幼馴染みは赤龍帝   作:幼馴染み最強伝説

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イッセーの覚悟

 

 

「赤龍帝の籠手を使いなさい、イッセー」

 

智代と会話をした日の午後、部長から神器使用の許可を得た。

 

とはいえ、先日部長達に隠れて神器を使用したので久しぶりという程でもない。

 

「相手は祐斗でいいわね」

 

「はい」

 

部長に促され、木場が一歩前に出て、俺と対峙する。

 

「イッセー、模擬戦を開始する前に神器を発動させなさい。そうね………発動から一分後、戦闘開始よ」

 

「はい」

 

部長に言われるまま、赤龍帝の籠手を出現させる。

 

『Boost!!』

 

発動させると同時に神器から音声が流れ、体に力が流れ込んでくる。これで俺の力は二倍だが、まだだ。

 

『Boost!!』

 

十秒が経過し、更に倍になった。神器から伝わるパワーが俺の全身を駆け巡る。

 

こうやって倍になっていくのは良いんだが、『赤龍帝の籠手』には使用する際の注意があった。

 

能力の増大に上限が無いと思われがちだが、実はそうではない。一度、限界まで増大させた時にぶっ倒れてしまった。

 

理由は簡単。俺の体のキャパシティを増大する力が超えたからだ。

 

後で智代に聞いたら「イッセーがトラックとした場合、積載量を遥かに超える荷物を載せても走れるはずがないだろう?つまりそういうことだ」と言われた。

 

荷物とは倍になっていく力。荷がどんどん倍になれば、トラックである俺にはそれ相応の負荷がかかり、何れは動けなくなるのは当たり前だ。

 

つまり、力の増大のさせ過ぎは俺にとっても良くないって事だ。だから倒れた。

 

そういう事もあり、俺は八割くらいで増大を止めるように心掛ける事にした。全開だと一時的には尋常じゃないくらい動けるが、すぐにガス欠状態になるし、かといって九割だと全開の劣化状態なのに持続時間も微妙。八割くらいだと多少劣るが、割と動ける。一通り確認した結果、それくらいが妥当だとわかった。

 

「一分経ったわね。それじゃあ始めてちょうだい」

 

部長の声と共に木場がその場から消えた。

 

いや、消えてはない。実際速すぎて微かにしか見えないだけだ。

 

流石は速さが特徴の『騎士』だと言わざるを得ないが、生憎見えないのは慣れてる(・・・・・・・・・・)‼︎

 

「ッ⁉︎」

 

頭に向けて振り下ろされた木刀を白刃取りで受け止める。今は単純な筋力なら俺の方が上だ。

 

木刀を掴んだまま、木場に向けて蹴りを放つが、すんでのところで木場は木刀から手を離し、後方に退いた。

 

「部長。僕も神器の使用の許可をお願いします」

 

「そうね。これではあまりわからないわ」

 

「ありがとうございます。魔剣創造(ソード・バース)‼︎」

 

木場がそう叫ぶとその手に黒い剣が創り出される。

 

「相変わらずお前の神器はかっこいいな。俺のやつもそんな感じなら良かったのに」

 

「イッセーくんの場合は目覚めて間もないからね。その内かっこよくなるよ」

 

「だと良いけどな!」

 

今度はこっちから仕掛ける。守ってばかりじゃ勝てないからな。

 

フェイントなどを織り交ぜながら、拳を放つが木場にはヒラリヒラリと躱される。おまけに全部紙一重だ。ぐぬぬ、余裕の表情で躱されるというのはなかなかストレスが溜まる。いくら経験に差があるとはいえ、一泡吹かせてやりた……あ痛っ⁉︎

 

木場の魔剣で頭殴られた。これ刃が付いてたら一刀両断されてるんですけど。いや、付いてなくても頭蓋骨は陥没するからな。今は強化されてるから大丈夫だけど、普通だと頭蓋骨陥没待った無しだから。「安心しろ、峰打ちだ」の言葉の何処に安心出来る要素があるのか。斬れないだけで鉄の塊だぞ⁉︎そんなものでどつかれたら無事で済むかと言いたい。

 

「イッセー!魔力を撃ちなさい!魔力を出す時は自分が一番イメージしやすい形で出すのよ!」

 

魔力を撃つ?あの状態から撃てるのか、あれ?でも部長もああ言ってるし、やるしかないよな!

