銀河英雄伝説 エル・ファシルの逃亡者(新版)   作:甘蜜柑

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第64話:地に落ちた大義 799年2月~799年3月27日 ヴァナヘイム~シュテンダール

 同盟軍にとって最大の敵は、ラインハルト・フォン・ローエングラムの天才でもなければ、ベネディクト・フォン・オフレッサーの暴勇でもなく、距離と面積である。本国から前線までの長すぎる距離が補給を困難なものとした。解放区の広すぎる面積が同盟軍に分散を強いた。

 

 同盟軍は三個統合軍集団体制を一〇個統合軍集団体制に改めた。戦略単位を増やすことで最大の敵に対応しようと考えたのだ。

 

 第一統合軍集団を分割し、ヤン宇宙軍大将を司令官とする第四統合軍集団を編成した。第二統合軍集団を分割し、ルフェーブル宇宙軍大将を司令官とする第五統合軍集団を編成した。第三統合軍集団を分割し、ソウザ地上軍大将を司令官とする第六統合軍集団を編成した。昨年末に増派された正規部隊を中核とする第七統合軍集団を編成し、ボロディン宇宙軍大将を司令官とした。これらの軍集団は正規艦隊、機動地上軍、正規軍独立部隊、元帝国兵部隊によって構成される。

 

 旧アースガルズにビュコック宇宙軍大将を司令官とするフリーダム統合軍集団、旧ミズガルズにシャフラン宇宙軍大将を司令官とするインディペンデンス統合軍集団、旧ニヴルヘイムにジョルダーノ地上軍大将を司令官とするジャスティス統合軍集団が置かれた。こちらは予備役と新兵と元帝国兵のみで構成される警備部隊だ。

 

 各正規艦隊は二万隻規模、各機動地上軍は二〇〇万人規模まで増強された。部隊あたりの戦力を多くすることで、より広い戦域を担当できるようになった。

 

 大増強に伴って、二個分艦隊並みの戦力を持つ分艦隊が現れた。こうした分艦隊は普通の分艦隊と区別するために「○○集団」と呼ばれるようになった。たとえば、第一一艦隊D分艦隊は司令官の名前から「ホーランド機動集団」の通称を与えられている。

 

 俺はホーランド機動集団の前方展開部隊司令官に任命された。宇宙戦部隊として第三六機動部隊及び四個独立戦隊、陸戦部隊として第一一四陸戦遠征軍団、宙陸両用部隊として第一一四揚陸戦隊が指揮下に入る。

 

 最も注目すべきは独立戦隊であろう。構成艦の九割は鹵獲した敵艦及び接収した敵工廠で製造された艦で、隊員の七割は同盟軍に編入された元帝国軍人が占める。宇宙母艦に搭載された単座式戦闘艇は帝国製の「ワルキューレ」だ。

 

 帝国製艦艇と同盟製艦艇を比較すると、艦隊が大きく被弾しやすいが中和力場の威力は強く、小回りはきかないが推進力が大きく、大気圏内で行動できる。正面突破や強襲揚陸で力を発揮するのだ。俺は旗艦をアシャンティから鹵獲艦ヴァイマールに乗り換え、独立戦隊の先頭に立って突撃できるようにした。

 

 第三六機動部隊きっての勇将マリノ代将、エル・ファシル以来の腹心ビューフォート代将、往年の撃墜王アコスタ代将、元帝国軍人バルトハウザー代将の四名が独立戦隊を指揮する。いずれも勇敢な指揮官だ。

 

 七九九年二月一日、第一統合軍集団と第四統合軍集団はヴァナヘイム、第二統合軍集団はレンテンベルク、第三統合軍集団と第六統合軍集団はヨトゥンヘイム、第五統合軍集団はアルフヘイム、第七統合軍集団はニダヴェリールで作戦行動を開始した。

 

 ヴァナヘイムでは、ウランフ大将の第一統合軍集団がレーンドルフ方面のブラウンシュヴァイク派主力と戦い、ヤン大将の第四統合軍集団がガイエスブルク要塞に向かった。

 

 ガイエスブルク要塞はヴァナヘイム、アルフヘイム、スヴァルトアールヴヘイムを結ぶ位置にある。これを抑えれば、ブラウンシュヴァイク派の支配領域を分断し、フェザーンからの支援ルートを遮断できるのだ。

 

 第一一艦隊は第一統合軍集団の中核部隊として戦った。ホーランド機動集団が先鋒を務め、ストークス打撃集団が決戦戦力となる。

 

 俺の前方展開部隊はホーランド機動集団の先鋒、すなわち全軍の先鋒である。ここまで戦域が広くなると、数万隻がぶつかり合うような戦いは滅多に起きない。航路確保や前進拠点確保が先鋒の役目となった。

 

