原作からかなりかけ離れたものになります。
ていっても、既にタイトルでわかっちゃった方もいると思いますが。
ともかく今は原作3巻を一気に描き上げる予定です。以前も言ったかもしれませんが、今作で書きたかったストーリーでもあるので。
上空を見て、息を呑まずにはいられなかった。
五対十枚の翼を広げてこちらを見下ろしているのはウェーブのかかった黒い髪にローブを着た堕天使。
あの容姿にあの声、そしてこのプレッシャー。間違いない奴がコカビエルだ……ッ!
突然の事態に俺は混乱していた。
何故ここにコカビエルが?
少なくとも原作においては現時点で現れることはなかった。その時にコカビエルが何をしていたのかは知らないが、ともかく姿はなかった。
俺が干渉したせいかはわからないが、かなり状況はマズい方向に転がった。
圧倒的優勢が一人の堕天使の出現によって圧倒的劣勢に持ち込まれた。
全身の毛穴が開いた感覚する程の冷たい敵意。呼吸をする事さえも困難に感じる程のそれに俺は完全に飲まれていた。
よく考えれば当たり前の事だ。二次創作なんかじゃ噛ませ扱いを受けているこいつは大戦を生き抜いた歴とした猛者であり、強者なのだ。俺たちがどうこう出来るような相手じゃない事はわかっていたはずだ。
勝てない。このままでは全員死ぬ。
そんな言葉が頭の中を反復する。
だが、どうする?
俺が命懸けで退路を作っても瞬殺されては意味がない。だが、このままみすみす殺されるわけにはいかないんだ。俺はいい。唯、他のメンバーはダメなんだ。ここで死んでしまってはそれが齟齬となって死なずに済んだ人間まで死ぬ。
……やるしかない。
勝てる勝てないの問題じゃない。ここで足がすくんで足手まといになるなら、それこそただの役立たずだ。
「ほう……実力差を理解してなお、拳を構えるか。女、名前はなんと言う?」
全力で逃げろと脳に訴えかけてくる生存本能に抗い、拳を構えるとコカビエルはそれを見て不敵に笑った。
「大神……智代、だ」
「大神智代。誇るがいい、圧倒的実力差を理解した上でそうして敵意を向ける事が出来るのはお前が一人前の戦士である証だ。だがな、それは同時に無謀でもある。勇猛と無謀は表裏一体なのだ」
ふとコカビエルの表情が一瞬憂いを帯びたものに変わったが、次の瞬間にはそれがまるで嘘のように敵意を滲ませたものに変わる。
「どういうつもりか、などとは聞かん。経緯はどうであれ、お前達の目的は聖剣の奪還或いは破壊だろう?ふん、俺も舐められたものだ。たかだか二人の聖剣使いと雑魚の悪魔祓いをけしかけてくるなど。今は悪魔と……おまけに神滅具か。見たところ、どちらも至ってはいないようだな」
俺とイッセーを一瞥するとコカビエルはそう呟いた。
「まぁ、どちらにしても俺のやる事は変わらん。グレモリーの根城である駒王学園を拠点にしてこの町で暴れさせてもらうぞ。そうすればサーゼクスも出てくるだろう」
「お前、サーゼクス様……魔王様を呼び出してどうするつもりだっ!」
イッセーの問いにコカビエルは狂気の笑みを浮かべて答える。
「もう一度、戦争がしたいんだよ。三つ巴の戦争が終わってから退屈で退屈で仕方なかった!アザゼルもシェムハザも次の戦争には消極的でな。それどころか神器なんてつまらんものを集めだして訳のわからない研究に没頭し始めた。つまらん!実につまらない!試しに聖剣を奪ってみたが、それでもミカエルは動かなかった。ならば次はグレモリーを陵辱して殺せば、サーゼクスの激情くらいは買えるだろう?」
狂っている。戦争狂め……と言いたいが、何故だ?言葉の端々に違和感を感じる。まるで始めから用意されたセリフをそのまま読んでいるようなそんな違和感だ。
「ひゃははは!最高でしょ?俺のボスって。イカレ具合が最高に素敵でさ。俺もついつい張り切っちゃうのよぉ。こんな風に!」
フリードの姿が消えた。マズい!奴の狙いはコカビエルの方に気を取られたイリナだ!
