幼馴染みは赤龍帝   作:幼馴染み最強伝説

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変動し続ける戦場

数日後。

 

俺は教室の自分の席で溜め息を吐いていた。

 

連日、俺、智代、木場、匙の四人で夕方にエクスカリバーを捜索している。相手はあのイカれた神父フリードだ。あいつを追えば、おのずと堕天使の幹部やエクスカリバーにたどり着けるかもしれない。

 

そのフリードは教会の追っ手である神父を狩っていたようなので、イリナたちから借りた神父の服装をして、町中を歩き回っているものの、なかなか成果を挙げられないでいた。

 

一応、着ている神父服は魔の力を抑えるものなので、バレることはないはずなのだが、なかなか遭遇できない。

 

何処にいるんだか、あのクソ神父。さっさと会って木場にエクスカリバーを叩き折ってもらいたいんだが……部長達にもそろそろ勘付かれ始めているというようのに。

 

「最近、難しい顔をしてばかりだな、イッセー」

 

頭を悩ませているとメガネをくいっと上げながら話しかけてきた。

 

「まあな。俺にも色々と思うところがあるんだよ」

 

「お悩み相談所のお前が悩むなんて滅多にないな。智代お姉様の事か?」

 

「今回は違えよ」

 

お悩み相談所、ね。そういう認識のされ方してんのか、俺。道理でお悩み相談される事が多い訳だ。

 

「それよりイッセー。例のボウリングとカラオケをする会合どうするんだ?」

 

と松田が話しかけてきた。

 

そう、俺達三人と智代とアーシア、クラスの女子の桐生、さらに木場と小猫ちゃんも誘って休みの日に遊び倒す計画を立てていた。

 

智代とアーシアと桐生は来る。小猫ちゃんも意外にこういう事には乗り気だった。絶対に嫌とか言いそうだったんだけどね。

 

問題は木場ーーー。話は済んでたんだけど、状況が状況だしな。

 

「アーシアと桐生も来るし、小猫ちゃんも来る。それに智代だって来るよ」

 

「うおおおお!アーシアと小猫ちゃんのみならず、智代お姉様まで!これだけでもテンションあがるぜ!」

 

叫ぶ松田。よほど、女子との会話に飢えていたらしい。

 

まぁ、ちょっとやそっとじゃ智代やアーシアにすら話しかける機会なんて得られないだろうしな。それは俺を除く他の男子全てに言えたことだ。寧ろ、松田や元浜はまだ智代と話せる方だ。

 

スパン!

 

松田の頭を叩く者がいた。メガネ女子の桐生だ。

 

「悪かったわね。私も行く事になって」

 

眉を吊り上げて不機嫌そうに言う桐生。

 

「ふっ、おまえはアーシアちゃんのオプションさ。メガネ属性は元浜で間に合っているが、まあいい」

 

「何よ、松田。その態度は?其処の変態メガネと一緒にしないで。属性が穢れる」

 

「こいつめ!元浜のメガネは女子の体のサイズを数値化出来る特殊なものなんだぞ⁉︎お前とは違う!」

 

しかし、桐生は松田の言葉を聞き、不敵に笑う。

 

「ーーーまさか、その能力が元浜のものだけとでも?」

 

その言葉に俺達は戦慄する。

 

桐生の視線が俺達の股間に………来る前に桐生の視界を智代が塞いだ。

 

「其処までにしておけ、桐生。相手がイッセー達とはいえ、セクハラは感心しない」

 

「智代っちは気にならない?兵藤のアレのサイズ」

 

「あいにく興味はないな」

 

桐生の疑問に智代は溜め息を吐きながら答えると、これ以上は無理だと判断したのか。桐生は雰囲気をガラリと変える。

 

「まあいいわ。取り敢えず、木場くん以外はくるのね?」

 

「なんとしても来させる。一度は来るって言ったんだからさ」

 

そうだ。なんとかして、あいつも連れて行く。

 

その為には先ずエクスカリバーを見つけ出さないとな。

 

今までの因縁に終止符を打って、最高の形で遊んでやるさ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の放課後。

 

俺達は表の部活動を終えると、公園に集まり神父やシスターの格好をし出した。十字架はもちろん作り物。本物だと俺達はダメージ受けちゃうしね。

 