 上陸戦のパターンは確立されており、指揮官の独創性を発揮する余地は少ないが、多種多様な作戦を同時に指揮するために調整が難しい。有人惑星の場合は占領後の治安維持も視野に入る。調整型提督の俺にはうってつけの任務と言えよう。

 

「全艦突撃!」

 

 俺は四個独立戦隊を従えて突撃する。ポターニン准将の第三六機動部隊は、突撃を支援したり、俺が切り開いた突破口を広げたり、別働隊として敵の側面に回りこんだりする。副司令官を二年間務めた彼との連携に不安はない。

 

 航路を確保した後は敵拠点の奪取に取り掛かる。第三六機動部隊と四個独立戦隊が周辺宙域を制圧し、衛星軌道上の敵部隊を排除した後に、敵の防空基地やレーダー基地を宇宙から攻撃する。無人惑星や小惑星に対しては無差別砲撃を行うが、有人惑星に対しては中距離砲やミサイルで精密射撃を加える。

 

「降下するぞ!」

 

 防空網がある程度弱体化した時点で、俺は独立戦隊と宙陸両用戦闘艇部隊を率いて大気圏内へと突っ込む。帝国製軍艦は空中要塞となって空を支配し、帝国製母艦からは帝国製単座式戦闘艇「ワルキューレ」が発進する。衛星軌道上の揚陸艦が陸戦隊員を乗せた降下用シャトルと支援戦闘機を吐き出す。

 

 シャトルは帝国製の軍艦と単座式戦闘艇、同盟製の宙陸両用戦闘艇と支援戦闘機の援護を受けながら、地上へと降下して行く。

 

 陸戦隊が地上に橋頭堡を確保すると、本格的な地上戦の始まりだ。この段階から地上軍が参加する。陸戦隊の陸上部隊と航空部隊、地上軍の陸上部隊・航空部隊・水上部隊の五者が連携しながら戦い、必要に応じて帝国製軍艦と宙陸両用戦闘艇が支援を行う。俺は着陸した旗艦を司令部として指揮をとる。

 

 ブラウンシュヴァイク派の地上部隊は厄介な相手だった。将校は勇敢だが功を焦って突出する悪癖があり、兵士は実戦経験の少ない者が多く、戦闘能力は高くない。だが、異常なまでに頑強だった。絶望的な状況になっても頑なに降伏を拒否し、最後の一兵まで戦い続ける。

 

 上陸戦部隊は憂鬱な殲滅戦を強いられた。敵の連絡線を分断し、孤立した地下陣地を取り囲んで一つ一つ潰していく。山や森に踏み込んでゲリラを狩り出す。戦いと言うよりは作業だ。

 

 装甲擲弾兵との戦いは苦痛でしかなかった。将校はオフレッサー元帥の薫陶を受けた猛者揃い、兵士は「一日に三六時間、一週間に一〇日間」と称されるオフレッサー式の猛訓練で鍛えられており、一人で帝国地上軍兵士三人に匹敵する。そんな精鋭が同盟兵の血を一滴でも多く流すためだけに戦った。同盟兵が立ち塞がったら殺し、同盟兵が逃げ出したら殺し、同盟兵が傷つき倒れていたら殺し、同盟兵を捕らえたら殺す。殺すためなら自分の命など顧みないという本末転倒ぶりだ。

 

 装甲服を着た殺人狂は、同盟兵を殺害する様子を全銀河に動画配信した。オフレッサー元帥は部下に残虐さをアピールすることまで教えたのだ。逃げようとする同盟兵を追いかけて殺したり、泣いて命乞いする同盟兵の口に銃を突っ込んで撃ち殺したり、手足を縛った同盟兵をなぶり殺しにしたりする動画は、同盟軍に装甲擲弾兵恐怖症を流行させた。

 

 地上で血まみれの戦いが行われている間、宇宙空間でも激戦が展開される。敵宇宙部隊は増援部隊や補給物資を揚陸し、上陸戦部隊の補給路を遮断しようとする。こうした行動を阻止するのが宇宙部隊の仕事だ。ただし、重要でない拠点には宇宙部隊が現れない場合も多い。

 

 敵の組織的抵抗が終わると、戦後処理の始まりだ。最近は同盟軍を出迎える者がいなくなった。反体制派は壊滅している。一般住民は同盟軍に近寄ろうとしない。オフレッサー元帥の恐怖政策は功を奏した。

 

 どんな事情があるにせよ、本国政府からは「解放軍を歓迎する群衆」という画を用意するよう言われている。そこで兵士が家々を回って金品を配り、人々を広場に集めた。

 

「私たちは解放軍です! 私たちは皆さんに自由と平等を約束します! 圧政の苦しみは去りました! 自由な市民としての生活が始まるのです!」

 

 宣撫士官ラクスマン大尉が情熱を込めて語りかけた。

 

「共和主義万歳!」

「平等万歳!」

「自由惑星同盟万歳!」

 

 群衆は歓呼の叫びをあげる。しかし、ただ声を張り上げてるだけで熱気はまったくない。

 

