幼馴染みは赤龍帝   作:幼馴染み最強伝説

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二人の神滅具

 

智代の口から告げられた言葉。

 

それは間違いなく至る為のそれだった。

 

そしてその言葉と共に智代を中心に突風が吹き荒れ、辺りを砂塵が舞う。

 

その光景に誰もが息を呑んだ。それはコカビエルさえも例外ではなく、予想外の事態に目を見張っていた。

 

突風が止み、舞い上がった砂塵が突如として凍りつき始める。

 

パキパキという音を立てて、その砂塵の中から現れたのは氷で出来た鎧のようなものを纏った智代の姿だった。

 

青色のプレートアーマーで形成された鎧は俺のようにごつごつとしたものではなく、必要最低限と言った感じで重く厚いというわけではなさそうだ。だが、それでも上半身に露出している部分はなく、下半身もスカート状になっているものの、脚には装甲らしきものが付けられていて、顔には俺同様にフルフェイスのマスクが付いていて、髪の毛は露出している状態だ。

 

だが、何よりも特異なのは智代が歩くたび、その地面は凍りつき、空気が凍えていくのを感じることができる。そしてあのプレッシャー。コカビエルにも匹敵するそれは本当に智代なのかと疑いたくなる程だった。

 

「禁手。『罪禍の氷獄姫君(コキュートス・アブソリュート・プリンセス)』。嘗て魔王の半身を埋めていたとされる氷地獄。お前の身に刻んでやろう」

 

裏切者の地獄(コキュートス)か。面白い、その力。俺に見せてみろ!」

 

コカビエルは俺の時と同様に無数の光の槍を作ると智代へ向けて放つ。

 

それは凄まじい速さで智代へと接近すると鎧に突き刺さる……前に鎧に触れた途端、完全に凍りつき、砕け散った。

 

そしてそれと同時に智代がその場から消え、次の瞬間にはコカビエルにかかと落としを決めていた。

 

「がっ⁉︎」

 

完全に不意をつかれたコカビエルは苦悶の声を上げるとそのまま地面へと叩きつけられる。其処に智代は追撃とばかりに十数メートルはある氷塊を叩きつけた。

 

す、すげえ!

 

あのコカビエルを一瞬で仕留めちまった!

 

俺は地面に降り立った智代へと駆け寄る。

 

鎧越しにも伝わってくる冷たさはかなりのものだけど、智代だし大丈夫だ。

 

「凄えな、智代。まさかこんなあっさりとコカビエルを倒しちまうなんて」

 

「……いや、まだ終わってないぞ」

 

智代がそう言うと同時に氷塊がピシピシと音を立てて、ひび割れていき、砕け散った。

 

どデカイクレーターの中から現れたのは服がボロボロになっているだけで俺の時同様、大したダメージを負った様子の見られないコカビエルの姿だった。

 

「ククク、今の攻撃は殺意の籠った良い一撃だったな。流石の俺も今のは肝が冷えたぞ」

 

「殺す気で攻撃しないと倒す事も叶いはしないだろうからなっ!」

 

智代がコカビエルへと仕掛ける。また目で追えないほどのスピードで仕掛けた智代の一撃は今度は受け止められた。

 

「先程は予想以上の速さに不意をつかれたが、二度同じミスはせん」

 

「それは私もわかっているさ。だから今度はこういうのはどうだろうか?」

 

「何っ⁉︎」

 

智代の蹴りを受け止めていたコカビエルの腕が凍りつき始めた。コカビエルは咄嗟に智代を衝撃波で弾き飛ばすも左腕は肘の部分まで凍りついたままだった。

 

「まさかあの一瞬で左手を使用不能にされるとはな。だが、それももう見た。次はやらせん」

 

「それは構わないが、良いのか?私だけに意識を向けておいて?」

 

そうだぜ、コカビエル。お前の相手は何も智代だけじゃないんだからなっ!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoost‼︎』

 

既に目前まで迫っていた俺はコカビエルの腹部めがけて右拳を叩き込んだ。

 

完全に不意をついた俺の一撃は見事にコカビエルの腹部を捉えるとそのまま殴り飛ばした。

 

はっきり言って不意打ちとかはあまり好きじゃないけど、そんな事を言っていられるほど俺は強くないし、あの人を助けるには姑息でも何でも俺達が勝たなくちゃいけない。

 

「げふっ……未完成の禁手とはいえ、二人揃えばここまで強力とはな」

 

完全に入ったはずなのにコカビエルは血を吐き捨てると何事もないかのように仕掛けてきた。

 

俺はそれを迎え撃つように智代とコカビエルの間に躍り出て、拳に魔力を溜める。普通に魔力の一撃を高めて撃っても避けられるか防がれる。なら避けられも防がれもしない方法を取るまでだ!

