幼馴染みは赤龍帝   作:幼馴染み最強伝説

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連続投稿。久々にかなり頑張りました。

今回初の木場視点導入。聖剣の下りではあったほうが話の展開にも便利なので。

感想欄に今後の事を書いてる方がいて焦りました。そこまで分かりやすかったですかね?

まあ、分かりやすい方がそれはそれでいいのかもしれませんが。


過去との決別。そして……

「俺は聖剣計画の生き残りだ」

 

その言葉に僕ーー木場祐斗は言葉を失った。

 

何故ならあの計画の生き残りは僕だけだとそう思っていたから。

 

少なくとも、あの時、僕以外の人間で逃げられた人はいなかったはずだ。もしもあの計画が続けられていたのだとしたら、僕とはまた別の時期の被害者ということになるけど、そういう事ではなさそうだった。

 

「あの計画の生き残りだと……?バカな、あの時被験者は全員処分したはず……」

 

「全員処分か……やはりお前にとって俺達はただの道具だったんだな。かえって安心した、もしお前が周囲に強要されてそうしたのなら俺はこの怨みの捌け口を失うところだった」

 

フリードは手にしていた聖剣をバルパーの首筋に突きつける。そのオーラ神々しさを放つ剣とは対照的に禍々しい憎悪に駆られたオーラを放っていた。あの眼、そしてあの表情。僕と同じだ。

 

「この時をどれだけ待ちわびたか。片時も俺はお前のその顔を忘れたことはなかった」

 

「フリード。君は一体何者なんだ?」

 

僕の口からそんな疑問が漏れた。

 

誰もが言葉を失い、静観せざるを得ない中、僕はそれを問わずにはいられなかった。

 

フリードは此方を向くと今までに見たことのない敵意も狂気も感じさせない優しい微笑を浮かべて、此方へ歩いてきて、僕の頭に手をポンと乗せた。

 

「イザイヤ……今は木場祐斗だったか。こんなにも立派に成長したんだな。あの頃は俺の方が背は高かったのに。これじゃもう『兄』とは言えないな」

 

その言葉に僕はまるで身体中に電気が走ったかのような衝撃を受けた。

 

思い出した。

 

あの施設にいた頃、僕達の中で最年長で何時も僕達を本当の家族のようにまとめてくれていた存在。絶望しかないあの薄暗い地下で希望を見いだし、あの中でも笑っていられるようにしてくれていた兄のような人の事を。

 

「ヨハン兄さん……なのか?」

 

震える声でそう問いかける僕にフリードは……いや、兄さんは頷いた。

 

「大きくなったな、イザイヤ」

 

そう言って頭を撫でられると僕は目尻が熱くなるのを感じた。

 

何故なら生き残りは僕しかいないとそう思っていたから、特にこの人だけは絶対に生きているはずがないと思っていた。あの日、僕をあの場所から命を懸けて逃がしてくれたのは同志達であり、この人なのだから。

 

「あの日、俺はお前を逃がすために命を捨てる気だった。きっと俺達の分も生きてくれると、幸せを掴み取ってくれると信じて。お前さえ幸せになってくれれば俺達はそれで良かった。だが、俺だけは死ななかった。誰よりも毒ガスを浴びていた筈の俺の中からは毒が浄化されていた。そして俺は訳もわからないまま、誰もいなくなったあの地下室から外に出て、ふらふらとしていた時に教会の人間に拾われた」

 

兄さんはぽつりぽつりと語り始めた。その頃にはコカビエルも出てきてはいたけど、何もせず、静観を決め込んでいた。

 

「俺を助けたのはこの神器が覚醒し、俺の中から毒素を浄化したのが原因だと俺を拾った男は言っていた。その時悟った。これはあいつらが俺を生かすために与えた神器だと。あいつらの兄なのに、俺はあいつらと一緒に逝ってやる事が出来なかった。だから、この命を復讐の為に使おうと決めた。教会のとある機関で地獄のような特訓を重ねた。そのせいで髪は白くなったが、あいつらの苦しみに比べれば大したことはなかった。俺は、俺の家族を殺した奴等を断罪するために悪魔祓いとなった。結果的にははぐれになったが、そのお蔭で本命に会う事が出来た。バルパー・ガリレイ。お前をこの手で殺す為だけに俺は今まで生きてきたんだ」

 

殺意の籠った瞳で兄さんはバルパーを見据える。今にも飛びかかって殺しそうな程の殺意を滲ませているのに、兄さんは殺しに行こうとはせず、懐から丸い球を取り出し、僕に手渡してきた。

 

「そ、それはッ!何時の間に!」

 

「これは……?」

 

「俺達の家族だ」

 

その言葉に僕は言葉を失った。

 

僕達の家族がこの丸い球に?

