章を与えられた。知名度が抜群に高ければ、スコアが低くても殊勲章や銀色五稜星勲章を与えられた。精彩を欠いた一二星将や問題を起こしたオイラー大将も、高ランクの勲章を受け取ることとなった。

 

 大量の勲章が授与された一方で、昇進者の数は低く抑えられた。昨年から今年の初めにかけて、トリューニヒト政権は昇進を大盤振る舞いしたため、階級がインフレ気味である。国防委員会は成果主義人事を改める方針を打ち出した。こうしたことから、勲章が与えられるだけに留まった。

 

「…………」

 

 俺は何も言わずにリストを眺めた。悪い意味でトリューニヒト政権らしいリストだ。貢献したかどうかより、目立ったかどうかが重視される。失敗してもなあなあで済ませてしまう。

 

「前向きに考えるか」

 

 そう言って、俺は自分を納得させた。パエッタ大将の貢献度に対する評価が、オイラー大将や一二星将下位陣と同レベルだと言われたら腹が立つ。しかし、レグニツァの敗将に対する評価が、名将オイラーや最強の一二星将と肩を並べたと言われたら、喜ぶべきことだ。

 

 同盟軍の勝利と帝国軍の敗北はイコールではない。今回のように勝敗が明確でない場合、双方が勝利を主張する。

 

 帝国軍は「反乱軍六個艦隊を大破し、ニヴルヘイム侵攻の企図を挫いた」として、勝利を高らかに宣言した。彼らの主観では、同盟軍の前進を一か月にわたって阻止し、ニヴルヘイム侵攻を断念させたことになっていた。戦闘が一か月続いたのも、同盟軍が前進しなかったのも事実である。結果だけを切り取れば、「激戦の末に侵攻を断念させた」という解釈も成り立つ。

 

 勘違いで六個艦隊と機動要塞を動員したあげく、何の成果もなく引き上げた。そのような事実をありのままに公表すれば、帝国軍の面目は丸潰れである。同盟軍に侵攻の意思がないことなど、とっくにわかっているだろう。それでも、侵攻の意思があったことにしなければならなかった。

 

 総司令官キルヒアイス元帥は、「ニヴルヘイム侵攻」を防いだ英雄として凱旋した。帝都に帰還すると、皇帝エルウィン=ヨーゼフ二世直々の出迎えを受け、盛大な凱旋式を行った。事実上の最高勲章である黄金柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章を受章し、荘園と八〇〇万マルクを賜った。副首相に昇格し、帝国安全保障会議と帝国経済財政会議に出席する資格を得た。帝国マスコミはこぞって彼の「功績」を褒めたたえる。その名声と権勢は絶頂に達したかに思われた。

 

 帝国軍の「勝利」に貢献した諸将は手厚い恩賞を賜った。功績第二位の征討軍査閲監カールスバート伯爵は、元帥に昇進し、鉱山を有する無人星系二つを加増された。功績第三位の征討軍副司令官レンネンカンプ上級大将は、男爵位を獲得し、皇帝から家紋を賜る栄誉に浴した。功績第四位の首席副査閲監リッテンハイム伯爵は家領の三分の一を返還された。功績第五位の次席副査閲監ゴータ公爵は惑星一個を賜った。功績第六位のマンスフェルド大将は、上級大将に昇進し、帝国騎士の称号を授与された。その他の者も領地を加増されたり、多額の報奨金を賜ったりした。

 

「なんだこれ……」

 

 俺はぽかんと口を開けた。キルヒアイス元帥がもらった恩賞は、ラインハルトが第二次ヴァルハラ会戦の後にもらった恩賞よりずっと多い。マンスフェルド提督はむやみに突撃し、無駄に損害を出した印象しかなかった。カールスバート伯爵、リッテンハイム伯爵、ゴータ公爵らはただの査閲将校だ。同盟軍とは比較にならないほど不可解な論功行賞である。

 

 査閲将校が手厚い恩賞を受けること自体はおかしくない。帝国軍はそういう組織である。それでも、自分が指揮した戦闘において、査閲将校が恩賞を受けるのを見ると、微妙な気持ちになってしまう。指揮官と戦った覚えはあるが、査閲将校と戦った覚えはない。

 

