幼馴染みは赤龍帝   作:幼馴染み最強伝説

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怒りのバランス・ブレイカー

テロリスト襲撃から僅か十分程度。

 

その間に校舎の外は異様な光景に包まれていた。

 

夏の暑さが本格的になり始める今日この頃にグラウンドには視界を覆い尽くすほどの無数の巨大な氷柱。

 

やらかしたのは、つい先日まで起きていることすらもやっとだった俺の幼馴染み、大神智代。

 

お偉いさん方曰く、特殊な力を宿す存在の中でも最強クラスの突然変異にして神滅具持ち。大戦中にいれば、間違いなく天界に勝利をもたらしたとすら言われた。何かもう凄すぎる存在。

 

その幼馴染みは何を思ったか、外で闘っているアザゼルやヴァーリを巻き込んで、外に氷柱の雨あられを降らした。

 

流石に死んではいないんだろうけど………色々と無茶苦茶だった。

 

「えーと、智代?」

 

「済まない、イッセー。どうにも力の加減がわからないんだ。狙いも絞れないし、下手をすると余波で校舎ごと凍りつかせそうだ」

 

そう言う智代の瞳の色は以前のように蒼くなっていた。

 

おまけにこの部屋の温度も五度ぐらい下がった気がする。少し肌寒くなったし、智代の足下から数十センチはすでに凍っていた。

 

ドガァァァァァァンッ!

 

その時、氷柱の山の一角が爆ぜた。

 

其処から現れたのは先程とは比較にならないほどの圧倒的なオーラを纏ったカテレアがいた。

 

な、なんだあれ⁉︎さっきと全然違うぞ⁉︎

 

「はぁ………ったく、面倒なモンもらいやがって」

 

溜め息を吐き、現れたアザゼルは呆れたような表情でそう言った。

 

「覚悟を決めてもらいましょうか、アザゼル」

 

「チッ、さっきの膨れ上がったオーラの量、オーフィスの野郎に何をもらいやがった?」

 

アザゼルの問いかけにレヴィアタンは不敵に笑む。

 

「ええ、彼は無限の力を有するドラゴン。世界変革のため、少々力を借りました。おかげで貴方と戦える。サーゼクスとミカエルを倒すチャンスでもあります。愚かな総督である、貴方もです」

 

「耳が痛いな。確かに俺はそうだ。愚かだ。シェムハザが居なけりゃ、何も出来ねぇ。ただの神器マニアだ。ーーけどよ。サーゼクスとミカエルは其処までバカじゃねえと思うぜ?少なくともてめぇよりは遥かに優秀だ」

 

「世迷言を。いいでしょう、今ここでトドメをさします。新世界創造の第一歩として、堕天使の総督である貴方を滅ぼす!」

 

強い口調で物申すカテレア。けれど、アザゼルは愉快そうにしているだけだ。

 

アザゼルが懐から一本の短剣らしきものを取り出した。

 

「それはーー」

 

「……神器マニア過ぎてな。自分で作ったりする事もある。レプリカ作ったりな。まあ、殆どのものが屑すぎてどうしようもないが。神器を開発した神はすごい。俺が唯一、奴を尊敬するところだ。ーーだが、甘い。『神滅具』と『禁手』なんていう神と魔王、世界の均衡を崩せるだけのバグを残したまま死んじまったんだからな。ま、だからこそ、神器は面白いんだけどよ」

 

「安心なさい。新世界で神器なんてものは絶対に作らない。そんなものがなくても世界は機能します。ーーいずれは北欧のオーディンにも動いてもらい、世界を変動させなくてはなりません」

 

「それを聞いてますますお前らの目的に反吐がでる思いだ。横合いからオーディンに全部掻っ攫われるつもりかよ。つーか、俺の楽しみを奪うやつはーー」

 

アザゼルが短剣らしきものを構えた時、白い閃光がこちらに向かってくるのが見えた。

 

あれは……ヴァーリ?

 

なんでこっちに、そう思うよりも早くに俺は神器を発動させていた。

 

「イッセー?」

 

「下がれ、智代!」

 

完全に死角から接近してきていたヴァーリに智代は気づいていなかった。なんでかわからないけど、あいつは止めないといけない気がする。

 

目の前まで接近してきたヴァーリはそのまま拳を振るう。これを受け止めなきゃ、智代ごと消し飛ぶ。

 

そんなの………ダメに決まってんだろうがぁぁぁぁ!