 

どういう事なのかと問おうとした時、兄さんは話し出す。

 

「イザイヤ。奴はな、俺達から聖剣を扱える因子だけを抜き取ってその球に集めた。一人一人では扱うには至らないなら、一つに集めてしまえばいいと」

 

「成る程、読めたぞ。聖剣使いが祝福を受けるときに身体に入れられるのはーー」

 

「そうだ。デュランダル使い。被験者から抜き取られた聖なる因子の結晶だよ」

 

事の真相に気付いたゼノヴィアさんが、忌々しそうに歯噛みした。

 

兄さんもまた真相を話しながら、眉を顰め、射殺さんばかりにバルパーを睨んでいる。

 

「たかだが一人の老いぼれの所為で俺達は地獄を見た。家族を殺された。其処の二人を見る限り、あの腐った研究は今でも誰かの手で行われているという事だろう……忌々しい限りだ。貴様のような奴がいなければ俺達には別の人生があったんだ」

 

「ふ、ふん。実験に犠牲はつきものというではないか。ただそれだけの事だぞ?」

 

貴方という人間は……何処まで人の命を馬鹿にすれば気が済むんだ!

 

「バルパー。貴様にわかるか?一度は扱えないとして処分され、時を経て出会った時、「お前には聖剣を扱う才能がある」と言われた時の衝撃が。絶望が。何度貴様を八つ裂きにしてやろうと願ったか。今日この時まで俺は身を裂かれる程の憎悪をお前に感じていた。道化を演じてまで、ただ同志達の願いを叶えるためだけに」

 

そうか。兄さんはこの瞬間までずっと一人で闘い続けてきたんだ。己の内に秘めた憎悪を誰にも悟られず、この瞬間を迎える為だけに。はぐれ悪魔祓い、フリード・セルゼンとして生きてきたんだ。

 

「貴様だけは必ず殺す。それが俺のーーあいつらの兄として最後に出来る唯一の手向けだ」

 

その時だった。僕の持つ、丸い球が淡く光り始めた。

 

光は徐々に広がっていき、辺り一帯を包み込むまでに広がる。

 

地面の至る所からポツポツと光が浮いてきて、形を成していく。

 

それはハッキリとしたものに形成されていきーーー人の形となった。

 

僕と兄さんを囲むように現れたのは、青白く光を放つ少年少女達……僕達の家族だった者達だった。

 

「皆!僕は……僕は!」

 

「皆……そうか。ずっと……そこにいたんだな」

 

目からとめどなく涙が溢れ続ける。

 

ずっと思っていた。僕だけが生きていていいのかって。僕よりも生きたい子がいた。僕よりも夢を持った子がいた。僕だけが平和な暮らしを過ごしていいのかって。

 

同志の一人が微笑みながら何かを語りかけてくる。

 

『自分達の事はもういい。キミだけでも……兄さんだけでも生きてくれ』

 

そう言った後、全員が同じように言葉を発し始めた。

 

これは歌だ。

 

あの時、僕達が辛い人体実験の中で希望と夢を保つため、兄さんから教えられた唯一の糧。

 

過酷な生活で唯一手に入れた手段。

 

同志達と同じように僕と兄さんは歌を歌う。あの頃のように。

 

本来なら悪魔であれば聴けば苦しみ、歌う事など許されないはずのそれを僕は歌う。

 

きっとこの空間に様々な力が入り乱れているせいなのだろう。あれは神のシステムが影響していると昔聞いたことがあった。今は感謝したい。こうして皆とまた聖歌を歌える事に。

 

同志達の魂が青白く輝き始め、その光が眩しくなっていく。

 

『僕らは、一人ではダメだったーー』

 