「共和主義万歳!」

「平等万歳!」

「自由惑星同盟万歳!」

 

 同盟軍兵士が群衆に応えるように叫ぶ。こちらもただ声を張り上げてるだけだ。

 

 偽の英雄として様々な茶番を演じてきた俺だが、最近の「解放祝賀式典」ほど酷いものはなかなかお目にかかれない。強いてあげるとすれば、エル・ファシル義勇旅団ぐらいだろうか。こんな映像でも本国の人々は大喜びする。

 

 茶番が終わった後は、事務処理やデータ収集や帝国軍残党の掃討を行った。後続部隊がやってきたら、後を任せて次の目標へと向かう。

 

 俺は三週間で四つの有人惑星と八つの無人惑星を攻め落とした。一日で攻略したものもあれば、一週間以上かけて攻略したものもあるし、同時に複数の惑星を攻略したこともある。進軍速度及び損害は、上位司令部の想定を上回ることも下回ることもなかった。

 

 

 

 二月下旬、アンドリューは記者会見で「戦争は最終局面に入った」と語った。最高評議会や国防委員会も楽観的な見通しを述べる。

 

 ヴァナヘイム戦線では、ブラウンシュヴァイク派の激しい抵抗にも関わらず、第一統合軍集団と第四統合軍集団が優勢を保った。

 

 ヨトゥンヘイム戦線では、同盟軍とリヒテンラーデ派がビブリス星系をめぐって争っている。この星系はヨトゥンヘイム・ニダヴェリール・ムスペルヘイムの三総管区を結ぶ位置にあり、リヒテンラーデ派の最重要拠点だ。

 

 同盟軍は第三統合軍集団配下の九個分艦隊と三個陸戦遠征軍、第六統合軍集団配下の五個陸上軍と二個航空軍を投入した。ヨトゥンヘイムに展開する同盟軍の三分の二がビブリスに集まった。

 

 一方、帝国軍はロイエンタール中将率いる一個分艦隊と二個装甲擲弾兵軍がビブリスを守り、キルヒアイス大将率いる五個分艦隊が支援を行う。すべてラインハルトが司令長官を務める国内艦隊に属する部隊だ。

 

 同盟軍上陸部隊は三週間で四度の攻勢を仕掛けたが、五重に敷かれた防衛線のうち二つを突破するに留まる。ロイエンタール中将は前の世界でレンテンベルク要塞突入部隊を指揮し、シェーンコップ少将と互角の一騎打ちをしただけあって、地に足をつけた戦いでも超一流であった。

 

 宇宙では同盟軍と帝国軍の宇宙部隊が制宙権を争う。二月四日に行われた第一次ビブリス会戦において、同盟軍のモートン前衛集団が帝国軍のグリューネマン分艦隊・カルナップ分艦隊を打ち破った。二月一二日の第二次ビブリス会戦では、同盟軍のモートン前衛集団が帝国軍のミッターマイヤー機動集団と引き分けた。会戦といえないような小戦闘は数えきれない。

 

 同盟軍は帝国軍の善戦に驚いた。国内艦隊といえば帝国正規軍で最も弱い部隊だ。ラインハルトがベテラン将校を若手将校に入れ替えたため、経験の浅い若者が中級指揮官や艦長となった。司令長官のラインハルトは戦術の天才であり、キルヒアイス大将以下の分艦隊司令官はそこそこ有名だが、練度が低くてはどうしようもない。同盟軍人は国内艦隊を「ボーイスカウト」と呼んで馬鹿にしてきた。そんな弱兵の善戦は同盟軍を戸惑わせ、帝国軍を勇気づけた。

 

 ボロディン大将の第七統合軍集団がアースガルズ経由でニダヴェリールに侵攻した。アースガルズとリヒテンラーデ派の本拠ラパートを結ぶ長大な航路を守るのは、リンダーホーフ元帥配下の四個分艦隊だ。国内艦隊よりは精強だが絶対数が足りない。ラインハルトが救援に出ればビブリスが孤立する。ラインハルトがビブリスに向かえばラパートを攻め落とす。どう転んでも同盟軍の得になる作戦だ。

 

 アルフヘイム戦線では、ルフェーブル大将の第五統合軍集団とリッテンハイム派主力部隊が激戦を繰り広げた。歴戦の第五統合軍集団に対し、リッテンハイム派主力部隊は物量で対抗した。

 

 レンテンベルク戦線では、ロヴェール大将の第二統合軍集団がレンテンベルク要塞への圧力を強めた。第二統合軍集団はレンテンベルクのメルカッツ艦隊を封じると同時に、全軍の戦略予備として機能してきた部隊だ。

 

 

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 概ね同盟軍有利と言っていいだろう。しかし、本国政府や総司令部が言うほど楽観できる状況ではない。

 