 

人指し指に意識を集中させて……出来た。

 

「霊丸‼︎」

 

何と無く気分でそう叫びながら、指先に集まっていた魔力を木場へと向けて放つ。

 

スーパーボールサイズの魔力は指から離れた瞬間に極大のサイズになり、木場へと飛んで行ったが、木場はそれを余裕で躱した。まあ避けれるよな。ていうか、遥か彼方の山が消し飛んだんですけど。当たったら木場といえど消し飛んでるんじゃね?

 

「其処までよ、二人とも」

 

『Reset』

 

とここで部長のストップが入った。それと同時に籠手から音声が発せられ、増幅されていた力が俺の体から抜けていく。

 

「想像以上ね。今の一撃、見ているこちらが冷や汗をかいたわ。どうだったかしら?祐斗」

 

「驚きました。最初の一撃で決めようかと思っていたんですが、あっさり受け止められてしまいましたし、先程の一撃も当たればおそらく身体の一部が無くなってたと思います」

 

「ありがとう、祐斗。イッセー、合宿初日貴方は言っていたわね。自分が一番弱いと」

 

「はい」

 

「確かにそれは正しいわ。けれどそれは赤龍帝の籠手を発動していない貴方の話。使えば貴方の強さの次元は変わるわ。先程の一撃は上級悪魔クラス。あれが当たればライザーの眷属といえどリタイアは必死でしょうね」

 

マジか⁉︎確かにあんなの食らえば無事じゃ済まないけど、其処まで凄いとは思わなかった。

 

「元々基礎はかなり出来ていた貴方は回避や防御という自己防衛の術は身に付いていた。其処に更なる基礎の強化は莫大に増加していく神器の力を蓄える事の出来る器となったわ。現時点でも受け皿としては相当なものよ。以前言ったでしょう?貴方は基礎能力が高ければ高いほど強くなる。一を二に、二を四にするよりも始めから二から四に、四から八にするのに越したことはないでしょう?貴方と智代はゲームの要。謂わばジョーカーのようなものよ。貴方達の活躍が勝敗を大きく左右するの。私達だけや貴方達だけで戦うのなら、無謀とも言えるかもしれないけれど、勝負はチーム戦。フォローし合う事が出来れば勝機は十分にあるわ。例え、相手がフェニックスだろうと関係ない。リアス・グレモリーとその眷属の強さを彼らに思い知らせてやるのよ!」

 

『はい!』

 

全員が力強く返事をした。

 

そうだ。俺や智代だけじゃない。俺達には部長や仲間達がいる。

 

残り二日間、強くなってやる。あんな焼き鳥野郎に負けないくらい強く、強く!

 

決意を新たに、結束を深め合った山籠り修行合宿は順調に進み、その後無事に終わりを告げる。

 

そして、俺達は決戦当日を迎えた。

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決戦当日。

 

俺は自室で静かに気合いを入れていた。

 

現時刻は夜の十時。二時間後には焼き鳥………ライザー・フェニックスと試合をする。

 

今日に限っては当然ながら悪魔の仕事はないようで、イッセーと共に帰路に着いた後、そのまま互いに家に籠っている。

 

三十分前に部室に集まる予定だから後一時間と少ししか、ここにはいられない。

 

本当ならイッセーと共にいる方が落ち着くし、何より作戦を練る事が出来るのだが、イッセーにも思う所があるらしく、別々という事になった。

 

イッセーにしては珍しく、授業中も何かを考え込んでいる様子だった。思い詰めている、というよりは何かを決断しようと試行錯誤しているといった感じだ。

 

何か秘策でもあるのだろうか?まあ、その辺りは聞いてみればわかるだろうが、少なくとも『洋服破壊(ドレスブレイク)』ような目も当てられない必殺技を覚えたとかは勘弁してほしい。

 

俺も俺なりに必殺技というか、それに近いものを考えついてはいるが、はっきり言ってライザーに通じるかは甚だ疑問だ。相性の悪さが何処まで響くか、それによって俺の活躍が決まる。

 

…………やはりイッセーと事前に打ち合わせをしておいたほうが良さそうだな。

 

思い立ったが吉日。俺は家を出て、イッセーの家に入る。

 

鍵はかかってないのかって?当然かかっているが、俺はイッセーの両親から合鍵を貰っているため、何時でも入れる。なんの意図があって渡してきたのは知らない。

 

「イッセー、いるか?」

 

「と、智代⁉︎ちょい待った!」

 

部屋の扉をノックして確認をすると、中から慌てた様子のイッセーの声が聞こえてきた。何を慌てているのだろうか?………少し気になるな。

 

「入る……ぞ……」

 

俺はイッセーを見て、言葉を失った。

 