『私達は聖剣を扱える因子が足りなかった。けどーー』

 

『皆が集まれば、きっと大丈夫ーー』

 

『聖剣を受け入れるんだーー』

 

『怖くなんてないーー』

 

『例え、神がいなくてもーー』

 

『神が見ていなくてもーー』

 

『僕達の心はいつだってーー』

 

「「ーーひとつだ」」

 

同志達の魂が天へと登り、僕達の元へと降り注いだ。

 

温かい。優しい光が僕達を包み込んだ。

 

きっとこれは同志達な想いだ。願いなんだ。

 

「ーーただ、生きたかった。皆がそれを望んでいると知っていたから、僕は皆の分も幸せに生きようとそう思った。悪魔となった時も、我が主は悪魔として生きる事を僕に望んだ。それでいいと思った……でも、エクスカリバーへの憎悪と同志達の無念だけは忘れられなかった。忘れても良かったのに。だってーー」

 

今、僕には最高の仲間がいるのだから。

 

イッセーくん、智代さん、匙くん。

 

復讐に駆られた僕を助けてくれた。

 

共に聖剣を探しているときにふと思ってしまった。僕を助けてくれる仲間がいるのなら、それだけで十分じゃないか?と。

 

けれど、もしも同志達の魂が復讐を願っているのなら、僕は憎悪の魔剣を降ろすわけにもいかなかった。本当は同志達がそう望んでいないとわかっていたのに。もしかしたらと可能性を捨てきれなかった。

 

だが、その想いも先程、解き放たれた。

 

同志達は復讐なんか願っていなかった。願ってはいなかったんだ!

 

でも、全てが終わったわけじゃない。目の前の邪悪を打ち倒さないと僕達の悲劇は繰り返される。

 

「バルパー・ガリレイ。貴方を滅ぼさない限り、第二、第三の僕達が性を無視される」

 

「だから終止符を打とう。他でもない俺達の手で」

 

僕は魔剣を、兄さんは聖剣を構える。

 

「ーー僕は剣になる」

 

同志達よ。僕達の魂と融合した同志達よ。

 

一緒に越えよう。あの時、達せなかった想いを、願いを、今こそッッ!

 

「僕は、仲間達の剣となる!今こそ僕の想いに応えてくれッ!魔剣創造ッッ!」

 

僕の神器と同志の魂が混ざり合う。同調し、形を成していく。

 

魔なる力と聖なる力が融合していった。

 

ーーそう、この感覚。僕の神器が、同志達が教えてくれる。これは昇華だと。

 

神々しい輝きと禍々しいオーラを放ちながら、僕の手元に現れたのは一本の剣。

 

完成したよ、皆。

 

「禁手、『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』。聖と魔を有する剣の力。その身で受け止めるといい」

 

僕は手の中に収まっている聖魔剣を手にバルパーの元へと向かう……前に兄さんに手で制された。

 

「兄さん?」

 

「その剣はあいつらの願いの証だ。あの薄汚れたじじいの血を吸わせるわけにはいかない。それにーー」

 

瞬間、兄さんはバルパーのところへ目掛けて走りだし、一刀の元に斬り捨てた。

 

「が、がはっ!」

 

「その役は俺が担うべきだ。エクスカリバーに魅入られた貴様に贋作の聖剣で殺される以上の屈辱はあるまい?」

 

倒れたバルパーの心臓に兄さんは聖剣を突き立てた。そして四本の聖剣を取ると僕の方に放り投げた。

 

「イザイヤ。見せてくれ。俺達の想いが、エクスカリバーに勝つ瞬間を」

 

バギィィンッ!

 

儚い金属音。僕は放り投げられたエクスカリバーを全て叩き砕いた。

 

「 ーー見ててくれたかい?僕らの力は、エクスカリバーを超えたよ」

 

そう言って僕は天を仰いだ。

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終わったみたいだ。

 

まさかフリードが聖剣計画の生き残りで、聖剣創造を所持していることには驚いた。祐斗は原作通り、禁手に至り、聖魔剣使いとなった。何故フリードがあの展開で至らなかったのかは疑問だが、それは後回しだ。

 

取り敢えずはこの町の消滅は阻止した。後は生き延びる為に闘うだけだ。

 

