次の日の放課後。
俺たちグレモリー眷属と智代は部室に集まっていた。
ソファーには部長と朱乃さん。その向かいのソファーに例の二人が座っていた。
四人のやり取りを俺たちは部室の片隅で見守っているのだが、はっきり言って気が気でない。
その要素はいくつかあって、まずは彼女達が入ってきた時の悪寒。悪魔の本能が彼女達の危険性を告げている。部長と朱乃さんも真剣な面持ちで対応している。
もう一つは木場だ。教会の関係者ということもあり、彼女達を怨恨の眼差しで睨んでいる。何がなくても、今すぐに斬りかかりそうな勢いだった。木場の過去を考えると当然といえば当然だが、出来れば今はそのままでいて欲しい。
そして最後に智代だ。何でかわからないけど、この部屋に来た時から既に臨戦態勢だった。おそらく、何かあった時の為に即時対応出来るようにとしているのだろうが、おかげで隣にいる俺はこの季節なのに少し肌寒さを感じていた。智代さんや、俺との約束守ってね。
この異様な空気の中、最初に話を切り出したのはイリナだった。
「先日、カトリック教会本部ヴァチカン及び、プロテスタント側、正教会側に保管、管理されていた聖剣エクスカリバーが奪われました」
「………現存するエクスカリバーは本家ではあるが、お前の知る本来のものじゃない」
エクスカリバーが盗まれた?しかもカトリックとプロテスタントと正教会?なんで三ヶ所から?
と首を傾げているとちょんちょんと智代が服の裾を引っ張ってきて、そう言った。
「……どういう事だ?」
「大昔の戦争で折れたと訊く。何かしらの方法で再利用しているのではないか?」
流石の幼馴染みも詳しい事はわからないらしい。というか、本当に物知りだよな。俺と同じ時期にこっちの世界を知ったはずなのに圧倒的なまでの知識の差だ。
「少しいいかしら?」
「何か?」
「申し訳ないのだけれど、悪魔に成り立ての下僕がいるから、エクスカリバーの説明込みで話を進めてもいいかしら?」
俺達のやり取りを聞いたのか、部長がそう提案するとイリナはこちらをちらりと見て、満面の笑みで頷いた。うーん、昔は男の子かと思っていた時期もあったけど、笑うと普通に可愛いよな。あの頃の俺、何で間違えてたんだろう。
「イッセーくん。エクスカリバーはね、昔の戦争で折れちゃったの」
「そして、今はこのような姿さ」
髪に緑色のメッシュを入れていた女性が傍に置いていた、布に巻かれた長い物体を解き放つ。現れたのは一本の長剣。
「これがエクスカリバーだ」
ぞわ。
見た瞬間に全身の毛穴が開いたかのような錯覚と、体を冷たいものが走る。
恐怖。戦慄。畏怖。
たった一本の長剣に俺はーーー俺の本能は心底恐れを抱いていた。
これが悪魔を殺す必殺の武器。それを未熟な俺でも感じ取る事が出来た。
「大昔の戦争で四散したエクスカリバー。折れた刃の破片を拾い集め、錬金術によって新たな姿となったのさ。その時、七本作られた、これがその一つさ」
じゃあ、このエクスカリバーは本物じゃなくて、後々作られた新生って事か。
「私の持っているエクスカリバーは、『
一度自分の得物を紹介したメッシュの女性は、再び布でエクスカリバーを覆った。
よく見れば、その布には呪術の文字らしきものが記されていた。普段は封印されているって事か?布から解き放たれるまであんまりそういう感じはしなかったから、多分そうだとは思うんだが。
イリナの方もなにやら長い紐のようなものを懐から取り出す。その紐が意志を持ったかのようにうねうねと動き出し、紐は形を変えて、一本の日本刀と化した。
「私の方は『
「イリナ………悪魔にわざわざエクスカリバーの能力を話す必要もないだろう?」
「あら、ゼノヴィア。信頼関係の第一歩は情報の提示よ?例え相手が悪魔でも信頼関係を築かなければ交渉なんて出来ないもの。それに能力を知られたからといって、後れを取る事なんてないでしょ?」
自信満々にイリナは言う。そういえば、昔から妙に自身家なところはあった。だがタチが悪いコトに事実無根ではなく、それを証明出来るものがある。イリナは言葉通り、能力を知られても負けるはずがないと思っているということだろう。
しかし、この場に七分割されたうちの二つの聖剣があるってとんでもないな。
その時、俺は近くから感じるプレッシャーにも気づいてしまった。