 俺が直接知ってるのは、昨年の六月から戦ってきたブラウンシュヴァイク派だけだ。しぶといだけで戦上手ではない。それでも、侮れない相手だと感じる。

 

 最高指導者のブラウンシュヴァイク公爵は選民主義で悪名高い。頑健な肉体を持ち、強さを渇望し、弱さを憎み、外見を美々しく飾り立てるところは小ルドルフそのものだ。人権侵害や下品な宣伝戦略によって同盟市民の怒りを買った。前の世界では無能の代名詞とされた。だが、帝国人保守層はこのようなリーダーを好む。

 

 総司令官ミュッケンベルガー元帥は、大軍を危なげなく運用するタイプの用兵家であり、華々しい武勲は少ない。内戦前は「ローエングラム元帥やメルカッツ上級大将に司令長官の地位を譲るべきだ」との声もあった。前の世界で読んだ『獅子戦争記』では、天才ラインハルトから無能な上官として非難される役回りだった。だが、大軍を掌握する力量は抜群だ。

 

 総参謀長シュターデン上級大将は、戦略理論家としては一流だが実戦に弱い。前の世界では「理屈倒れのシュターデン」の仇名で知られる。だが、必要な戦力を計算し、十分な兵站を整え、予備を適切に投入するなどの幕僚業務は完璧にこなした。

 

 地上部隊を指揮するオフレッサー元帥は、指揮官としては勇猛一辺倒で柔軟さに欠ける。同盟兵をなぶり殺し、それを全銀河に動画配信する行為を繰り返したことで、同盟市民から憎まれた。前の世界ではラインハルトから「石器時代の勇者」と馬鹿にされた。だが、士気を鼓舞し、精鋭を鍛えあげる点において彼の右に出る者はいない。

 

 彼ら四名の共通点は軍事指揮官としては凡庸だが、組織者としては有能ということだ。これはシュタインホフ元帥など他の首脳陣にも共通する。それゆえに劣勢でも崩れない。

 

 前の世界では、ブラウンシュヴァイク公爵は内部統制に失敗して滅亡し、シュターデン上級大将は現実感覚の欠如をさらけ出し、オフレッサー元帥はオーベルシュタインの謀略で殺された。ミュッケンベルガー元帥は早めに引退して、ラインハルトとの確執のみが後世に伝わる。大した人たちではないと思っていた。

 

 今になって思うと、彼らをあっさり滅ぼしたラインハルトが異常だったのだろう。彼らは同盟軍相手には強固な結束を保ち、徹底した持久戦略をとり、イメージ戦略で優位に立った。しかし、ラインハルト相手には内輪もめを起こし、決戦戦略にこだわって兵力を失い、イメージ戦略で遅れを取った。

 

 貴族は強い。古いがゆえに強い。四世紀以上にわたって銀河の半分に君臨してきただけのことはある。実際に戦ってみないとわからないことだ。

 

 楽観視できない二つ目の要因としては、同盟軍の弱体化があげられる。量的には著しく増強された。この一年間で戦闘艦艇は一三万五〇〇〇隻から二一万一〇〇〇隻、支援艦艇は八万一〇〇〇隻から一三万二〇〇〇隻、将兵は三一六五万人から八二七一万人まで膨れ上がった。量的な増加は必然的に質の低下をもたらした。

 

 増加分のほとんどは、練度が低く旧式兵器を装備する予備役兵だ。解放区が拡大するに伴い、警備要員を確保するために予備役の動員を繰り返した。損耗したベテランの穴埋めにも予備役兵があてられた。遠征開始時点では全軍の一割に満たなかった予備役兵が、現在は宇宙軍兵士の三割、地上軍兵士の七割を占める。

 

 正規軍に編入された元帝国兵のうち、半数は元私兵軍や元予備役で、元正規兵は戦い慣れているが同盟式のドクトリンに適応するには時間がかかる。正規兵並みの活躍は期待できない。

 

 予備役兵と元帝国兵の増加は練度の低下をもたらした。以前と比べると機動力が低下し、機敏な行動が取りづらくなっている。同盟軍の質的優位が失われつつあった。

 

 モラルの低下は誰の目にも明らかとなっていた。現役兵は先の見えない戦いに疲れ、解放区の現実に失望し、故郷に生きて帰ることのみを願うようになった。予備役兵は一般社会での生活を懐かしんだ。怠慢による事故、上官への不服従や反抗、部隊からの脱走、違法薬物の使用が急増している。もはや「解放軍」という言葉は、本国政府と本国市民の脳内にしか存在しない。

 

 遠征軍の総司令部はこうした情報を必死に隠そうとした。アンドリューは楽観的すぎる発言を繰り返す。広報部はマスコミの戦争報道を細かくチェックする。

 

 ラグナロック作戦を実現させた若手高級士官グループ「冬バラ会」は、総司令部への不満を抑えるために動いた。アンドリューはロボス元帥のそばで目を光らせる。ホーランド少将ら他のメンバーは異を唱える者を非難した。