 帝国軍の貴族将官は三つのタイプに分かれている。一つ目は士官学校を出て、国軍や私兵軍において実績を積み、将官に昇進した者。二つ目は諸侯家の当主で、規定された軍役人数が多く、一個師団以上の兵力を動員できるため、予備役将官に任命された者。三つめは査閲将校として従軍し、将官に昇進した者。二つ目と三つめが、「家柄だけで将官になった」と言われる人々である。

 

 査閲将校は皇帝の命を受けて軍隊を監視する将校で、師団級以上の全部隊に配置される。指揮権を持たないが、すべての命令に副署する権限を持ち、指揮官の命令を差し止めることができる。皇帝直属の監察官なので、元帥といえども制約を加えることは許されない。所属部隊が勝利すれば、「後顧の憂いをなからしめた功」により、勝利した指揮官と同等の評価を受ける。敗北した場合でも、部隊が政治的に動揺していない場合は、敗北責任がないとされる。建国期には軍の反乱を防ぐためのストッパーとして機能したが、現在は宮廷貴族が箔をつけるためのポストと化していた。

 

 具体的な例としては、マクシミリアン=ヨーゼフ・フォン・フレーゲル男爵があげられる。彼が務めていた軍事監察官は高級査閲職だった。前の世界でも査閲将校として昇進したと思われる。職業軍人ではないので、戦功によって昇進することは困難だ。男爵は一郡から数郡程度を支配する小諸侯にすぎず、大部隊を動員できるとは思えない。ブラウンシュヴァイク公爵の甥という血筋のおかげで、査閲職にありつけたのだろう。

 

 説明するまでもない常識なので、前の世界の戦記には査閲将校に関する説明はない。ラインハルト配下には査閲将校出身者はいなかった。そのため、ほとんど無視されている。

 

「ローエングラム公がよくこんな論功行賞を認めたな」

 

 俺が苦い顔をしながら資料を見ていると、情報部長ハンス・ベッカー少将が新しい資料を机の上に置いた。

 

「ごらんください。キルヒアイス男爵夫人に関する記事です」

 

 その資料には、『先帝の寵姫が台頭』『アンネローゼ・フォン・キルヒアイスの正体』『新無憂宮の女主人』『リップシュタットの女帝』『ローエングラム公はキルヒアイス男爵夫人の傀儡か』といった題名の記事がまとめられている。キルヒアイス男爵夫人の妻であり、ラインハルトの姉であるアンネローゼ・フォン・キルヒアイスが、帝国政界で台頭しているという内容だった。

 

「冗談だろう」

 

 俺は間髪入れずに否定した。前の世界のアンネローゼは聖女のような存在である。この世界のアンネローゼに関する情報は持っていないが、本質は変わっていないはずだ。権力闘争に首を突っ込むとは思えない。

 

「最近の帝国情勢を説明する仮説としては、上出来だと思いますがね。ローエングラム公は姉のおかげで出世できた。姉がキルヒアイス男爵の意見を支持したら、ローエングラム公は折れざるを得ません」

「言いたいことはわかる。彼女ならローエングラム公を抑制できる。でも、動機がないぞ。フリードリヒ四世の寵姫だった頃は、政治に口出ししなかった。保守派とは距離を置いていた。そんな人がなんで政治介入を始めるんだ?」

「権勢欲じゃないですかね」

 

 ベッカー情報部長は歯切れの悪い言い方をした。本気でそう思っているわけではないが、他の理由も思いつかないといった感じだ。

 

「理想のためではないでしょうか。キルヒアイス夫婦が保守派だというのは今の基準です。門閥派と比べればはるかに開明的です。フリードリヒ四世は穏健改革派でした。キルヒアイス男爵夫人は主君の理想を実現するために立ち上がった。私はそう考えています」

 

 作戦副部長メッサースミス准将は、理想主義者らしい意見を述べた。帝国研究者の間では、フリードリヒ四世が開明的な名君だという説が主流を占める。ラインハルトはフリードリヒ四世の第一の忠臣だというのは銀河の常識である。忠臣の姉が忠臣であってもおかしくはない。いささか理想主義的に過ぎるが、常識はずれではなかった。

 

「どうかなあ」

 