ーー木場だ。
未だ嘗て見たことのない鬼の形相でエクスカリバーと、彼女たちを睨んでいた。
そうだ。木場はエクスカリバーに恨みを持つ。この場でエクスカリバーが出てくるなんて夢にも思わなかっただろう。そしてそのエクスカリバーと使い手が目の前にいる。それは心中察して余りある程の憎悪に違いない。
だが、今は殴り倒してでも抑えておきたい。
部長は真摯な態度で交渉をしてくれているし、イリナもさっきの発言はさておき、友好的に話してくれている。ここで木場が飛び出せば全部パーだ。下手すりゃ戦闘で最悪大量の犠牲者が出る。何よりイリナとやり合うなんてゴメンだ。
「……それで、奪われたエクスカリバーがどうしてこんな極東の国にある地方都市に関係あるのかしら?」
「カトリック教会の本部に残っているのは私のを含めて二本だった。プロテスタントのも共に二本。正教会きも二本。残る一本は神、悪魔、堕天使の三つ巴戦争の折に行方不明。そのうち、各陣営にあるエクスカリバーが一本ずつ奪われた。奪った連中は日本に逃れ、この地に持ち込んだという話なのさ」
「はぁ……私の縄張りは出来事が豊富ね。それで、エクスカリバーは奪ったのは?」
「奪ったのは『
「コカビエル?コカビエルですって?」
コカビエルの名を聞いて、部長が眉を顰めた。確かコカビエルっていえば昔の戦争を生き残った聖書にも記されているという堕天使だ。エクスカリバーに聖書にも記されている堕天使。話しがだいぶ飛躍してきたけど、どうしたんだ?
「コカビエルといえば、大戦後、誰よりも早くに和平を唱えていた数少ない良識派の筆頭のはず………それが戦争の発端になりかねないような行動をどうして……?」
「さあな。私達に堕天使の考える事はわかるはずもあるまい」
部長の疑問にメッシュの女性ーーーーゼノヴィアは興味もなさそうにそういうだけだった。理由はなんだろうと関係ないってことか。
「先日からこの町に神父ーーーーエクソシストを秘密裏に潜り込ませていたんだが、悉く始末されている。そこで私達の依頼ーーいや、注文とは私達と堕天使のエクスカリバー争奪の戦いにこの町に巣食う悪魔が一切介入してこないこと。ーーーーつまり、そちらに今回の事件に関わるなと言いに来た」
ゼノヴィアの物言いに部長の眉がつり上がる。
「随分な言い方ね。それは牽制かしら?もしかして、私達がその者達と手を組み、エクスカリバーをどうにかしようと考えていると思っているわけ?」
「本部は可能性がないわけではないと思っているのでね」
部長の瞳に冷たい色が宿った。
わざわざ自分の領土に足を運んできた敵が、自分達のやることに手を出すな、口を出すなといってきて、さらに他の組織と手を組むなと釘を刺してきた。それだけ好き勝手に言っていれば怒らないほうがおかしい。
「上は悪魔と堕天使を信用していない。聖剣を神側から取り払うことができれば、悪魔も万々歳だろう?堕天使どもと同様に利益がある。それゆえ、手を組んでもおかしくない。だから、先に牽制球を放つ。ーーーー堕天使コカビエルと手を組めば、我々はあなた達を完全に消滅させる。例え、そちらが魔王の妹でもだよ。ーーーーと私の上司より」
「………私が魔王の妹だと知っているということは貴方達も相当上に通じている者たちのようね。ならば。言わせてもらうわ。私は堕天使などと手を組まない。絶対によ。グレモリーの名に誓って、魔王の顔に泥を塗るような事はしないわ」
それを聞いたゼノヴィアはふっと笑った。
「それが聞けただけでも、今回の会談には意味があった。一応コカビエルがエクスカリバーを三本持って潜んでいることをそちらに伝えておかねば何か起こった時に、私が、教会本部が様々なものに恨まれる。まあ、協力は仰がない。そちらも神側と一時的にでも手を組んだら、三すくみの様子に影響を与えるだろう。特に魔王の妹ならば尚更だよ」
ゼノヴィアの言葉を聞き、表情を少し緩和させる部長は息を吐き、問いかける。
「正教会からの派遣は?」
「奴らは今回の話を保留した。仮に私とイリナが奪還に失敗した場合を想定して、最後に残った一本を死守するつもりなのだろうさ」
「では、二人で?二人だけで堕天使の幹部からエクスカリバーを奪還するの?無謀ね、死ぬつもり?」
呆れた声の部長に、イリナとゼノヴィアは答える