 

「ショットガンッ!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

高められた魔力は俺の拳から米粒ほどのものが六つほど放たれると一瞬で特大サイズまで肥大化し、コカビエルへと飛んで行った。このデカさじゃ殆ど霊丸連射したのと変わらない。違うのは魔力の消費量くらいだ。

 

「更に力が増大したか!闘いの中で成長するタイプとは、『白』と同じで此方も戦に向いた者に宿ったようだなっ!」

 

コカビエルは俺の攻撃を腕を薙いで払おうとするが、俺の一撃が思いの外強力である為か、全てを払い切ることはできずに何発か直撃する。

 

それでもなお、コカビエルは足を止めることなく、俺たちへと仕掛けてきた。

 

「まだだっ!まだ足らんぞっ!」

 

コカビエルは今までのように槍を作らず、俺同様に拳に光力を纏って殴ってきた。

 

その重たい一撃に俺は思わず後退り、其処をコカビエルの手から放たれた衝撃波で吹き飛ばされた。

 

「二人同時に相手をするのは俺も骨が折れる。先ずは大神智代!お前から倒す!」

 

コカビエルはそのまま智代と激しくぶつかり合う。

 

拳と蹴りがぶつかり合う度、その威力の高さを物語るように大気が震え、二人の踏み込む地面にクレーターが出来る。

 

先程は触れた瞬間に凍っていたコカビエルの腕も光力を纏っているためか、凍ってもすぐに元通りになる。おそらくは凍らされた光力を新しい光力で上書きしているんだと思う。

 

俺もすぐに参戦したいけど、二人は高速で動きながら闘っていて、尚且つぶつかり合うのは一瞬だけだから、下手に参戦すれば智代の邪魔になる。それにこのまま智代に任せれば勝てるかもしれないし、俺が邪魔するわけにはいかない。

 

と、ここで智代が後退し、俺の隣に立つ。

 

コカビエルはそれを追撃せずに静かに光力を高めていた。

 

「……やはり、私では届かないか」

 

「え?」

 

ぼそりと智代の呟いた一言に俺は疑問の声を上げた。

 

コカビエルと対等かそれ以上に闘っているはずの智代が遠回しにコカビエルに勝てないと言っているのだ。耳を疑った。

 

「イッセー。鎧の残り具現化時間はどれくらいだ?」

 

「五十秒くらいだけど……」

 

「なら三十秒以内に隙を作る。イッセーはその隙に全力を叩き込んでくれ」

 

「ちょっと待ってくれよ!それなら俺が隙を作って、智代が攻撃したほうが良いだろ」

 

「それは無理だ」

 

俺の提案を智代は即座に否定した。

 

何で、と問いかけるよりも早く、智代は腕をこちらに突き出してくる。

 

ブーステッド・ギアのように籠手となっていた鎧の一部は一見すると何もないように見えて、俺は首をかしげるが、よく見ると鎧から青い粒子が滲み出ていた。

 

「鎧の制限時間がもうない。これではあと闘えて数十秒だ。私の全力を叩き込んでも奴を倒せるかわからない上にその前に禁手が解除される」

 

「でも、もし途中で禁手が解除されたら……」

 

「無事では済まないだろうな。十中八九死ぬ」

 

智代の言う事は何時も概ね正しい。

 

大体は言っている通りになってきたし、これからもそうなるだろう。

 

戦力や戦術に希望的観測はあってはならない。何時だったか、智代はそう言っていた。

 

ならば今回もそれはなく、そして俺にも智代が言っていることは正しいとわかる。

 

いつも一緒にいたからとか、そういうのを抜きにしても誰の目にも明らかだ。

 

「なら、尚更俺が囮に……」

 

「護ってくれるのだろう?私を」

 

「ッ⁉︎」

 

なんとなく、マスク越しに智代が微笑んでいるような、そんな気がした。

 

そして智代はコカビエルの方へと駆け出した。

 

具現化時間の限界を告げる青い粒子をひいて走る智代はまさしく青い彗星の如く、コカビエルへ仕掛ける。

 

今まで以上の怒涛の攻めを見せる智代。だが、その威力自体は先程よりも落ちているように見えた。

 

「限界が近いようだが、何時まで保つかな!」

 

「さあな!だが、私は負けるつもりも、死ぬつもりもない!」

 

「吼えたな!人の娘よ!」

 

ガンッ!ガンッ!ドゴンッ!

