幼馴染みは赤龍帝   作:幼馴染み最強伝説

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結成、エクスカリバー破壊団

 

二日後。俺と智代は匙に指定されたとある喫茶店に足を運んでいた。

 

人気の多い喫茶店…………というわけではなく、店内にはちらほらとお客さんが見えている程度で、雰囲気も良い。デートなんかで選ぶならこういう場所なんだろう。実際店内にいる人達は老若男女問わず、男女の二人組ばかりで一人で来ている人すら見当たらない。

 

傍目から見れば俺と智代もそういう関係に見えるのだろうか。俺としては結構嬉しいけど、智代にとっては迷惑かな?

 

「よぉ、悪いな。待たせちまって」

 

俺達二人が到着して五分程して、匙が現れた。

 

「会長を振り切るのに少し手間取っちまった」

 

「いいのか?後で手痛いお仕置きとかあるんじゃ……」

 

「言ったろ?俺は返事は決まってんだよ。それに会長のお仕置きだって、何も死ぬこたぁねえだろ」

 

そう言って匙は席に着く。

 

何時もながら思うが、本当に匙は男前だ。一度決めた事は何が何でも曲げないし、ダチが困っていればどんな労力も厭わず助ける。女子ばかりの生徒会に男子が入れば、男子からは羨望と嫉妬の対象になるというのに、匙が入った時、誰も何も言わず、寧ろ納得すらしていた。女子はともかくとして、男子からの匙の人望は学園内の誰よりも高い。

 

「ここの喫茶店。いい雰囲気だろ?時々、仁村に連れられてここに来るんだよ。つっても、ここはカップル専用って雰囲気があるだろ?ちょっと肩身が狭いから来るのは極力避けたいんだが、こと今回に限っていえば、仁村以外の生徒会メンバーにも多分リアス先輩達にも勘付かれないはずだ」

 

仁村って確か同じ生徒会の子だよな?今の匙の発言から察するにその仁村って子は匙に惚れているんじゃないだろうか?じゃないとカップル専用らしい雰囲気のあるこの喫茶店に来ようなんて思わないはずだ。

 

「さて、本題について話そうか」

 

店員さんに珈琲を注文し、匙は真剣な面持ちで話を始める。

 

「実はこの二日間のうちに下の奴らに怪しい奴を見かけたら俺に知らせるよう言っておいた。こういうのは話し合いを始める前からある程度目星をつけといた方が良いだろうからよ」

 

そんな事をしてたのか。俺達二人もイリナとゼノヴィアを捜してみたり、今回の一件に関わっていると思しき人間を探し回っては見たものの、特にそれらしい人物は見当たらなかった。

 

「そしたらよ。何人かが白髪の神父がデカい建物のある公園を出入りしてたって言ってた。お前ら、心当たりはあるか?」

 

白髪の神父?うーん、どっかで見たような………

 

「……フリードか」

 

智代の呟いた名前で思い出した。そうだ、あのイカれた神父だ。智代がレイナーレ達を殺したからてっきりいなくなったとばかり思っていたけど、まさかまだこの町に潜伏していたのか?

 

「どうも二人共心当たりはあるみたいだな。まぁ、敵はその辺りに潜伏してると考えていいと思うが、もう一つ聖剣使いの女の子達の方はこれといってないのが現状だ。怪しい姿をした奴をそこら中で見かけたって言う奴が多いが、どうにも絞りこめねえ」

 

あっちもエクスカリバーを奪っていったコカビエルを捜してるんだもんな。何処かを拠点にして動いてはいるはずなんだけど、その辺りの情報の秘匿は徹底しているのかもしれない。うーん、イリナも変わったもんだ。昔は俺と同じように動いてから考える人間だったのに。お連れのゼノヴィアの方が考えているのかもしれないけど、どちらにしても容易に足取りは掴めそうにないのかも…………あ。

 

ふと窓の外に視線をやった時、そこを見知った顔………というよりも絶賛話題の中心にいる人物、イリナとゼノヴィアと思しき人間が通りかかった。

 

ローブに身を包んでいるから知らないと誰か特定できないけど一度その姿を見ている俺にはわかった。

 

「イッセー?」

 

「どうした、兵藤?」

 

椅子から立ち上がった俺に智代と匙が疑問の声を上げるが、俺は代金だけ机の上に置いて急いで外に出る。

 