 俺は納得しがたいといったふうに腕組みをした。ファルストロング伯爵が書いた本を読んだ後だと、フリードリヒ四世が痴愚帝以下の暗君に思えてならない。前の世界の知識があるので、ラインハルトが忠臣でないことを知っている。だから、説得力を感じなかった。

 

「愛ですね」

 

 第二艦隊副参謀長イブリン・ドールトン少将は、豊かな胸をふんぞり返らせた。自分の出番が来たと言わんばかりだ。

 

「愛……?」

「そうです! キルヒアイス男爵夫人は愛する人と結ばれました! 愛を失いたくない! 幸せを守りたい! 彼女は愛のために戦っているんです!」

「副参謀長、君はどう思う?」

 

 俺はドールトン少将の戯言を聞き流し、チュン・ウー・チェン副参謀長に声をかけた。

 

「案外、ドールトン提督の言う通りかもしれませんね」

「キルヒアイス男爵夫人は聡明で優しい性格だと聞いている。私情で動く人じゃないと思うよ」

「聡明で優しいからといって、常に節度を守るとは限りません。愛は理屈ではないですから」

 

 チュン・ウー・チェン副参謀長は、ドールトン少将をちらりと見る。これ以上ないほどに説得力のあるサンプルだった。

 

 仕事が終わった後、俺はファルストロング伯爵に通信を入れた。帝国政界の常識を知り尽くした彼の意見を聞いてみたかったのだ。

 

「いかが思われますか?」

「ドールトンとやらが正しかろう」

 

 意外なことに、ファルストロング伯爵もドールトン説を支持した。

 

「キルヒアイス男爵夫人は聡明な方です。私情で動くとは思えませんが」

「聡明といってもたかが知れている。しょせん、女ではないか」

 

 ファルストロング伯爵は何の悪気もなく、差別発言を口にした。

 

「…………」

「女という言い方は良くなかったな。女にも色々いる。貴族の女と言うべきであった」

「その言い方でも不適切ではないですか? 貴族の女性にも色々いるでしょう」

「色々いるが、政治や経済を学んだ女はおらぬ。女が大学で学ぶ学問は、文学か芸術か家政学というのが相場じゃ」

「一人もいないのですか?」

 

 俺が念頭に置いたのは、ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ伯爵令嬢である。この世界では何をしているのかわからないが、前の世界では大学で政治学を学んだはずだ。

 

「わしは知らん。貴族が政治や経済を学ぶのは出世のためだ。女は仕官できぬ。学んだところで意味がない」

「そういうことですか」

「女の身で政治や経済を学ぶとしたら、よほどの変わり者じゃな。本人が望んでも親が許すまい。親が許したとしても、大学が受け入れぬじゃろうな」

 

 常識的な帝国貴族であるファルストロング伯爵から見れば、前の世界の皇后ヒルデガルドはとんでもない変人なのだろう。彼女の希望を受け入れたマリーンドルフ伯爵、彼女の入学を受け入れた大学は、想像を絶する存在に違いない。

 

「だから、聡明といってもたかが知れている。文学や芸術に通じていたところで、政治に益することはない。キルヒアイス男爵夫人は帝国騎士の娘で、一五歳で後宮に入り、ずっと宮廷で暮らしてきた。政治を学ぶ機会はなかろう」

「政治に疎くても、公私のけじめはつけられるのではないですか?」

「帝国は公と私の境界が曖昧な国だ。権力者は私生活の中で公務を処理し、公務の中で私生活を送る。公務に私情を挟まぬ奴の方が希少種さ」

「考え方が根本的に違うんですね。いつも感じることですが」

 

 俺は軽くため息をついた。

 

「貴族は国家を自分たちの所有物だと思っている。私情抜きで所有物を扱うことなどできぬ。私情を持たねばならぬ。私情があるがゆえに、貴族は国家のことを自分のことのように思い、守ろうとする。悪いのは私情ではない。結果を出せぬことだ。そして、政治とは結果を出す技術だ」