「そうよ………って言えたら良いんだけど。まだ死にたくはないかな。やりたい事も残ってるから」
「私もイリナと同意見だな。死にたくはないが、死ぬ覚悟はできている」
「相変わらず常軌を逸した信仰心ね。私にはあまり理解できないわ」
肩を竦めてそういう部長に二人は特に何も言わなかったが、目で合図をおくりあうとすっと立ち上がった。
「それでは、そろそろお暇させてもらおうかな、イリナ、帰るぞ」
「そう、お茶は飲んでいかないの?お菓子くらいは振舞わせてもらうわ」
「悪いが、時間が押していてね。また今度、ということにさせてもらおうかな」
「あら、ゼノヴィア。また来るつもりなの?」
「そんな気は毛頭ないさ」
茶化すようにいうイリナにゼノヴィアはそう答えた。さっきのは社交辞令って事だろう。部長もそれをわかっていたから特に何も言わなかった。
その場を後にしようとした二人だったが、ふと視線がアーシアの所で止まった。
「ーーーー兵藤一誠の家で出会った時、もしやと思ったが、『魔女』アーシア・アルジェントか?まさか、この地で会おうとは」
『魔女』。
そう呼ばれ、ビクッとアーシアは体を震わせた。その言葉はアーシアにはタブーだ。
「あなたが一時期噂になっていた元『聖女』さん?悪魔や堕天使も癒せるから追放されてしまったと聞いていたけど、こんな所で悪魔になっているなんて思わなかったわ」
「……あ、あの……私は……」
二人に言い寄られ、アーシアは複雑極まりない表情をしていた。
「悪魔か。『聖女』と呼ばれていた者が堕ちるところまで堕ちたものだ。まだ我らの神を信じているのか?」
「ゼノヴィア。彼女は悪魔になったのよ?主を信仰するはずがないでしょう?」
「いや、その子から信仰の匂いーーーー香りがする。抽象的な言い方かもしれないが、私はそういうのに敏感でね。背信行為をする輩でも罪の意識を感じながら、信仰心を忘れない者がいる。それと同じものがその子から伝わってくるんだよ」
「そうなの?アーシアさんは悪魔になっても主を信じてる?」
「…………はい。ずっと、信じてきたものですから……」
それを聞き、ゼノヴィアはなんと布に包まれていたものをアーシアに突き出す。
「そうか。それならば私達に斬られるといい。今なら神の名の下に断罪しよう。罪深くとも、我らの神ならば救いの手を差し伸べて下さるはずだ」
ーーーーっ。
俺の腹の中で例えようのないものが込み上げてきた。
アーシアに近づくゼノヴィアの前に俺は立ち塞がると智代も俺と同じように立ち塞がり、またゼノヴィアの前にはイリナが立ちはだかった。
「イリナ?」
「ストップ。ゼノヴィア。この場で彼女を断罪するのは良い手ではないわ。彼女自身が心の底からそう望んでいない限り、彼女を断罪すれば私達は『魔王の妹の眷属を一方的に難癖をつけて手にかけた』という事になりかねないから、そうなると此方に完全に非があるわ。それに例え彼女が悪魔でも主を信仰するかどうかは自由と思わない?ね、イッセーくん」
「え……あ、ああ。それはアーシアの自由だと思う」
驚いた。てっきりイリナもゼノヴィアと同意見だと思っていたら、俺たちと同様にゼノヴィアを止めに入るなんて。
「ごめんなさい、身内が粗相を働いてしまって。それに私の発言も少し無神経だったわ」
そう言ってイリナはぺこりとアーシアに頭を下げた。昔から竹を割ったような性格だったけど、そういうところは変わっていないらしい。こういうはっきりとした性格だからこそ、イリナとは親しくなれたんだと思う。皆が皆イリナみたいになれば、なんて思わないがもう少し頭が柔らかくなってほしいものだ。
「行きましょう、ゼノヴィア」
「ああ」
一歩間違えれば一触即発の空気だった会談はイリナの機転によってなんとか無事終わる事が出来た。
side out
「待ちなさい!祐斗!」
会談が終わった直後、やはりというべきか、祐斗はリアス部長に『はぐれ』になると言い出した。
突然の発言にグレモリー眷属が驚愕しているうちにその場を立ち去ろうとした祐斗をリアス部長が激昂した様子で呼び止めた。
「私の元を離れるだなんてこと許さないわ!貴方はグレモリー眷属の『騎士』なのよ。私の大切な下僕よ。『はぐれ』になってもらっては困るわ。留まりなさい!」