周囲を見回すと少し先にまだいた。

 

「おーい!イリナ!」

 

大声でイリナの名前を呼ぶとローブに身を包んでいた内の一人が深く被っていたフードを取り払いながら、此方に振り返る。

 

「あら、イッセーくん。こんなところでどうしたの?」

 

「偶々、其処の喫茶店にいてな。ちょうどイリナ達の話をしてたんだ」

 

「私達の話?」

 

頭の上にはてなマークを浮かべて、キョトンと小首を傾げるイリナ。まぁ、そういう反応になるよな普通。

 

「リアス・グレモリーの眷属。確か兵藤一誠と言っていたな?何の目的かは知らないが、こうして干渉してくるのはやめてもらいたいと言ったはずだが?」

 

イリナと同じようにフードを取り払ったゼノヴィアが呆れた様子でそういう。

 

「いくら君がイリナの幼馴染みとはいえ、君は悪魔で私達は悪魔祓い。一般人からしてみればただの男女だが、裏の世界の住人からすればこの光景は私達の信仰心を疑われる。早急に立ち去ってもらいたいのだが」

 

「まあまあ。ゼノヴィア、落ち着いて。イッセーくん、私達に何か用?」

 

「話がある。俺の家に来ないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

智代と匙、イリナとゼノヴィアを連れて帰宅した俺は昼食を作って、机を囲んでいた。

 

幸いにも今日、アーシアは桐生と遊びに行っているため帰ってくるのは夕方だ。父さんや母さんもなんか用事があるらしく、帰りは少し遅くなると言っていた。

 

「悪魔と悪魔祓いが揃って昼飯か。なかなか凄え光景だな」

 

「それはこちらの台詞でもあるさ。他の信徒に知られれば即異教徒扱いだな」

 

などと話している匙とゼノヴィアだが、二人の箸は俺の作った回鍋肉に止まることなくのびていた。

 

「イッセーくんて、お料理上手なんだね」

 

「時々智代に作ってやるからな。おかげでそれなりには出来るぜ」

 

「羨ましいわね、智代さん」

 

「イッセーの手料理が食べられる事がか?それは概ね同意する。イッセーの手料理は美味しいからな」

 

「それだけじゃないんだけど…………ま、いっか」

 

そういう二人はスープを啜っていた。この人数分を一人で作るのは初めてだけど、剣呑なムードって感じにならなくてよかった。食には国境はないとはよく言ったものだ。

 

「さて、食事の途中だが聞いておこう。我々に接触した理由はなんだ?」

 

「お前達はエクスカリバーを奪還するためにこの国に来た、それであっているな?」

 

「そうだ。それは以前説明したはずだよ」

 

食事中であるため、ゼノヴィアからは全く敵意を感じない。礼儀作法の問題か、それともいざ戦いになっても俺達を圧倒できるからか、どちらにしても今は好都合だ。

 

「私達にエクスカリバー破壊の協力をさせてほしい」

 

智代の告白に二人は目を丸くして、互いに顔を見合わせていた。

 

俺がごくりと生唾を飲み込み、二人の決断を待つ中、智代は真剣な表情で二人を見つめ、匙も食事の手を止め、二人の様子を観察していた。

 

下手すりゃ、悪魔、堕天使、天使の争いになりかねない事態なんだ。考えてみればエクスカリバーって、相当すごい代物なんだよな?それを俺ら下級悪魔と一般人と結託して破壊だなんて、二人からしてみれば侮辱しているようなものなのかもしれない。

 

そんな風に内心冷や冷やもので見守る中、ゼノヴィアが口を開く。

 

「そうだな。一本くらいは任せてもいいだろう。破壊ができるのであればね。但し、そちらの正体がバレないようにしてくれ。先程も言ったが、そちらと関わりを持っていると思われると異教徒扱いされかねない事態になるのでな」

 

意外にもあっさりとゼノヴィアは許可を出した。それに続いてイリナも承諾の声を上げる。

 

「うん。イッセーくん達が手伝ってくれるなら心強いわ。それにそちらなりにも手伝いたい事情があるんでしょ?私は全然構わないわ」

 

「悪魔の俺が言うのも何だけど、それでいいのか?」

 