この格好で出来るだけ人気のないところを歩く。

 

今日こそは足取りをつかみたいところだ。

 

匙の舎弟?が言っていた場所は最初に見に行ってみたが、特に何もなかった、もしかしたら既に拠点を移動したのかもと思って、それらしきところを探し回ってみるも時間だけが残酷に過ぎていった。

 

今日も特に何も無い……と思っていると不意に並々ならない敵意と殺気を感じて俺は反射的に神器を出して身構えた。それは智代や匙、木場も同じで全員が神器を出現させていた。

 

「今日も収穫無し………っつーわけじゃなさそうだな」

 

ニヒルな笑みを浮かべてそう言う匙はあの頃を彷彿とさせる獰猛さを感じさせていた。よほど最近のデスクワークや何やらでフラストレーションが溜まっていたらしい。俺や匙みたいな肉体労働タイプにそれは地獄に等しいもんな。

 

「上だ!」

 

智代が叫んだ。全員が上を見上げた時、長剣を構えた白髪の少年神父が降ってきた。

 

「神父の一団にご加護あれって……あばっ⁉︎」

 

振り下ろされるよりも早く、跳躍していた智代がフリードを蹴り飛ばした。流石は智代。反応速度が半端じゃない。

 

「あたたた………ん?おんやぁ?神父様御一行かと思えば何時ぞやの悪魔君達じゃあーりませんか。これはまた珍妙な再会劇でござんすね!」

 

相変わらずのイカれた調子だぜ、この野郎は。

 

あいつの持ってるのが聖剣エクスカリバーか。確かにイリナやゼノヴィアが持っていたものと同質の危なさを感じる。

 

俺達は神父服を脱ぎ捨て、普段の格好である制服姿へ。智代も無造作にシスター服を脱ぎ捨てていた。結構似合ってただけに残念だ。

 

「ブーステッド・ギア!」

 

『Boost‼︎』

 

俺の力が膨れ上がる。

 

今回、俺はサポートに回る。あくまで目的は木場が聖剣エクスカリバーを打倒する事。俺が倒しても意味はないし、未完成の禁手を使うのは堕天使の幹部コカビエルが出てきたときの為に温存しておくというのが満場一致で決まっていた。

 

『もしそいつが出てくれば身体の半分をドラゴンにして戦闘不能に追い込める程度の力はくれてやるさ』

 

身体半分もドラゴンにしなきゃいけないのはごめんだが、それしか方法がないならそうするさ。

 

「伸びろ、ラインよ!」

 

ビューッと匙の手元に現れたトカゲの顔の形をした手甲から黒く細い触手のようなものがフリード目掛けて飛んでいく。

 

「うぜえっス!」

 

それを聖剣で薙ぎ払おうとするが、それは軌道を変えてフリードの右足に巻き付いた。

 

フリードは聖剣で斬り払おうとするが、実体がないかのようにすり抜けていた。

 

「そいつはちょっとやそっとじゃ斬れねえよ!逃げられてもウザェからな!ここで大人しくのされてもらおうか!木場、存分にやっちまえ!」

 

成る程、逃げられないように先に足を封じたのか!流石、冴えてるな!匙!

 

「ありがたい!」

 

木場が一気にフリードに詰め寄り、二刀の魔剣で攻め立てる。

 

「リベンジってやつですかぃ?無理無理!『魔剣創造』が創るものは全てオリジナル。その気になれば伝説の魔剣すらも完全に模倣出来るすんばらしい神器でざんすが、君の場合はどれもこれもおいらの聖剣の相手をするには話になりませんぜ!」

 

ガギィィン!

 

破砕音を立てて、木場の二刀の魔剣が砕け散った。

 

再び魔剣を創りだすものの、エクスカリバーの力が強力過ぎて一振りで魔剣が粉々になっている。あれじゃ、いつやられてもおかしくないぞ!

 

「木場!譲渡するぞ!」

 

「まだやれるよ!」

 

木場は俺のサポートを拒否するが、無視する。自分一人の力で倒したいのはわかるけど、今はそういう事を言ってる場合じゃない!