 

 本国では遠征推進派が情報隠しに躍起となった。表では与党議員、国務官僚、国防官僚などが楽観的な発言を繰り返し、裏ではマスコミ統制を推し進める。アルバネーゼ退役大将がサイオキシンマネーで作ったデモクラティア財団は、マスコミに大量の広告を出すことで批判報道を抑えた。

 

 エリートたちの暗い努力にもかかわらず、批判報道は止まらない。反戦派マスコミはあらゆる戦争に反対する立場から、大衆右派マスコミは解放区住民の移民・民主化への投資に反対する立場から、フェザーン系マスコミは国際秩序維持を求める立場から、批判報道を続けた。

 

 数ある批判報道の中でも、ヴィンターシェンケの組織的虐待事件、ブラメナウの四〇〇〇人虐殺事件、フリツニッツァーの二万人誤爆死事件は、同盟軍の威信を大きく傷つけた。

 

 旧解放区の憲法制定事業が難航している。LDSOはハイネセン主義に則ったリベラルな憲法を作るよう求める。住民はルドルフ主義に則った全体主義的な憲法を望んだ。現地政府はLDSOと住民の板挟みになった。

 

 反同盟的な政党が政権を握った星系では、現地政府は何の迷いもなく「ゲルマン系男性の優越」などルドルフ主義の要素を盛り込んだ。また、「拷問の禁止」「社会保障を受ける権利」といった人権規定は省かれた。LDSOが憲章違反だと指摘すると、「認めないなら同盟に加盟しない」と言い出す始末だ。これらの政府は警察を使ってマイノリティを弾圧したりもした。選挙干渉をしなかったウランフ大将やヤン大将のリベラルな態度が、リベラルと程遠い政府を生んだ。皮肉としか言いようがない。

 

 現地政府が憲法で揉めてる間、テロはますます激しくなった。同盟軍、現地政府、親同盟派民兵、反同盟テロ組織、保守派住民組織、傭兵などが入り乱れて争っている。親同盟勢力同士の衝突、反同盟勢力同士の衝突も起きた。一部地域は事実上の内戦状態に陥った。

 

 一部の反同盟勢力がリヒテンラーデ派の指揮下にあることが判明した。軍務省配下の「アースガルズ予備軍」が、一〇〇〇を超えるテロ組織を指導しているという。予備軍のトップと目されるオーベルシュタイン中将は、シャンプール・ショックとエル・ファシル七月危機の黒幕だ。三年前の悪夢が解放区で蘇った。

 

 テロ組織の中にはブラウンシュヴァイク派系列のものが少なくない。これらの組織は、同盟軍と親同盟派有力者だけを狙うアースガルズ予備軍とは異なり、民衆を巻き込む無差別テロを繰り広げた。新無憂宮略奪に参加した者を探しだして殺す「復讐部隊」、誘拐した同盟人や親同盟派現地人を処刑して動画配信する「ヘーア愛国者旅団」などが有名だ。

 

 遠征推進派にとっては、ブラウンシュヴァイク派の蛮行は格好の宣伝材料に思われた。最高指導者は無差別テロを公然と支援する。軍の最高幹部は兵士を惨殺する動画を喜々として配信する。ブラウンシュヴァイク公爵の人権侵害が暴露された時のような反応を期待した。

 

 ところが、市民の過半数は、自軍の戦争犯罪や腐敗を気にかけなかったのと同様に、ブラウンシュヴァイク派の残虐行為も気にかけなかった。

 

 同盟本国で「財政危機」という名前の炎が上がり始めていた。遠征軍とLDSOが一年間で使った予算は、三九兆二〇〇〇億ディナールにのぼる。本年度一般予算の三〇パーセントに匹敵する額だ。財政難の同盟政府にこれだけの出費を負担する能力はない。莫大な戦費と民主化支援予算は国債で賄われた。遠征推進派があてにした解放区マネーは、経費を賄うには足りなさすぎた。背負いきれない借金だけが残された。

 

「我々は最大の敵に直面している。その敵とは帝国ではない。財政危機だ。帝国には我が国を滅ぼす力などない。だが、財政危機にはその力がある。そして、滅びの時は間近に迫っている。どちらとの戦いを優先すべきかは言うまでもない。今すぐ解放区から兵を引こう。総力をあげて財政危機に立ち向かう時だ」

 

 ジョアン・レベロ財政委員長は即時講和と財政再建を強く訴えた。

 

 市民は自分たちが置かれた状況にようやく気づいた。政治に興味のない者も急激な物価上昇に危機感を覚えた。解放区で何が起きようと対岸の火事だが、財政危機は自宅の火事だ。

 

 今や遠征支持と不支持の違いは、帝国に解放区の支配権を認めさせた上で手を引くか、解放区をすべて放棄してでも手を引くかの違いでしかない。ブラウンシュヴァイクやオフレッサーの残虐行為に怒る余裕などなかった。