いや、正確に言えばイッセーの左手のものだ。昨日までは宝玉の付いただけの籠手だったものが二の腕の辺りまで覆われていて、宝玉がもう一つついている。そしてその宝玉には赤い龍の紋様が浮かび上がっていた。

 

覚醒したのか?そう思って一瞬喜びの声をあげそうになったところで、違和感を感じた。

 

確かに籠手の形は変化し、原作とほぼ同じものになった。だが、サイズが一回りか二回り程大きいのだ。何故?と考えるよりも早くに俺の脳裏にはとある情景が浮かんだ。

 

原作でイッセーがライザーと戦ったシーンを。

 

原作では一度レーティングゲームに負けてしまい、それに納得のいかなかったイッセーが魔王の力を借りて、婚約会場に乱入、激闘の末、ライザーを倒す事に成功した。倒す際には聖水や十字架を使用したのだが、その他にもっと強大な力を使用した。赤龍帝の籠手の本来の力であり、この世の均衡を破壊しかねない禁じ手ーーー『禁手(バランス・ブレイカー)』を。

 

所有者の力を十秒毎などという時間制限などなく、一時的に限界値まで引き上げる。普通に考えればライザーは瞬殺出来るレベルだ。しかし、原作では苦戦に苦戦した。その理由はイッセーが正式な禁手使用したのではなく、制限付きのものを使用した事だ。そしてそれには決して小さくはない代価が必要だ。

 

「イッセー………お前……左腕をドラゴンに差し出したのか(・・・・・・・)?」

 

「やっぱりばれたか」

 

俺の疑問にイッセーは苦笑しながら答えた。

 

原作でもイッセーは籠手に宿るドラゴンに左腕を差し出し、十秒の制限付きで莫大な力を得た。トドメを刺す前にそれは失ったものの、その力は圧倒的でイッセーが制御していればすぐにでもライザーは地面に倒れ伏していただろう。

 

待てよ………イッセーは今、ドラゴンに左手を差し出して、一時的に禁手を使用出来る状態になっている。だがその為には籠手に宿るドラゴンが目覚めていない限り、交渉そのものが成立しないはずだ。

 

だとすると………目覚めているのか?赤龍帝が?

 

『今代の相棒が護りたいというのは其処にいる娘か?』

 

「………やはり目覚めていたのか、赤龍帝ドライグ」

 

籠手の宝玉が点滅し、機械の音声が聞こえてきた。

 

『俺の事を知っているか。それに懐かしい波動も感じるな、何者だ?』

 

「イッセーの幼馴染みだ。強いて言うなら神滅具持ちでもある」

 

『神滅具?ククッ、成る程、そういう事か。因果なものだな』

 

俺の返事を聞いたドライグは自嘲したような笑い声を上げる。何か思い当たる節でもあるのか?まあ、前にも宿主がいた訳だし、敵対した相手の中に俺と同じ神滅具を保持する人間でもいたのだろうな。

 

「イッセーの左腕の代償。お前は何を与えた?」

 

『実力は十分にあったが、きっかけが無かったのでな。強制的な覚醒と一時的な禁手。相手が不死鳥フェニックスともなると現時点での兵藤一誠の実力では話にならんからな』

 

「時間制限は?何秒だ?」

 

『二十秒が限界だな。それ以上は肉体がもたん』

 

二十秒か。原作の二倍も時間がある。

 

ただ、それはあくまで目安に過ぎないし、イッセーの体力次第では半分以下になる。そうなると極力イッセーは闘わせる事が出来ないな。あえて開始早々にライザーに仕掛けに行くという手もあるが。

 

『娘。本当にお前は何者だ?兵藤一誠はお前の事を普通の人間だと言った。だが、先程の会話。神器に目覚めて間もないものが俺の目覚めや擬似的な禁手の事を知っている筈がない。悪魔達ですら神器に精通していなければ知らない筈だ』

 

しまった。イッセーが既に左腕を代償にしていた事に衝撃を受けすぎて、素でドライグに質問しまくってしまった。そういえば、リアス部長やライザー、魔王ですら初見でイッセーの左腕がドラゴンになっている事を見抜けてはいなかった。ドライグからしてみれば、自身が目覚めているのを見抜いた事もそうだが、一瞬でそれに気づいた俺ははっきり言って異質に見えるだろう。

 

「待てよ、ドライグ。お前、智代を疑ってるのか?」

 

『ああ。お前の敵ではないだろうが、普通ではない』

 