「イリナ!後ろだ!」
「ッ⁉︎」
俺が声をかけると同時に背後に回っていたフリードがエクスカリバーを振り下ろすが、何とか反応が間に合ったようでイリナはエクスカリバーをエクスカリバーで受け止める。だが、防ぐのに精一杯であったらしく、続けざまに脇腹に向けて放たれた蹴りを回避する事は出来ず、蹴り飛ばされ、その手からエクスカリバーを落とした。
イリナ自身に大したダメージは見受けられないが、これでは非戦闘員扱いのようなものだ。
「四本目のエクスカリバーゲッチュでござんすぅ〜。さて、これで俺様の無敵具合に拍車がかかってきたところで続きをしますかねぇ!……と言いたいとこでざんすが、バルパーのじいさん。これ合体させんでしょう?どうするわけ?」
「早いうちに統合してしまおう。コカビエルがいればこの者達は始末したも同然だ」
余裕たっぷりの表情でそういうバルパー。
生憎だが、あいつの言う通りだ。コカビエルがいたんじゃ、手を出そうにも横合いからやられかねない。
フリードはバルパーの元へと戻るとエクスカリバーを全てバルパーへと渡す。
バルパーは四本のエクスカリバーを受け取るとそれを中心に何やら陣を描き始め、それを護るようにコカビエルが立ちはだかる。
「本来なら統合したエクスカリバーでグレモリー達を始末する事が余興だったのだが、まあいい。少し遊んでやろう」
挑発的な笑みを浮かべ、コカビエルは手招きをする。
明らかにこちらを舐めきっている。当然だ、あちらから見れば俺達なんて赤子も同然なのだから。
だが、それは同時にチャンスでもある。あの儀式を中断させる唯一のチャンス。
一か八かの大技を使えば数秒足止めするくらいは出来るはずだ。その隙にイッセーやゼノヴィアに陣ごとエクスカリバーを破壊してもらうしかない。
「イッセー、ゼノヴィア」
「わかってるぜ、智代」
「この状況であればわかるさ。君の作る一瞬の隙を有効活用させてもらおう」
祐斗には悪いが、今は復讐がどうこういっている余裕はない。なんとしてでも聖剣の統合を阻止しなければ、確かあれはこの町を破壊する術式と同時に展開されているはずだ。ならばあちらを止めれば町を破壊する術式も防ぐ事が出来るはず!
「大神」
「悪いな、匙。ここまで大事になってしまって」
「今更謝んじゃねえよ。お前らに協力するってなった時からこうなるこたぁ、わかってたんだ。俺も協力させろよ」
「だが、お前の神器では……」
『黒い龍脈』ではコカビエルの足止めなんて到底不可能だ。それどころか、行動制限を余儀なくされる匙は殺してくださいと言っているようなものだ。
「ああ。その事で一つ言い忘れてたんだがよ。俺の神器の能力は一つじゃねえんだよ」
「何?」
「実はもう一個だけ使えるんだ。本当なら四つ使えるはずらしいんだが、俺が未熟らしくてな。まだ二つしか使えねえ上に成功率はあんま高くねえ。ま、死ぬ気でやれば何とかなるだろ」
何故匙が『黒い龍脈』以外の能力に目覚めているのかはわからないが、これは嬉しい誤算だ。これならば或いは成功するかもしれない。
「こんな状況でいうのもあれだけど、懐かしいな。こうして三人肩を並べてるのは」
「あの時もあれはあれで絶望的だったか。あちらの方が随分とマシな気はするが」
「どっちも変わんねえよ。負けりゃ無事じゃ済まねえってトコはな」
そんなやり取りをしたせいか、少し気が楽になった。なんというか、こういう時の二人のポジティブさには助けられる。文字通り、今は死戦だというのに。
「君達は随分と過激な日常を送っていたようだね。日本というのは少々平和ボケした所が多いと聞くが、存外そうでもないらしい」
「違うわよ、ゼノヴィア。多分、イッセーくん達が特殊なだけよ」
「基本的に日本は平和そのものだよ」
ゼノヴィアの間違った解釈……いや、あながち間違いではないか。ともかく、勘違いにイリナと祐斗が訂正を入れる。確かに俺達が特殊なだけで日本は平和そのものだ。
「祐斗。済まないが、お前の目的、優先出来そうにない」
「……本当なら僕の手で破壊したかった。けど、今はそちらに固執出来る余裕がないのは理解しているよ。流石にこれだけのプレッシャーを無視出来る程理性は失ってないからね」