「……僕は、同志たちの………彼等のお陰で彼処から逃げ果せた。あの時、あの光景を僕は今でも忘れていない。命を賭して僕を救ってくれた彼等の事を忘れるわけにはいかない。だからこそ、彼等の恨みを魔剣に込めないと………聖剣を打ち倒さないといけないんだ……」
それだけ言うと祐斗はその場から消える。
「祐斗……どうして……」
リアス部長の悲しそうな表情はとても見ていられなかった。
今回の一件。イッセーに釘を刺されているから自分からは動けないと思っていたが、動く理由が色々と出来てしまったな。
「イッセー」
「……ああ。俺達でなんとかしよう」
肘で軽くつついて耳打ちするとイッセーはそう答えた。うむ、名前を呼んだだけでも意思が伝わるというのは非常に便利だ。
「リアス部長。今日のところは私も失礼させてもらう」
「部長。俺も用事を思い出したんで、帰っても大丈夫ですか?」
「良いわよ。今日はもう表も裏も部活動はお休みにするつもりだったから」
俺達の言葉にリアス部長は先程の悲しげな表情を引っ込めて、無理に笑顔を作る。無理をしているというのがわかるのがこれ程までに辛そうに見えるのか…………俺の時も家族はこんな気持ちだったのだろうか。
旧校舎を出た後、俺はイッセーの携帯電話を借りて、ある人物に連絡をした。
『もしもし』
「もしもし、私だ。話がある、少し時間をくれ。場所はあの場所だ」
『………わかった』
電話口の相手は一瞬躊躇うような素振りを見せるも、了承の返事を出してきた。さて、後はあいつ次第ではあるが、多分協力は仰げるだろう。俺達の足はとある公園へと向けられていた。
「単刀直入に聞くけど、俺を呼び出した理由は?」
公園について程無くして現れたのは匙だった。現時点で協力を仰げそうなのはこいつくらいしかいないからな。それに原作でも手伝ってくれてたし、こっちの匙も情に熱いヤツだから問題ない。
「エクスカリバーの話。お前も知っているだろう?」
「まあな。確か手出し無用だっけか?何でも堕天使の幹部が絡んでるんだってな。そんな危ない奴らにゃ、それ相応の理由でもない限り、関わるつもりなんて微塵もねえが…………」
こちらに問いかけるように匙は真剣な面持ちで此方を見る。それ相応の理由でもない限り……か。つまり、それに見合うだけの理由を持って来れば、匙は関わるという事だ。
「率直に言えば、今回の一件。私とイッセーは首をつっこむつもりだ」
「だろうな。それで俺に助力を求めてきたと…………はぁ、全くお前らとくりゃ、揃いも揃って面倒事に首をつっこみたがる。根っからのお人好しもここまでくりゃ馬鹿ってもんだ…………一応理由、聞こうか。まさかたぁ思うが、エクスカリバー使いの奴らが心配だから、なんて理由なら俺は手伝わねえからな」
「実はな………」
理由を話した。聖剣計画の事。祐斗が『聖剣計画』の被害者であり、聖剣を破壊する為にはぐれになりかかっていること。エクスカリバー使いの片割れが私達の幼馴染でそちらも心配であること。そしてこのままいけば確実に両方とも死ぬ確率が高いということを。祐斗に関して言えば例え聖剣を打倒してもはぐれになった以上、討伐対象とされる可能性もある。それではダメだ。
俺の話を聞いた匙は考え込み、何度か頷いた後にわかったとだけ言った。
「今すぐにとは言わない。だが出来るだけ早く返事が欲しい」
「返事自体は決まってる………が、二日間。時間が欲しい、二日後にまた集まろう。場所と時間はこっちで指定する」
「わかった」
くるりと踵を返すと匙は公園から去っていく。やはりというか、匙は男らしい。男が惚れる(ホモとかBLとかそういうのじゃない)男って感じがする。実際、舎弟の連中には「兄貴!」って呼ばれてたしな。兄貴肌なのは間違いない。
と、思っていたら公園の入り口で電話に出た後、ぺこぺこと頭を下げてダッシュで走り去った。あの様子だと電話相手はソーナ会長か?キャラが変わっても、結局ソーナ会長には尻に敷かれるのだけは変わらなかった。
キャラ改変があるとこんな感じに闘わなかったり、思い切りが良かったりします。
イリナちゃんは原作よりも狂信的ではありませんので、アーシアを非難しませんでしたので、そのためにイッセー&木場vsイリナ&ゼノヴィア戦は起きませんでした。
匙くんも呼び出された理由を聞かれてもその理由さえ納得出来れば協力する男前仕様に。こういうのもアリですよね!