「元々、私達は自己犠牲にも等しい形でこの任務を言い渡された。任務の成功率は奥の手を使ったとして三割。幾ら信徒の本懐とはいえ、一歩間違えれば大幅な戦力ダウンとなり、悪魔や堕天使に付け入る隙を与えかねないというのにそれは些か確率が低過ぎる。真に主を信仰するのであれば、例え悪魔の手を借りようが主の為に尽くすべきだと私は思っただけだよ」

 

うーん、そういうものなのか。信仰とか俺にはよくわからないけど、とにかく手伝う許可を得ただけでも良しとしたい。後はあいつに連絡するだけだけど………

 

「おっと。その前に一つ確認し忘れていた」

 

そう言うとゼノヴィアは傍に置いていた聖剣を包んだ布を取り払い…………床に置きなおした。

 

う、うん?何がしたいんだ?

 

「言い忘れていた。ご馳走様でした」

 

「お、おう。お粗末でした」

 

どうやら礼儀作法はきっちりとしておきたいらしい。手を合わせてご馳走様でしたと言うと今度こそ聖剣をその手に持って切っ先を俺達に向けてきた。

 

「手伝うのは構わないが、その前に君達の実力を知っておきたい。中級クラス程度では話にならないからね」

 

「つまり実力を見せろと?」

 

「そう取ってもらって構わない」

 

「………いいだろう」

 

向けられた切っ先を智代が指先で軽く摘んだと思うとそのまま一気にゼノヴィアを肩までが凍りついた。

 

「ッ⁉︎」

 

「これで満足か?」

 

ゼノヴィアは驚きに目を丸くしたまま、首肯した。

 

今のにはこの場にいた全員が驚愕していた。そりゃそうだ。あんな一瞬でエクスカリバーごと肩まで凍りつかせるなんて凄いとしか言いようがない。

 

「驚いたな……その力。もしや神滅具か?」

 

「『永遠の氷姫』。一応神滅具だが、イッセーの方は『赤龍帝の籠手』だ。私より戦力になる」

 

凍らせた聖剣とゼノヴィアの腕を元に戻して智代はそういうと、さらに二人は驚き、匙に関していえば何処か達観した表情をしていた。俺も二人に真実であると伝える為、赤龍帝の籠手を出現させる。

 

「神滅具がこんな極東の地に二つも......っ!」

 

「サポートどころか、即戦力だわ」

 

「お前らまたえげつない神器持ってるのな。お前らに比べて、俺のなんかちゃち過ぎて言い出せない空気になっただろうが」

 

「匙も神器持ってるのか?」

 

「お前ら程ぶっ飛んだ神器じゃねえけど、一応駒四つ程度の価値くらいはあるんじゃねえの?なんか龍がどうたら言ってたしな」

 

そういって匙も神器を出現させる。

 

蜥蜴の顔のような形をしたものが匙の手の甲についていた。何か可愛いな。

 

てか、匙は駒四つ消費の『兵士』だったのか。

 

「ま、あんま役にたたねえかもしれねえが、出来る範囲で手伝うさ」

 

「神器持ちが三人。おまけにうち二人は神滅具か。これならば案外なんとかなるかもしれないな。信徒としては主を滅しかねない武具に頼るのは些か問題があるかもしれないがね」

 

「大丈夫よ、ゼノヴィア。主もイッセー君たちなら許してくれるわ」

 

「あー、いい感じにまとめてるとこ悪いけど、一人助っ人呼んでもいいか?」

 

「助っ人?はっきりいってこれでも十分だと思うが......」

 

俺の言葉にゼノヴィアが疑問の声を上げる。

 

確かにこれだけの戦力が揃えば......と思うかもしれないが、あいつが、木場がいなきゃこの作戦には何の意味もない。

 

「念には念を、ということだ。相手には聖書に記されてい堕天使の幹部がいるのだろう?ならば戦力が多いに越したことはないだろう」

 

智代のフォローに二人は確かにと頷いた。納得してくれたところで俺は木場に連絡をいれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......話はわかったよ」

 

木場は嘆息しながらそう呟いた。

 

『いま、例のエクスカリバー使いの二人と会っている。木場にも来てほしい』。

 

と、伝えると文句も言わずに俺の家へと顔を出してくれた。

 

「正直言うと、エクスカリバー使いに破壊を承諾されるのは遺憾だけどね」

 

