幼馴染みは赤龍帝   作:幼馴染み最強伝説

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それぞれの心境

「……あ?ここ……どこだ?」

 

俺が目を覚ましたのは真っ白い空間だった。

 

よくわからねえが、痛すぎて指一本も動かせねえ。おそらくは黒龍波の弊害……って、そういや!

 

「ゲームはどうなったんだ⁉︎痛っ……!」

 

反射的に身体を起こそうと力を入れたせいで全身に激痛が走る。こりゃ、骨が何本かは逝ってるな。

 

と、ちょうどその時、誰かが部屋に入ってきた。

 

「起きましたか、サジ」

 

「あんたか……って事はゲームは終わってんだな」

 

「はい。残念ながら、私達の敗北です」

 

部屋に入ってきた会長の表情は心なしか暗い。そっか……負けちまったのか……。

 

「ごめんなさい。サジ、貴方がそんなにまでなって赤龍帝と相打ちにまでなったというのに、主の私がその状況を活かしきれなかった。私の未熟さが招いた結果です」

 

「いや、そんな事ねえよ。あんたは立派だ、会長」

 

未熟だったのは俺の方だ。

 

本当ならあの黒龍波もリアス先輩に使うべき技だったはずだ。なのに、俺は兵藤との闘いを優先した。それは過去にあいつに負けた事への執着心からなのか、それとも同じ境遇の男として、あいつを打ち負かしたかったのかはわからない。

 

だが、そんな俺の未熟さも許容して、あの場を用意してくれたあんたが未熟なはずがねえ。立派なもんだぜ。

 

「『兵士』の上に先にやられちまった俺が言うのもなんだけどよ。まだ次があるじゃねえか。負けちまったかもしれねえ。けど、それでも前に進んでんなら、悪い事じゃねえんだろ?」

 

「サジ……」

 

「安心しろよ。兵藤程じゃねえが、俺の中にも伝説級のドラゴンがいる。いずれ、兵藤よりも強くなって最強の『兵士』になってやんよ。あんたが胸を張って、最強の『兵士』って言えるようにな」

 

俺がそう言って笑うと、会長の表情も明るくなっていた。

 

やっぱりあんたは笑った方がずっと綺麗だよ、なんて臭いセリフは言えねえが、俺はこの人のためにこれからも死に物狂いで目の前の敵を打倒していくだけだ。

 

「それはそうと、サジ。貴方のあの技は私が良いと言わなければ使用禁止です」

 

「おう、そうか……って、ちょっと待て⁉︎それって黒龍波の事か⁉︎」

 

「ええ。あれを撃つだけでも生命力を消費するにもかかわらず、再度吸収してドーピングする方法は死と隣り合わせの危険な技です。貴方は兵藤くんのように急激な強化による肉体の負担に慣れていません。一度使用すれば、それは密閉された瓶の中で火薬を爆発させ続けるのと同じ事。今回の使用は五分程度でしたが、それでも貴方の体は兵藤くんによる攻撃と自己崩壊のダメージで死の一歩手前まで行っていました」

 

げっ……マジかよ。ようはゲーム中の事故扱いで死にかけたって事か⁉︎

 

「ですから基本的には使用禁止です。貴方には私の建てた学校で先生になってもらわなければいけません。それに言ったでしょう?私の許可なく死ぬことは許しませんと」

 

「そういやそうだったな」

 

つっても、痛いな。アレは偶然の産物だったつってもあの状態の兵藤とやり合える奥の手だ。基本的に使用禁止とは言ってるが、非常時には惜しみなく使わせてもらう。

 

「お取込み中のところ、いいかな?」

 

「ッ!サーゼクス様」

 

入ってきたのは魔王様。相変わらず物腰が柔らかそうっつーか、余裕に満ち溢れてるな。

 

「ソーナ。今はかしこまらなくていい。渡したいものがあって来ただけだからね」

 

そう言って、魔王様は俺のところに来て、小さな箱を取り出して開けた。

 

「なんスか?これ?」

 

「これはレーティングゲームで優れた闘い、印象的な闘いを演じた者に贈られるものだ」

 

「……俺は兵藤に勝てなかった。そんなすげえものを受け取る資格なんてないッス」

 