「キルヒアイス男爵夫人が私情で動いているかどうかは問題ではない。そう考えてよろしいのでしょうか?」

「構わぬ」

「私情にもさまざまな種類があります。なぜ愛だとお考えになったのですか?」

「消去法じゃよ。フリードリヒは忠誠に値する男ではない。それゆえ、忠誠心ではない。あの女には為政者としての知識がない。それゆえ、国家への使命感ではない。あの女にはイデオロギーがない。それゆえ、理想ではない。あの女には背負うべき家門がない。それゆえ、家門への使命感ではない。あの女には上昇志向がない。それゆえ、権勢欲ではない。あの女は夫と弟以外に何も持っておらぬ。ならば、愛であろう」

 

 ファルストロング伯爵の説明は単純明快だった。前の世界の知識とも矛盾していない。アンネローゼにとって、大事なものはキルヒアイス男爵とラインハルトだけだ。だから、その二人への愛で動く。実にわかりやすい。

 

 聡明だといっても、アンネローゼは政治の素人である。彼女が長年住んでいた後宮は、伝統的な保守勢力の牙城とされる。友人のヴェストパーレ男爵夫人は、開明派の女王と称される人物だが、進歩思想に詳しいわけではない。後宮に入る前は下級貴族の少女に過ぎなかった。こうしたことから考えると、政治意識は一般人と同レベルだろう。弟のような価値観を持つ可能性は低いし、古い価値観に染まっている可能性すらある。保守的な夫と開明的な弟が対立したら、夫に理があると考えるのではないか。

 

 あるいは、アンネローゼは、夫と弟の対立を「愛するジークとかわいいラインハルトの喧嘩」としか思っていない可能性もある。夫と弟が何やら喧嘩している。話を聞いてみると、夫はまともなことを言っていて、弟は理解しがたいことを言っている。だから、弟を叱って、夫と仲直りさせた。オーベルシュタインは弟に変なことを吹き込み、夫との仲を裂こうとする「悪い子」だから追い払った。その程度の認識で、政治に介入しているのかもしれない。

 

 いずれにしても、俺が真実を知ることはないだろう。アンネローゼの政治介入が事実かどうかすらわからない。事実であったら、ありがたいことだ。アンネローゼがラインハルトを止めてくれるのだから。

 

 

 

 一一月中旬から一二月下旬にかけて、大規模な人事異動が実施された。第九次イゼルローン攻防戦に端を発するごたごたによって、多くの軍高官が辞任した。その空席を埋めるための人事がメインである。また、国防体制を強化するために、小規模な組織改編が行われた。

 

 ウォルター・アイランズ大衆党幹事長が、国防委員長に就任した。金銭絡みのスキャンダルが多すぎるため、絶対に入閣できないと言われた人物である。初当選以来、エネルギー政策関連のポストを歴任しており、国防政策に関わった経験はない。政府寄りのマスコミは、「エネルギー産業は軍需産業の一部。新委員長の力量に不安はない」と言うが、信じる者はいなかった。無能なイエスマンだから起用されたというのが、大方の見方である。

 

 この人事を歓迎する者はほとんどいなかった。反トリューニヒト派は激しく反発した。トリューニヒト派は先行きに不安を覚えた。設立当初からアイランズ待望論を唱えてきた新興宗教「光に満ちた千年王国」だけが、歓迎の意を示した。

 

『レジェンド・オブ・ザ・ギャラクティック・ヒーローズ』は、ウォルター・アイランズを立派な政治家として描いている。帝国軍がフェザーンを制圧し、トリューニヒト議長が雲隠れした時、彼は半世紀の惰眠から目覚めた。その時、ウォルター・アイランズこそが同盟政府であり、同盟国家そのものだった。彼の献身的な指導により、ヤン・ウェンリーやアレクサンドル・ビュコックは縦横無尽の活躍ができたのである。

 

 俺は前の世界でのアイランズ国防委員長の活躍を知っているが、それでも喜べなかった。この世界では長年の知り合いだが、小物として共感を覚えることはあっても、立派な人だと感じたことは一度もない。市民軍では役立たずだった。国難に見舞われなければ覚醒しないのなら、覚醒しない方がいい。国難なんて起きないに越したことはないのだ。

 

 地上軍幕僚総監マーゴ・ベネット元帥が国防事務総長に起用された。この人事により、国防事務総長が統合作戦本部長と並ぶ要職であることが明確になった。

 