さしもの祐斗もコカビエルの存在を無視して復讐を優先する事は出来ないらしい。六人がかりならば成功率は四割くらいはあるかもしれない。
「ここまで来れば私も隠す必要はないな」
ゼノヴィアはイリナにエクスカリバーを渡し、右手を虚空に伸ばした。
「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシオス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ。この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する。デュランダル!」
その言葉と共に虚空の中から一本の神々しいオーラを放つ剣が出てきた。これが……デュランダルか。
「な⁉︎デュランダルだと!貴様、エクスカリバー使いではないのか⁉︎」
「あれは兼用していたに過ぎない。私は元々、デュランダルの使い手だ。それも数少ない天然もののね」
コカビエルの問いにゼノヴィアは不敵な笑みを浮かべて答える。バルパーやフリードもゼノヴィアがデュランダルの使い手であるということに驚愕の表情を浮かべていた。
「さて、後は君の号令を待つだけだよ。大神智代」
「ああ……行くぞ!」
俺の掛け声共に共に俺と匙を除く四人が一斉に駆け出した。そしてそれと同時に俺は地面に手を当て、全魔法力を使って巨大な氷の壁をコカビエルの前後左右に出現させる。
「千年氷牢!」
「ぬうっ!なかなかの力だ。だが、俺を止めるには足りんぞ!」
コカビエルが力込めると氷の壁がミシミシと音を立てて罅がはいっていく。やはり想定よりも壊されるのが早い。だが、それは俺だけの場合だ。
「ダメ押しだ。
匙の声と共に黒い炎が氷の上から更にコカビエルを覆う。炎と氷、相性は悪いし、併用するには問題があるかもしれないが、既にほとんど壊されかかってたんだ。どういう事はないだろう。
「これは……ヴリトラの炎か!」
立ち昇る黒い炎を見てコカビエルがそういった。
「そういや、会長もそんな事言ってたっけな!俺としちゃ、こんなまどろっこしいのは嫌いだが、今は感謝すんぜ!ヴリトラさんとやら!」
俺の力任せの氷壁はともかく、ヴリトラの黒炎はそうそう断ち切れるものじゃない。これならっ!
コカビエルが行動不能にされ、今は武器を持たないフリードと戦力外のバルパーだけだ。其処にイッセー、祐斗、イリナ、ゼノヴィアが殺到する。
それを見たフリードは小さく舌打ちをした後、地面に手を当てて叫んだ。
「『
その叫び声と共に無数の剣がフリードとバルパーを中心に乱れ咲く。それは祐斗が魔剣創造の力を解放した時と同じものだ。違うとすればその全てに聖なる力が宿っていること。
バカな……聖剣創造だと……っ⁉︎
何故フリードがあの神器を持っている?あれは原作ではジャンヌと同志達の因子によって後天的に目覚めた祐斗しか持ち得ない神器の筈だ。フリードも因子は入れられているはずだが、奴に祐斗の同志達が力を貸すはずがない。
「あーあ……やっちまったなぁ〜。本当なら隠し通すつもりだったのに」
フリードは額に手を当てて、そう呟く。その言葉は俺達だけではなく、隣で同じように驚いているバルパーにも言っているようだった。
「フ、フリード。これはどういう事だ!」
「どうも何もこういう事だ。これが俺の神器、『聖剣創造』さ。あの日、あの地獄から生き延びた俺が
地面に生えた聖剣の一本を引き抜くとフリードはそのままバルパーが描いていた陣を斬り裂いた。
光を放っていた陣は一部が破壊された事で効力を失ったのか、光を失い、中心で浮いていたエクスカリバーも地面に落ちた。
「な、何のつもりだ、フリード!これではエクスカリバーが統合出来んではないか!」
「別にしてもしなくても関係ないね。俺は始めから
「さっきから何を……」
「ここまで言ってもわからないか?いや、お前達にとって、俺達はヒトではなかったな。ただの実験動物か或いはそれ以下だった。わからないなら教えてやる。俺はなーーー聖剣計画の生き残りだ」
フリードの告白に誰もが言葉を失った。