 

鈍い打撃音が響き渡る。

 

そのたび、一層青い粒子が周囲に散る。

 

一撃一撃を放つたびに智代の禁手がその具現化時間を消費している証拠であり、それと同時に智代が追い詰められている証拠でもあった。顔の部分は既にマスクが維持できていない。

 

今すぐにでも飛び込んで智代を助けたい。

 

だが、今行けばそれこそ共倒れ。助ける云々の問題ではなくなってしまう。

 

その衝動を押し殺し、ただその時を待ち続ける。

 

そしてその時、最悪の形で戦況が動いた。

 

「ぐっ……」

 

攻め続けていた智代がコカビエルとの打撃の応酬に負け、僅かに体勢を崩した。

 

それ自体は微々たるものであるが、相手が歴戦の強者であるならば致命的なものとなる。

 

「さらばだっ、大神智代!」

 

俺はコカビエルの攻撃と同時に両手のひらに全魔力を集中させる。

 

今からじゃ何もかも遅い。コカビエルの攻撃を止めるのも、智代を庇うのも。

 

けれど、俺は誰よりも智代の事を信頼している。

 

あいつが『隙を作る』と言った。ならば、それ以外の事は考える必要なんて始めから無かったんだ。

 

ガギィィン!

 

コカビエルの手刀が智代の腹部へと突き刺さる。

 

コカビエルはニヤリと笑うが、その笑みもすぐに消えた。気付いたのだろう、自分の攻撃がクリーンヒットしていない事に。

 

そしてその腕に巻きつけられた黒い触手の存在に。

 

「ここまで何もせずに気配消しとくのは骨が折れたぜ。俺ってそういうのに向いてねえし、黙ってられねえタイプだからよ!」

 

コカビエルの腕に巻きつけた黒い触手を全力で引っ張りつつ、匙はそう叫んだ。

 

今の今まで匙は敢えて何もしていなかった。三人が仕掛けた時も、一度コカビエルが智代によって強制的にダウンさせられた時も、匙は動けなかったわけじゃない。

 

こうして来るであろう一瞬の為だけに敢えて動かなかった。ハナっからそういう作戦だったのだから。

 

「やっと捕まえた(・・・・)

 

そして智代は自身の鎧を貫いたものの、肉体を貫くには至っていないコカビエルの腕を掴み、不敵に笑った。

 

その不敵な笑みにコカビエルは背筋に冷たいものを感じざるを得なかった。俺ですら、あれは何かあるとそう感じた。そう。狩っているはずの存在が逆に狩られる側に回ったかのようなそんな悪寒だ。

 

摩訶鉢特摩(マカハドマ)!」

 

その叫びと共にコカビエルは……凍らなかった。

 

それどころか、これといって何かあったわけでもなく、智代の禁手だけが解除されていた。

 

その場に膝をつく智代。

 

もしかして失敗したのか?

 

そうとしか思えない状況であったが、そこで気がついた。

 

コカビエルが止まっているんだ。

 

止まっているというよりも止められている。

 

とにかく動いていないんだ。まるで其処だけが時が止まっているかのように。

 

「イッセーくん!今だ!」

 

状況が把握しきれない中、木場は膝をついて動けない智代を『騎士』の特性を活かして、その場から拾っていた。

 

それを見た俺は溜めに溜めた全身全霊の一撃をコカビエルへ向けて放った。

 

「ドラゴン波ぁぁぁ!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost‼︎』

 

俺の両手から放出された地形すらも変えてしまう一撃は止まってしまったコカビエルを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土煙が晴れた時、抉れた大地のど真ん中にはコカビエルが倒れ伏していた。

 

良かった。死んでない。

 

コカビエルの姿を見るまではもしかしたら殺してしまったのではないかと少し不安だった。

 

既に禁手は解かれ、俺は重たい体を動かして倒れたまま動かないコカビエルへと近寄る。

 

「ク、ククク、赤龍帝。どうやら俺は負けたようだな」

 

「……ああ。タイマンで倒せなかったから威張れた話じゃないけど、それでも俺たちの勝ちだ」

 

「あれ、は……戦争の引き鉄となりかねない戦闘だ。どんな手段を用いてでも、止める事は悪い事ではない。それに俺は堕天使の幹部。お前達は成り立ての悪魔と……人間達だ。そこに正々堂々などと……下らない事を言ったりするほど……落ちぶれて、いない」