「随分な言い様だね。元々、私達としては彼等だけで十分だし、そちらはリアス・グレモリーの元から離れて、今は『はぐれ』なのだろう?問答無用で斬り捨てても良いのだよ」

 

睨み合う木場とゼノヴィア。おいおい、共同戦線前なんだから、喧嘩は止めようぜ。

 

「理由はイッセーくんから聞いたわ。『聖剣計画』の事で恨みを持っているのね、エクスカリバーとーーー教会に」

 

イリナの問いに木場は目を細めながら「当然だよ」と冷たい声音で肯定した。

 

木場の事については木場が到着するまでの間に話しておいた。木場が『聖剣計画』の唯一の生き残りでエクスカリバーに対して激しい憎悪を抱いている事も。

 

「貴方が恨むのはもっともよ。いくらあの計画で私達のように聖剣と呼応できる人間が増えたとはいえ、あの計画は許容されていいものではないわ」

 

「それに聖剣計画の被験者を始末していた事件は私達の間でも最大級に嫌悪されたものでね。処分を決定した当時の責任者は信仰に問題があるとされて異端の烙印を押されているよ。今では堕天使側の住人さ」

 

「堕天使側の?その者の名は?」

 

興味を惹かれた木場はゼノヴィアに訊く。

 

「バルパー・ガリレイ。『皆殺しの大司教』も呼ばれた男だ」

 

「……堕天使を追えば、その者に辿り着くのかな」

 

木場の瞳には新たな決意の色が見て取れた。仇敵の存在を認識できただけでも木場にとっては大きな一歩だということか。

 

「僕も情報を提供したほうがいいようだね。先日、エクスカリバーを持ったものに襲撃されたよ。その際、一人神父を殺害していた。やられたのはそちらのものだろうね」

 

木場の言葉にほぼ全員が驚いた。まさか先に木場の方が接触しているなんて。

 

相変わらず智代は普段通りだが、あれか?智代には未来予知か何かの超能力でもあるのか?

 

「相手はフリード・セルゼン。この名に覚えは?」

 

フリードか!あの野郎が木場を襲った犯人だったのか。

 

木場の言葉にイリナとゼノヴィアが目を細めた。

 

「成る程、奴か」

 

「フリード・セルゼン。元ヴァチカン法王庁直属のエクソシスト。十三歳にしてエクソシストとなった天才。悪魔や魔獣を次々と滅していく功績は大きかったわ」

 

「だが、奴はある日突然、同胞達を皆殺しにした挙句、姿を消した。堕天使側に流れ着いていると噂には聞いていたが、まさかこの地に潜伏していたとは」

 

そんなに凄いやつだったのか。あの時、智代が助けに来てくれなかったら、俺も奴の功績の一部になっちゃってたわけね。怖い怖い。

 

「まあいい。相手が何であろうとすることは変わらないからね。取り敢えず、エクスカリバー破壊の共同戦線と行こう」

 

ゼノヴィアはペンを取り出し、メモ用紙に走らせ、連絡先をこちらに寄越してきた。

 

「何かあったらそこへ連絡をくれ」

 

「サンキュー。じゃあ、俺たちの方もーーー」

 

「イッセーくんの携帯番号は叔母さまから頂いているわ」

 

何時の間に………あれか?前に来た時に母さんが教えたのか?多分、昔馴染みが現れたもんだから「電話でもしてみれば?」的な感じで教えたに違いない。

 

「では、そういうことで。また機会があれば、是非とも君の料理を食べたいものだ。その時はよろしく頼むよ、赤龍帝」

 

「食事ありがとうね、イッセーくん!このお礼は必ずするから」

 

「おう。今回の共同戦線が上手くいった時にでもまたご馳走するよ。礼はいらねえや」

 

こっちも好きでやってることだしな。それに美味しいと言ってくれるのは素直に嬉しい。

 

二人を玄関先まで見送り、姿が見えなくなった後、俺は堪らずに息を大きく吐いた。

 

「ふぅぅぅ」

 

なんとか上手くいった。無茶な作戦だとは思っていたが、意外に上手くいった。

 

それもこれも俺や智代が二人にとって予想外の神滅具保有者である事と食の万能さから来るものに違いない。もし、大した力も持たずにあんな提案をしていたら取りつく島もなかったはずだ。

 