 

 議会は遠征軍が要求した戦費一二兆ディナール、LDSOが要求した民主化支援予算一七兆ディナールの支出を拒んだ。最高評議会が閣議決定したフェザーン出兵案も否決された。

 

 同盟政府は講和会議の存在を明らかにし、「より有利な講和を引き出すための戦争継続」を訴える方針に転じた。一見すると遠征反対派に譲歩したように見える。だが、これまでよりも一層強く楽観論を唱え、悲観論を排撃するようになった。悲観論者のレベロ財政委員長は楽観論者と交代させられた。悲観論が優勢になれば、世論が即時講和と解放区の完全放棄に傾きかねない。同盟軍は有利だと思われなければ困るのだ。

 

 遠征支持派と遠征反対派の対立は、勝利による講和派と即時講和派の対立へと転じた。それはこれまでにない深刻な対立であった。

 

 

 

 三月上旬、第一統合軍集団の進軍が止まった。戦闘には勝ったものの、新しく解放した惑星で反同盟活動が激しくなったために余裕がなくなったのだ。

 

 ブラウンシュヴァイク派は同盟軍が攻めてくると、住民に大量の武器を配り、インフラを壊し、行政データを消去した。武装した住民、破壊されたインフラ、消された行政データは新解放区を著しく不安定にした。敗残兵によるテロが新解放区の脆い秩序に挑戦し続けた。

 

 第一統合軍集団は新解放区の秩序を確立する必要に迫られた。ブラウンシュヴァイク派の首星レーンドルフに駐留する地上部隊は、三〇〇万から四〇〇万と推定される。その中にはオフレッサー元帥直属の精鋭部隊も含まれる。しかも、惑星全土が厳重に要塞化されていた。後背が不安定なままで勝てる相手ではない。

 

 俺はアーデンシュタット星系第二惑星シュテンダールに駐留した。レーンドルフ攻略の際は有力拠点になるであろう惑星だ。

 

 到着の翌日に、LDSOから「アーデンシュタット星系事務所及びシュテンダール惑星事務所の代表に任命する」との辞令をもらった。LDSOは労働契約上の理由から、戦闘地域に職員を派遣できない。そんな地域では駐留軍が仕事を肩代わりする。

 

 新解放区の司令官は政治と軍事を一手に握る存在となった。民主主義に反するとの声もあるが、最高評議会が新解放区を対象とする非常事態宣言を発令している。司令官は政治面ではLDSOと国務委員会の統制を受ける。そういうわけでまったくの違法ではない。

 

 シュテンダールを統治するにあたり、俺は住民生活の安定と治安回復を優先した。住民が安心して過ごせる環境を作ろう。同盟が頼りになると分かれば、協力者も出てくる。

 

 しかし、俺の目論見は数日で潰え去った。LDSO本部に計画書を送ったところ、住民生活や治安に関わる事業はほとんど「不要不急」と判断され、民主化と移民促進に予算を使うよう求められたのだ。本部の言う民主化とは自由経済を導入し、行政機構を解体し、支配層に打撃を与え、法律を同盟式に作り変えることだった。

 

 担当者のティエン氏は「市民の理解」という言葉を繰り返し使った。この場合の「市民」とは、現地住民ではなく本国市民だろう。民主化政策と移民促進は本国では受けが良い。

 

「笑うしかないな」

 

 俺の顔に浮かんだ笑いは、嘲笑でもなければ憫笑でもなかった。困った時と同じ笑いだった。どう反応すればいいのか分からなかったのだ。

 

 LDSOには三種類の職員がいる。一つ目は民主主義の理想を実現しようとする職員、二つ目は本国の評価ばかり気にする職員、三つ目は理想を実現するために本国を利用する職員だ。この中では三つ目が一番始末に負えない。

 

 本国の評価が必要なのはわかる。民主主義国家では市民の理解が得られないことに予算は使えない。俺自身、市民のおかげで仕事がやりやすくなった経験は多い。仕事をやりやすくしたいのならば、市民の心をつかむのは必要な手続きとすら思う。だが、現地住民も本国市民と同じ同盟市民ではないのか? 特定の層に偏りすぎた政策は禍いのもとになる。本国で中央と地方の対立が生じたように。

 

「愚痴を言っても仕方ない。エリヤ・フィリップスの本領は前進だ」

 

 俺は愚痴を言い終えると、本国と現地の要望を整合させる建前をこしらえようとしたが、うまくいかなかった。本国市民が望むのは現地社会を根本から作り変えることだ。短期的には大混乱を引き起こす。現地住民が望むのは生活の安定だ。現地社会を温存するのが望ましい。両者を建前だけでも両立させるのは難しい。

 

 トリューニヒト議長ならうまい方法を思いつくかもしれない。監視されていなければ意見を聞いたのに。本当に残念だ。

 