「……終わったようだな。フリード」

 

待っていたといわんばかりにコカビエルはそう口にする。

 

「終わりましたぜ、ボス。ありがとうございます、あんたのお蔭で復讐を果たす事が出来た」

 

そう言ってフリードが頭を下げた。どういう事だ?今の発言から察するとコカビエルはフリードがエクスカリバーとバルパーに憎悪を抱いていることを知った上で敢えて今回の作戦を遂行したということになる。となると、始めからバルパーは殺す為に連れてこられていたのか。

 

「いや、俺の目的を果たす上でエクスカリバーの強奪は必要な事だった。そのついでだ、礼はいらん。目的も果たしのなら、何処へなりと行くがいい」

 

厄介払いをするかのようにコカビエルは手でフリードに追い払う所作を見せる。

 

始めから一人でやる魂胆だったな、そういえば。確かにこの状況でフリードがコカビエルにつくことはないだろう。あくまでフリードの目的はエクスカリバーの破壊だったんだから。そしてそれは為された。もうここにいる意味もない。

 

「ボス。俺は最後まで見届けさせてもらうぜ、あんたの生き様をな」

 

「ふん、好きにしろ」

 

俺達の考えとは裏腹にフリードは少し離れた所に腰を下ろし、コカビエルは鼻を鳴らしただけだった。

 

「さて、続きをするか。余興は終わった、後は本命だけだ」

 

バサッとコカビエルは十枚の翼を広げて、手に光の槍を構える。それに合わせて俺達が再度臨戦態勢を取った時、イッセーが恐る恐る問いかけた。

 

「な、なぁ、あんた」

 

「何だ、赤龍帝」

 

コカビエルの凄みのある睨みに一瞬イッセーは身をこわばらせるが、それでもとばかりに言葉を告げた。

 

「あんた、本当に戦争がしたいのか?」

 

イッセーの問いに俺を除く全員が目を見開く。コカビエルも目を見開いたが、その疑問に鼻で笑って切り返した。

 

「ふん、何を言いだすかと思えば、さっきも言っただろう。俺はな、戦争が終わってから退屈でーー」

 

「違う。それはあんたの意思じゃない」

 

断言した。イッセーは絶対にそうではないとコカビエルの言葉を真っ向から否定した。

 

「さっきの木場やフリードのやり取りを見てる時のあんたの顔を見て思ったんだよ。あんな優しい顔をできる奴が戦争を始めようなんて馬鹿な事を考えるはずがないって。それに部長が言ってたけど、あんた戦争が終わった時に真っ先に和平を唱えたんだろ?俺さ、あんまり頭良くねえから勘違いしてるのかもしれないけど、もしかして二度と戦争を起こさないようにする為に敢えて戦争が起きかねないような事をしたんじゃないのか?」

 

「ッ⁉︎」

 

私も薄々気づいてはいた。コカビエルの言動は何処かおかしかった。まるでわざと悪役を振る舞おうとしているようなそんな違和感があった。

 

一体何のために?

 

答えは簡単だった。戦争を二度と起こさないためにだ。

 

あくまで仮説でしかないが、コカビエルは戦争を起こしかねないような事件を起こし、その事件について話し合いの場を設けた時にアザゼルから和平交渉を持ち出させるつもりだ。アザゼルは原作でも研究に没頭できる平和な環境が欲しいと言っていたしな。それが意図的であるか、そうでないかは違いがあるものの、原作通りであるといえる。だが、その意識の差が今回の事件にとって大きく関わってくる。

 

「ク、ククク……カァーハッハッハハハハハハハハハハハッ!」

 

コカビエルは手を額に当てて、哄笑を上げる。

 

静寂に包まれた空間にその笑い声が木霊する。その笑い声が終わった時、コカビエルの瞳からは完全に敵意が消えていた。

 

「まさか、お前のような子どもに見抜かれるとはな。つくづく、俺には道化を演じる才能がないらしい」

 

何処か感嘆するような、諦めたような溜息を吐く。

 

「……お前の言う通りだ、赤龍帝。俺はあの三つ巴の戦争が終わった時、誰よりも早く、強く、和平を唱えた。もっとも、相手にされなかったがな」

 

「当然だ。私達教会にとっては悪魔も堕天使も同等に滅すべき存在なのだから」

 