「……イッセーくん。智代さん。どうして、こんな事を?」

 

「どうしても何も。お前は仲間で眷属だろ?なら助け合うのが当然だと思ってさ。そりゃ、お前が下手に動けば部長に迷惑がかかるってのもあるけど、それは今回の俺の行動もそうだし、お前が完全に『はぐれ』になるよりかはマシだ」

 

「祐斗。私やイッセーにはお前のエクスカリバーに対する憎悪の感情は理解出来ない。過去の事で、当事者でないからそれは仕方のないことだが、今は別だ。仲間であり、友人であるお前の力に私はなってやりたいんだ」

 

「ははは。まいったね。二人でその言い方は反則だよ。そんな事を言われたら、僕だって無碍には出来ないよ。わかった。今回は皆の好意に甘えさせてもらおうかな。イッセーくんのお蔭で真の敵もわかったしね。でも、やるからには絶対にエクスカリバーを倒す」

 

「その意気だ。頑張って、奪われたエクスカリバーとフリードの野郎をぶっ飛ばそうぜ」

 

やる気になった木場を見て、俺も気合が入った。良し、この調子でやってやる。俺と智代も木場、そして匙がいれば絶対に大丈夫な筈だ。待ってろよ、エクスカリバー!

 

「その前に兵藤。俺は詳しい事情を知らねえんだけど。いや、大体の事情は大神とさっきの話で聞いてるぜ?それでも大部分でしかねえだろ?だから、辛いかもしれねえが、出来ればもう少し詳しく知りたい」

 

そういえば、細部までは俺も智代も知らない。

 

知ってる事といいえば『聖剣計画』の事と木場がその被験者である事。そしてその唯一の生き残りである事と死んでいった仲間の為にエクスカリバーを破壊することを目的としていることだけだった。

 

「……そうだね。手伝ってくれるんだから、話しておいたほうが良いよね」

 

そう言うと木場はぽつりぽつりと過去を語り始めた。

 

カトリック教会が秘密裏に計画した『聖剣計画』。聖剣に対応したものを輩出するための実験が、とある施設で執り行われていた。

 

被験者は全員剣に関する才能と神器を持った少年少女。

 

来る日も来る日も辛く非人道的な実験を繰り返すばかり。

 

散々実験を繰り返され、自由を奪われ、人間として扱われず、生を無視され続けた。

 

彼等にも夢があった。生きていたかった。神に愛されていると信じ込まされ、只管『その日』が来るのを待ち焦がれた。

 

特別な存在ーーー聖剣を使える者になれると信じて。

 

三百六十五日。毎日毎日何度も何度も聖歌を口ずさみながら、過酷な実験に耐えたその結果が『処分』だった。

 

木場達は聖剣に対応出来なかった。

 

「……皆、死んだ。殺された。神に、神に仕える者に。誰も救ってはくれなかった。『聖剣に対応出来なかった』、たったそれだけの理由で、僕達は生きながら毒ガスを浴びせられた。彼等は『アーメン』と言いながら毒ガスを僕等に撒いた。血反吐を吐きながら、床でもがき苦しみながら、それでも僕達は神に救いを求めた」

 

命を賭した仲間の行動で研究施設から何とか逃げだせた木場だが、毒ガスは既にその身体を蝕んでいた。

 

そして死の間際、木場はイタリア視察に来ていた部長と出会い、ここに至っていた。

 

「同志達の無念を晴らしたい。いや、彼等の死を無駄にしたくない。僕は彼等の分も生きて、エクスカリバーよりも強いと証明しなくてはいけないんだ」

 

「…………わりぃな。聞いておかねえと気が済まなかったとはいえ、辛い事思い出させちまった」

 

沈痛な面持ちで匙はそういった。匙とは長い付き合いって程でもないが、一度は拳を交えた身だ。考えている事はなんとなくわかる。

 

匙は自分の両方の頬を手でパンと気を引き締めるように叩くと立ち上がる。

 

「うっし!話は聞いた!命を懸けるにゃ十分過ぎる理由だ。流石におっ死んじまうと後で会長がうるさそうだし、死ぬわけにゃいかねえが、力になるぜ、木場」

 

そう言って匙が手を差し出すと木場がそれに応じて握手を返す。

 

こうして『エクスカリバー破壊団』が結成されたのだった。

 

 

 


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