 

「……そんなボロボロにした本人が言うのも何だけど、大丈夫、だよな?」

 

「残念ながらな。どうにも、俺は死に損ねたらしい」

 

自嘲めいた笑みを浮かべるコカビエル。

 

俺としては死に損なってくれた事には感謝したい。

例え仕方のない事だとしても、こんな良い人を殺すのは辛い。

 

「ーーー一足遅かったか」

 

突然の声。この場にいる誰のものでもない声に俺は辺りを見回した。

 

そしてその声の主は俺のすぐ隣に現れた。いや、現れたというよりはまるで始めからいたかのように当たり前にそこに立っていた。

 

その姿を認識するよりも早く、俺の中の本能が全力で警鐘を鳴らしていた。

 

今すぐ逃げろと。

 

だが、それと同時にドラゴンとかした左半身は俺の本能に反するかのようにうずいていた。

 

まるで待ちわびていたと言わんばかりに。

 

圧倒的な存在感と絶望的なまでに感じる力量差。そして共鳴しているドラゴンとしての本能を抑え込みつつ、そちらを見る。

 

そこに立っていたのは一切の曇りも陰りも見せない白い鎧を纏った者の姿だった。

 

背中から生えている八枚の光の翼は、闇夜を切り裂き、神々しいまでの輝きを発していた。

 

見覚えがある。その白き鎧は明らかに俺の禁手に酷似した姿だった。

 

「ーーー『白い龍(バニシング・ドラゴン)か」

 

倒れ伏しているコカビエルがそう呟いた。

 

白い龍(バニシング・ドラゴン)』。

 

以前、ドライグから聞かされたバカなもう一匹のドラゴン。

 

二天龍の片割れにして、俺の宿命のライバルとして義務付けられた存在。

 

「驚いたな。まさかあんたを倒したのが、俺の宿敵くんだとは。何もないとは思っていたが、存外楽しめそうだ」

 

「『白い龍』。お前が来たということは、アザゼルが動いたということか」

 

「ああ。何としてでもあんたを連れ帰れ。そうアザゼルから言われている」

 

「自らの組織の不始末は自らの組織の者の手で終わらせる、か。実に奴らしい考えだ」

 

「だが、一足遅かった。あんたは悪魔側にいる俺のライバルくんに倒されていた。あんたを止められる程の実力があるとは思えなかったが……そうか。身体半分を差し出したか。それならば或いは倒せるかもしれないな」

 

俺の方を見据えるそいつの視線は、何処か危険な色が鎧越しにも感じられた。

 

こいつと関わるとろくなことにならない。今までの経験が確かにそう告げていた。

 

けれど、話によると俺はこいつと闘う運命にあるらしい。だから、関わらないなんて都合のいい選択肢は存在しないだろう。

 

「なあ、この人はどうなるんだ?」

 

「さあな。今回の一件の処遇は俺が決める事じゃない……が、どういう目的があったにしろ、其れ相応の罰が下される筈だ。そしてそれを望んだのは紛れもなく本人だ。当然の結果だ」

 

「で、でもこの人は……!」

 

「意志を通したいなら強くなれ。強さを持たない言葉などには何の力もありはしない。弱き者に誰かを救う権利など存在しない。精進してくれよ、俺の宿敵くん?ライバルが弱いと俺も面白くない」

 

『白い龍』はそれだけ言うとコカビエルを担ぎ、事態を静観し続けていたフリードと共にその場から消えた。

 

なんとも言えない結末を迎えた俺達の死闘はさらにひと足遅れでやってきた部長達の質問責めによって終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 





とこんな感じでコカビエル戦終了です。

やはり締めはイッセー。そして書いている最中にふと「そういえばドラゴン波使ってないな」と思い、ドラゴン波で締めました。

戦闘描写が微妙なのはすみません。本当に文才なくて。いつまで経っても上達の気配が見えません。

そして今回禁手した智代の姿ですが、見た目はアニメ3期の鎧を纏ったリアス部長のカラーを青にして、露出は少なく、下をスカートにした感じ……全く別物ですね、はい。

ルビ振りは匙の禁手を参考にして見ました。

相手がコカビエルということもあり、良い感じに名前も決めれました。若干語呂が悪い気もしますけど、今に始まった事じゃないから気にしない!

因みに今回奥の手としての使用した摩訶鉢特摩は多分通じる人には通じる某将軍の技です。

ですが、智代の場合はちょっと某将軍とは違います。具体的にどう違うのかは次回解説するかも?

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