コカビエルの言葉にゼノヴィアが当たり前と断じた。確かに彼女の言う通り、教会にとってどちらも滅されるべき存在だろう。そしてそれは戦争終了直後なら尚更その意識が強かったはずだ。

 

「それだ。その思考こそが、世界各地に、天界に、冥界に、未だ戦火を燻らさせている原因でもある」

 

ゼノヴィアの発言を忌々しいとばかりにコカビエルは吐き捨てた。

 

「お前達は何もわかっていない。このまま冷戦状態が続けば何れ戦争が起こり、今度こそ各勢力は共倒れになる事を。種は滅び、残るのは深い悲しみと怨恨が残るだけだという事が!だから俺は!俺一人でも戦争を始める!」

 

「待ってくれ!まだ話し合いが出来るはずだ!ちゃんと話し合えば和平だって……」

 

「無理、なんだ。イッセー」

 

「どうして⁉︎」

 

「どの勢力も自分達から和平を切り出すことを良しとしていない。持ちかけられたから同意する。あくまでもその形に固執しているんだ」

 

例え長が和平を結びたいと願ってもその下が全員否定してしまっては意味がなく、離反すれば組織ですらなくなる。だから、納得させる為には相手のお願いを仕方なく聞いてやったという上から目線的な状態でもない限り無理なんだ。

 

奴はーーコカビエルは自らをその糧とするつもりだ。

 

平和の為には必ず流される血と尊い犠牲が存在する。

 

もし一度目のきっかけがあったのだとしたら、それは大戦が終わった直後だったろう。そして二度目はこのまま行けば二度目の大戦の後となる。だが、その時、三大勢力の種族は殆ど潰え、最早勢力として保ってはいられないはずだ。

 

だから、コカビエルはそれを止めるために自らを犠牲とするのだろう。

 

「なんでだよ……っ!そんなくだらない考え方……馬鹿げてる!」

 

イッセーは絞り出したような声でそういった。

 

お前の言う通りだよ、イッセー。そんなくだらない考え方は馬鹿げてる。でも、変えられないんだ。そう簡単には。それが生き物というものだ。

 

「さあ、赤龍帝。拳を構えろ。お前の目の前にいるのは狂った堕天使だ。このままいけば戦争が起こる。お前にとっての大切な人間が死ぬ。それでも良いのか?」

 

「ッ⁉︎」

 

コカビエルの言葉にイッセーは目を見開いた後、俯いた。

 

拳をわなわなと震わせ、明らかに迷っていた。

 

このままいけば戦争は始まってしまうかもしれない。リアス部長もソーナ会長もコカビエルと俺達が対峙している事を知らないから。もし、この場の誰かが、それが俺以外ならほぼ確実に戦争が起きる。けれど、イッセーは知ってしまった。コカビエルの意志を。お人好しのイッセーにとって、世界のために自らを必要悪としたコカビエルを倒す事は躊躇われるのだろう。

 

ならば俺がイッセーの迷いを断ち切る。ここで迷ってはどちらも救われない。

 

「イッセー」

 

「……智代」

 

「拳を握れ、あいつとーーコカビエルと闘うぞ」

 

「ッ⁉︎ま、待ってくれ!でも、それじゃあいつはーー」

 

「救われない。そう思うか?」

 

俺の問いにイッセーは頷いた。だが、違う。その迷いこそが誰も救わない。

 

「違うぞ、イッセー。これは他でもないコカビエルを呪縛から解放するためのものだ。奴を救えるのは私達だけなんだ」

 

「で、でも……」

 

「何もあいつを殺す必要はないだろう?倒すだけで良い」

 

殺す必要なんてない。必要なのは戦争を起こそうとした馬鹿な堕天使とそれを止めた存在だけ。ようは戦闘不能にしてしまえばいいんだ。

 

「……わかった。闘うよ、あの人を止めるために」

 

イッセーは強く握りしめた拳を突き出した。そうだ、それでいい。お前には救えるんだ。敵でも、味方でも、お前の拳は、意志は救う力を秘めている。

 

「行くぞ、イッセー」

 

「ああ!」

 

「来い!そして止めてみせろ!止められるものならな!」

 

 


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