 民政での支持獲得を断念し、人道支援に活路を見出すことに決めた。食糧支援、医療支援、インフラの応急修理などを行うことで安定化を図る。

 

 シュテンダール到着から二週間が過ぎた頃、俺は自分の判断が間違いだったのではないかと思い始めた。きっかけとなったのは、人道支援を担当する副参謀長イレーシュ大佐が持ってきた報告書だ。

 

「支援対象者は二三〇万人なのに、使った食糧は二八〇万人分ですか。どうなってるんです?」

 

 俺は階級が二つ下の部下に敬語で問うた。彼女とは古くからの師弟関係なので、周囲に誰も居ない時は俺が敬語を使う。

 

「架空名義を使って配給を二重取りする住民がたくさんいるのよ。中流層や富裕層なのに所得を偽って配給を受け取る人までいてさ」

 

 イレーシュ副参謀長は心の底から苦々しげだ。

 

「所得を偽るのはわかります。税務関連のデータがすべて消されてましたから。確認のしようもありません。しかし、架空名義は使えないでしょう? 配給カードの顔写真には顔写真がついています。住民登録が消されてましたが、本人確認はできるはずです」

「変装して余分に配給カードを取得する人がいるの。他人の写真を使う人もいてね。最近発覚したケースだと、一二人が同じ人の写真を使って配給カードを取ってた」

「こちらのスタッフが面接した相手にのみ交付するわけにはいきませんか?」

「病気で寝たきりだと言われたら、どうしようもないよ。家に踏み込んで確認するわけにもいかないし」

「困りましたね」

「裏に組織がいるんじゃないの? レグデンの件みたいに」

 

 レグデンの件とは三日前に惑星レグデンで発覚した大規模不正事件を指す。帝国の工作員が地下組織を作り、住民に配給を二重取りする方法を指導していた。

 

「あれはアースガルズ予備軍の仕業でした。ブラウンシュヴァイク派が同じ手を使うでしょうか?」

「ブラウンシュヴァイク公爵様が本場かもよ。せこい真似をさせたら銀河一だから」

「確かにそうです」

 

 俺は納得した。言われてみると、姑息なやり方はブラウンシュヴァイク公爵こそふさわしい。そもそも、配給カードの不正がまかり通るのは、敵が行政関連のデータを消してしまったせいだ。支援食糧を詐取するための布石だったのかもしれない。

 

「騙し取られた食糧の何割かはあちらに流れてるかもよ? 回廊のこちら側は食糧不足だから」

「食糧はフェザーンからもらえませんからね。フェザーン経由で同盟の輸出食糧を買うにも限度がありますし」

「とりあえず背後関係を調べておくよ。五〇万人分の配給詐欺なんて、個人的な不正の積み重ねではありえない数字だしさ」

「お願いします」

「喜んでお願いされるよ」

 

 イレーシュ副参謀長の冷たい美貌に柔らかな笑みが浮かぶ。一〇年前に知り合ってから、この人はまったく変わっていない。

 

「教育支援はどうなってますか?」

「唯一の明るい材料はカプランくんかな」

「うまくいってないってことですか」

 

 俺は苦笑いした。人事参謀エリオット・カプラン大尉は飛び抜けて貢献度が低かった。能力もなければ意欲もない。ラグナロック作戦で唯一昇進しなかった幕僚だ。それが初めて役に立った。

 

 人道支援の中には教育支援も含まれる。カプラン大尉は中学時代にベースボール部のキャプテンだったので、厄介払いのつもりでスポーツ指導の担当者にした。この人事がまぐれ当たりした。お調子者のカプラン大尉はすぐに村民と仲良くなり、朝から晩まで住民とベースボールに興じているそうだ。

 

「使い道がわかっただけでも収穫よ」

「幕僚の仕事じゃないですけどね」

 

 皮肉っぽく言ったつもりなのに俺の顔は笑っていた。この程度の話題でも癒しになるくらい、シュテンダール統治は行き詰まっていた。

 

 一週間から二週間に一度、ダーシャが俺のもとにやってくる。遊びに来るわけではない。上官のために生の情報を集めると同時に、上官の意図を伝えに来る。れっきとした公務である。

 

「例の件だけど、ホーランド司令官は公表しないで欲しいと言ってるの」

「しかし、公表しないと示しが付かないぞ」

 

 俺の部隊で悪質な私的制裁事件が起きた。さらに悪い事に加害者の上官が隠蔽を図った。私的制裁だけでも許しがたいのに、俺に正しい情報を上げなかった。このようなことをされては、勝てる戦いも勝てなくなってしまう。そこで事件を公表しようと考えた。

 

 ところが、ホーランド中将は内部処理で済ませるよう言ってきた。彼は冬バラ会の一員として悲観論を抑える側にいる。政治的な理由ではない。戦場に立てないと英雄願望を満たせないからだ。

 