 航空部隊総監ハフィーズ・カンディール上級大将が、ベネット元帥の後任として地上軍幕僚総監となった。七八三年に士官学校を次席で卒業し、早くから将来のトップ候補として期待され、それにふさわしい実績を積んできた。ラグナロック戦役では、ウランフ元帥やヤン元帥の指揮下で華々しい勲功をあげた。旧シトレ派の出身だが、有害図書愛好会とは対立しており、独自路線を歩んでいる。マリネスク上級大将とともに、非トリューニヒト・非ヤンを掲げる勢力の筆頭である。

 

 イゼルローン総軍副司令官ヨハネス・オイラー大将は、国防調整会議副書記に転じた。国防事務次長と同格で、国防の中枢にかかわる要職である。差別発言によって更迭されたことは公表されていない。

 

 第六艦隊司令官エリック・ムライ大将が、イゼルローン総軍副司令官に起用された。ヤン元帥が希望したわけではない。国防委員会内部から練度の低さを危惧する声があがったのである。長きにわたってヤン艦隊の副司令官を務めた男は、久しぶりに指定席に戻った。

 

 第九次イゼルローン攻防戦で華々しい活躍を見せたカール・フォン・ゾンバルト中将が、第六艦隊司令官に就任し、大将に昇進した。前の世界では、ラインハルトの部下であったが、ヤン艦隊に惨敗したために自殺した。この世界では、皇太子に仕える「ルートヴィヒ・ノイン」として勇名を馳せた。二つの世界で数奇な運命をたどった男が、正規艦隊司令官に上り詰めたのである。

 

 オイラー大将とゾンバルト大将が要職に起用されたのは、帝国人を引き続き重用するというメッセージである。エルクスレーベン事件の影響で、帝国人排斥の空気が蔓延している。同盟に同化した「良き帝国人」に対する信頼も大きく揺らいだ。トリューニヒト政権にとって、良き帝国人は重要な票田であり、守るべき存在であった。

 

 宇宙艦隊司令長官フィリップ・ルグランジュ上級大将は、エルクスレーベン事件の責任を取って辞任した。本来ならば、国防委員長、統合作戦本部長、宇宙軍幕僚総監、宇宙艦隊司令長官がすべて辞任してもおかしくない。当時のネグロポンティ委員長は既に辞任した。「さらに辞任者を出したら収拾がつかなくなる」という理由で、被告人の直接の上官にあたるルグランジュ上級大将が辞任することとなった。

 

「収拾がつかないってのは言い訳だな」

 

 俺は政府の思惑を小物なりに察していた。統合作戦本部長と宇宙軍幕僚総監が空席になったら、好ましくない人物が後釜に座るかもしれない。また、宇宙艦隊司令長官は好ましくない人物の一人と深い関係にある。だから、宇宙艦隊司令長官を辞任させたのだろう。

 

 後任の司令長官として様々な提督の名前があがる中、俺のところに就任要請が来た。アイランズ国防委員長が言うには、「君なら市民が納得する」「綱紀粛正に取り組む姿勢をアピールできる」のだそうだ。

 

「お引き受けになりますか?」

 

 次席副官クリストフ・ディッケル地上軍大尉の目が、きらきらと輝いている。権限が縮小されたとはいえ、宇宙艦隊司令長官のネームバリューは衰えていない。

 

「断るよ」

「どうしてです? 名誉なことではありませんか」

「君と別れたくない。地上軍大尉は宇宙艦隊に入れないからね」

 

 俺が笑いながら言うと、ディッケル大尉は恥ずかしそうに頭をかいた。

 

「うっかりしていました」

「第一辺境総軍は生まれたばかりだ。一人前になるまで育てたい。全軍の手本になる部隊を作るんだ」

「そこでヤン元帥に差をつけるというわけですね」

 

 士官学校の首席卒業者だけあって、ディッケル大尉は察しがいい。

 

「育成なら対抗できる」

 

 俺は確信を込めて言った。指揮官の仕事の半分は戦争、半分は育成である。戦争では勝ち目がない。だが、育成なら勝ち目はある。

 

 ヤン・ウェンリーは人を使うのがうますぎる。優秀だが個性が強すぎる人物も、ぱっとしない人物も難なく使いこなしてしまう。だから、わざわざ育てる必要がない。前の世界でも、ヤン・ファミリーのメンバーは、スターと即戦力ばかりであった。