 

ゴッ!

 

振るわれた拳をなんとか受け止めた。

 

なんで受け止められたのか、俺にもわからない。禁手にもなってないし、倍化するには時間が足りなさすぎたのに。わからないけど、止められたのならそれでいい。

 

「ふ。敵意も殺意も気配も消していたんだがな。よく気がついたな、兵藤一誠」

 

だからか。他の誰も気がつかなかったのは。

 

「俺にもわからねえよ。ただ、身体が勝手に動いただけだ。それよりどういうつもりだよ。さっき和平結んだばっかじゃねえか」

 

「簡単な事じゃないか。今この状況こそがその答えだ」

 

はぁ?今この状況が答え?意味がわからない。

 

「ふぅ……頭が多少なりとキレるかと思えばそういうわけではないらしいな。単に本能で動いただけか。やはり君は残念な宿主だ」

 

やれやれと嘆息するようにヴァーリは言う。

 

「おいおい、ここで反旗か、ヴァーリ」

 

こちらの光景を見て、アザゼルが溜め息を吐いた。こちらの異変に気付いたらしい。

 

その様子にカテレアが言う。

 

「和平が決まった瞬間、拉致したハーフヴァンパイアの神器を発動させ、テロを開始させる手筈でした。白龍皇の話とは違う結果になったので、始めは嵌められたのかと思いましたが……結果的には会談さえ壊せればそれで良かったのです」

 

「ったく……ヤキが回ったな。身内がこんな事やらかすとはな……」

 

自嘲するアザゼル。って事はこいつ、あっち側の人間って事か⁉︎

 

「コカビエルを迎えに行っている途中でオファーを受けたんだ。こちらの方が面白そうだったからね」

 

「やはりお前は危険な存在だな、ヴァーリ。戦闘狂はこれからの時代に不要だ」

 

「だからこそ、俺がこちら側に来るのは必然だ。それはキミもわかるだろう、大神智代」

 

「ああ。なら、私がしたい事も………わかるな?」

 

「ちょうどいい。以前の約束。今ここで果たそう」

 

俺を挟んで話がどんどん飛躍していってる。よくわからないけど、勝手に話進めんなよ!

 

「もののついでだ。俺はキミのことを知ったし、俺も俺の事を教えるべきだろう。俺の本名はヴァーリ。ーーヴァーリ・ルシファーだ」

 

は?ルシファー?

 

「死んだ先代魔王の血をひくものなんだ。けど、俺は旧魔王の孫である父と人間の母との間に生まれた混血児。神器は半分人間だから手に入れたものだ。真のルシファーの血縁者であり、『白い龍』でもある俺は、まさしく『運命』、『奇跡』というものがあるなら、俺の事かもしれない。ーーいや、或いはキミかもしれないな」

 

そう言う奴の背中から、光の翼と共に悪魔の翼が幾重にも生えた。

 

その発言にこの場にいた全員が驚愕の表情を浮かべていたが、それをアザゼルは肯定する。

 

「事実だ。もし、冗談のような存在がいるとしたら、こいつのことさ。過去現在、おそらくは未来永劫においても最強の白龍皇になる………ま、冗談のような存在はもう一人見つけちまったわけだが」

 

おそらく智代のことを言っているんだと思う。智代自身も苦々しい表情をしているし。

 

「その点、君は残念すぎるよ、兵藤一誠。普通の家庭にいるごく普通の人間。友人関係も、彼女を除けば、なんてことはない。君の事を知った時はあまりにつまらなすぎて失笑したものたが………そうだ!こういうのはどうだろう?まずキミを半殺しにした後、彼女を殺す。キミにとって彼女は大切な存在だろう?ならば、殺せば、キミは怒りで或いは俺に届く程に強くなるんじゃないか?」

 

そう言うヴァーリの声音は冗談交じりではなく、真剣なものだった。

 

この会談が始まってから、俺には難しい事ばかりだ。

 

和平の事とか、三大勢力の事情とか、今までの歴史とか、テロ組織とか、魔王の血族とか、大神のこととか。

 

どれも俺の頭じゃ理解しきれない。話の三分の一を分かるので精一杯だ。

 

けど………けどな。わからない事ばかりだけど、今のふざけた台詞だけは十分どころか十全に理解できた。

 

智代を……俺の大切な幼馴染みを殺すだって?俺を怒らせて強くさせるために?