滅茶苦茶疑われている。ゴリ押しで誤魔化すか………でもミスったら正直に話す以外無くなるな。まあ、イッセーやドライグだけなら話しても問題は無いかもしれないが、極力話すのは避けたい。

 

「私が堕天使を屠った夜。私は怒りに任せて神器を覚醒させた。その時にな、ある程度神器についての情報がわかったんだ。自らを代償とした一時的な禁手。何を犠牲にするかまでは把握しきれなかったが、私にもイッセーと同じ方法が取れるんだ」

 

『…………確かに神滅具の大半は自らを犠牲とし、禁手や或いは覇に目覚める事はあるが……』

 

「私自身、最終手段として、それを視野に入れていたのだが………まさかイッセーがしてしまうとは」

 

出まかせのハッタリも良いところだが、今はこれで押していくしかない。ひょっとしたら、出まかせが本当であるのかもしれないが、現時点ではそんな方法は知らない。赤龍帝の籠手は神器に封印されているドライグと取り引きをする事で可能になるが、おそらく俺の神器にはそんなものはないだろう。イッセーのような生物を封印したものではないからな。

 

「納得してくれたか?」

 

『出来ないな。だが、俺を使うのは兵藤一誠だ。そしてこの力は娘、お前を護る為に得られた力だ。俺がどう思おうとも、兵藤一誠には関係ないだろうさ』

 

「まあな。お前が何と言っても、俺は智代を信じるさ」

 

ま、眩しい………全幅の信頼を寄せてくれるのはとてもありがたいが、笑顔が眩し過ぎる。騙そうとしてごめんなさい。いっそ、イッセーには全部話しちゃっても良いような気がしてきた。

 

「ところで智代は何の用事があったんだ?」

 

「む、忘れていた。実はゲームの事について話をしておきたくてな」

 

イッセーの事があまりに衝撃的で当初の目的をすっかり忘れていた。頭の中が真っ白になる程衝撃的だった。

 

「話?作戦会議的な?」

 

「ああ。出来ればアーシアにも参加してもらいたいところだが………」

 

「アーシアは「出来ましたよ!イッセーさん!って、智代さん、来てらしたんですか?」」

 

ちょうどアーシアがイッセーの部屋に来た。その手にはおそらく十字架が入っているであろう小さな箱と小さな小瓶。中身は聖水だろうな。とするとアーシアは聖水を作っていたのか?悪魔なのになかなかチャレンジャーだ。

 

「よく聖水を作れたな、アーシア」

 

「普通なら無理なんですが、幸いゴム手袋がありましたから、聖水も直接肌にさえ触れなければ大丈夫なんですよ?十字架は箱なんかに入れないと持てませんけど……」

 

確かに聖水は容器に入っているし、十字架に関して言えば原作ライザーは「籠手越しでも手にする事自体が自殺行為」と言っていた。

 

「ところでイッセーさんは何故神器を出しているんですか?まだレーティングゲームまで一時間程ありますけど……」

 

やはりというべきか、アーシアはイッセーの左腕を見て、首をかしげる。ゲームまではまだ一時間近くあるというのに出しているとなると訝しむのも当然と言える。それは部室に行っても同じだろう、ゲーム開始二十分も前に神器を出していれば部長達も同じ事を言うに違いない。

 

「………悪い、アーシア。この左腕はもう俺のものじゃないんだ」

 

「え?」

 

意を決したようにイッセーはアーシアに告げ、箱の中に入っていた十字架をその手に取った。

 

「だから、ほら。十字架だって持てちまう」

 

「どうして………」

 

「このゲーム。絶対に勝たなくちゃいけないんだ。負けたら、部長も智代もライザーの物になっちまう。そんなのは嫌なんだ」

 

「イッセーさん………」

 

イッセーの言葉にアーシアは俯く。兄のように慕っているイッセーが左腕を犠牲にした事にアーシアとしては色々と思うことがあるはずだ。俺とてイッセーに言いたい事は山程ある。だが、それとは別にゲームに勝機を見出している。俺というイレギュラーにイッセーの擬似禁手。五分五分であろう勝敗は確実に此方に傾倒した。

 

「……わかりました。イッセーさん、私も覚悟を決めます。必ず勝ちましょう!」

 

顔を上げたアーシアの瞳には決意の意志が宿っていた。………この子は強いな。俺なんかとは比べ物にならない。

 

そうだ。絶対に勝ってみせる。勝たなくてはいけない。

 

部長もそうだが、何よりも俺達の為に左腕を犠牲にしたイッセーの為にも。

 

ライザー・フェニックスを……………倒す。

 

 

 

 

 


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