 

 軍隊における育成とは、平凡な人間を伸ばすことである。やる気のない者にやる気を出させる。才能のない者に力をつけさせる。経験のない者を一人前に育てる。こうしたことをうまくやるのが育成力だ。

 

 ユリアン・ミンツはヤン・ウェンリーの弟子と言われるが、勝手に育ったといった方がより正確だ。彼にはやる気も才能もあった。自分で学ぶべき課題を見つけ、必要なものを余すことなく吸収し、血肉にすることができた。誰の下にいても伸びるタイプである。善人の下にいれば優秀な善人になるだろうし、悪人の下にいれば優秀な悪人になるだろう。伸びる方向性が違うだけだ。そんな人間を伸ばしたところで、育成力の証明にはならない。

 

「育成だけでトップに行った人もいますからね。オルトリッチ提督とか」

「その路線を目指すよ。戦下手だから」

 

 俺は何の気負いもなく言った。オルトリッチ提督と肩を並べる資格があるとは思っていない。それでも構わなかった。資格がないなら手に入れればいい。それだけのことだ。

 

 優れた育成者が当代最強の用兵家を抑えてトップに立ったケースは、いくらでもある。殺すことはたやすいが、育てることは難しい。一万の兵を育てた功績は、一万の敵兵を殺した功績に優る。一〇人の将を育てた功績は、一〇人の敵将を殺した功績に優る。勝算は十分にあった。

 

「育成なら宇宙艦隊司令長官でいいじゃん。育成専門職だよ」

 

 そう言ったのは、恩師であり部下であるイレーシュ・マーリア少将である。プライベートなので敬語を使わない。仕事を二二時に終えた後、俺と彼女は久しぶりに二人で食事をとっていた。

 

「再編前だったら、引き受けても良かったんですけどね。宇宙軍のトップですから。でも、今はメジャーコマンド司令官の一人です。第一辺境総軍と引き換えにする価値はありません」

「宇宙艦隊司令長官を天秤にかけるご身分ですか。エリヤ・フィリップスも偉くなったもんだ」

 

 イレーシュ少将は肩をすくめ、端麗な顔におどけた笑みを浮かべた

 

「まったくです」

 

 俺は照れ笑いを浮かべた。出世しても小物気分は抜けていない。偉い人間のように振る舞うと、微妙な気恥ずかしさを覚える。そんなのは自分ではないという気がするのだ。

 

「嬉しいけど寂しいね。自分の手を離れていくみたいでさ。子供が巣立つのを見送る親もこういう気分なのかな」

「なんで親なんですか? せいぜい姉でしょう。六歳しか年が違わないんだから」

「身長差は一二センチ。ほとんど親子だよ」

「あなたがでかすぎるんです」

「君がガキすぎるのよ。全然変わってないじゃん」

 

 イレーシュ少将は右手で俺の左頬をつまんだ。

 

「肌の張りもつやも昔とおんなじ。顔つきも全然変わってない。むしろ若返ってるかもしれない。三四歳の顔じゃないよ」

「ほっといてください。気にしてるんですから」

 

 俺は少し困ったように笑い、左手でイレーシュ少将の細い右手首をつかんだ。そのまま手を引いて左頬から引き離そうとしたところで手が止まった。肌触りが以前よりわずかながら張りがないことに気づいたのだ。

 

「どうしたの?」

 

 イレーシュ少将がいぶかるように俺を見る。

 

「いえ、なんでもありません」

 

 俺は内心の動揺を隠すように微笑むと、彼女の手を左頬から離した。そして、彼女の手首を自分の手から解放した。逃げるような気分だった。

 

 自分と恩師が別の生き物のように感じられた。成長して年を取って死んでいくのが生き物として正しい姿だ。あの妹ですらわずかに老けている。一四年過ぎてもまったく老けていない自分は、生き物として間違っているのではないか。いや、普通の生き物は死んでから生き返ったり、過去にタイムスリップしたりしない。

 

 ここで俺は考えるのをやめた。どうせ答えは出ないのだ。答えの出る問題について考えた方がいい。考えるべき問題は山ほどあるのだ。


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