 

「エクスカリバーを見る目が怖いねぇ。そんなにこの剣が憎いのかい?」

 

「当たり前だ!その剣の所為で僕達は人としての生を奪われたんだ!」

 

再び仕掛けるもやはりというべきか、木場の魔剣は一振りで砕かれる。

 

マズい!このままじゃ木場がやられちまう!

 

「やらせるか!」

 

フリードの二振りが木場へ襲いかかろうとした時、二人の間に氷の壁が割り込むように出現した。

 

「ッ⁉︎そういえば君もいたんだね!出来れば相手にはしたくないのにさっ!」

 

「貴様にする気はなくとも私達にはある。ここで潔く果てろ、フリード」

 

「ッ……ホント、知ってる顔がチラつくもんだから勘弁してもらいたいねぇ!」

 

フリードは忌々しそうにそう言うが、智代の方を一瞥するだけで何もしない。

 

どういうわけかは知らないけど、こっちにとっては好都合だ。

 

「木場!」

 

「イッセーくん⁉︎」

 

後方に飛び退いた木場の肩を俺は軽く叩き、能力を発動させる。

 

『Transfer‼︎』

 

音声が発せられ、木場に高めた力が流れ込んでいく。

 

「……不本意だけど、もらった以上使うしかない。魔剣創造ッ!」

 

ザンッ!

 

周囲に刃が咲き乱れる。

 

路面から電柱から壁からありとあらゆる所から様々な形をした魔刃が出現した。

 

智代の方に気を取られていたフリードは逃げるのが遅れて、魔剣によって囲まれる。

 

「チィィィ!」

 

フリードが舌打ちしながら自身に向かって伸びる魔剣を横薙ぎに破壊していく。

 

その一瞬の隙を見つけ、木場が魔剣を持って消えた。

 

魔剣を足場にして、神速で縦横無尽に動き回る。俺の動体視力じゃ所々でしか捉えきれていない。流石はスピード命の『騎士』だ。

 

だが、フリードはそれを目で追っていた。木場の速度もさることながらそれを目で追うフリードも尋常じゃない。

 

風切り音と共に生えていた魔剣がフリード目掛けて飛んでいく。

 

木場が魔剣から魔剣へ移動するときに抜いて放ったんだ!いや、一本だけじゃない。四方八方から無数の魔剣がフリード目掛けて飛来していく。

 

「大道芸がしたいならよそでしなよっ!」

 

飛来してきた魔剣をフリードは一本一本打ち落としていった。

 

「速度だけなら『天閃の聖剣』の方が上ですことよっ!」

 

フリードの持つ聖剣の切っ先がブレだし、ついには消える。微かにすら見えない程の速さで動くそれはフリードの言う通り、圧倒的な速さで全ての魔剣を破壊し尽くし、最後は木場へ向かってフリードが斬りかかる。

 

だが、突然フリードが体勢を崩す。

 

「やらせるかよ!」

 

「ついでだ、受け取れ!」

 

匙の巻きつけていたトカゲが舌をひっぱって、フリードの体勢を崩したんだ。

 

其処に智代の蹴りが入り、フリードは吹っ飛んだ。

 

加減無しの一撃のはずなのにフリードは吹っ飛ぶもすぐに体勢を立て直した。驚く程の打たれ強さだ。

 

だが、それだけでは終わらない。

 

匙の伸ばしていたトカゲの舌が淡い光を放ち始め、匙の方へと流れていった。

 

「……これは、クッソ!俺っちの力を吸収してんのかよ!」

 

「どうだ!これが俺の神器!『黒い龍脈(アブソーブション・ライン)』だ!こいつに繋がれた以上、てめえの力は俺の神器の餌になる!そう、てめえがぶっ倒れるまでな!」

 

「……ドラゴン系の神器か。一番厄介な系統だねぇ。初期状態は大したことなくても、成長した時の爆発力が他系統の神器と違って段違いに凶悪だから怖い怖い。全く、忌々しいことこの上ないってね!」

 

フリードがエクスカリバーで取り払おうとしても、匙の神器は無傷。実体のあるものじゃダメージは与えられないのか?しかもあのトカゲはドラゴンなんだ。

 

「木場!出来ればお前の意思を尊重してやりたかったトコだが、四の五の言ってられねえ!取り敢えずそいつを倒しとけ!エクスカリバーの方はそん次で良い!今はこいつの方が危険だ!このまま放置してたんじゃ、うちのとこまで被害が来そうだ。弱らせるから、一気に叩っ切れ!」