 ダーシャは個人的には公表を望んでいるようだが、俺の前ではホーランド中将の考えを過不足なく説明しようと頑張った。上官に対しては思うところを率直に述べ、外部に対しては上官の意見を正確に伝える。それが正しい参謀のあり方だ。

 

 仕事が終わった後は俺は司令官から夫に、ダーシャは参謀から妻に戻り、二人きりの時間を過ごす。言葉をかわす時間すら惜しい。一分一秒たりとも無駄にしたくない。何も言わずにひたすら愛しあう。

 

 いつの間にか眠りに落ち、いつの間にか目を覚ます。左隣で寝ていたダーシャもいつの間にか目を覚ましていた。

 

「おはよう、ダーシャ」

「おはよう、エリヤ」

 

 ダーシャの真っ白な体と真っ黒な髪は汗でびっしょり濡れていた。俺はタオルを持ってきてダーシャの体と髪を隅々まで拭いてやる。そして、ダーシャは俺の体と髪を隅々まで拭いてくれた。

 

「エリヤ、水飲みたい」

「ああ、わかった」

 

 俺は口に含んだ水をダーシャに飲ませてやった。

 

「ダーシャ、水をくれ」

「うん」

 

 ダーシャは口に含んだ水を俺に飲ませてくれた。

 

 体を拭き水を飲んで一息ついたところで一緒にシャワーに入る。それから一緒に朝食を作り、一緒に食べる。俺がダーシャの口に食べ物を運び、ダーシャが俺の口に食べ物を運ぶ。

 

 第三者が見ると馬鹿っぽく見えるだろう。だが、これは厳粛かつ神聖な儀式だ。結婚してすぐに戦いに出たので、なかなか夫婦らしいことができない。だから、二人にいる時は二人でないとできないことをすると決めていた。

 

 つけっぱなしのテレビは、今日が帝都陥落からちょうど一周年であることを教えてくれる。俺は左隣のダーシャに話しかけた。

 

「なあ、ダーシャ」

「なに?」

「一年前は俺も君もオーディンにいた。今はシュテンダールにいる。来年の今頃はどこにいるんだろうな?」

「わからないね。わからないけど、どこにいても私とエリヤは一緒だと思う」

「確かにな。来年も再来年もその次の年もずっと一緒だ」

 

 軍人には大きな正義と小さな正義がある。心に火をつけるには「国家のため」という大きな正義が必要で、火を燃やし続けるには「自分や仲間のため」という小さな正義が必要だ。俺にとっての小さな正義は、自分がダーシャのもとへ生きて帰ること、部下が家族や恋人のもとへ生きて帰れるようにすることだった。

 

 夫婦の時間が終わり、軍人の時間が始まる。俺はダーシャを見送ってから前方展開部隊司令部へと出勤した。

 

「とにかく勝たないとな。勝ってる間は帝国人は俺たちを支持する」

 

 俺はファルストロング伯爵の言葉を頭の中で反芻する。同盟軍が弱さを見せた瞬間、一三〇億の解放区住民が牙をむくであろう。生き残るために俺たちは勝ち続けなければならない。

 

 急に端末のアラームが鳴った。幕僚たちの端末も一斉に鳴り出す。緊急速報の音だ。慌てて画面を見ると、「武装集団がコンコルディア(旧オーディン)惑星政庁庁舎を攻撃」とのテロップが流れていた。

 

「星系政庁が襲われた!?」

 

 誰もが仰天した。コンコルディア惑星政庁は八億人が住む旧帝国首星の行政中枢だ。同盟本国で言えばハイネセン惑星政庁にあたる場所が襲撃を受けた。容易ならざる事態である。

 

 再び端末のアラームが鳴った。今度はヴィーレフェルト星系政庁庁舎が攻撃されたという。しかし、今度は誰も仰天しなかった。仰天する前に次の緊急速報が入ったからである。シュウェリーン星系で、星系政庁庁舎や星系警察本部などが襲撃を受けた。

 

 この日、アースガルズ、ミズガルズ、ニヴルヘイム、ヨトゥンヘイムにおいて、アースガルズ予備軍のゲリラ部隊が一斉蜂起した。星系首都・惑星首都など七五六都市、同盟軍の重要拠点四八二か所が攻撃を受けた。

 

 ゲリラ攻撃開始から一〇時間後、二度目の衝撃波が全銀河を駆け抜けた。アースガルズ予備軍の蜂起よりはるかに小規模だが、与えた衝撃の大きさにおいては勝るとも劣らないものだった。

 

 第三次ビブリス星域会戦において、同盟軍のヘプバーン高速集団が帝国軍のミッターマイヤー機動集団に敗北した。ラグナロック作戦が始まって以来、同盟艦隊が初めて会戦で負けた。しかも、モートン前衛集団と並んで第三統合軍集団最強と目される部隊だ。

 

 同盟軍無敵神話が地上と宇宙の両方で崩れた。それは解放区統治の崩壊を意味していた。




本話終了時点勢力図

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