 

「……ヴァーリ。お前は一つ間違ってる」

 

「ん?」

 

そう。間違っている。そんな前置きは必要ない。

 

そんなことをしなくても………

 

「俺はブチ切れてんだよ!ヴァーリィィィィィ!」

 

例えふざけていても、真剣でも、そんな事は関係ない!

 

智代に何かしようって奴は誰だって赦さない!それは俺が昔から誰でもない、俺自身に誓ったことだ!魔王だろうが、神だろうが関係ない!例え、全ての者を敵に回しても、俺は絶対に守ると誓ったんだ!

 

「二度と転生出来ないくらい神器諸共粉々にしてやる!」

 

『ふん、怒っているな相棒。だが、今のままでは奴に返り討ちにされるぞ』

 

うるさい!わかってるんだよ、そんな事は!

 

でもな。今だからわかる。今なら、俺もあの境地に達する事が出来るってな!

 

『そういう所は察しがいいな。なら、後は示すだけだ。神器は想いを力にする。望めば望んだように、力を与えてくれる。とりわけ、単純なものほど、与える力は莫大だ』

 

単純だよ、ドライグ。

 

俺が今望んでいることはな!この会談てあったどんな事よりも単純明快なことだ!

 

「あいつをぶっ飛ばす力をくれ!禁手化(バランス・ブレイク)ゥゥゥッ!」

 

『Welsh Dragon Balance Bleaker!!!!!!』

 

宝玉から発せられる機械音。

 

それは今までのどれとも違う力強い言葉は、俺が待ち焦がれていた言葉だった。

 

赤い閃光と共に俺の身体が鎧に包まれる。

 

ライザーやコカビエルの時と同様でいて、けれど違う鎧。

 

今回は対価を支払っていない。支払う必要などない。

 

「ふ、ふはははははは!そうか!怒りで禁手へと至ったのか!やはり俺の考えは間違いではーー」

 

「うるせえよ、クソ野郎」

 

俺が至った事に対して歓喜するヴァーリに、俺は突貫する。

 

圧倒的な速度で突っ込んだとき、ヴァーリは油断していたこともあってか、完全に隙だらけだった。おそらく今が最大のチャンス。なら、最初で終わらせてやらぁ!

 

「くたばれぇぇぇぇぇ!」

 

距離を詰めた俺はあらん限りの力でラッシュを叩き込む。

 

拳に怒りを乗せて、文字通り、こいつを粉々にするために。

 

最後に思いっきり顔面を殴り、地面へと叩きつけ、そこに俺は拳へと魔力を溜め、特大の魔力弾を打ち込んだ。

 

ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!

 

グラウンドの三分の一が底の見えない大穴に変わるほどの一撃に、俺自身も驚いた。

 

コカビエルの時の比じゃない。正規の禁手はこんなに強いのか?

 

『あの時と比べて、相棒も強くなった。秘密の特訓の成果が出たんだろうな。でなければ、あれ程怒り狂っても、禁手には至れなかった。単純な怒りが相棒自身の力を底上げしているのさ』

 

単純な怒りか。まあ、単純だよな。俺はあいつを殺したい程に怒っている。それ以上、それ以下でもない。拷問だとか、そんなことは考えていない。

 

「ふ、ふふふふふ、怒りでここまで強くなるのか。残念な存在だが、期待するに値する存在ではあるな」

 

大穴の中から出て来たのは無傷のヴァーリだった。

 

嘘だろ⁉︎本気で殺しに行ったんだぞ⁉︎

 

『焦るな、相棒。あれはおそらく鎧を再生させただけだ。一時的とはいえ、あの瞬間は相棒の方が白いのよりも勝っていた。ダメージはあるさ。飛ばした魔力の方は、恐らく半減されただろうがな』

 

そうか。

 

一瞬そこまで力の差があるのかって絶望しかけたけど、俺はあいつをぶっ飛ばせるんだな。

 

『ああ。だが、あちらも本格的に臨戦態勢に入った。出来れば、さっきの一撃で沈めておきたくはあったな』

 

悪いな、アスカロンを使うトコまで頭が回ってなくてさ!マジで怒りで我を忘れてたんだよ!今だって、若干冷静になっただけで、ブチ切れてるしさ。

 

「行くぞ、兵藤一誠。キミが死んで、彼女も死ぬか。俺を殺して、彼女を守るか。二つに一つだ!」

 

「上等だ、この野郎!」

 

駒王学園の上空で赤と白が激突した。


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