 

匙の提案に木場は複雑な表情を浮かべていた。

 

理由はわかる。自分の力で勝てなかったのが悔しいのだろう。

 

けど、ここでフリードを仕留めておいて損はないのは木場だって理解しているはずだ。

 

決心を決めたのか、魔剣を創り出す木場。

 

「……不本意だけど、ここでキミを始末するのには同意する。奪われたエクスカリバーは他に二本ある。そちらの使い手に期待させてもらうよ」

 

「ハッ!他の使い手よりも俺様の方が強いんだぜ!それにさ、何勝つ事前提で話してんのさ!」

 

「ーーほう。『魔剣創造』か?使い手の技量次第では無類の力を発揮する神器だ」

 

その時、第三者の声が届いた。そちらへ視線を送れば、神父の格好をした初老の男性が立っていた。

 

「……バルパーのじいさんか」

 

フリードの言葉に全員が驚いた。バルパー⁉︎バルパーってゼノヴィアが言っていた『聖剣計画』で木場達を処分したっていう……

 

「……バルパー・ガリレイッ!」

 

「いかにも」

 

憎々しげに睨む木場にバルパーは堂々と肯定の返事を返した。

 

「フリード。何をしている」

 

「……見りゃわかるでござんしょ。このわけのわからねぇトカゲくんのベロが邪魔で逃げられねえんすよ」

 

「ふん。聖剣の使い方がまだ十分ではないのか。お前に渡した『因子』をもっと有効活用してくれたまえ。そのために私は研究していたのだからね。身体に流れる聖なる因子を出来るだけ聖剣の刀身に込めろ。そうすれば自ずと斬れ味は増す」

 

「へいへい」

 

フリードの持つ聖剣の刀身にオーラが集まり出し、輝きを放ち始める。

 

「そらよっ!」

 

フリードがオーラを纏ったエクスカリバーを振るうと巻き付いていたトカゲの舌がいとも容易く切れた。

 

「わおっ。さっすが、聖剣サマサマでござんすねぇ〜。それを扱える俺サマもスペッシャルゥ〜」

 

「ーーそれはお前には過ぎたものだよ、フリード・セルゼン」

 

その時、俺の隣を何かが通り過ぎた。

 

ガギィィンッ!

 

剣と剣のぶつかり合う音。其処にはフリードに剣を振り下ろしていたゼノヴィアの姿があった。

 

「やっほー、イッセーくん。連絡があったからすっ飛んできたよ」

 

そう言って俺の隣に立ったのはイリナだった。連絡してからあんまり立ってないはずなのに、凄く早い。

 

「フリード・セルゼン。神の御命において、貴様を断罪する」

 

「このクソビッチが!俺の前でそのクソ野郎の名前出すんじゃねぇよ!」

 

憤怒の形相でフリードが吼える。

 

そういえば以前フリードは言っていた。自分は主を信じてないと。あの時のフリードの様子は鬼気迫るものを感じた。

 

「んん?よく見れば俺っち絶体絶命?流石のスペシャルな俺様でも今の状況はちーっとマズかったり?」

 

切れていたフリードだったが、周囲を見渡すと自らの不利を悟り、敵意を引っ込める。あいつ、逃げる気か!

 

だが、それを止めたのは意外な人物だった。

 

「問題ない。ここでエクスカリバー二本を奪い、目的を完遂させる」

 

「状況がわかっていないのか?奴一人でこの状況を打破できるとでも?」

 

「わかっていないのはお前達の方だ。これだけ派手に戦闘を行って、私が何もせずに姿を晒したとでも思ったのか?」

 

バルパーが不敵な笑みを浮かべて言う。

 

その時、一陣の風が吹くと同時に息の詰まるような重圧を感じた。

 

「これはまた奇妙な光景だな。悪魔と悪魔祓いが共闘など」

 

静寂に包まれたこの空間で男の声が響く。

 

底知れない重圧。見てなくてもわかる。その声の主は俺達よりも遥かに強い存在であると。

 

こわばった体を動かして発信源である空を見上げる。

 

其処に居たのは五対十枚の漆黒の翼を持った一人の堕天使だった。


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