ましてや、兵藤と相打ちになってどっちが先にリタイアしたかもわからねえ。もし俺が先にリタイアしてたなら、尚更受け取る資格なんてねえ。

 

「確かに君は勝てなかった。だが、あの赤龍帝と相打った。あの闘いはまさしく息をのむほどの激闘だった。瞬きすら許さないほどの気迫のこもった試合だ、あの北欧のオーディンも赤龍帝に正面から立ち向かう姿に賛辞を贈ったほどだ」

 

そういって、魔王様は俺の胸に小箱に入っていた勲章をつける。だから、いらねえっての。

 

オーディンって確か神様だっけか?どんだけすげえのかはわからねえが、別にそいつの賛辞なんざどうでもいい。俺はただ、兵藤に勝ちたかっただけなんだ。

 

「自分を卑下する必要はない。キミももっと上を目指せる悪魔だ。あの時、他の上級悪魔に向かって、啖呵を切ったキミは行動でも示した。私は将来有望な若手悪魔を見られて嬉しい。もっと精進しなさい。私は期待しているよ」

 

「……サジ、あなたはたくさんの人々に勇姿を見せたのですよ。あなたは立派に闘ったのですから」

 

そういうと会長はとめどなく涙を流す。

 

あー、やめろよ。ちくしょう、あんたが泣くんじゃねえよ。こんな見た目してるが、義理人情には弱えんだよ、俺。泣きそうになんじゃねえか。

 

「おい、会長」

 

「……なんですか?」

 

「今回は偶々負けただけだ。次はぜってー勝つ。誰にも負けねえ。だから、あんたは胸張ってろ。俺の主らしく堂々な。今日は負けの苦さを知ったんだ。次からは勝ちの旨味しか教えてやんねえからな。今のうちに嚙みしめとけよ」

 

「全く……励ましているのですか?それは?だとしても口が悪いですよ、サジ」

 

「今更何言ってんだか。元ヤン舐めんな」

 

安心しろよ。もう、あんたがそうやって悔しがる事なんて俺が全部無くしてやる。

 

負けた日のことなんざ、思い出せなくなるくらい、勝たせ続けてやる。

 

だからーー。

 

「もう泣くんじゃねえぞ、会長」

 

「わかっています。この涙は……私達の始まりとします」

 

それでいい。されがあんたらしいよ、ソーナ・シトリー。

 

……そういや、兵藤のやつはどうなったんだ?

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……まさか、あんなに威勢良く啖呵を切ったというのに、一番初めに倒されるとはな」

 

「うぐ!……智代さん。本当にこれ以上は勘弁してください、お願いします」

 

ベッドの上で何故か正座しているイッセーは居たたまれなさそうにこうべを垂れていた。

 

無理もない。あれだけ、かっこよく決めたものの、結果は匙と相打ち。そのせいか、ゲームの内容や結果は原作とほぼ変わらない。会長は今回のゲームで評価を一気に上げ、逆にリアス部長は評価を下げた。ギャスパー、イッセー、ゼノヴィア、アーシアとその半分を取られてしまったからな。

 

正直言って、今回のゲーム。イッセーか匙。どちらが残るかによって勝敗は変わっていたかもしれない。

 

イッセーがいれば、グレモリーの圧勝。匙がいれば、あのドーピング状態に正面から立ち向えるのは祐斗くらいだろうが、あの呪いの迸る匙の攻撃は掠るだけでもただでは済まない。実際、イッセー自身も殴り合いの中でヴリドラの炎で体力を削られたと言っている。

 

一時的とはいえ、赤龍帝の鎧状態のイッセーに比肩する能力と一回一回の攻撃が呪いを放つ魔の拳。

 

イッセーのようなタイプでもない限り、一撃食らえば即リタイアの可能性すらある。

 

だから、私はそこまでイッセーを責める気はない。結果的には勝利に貢献しているのだから。

 

………さて、それはさておきだ。

 

「あー、イッセー。そんな傷心のお前に話がある」

 

「話?………ま、まさか、またタンニーンのおっさんと山籠り……それだけは本当に勘弁して!それ以外ならどんな修業でもするから!」

 

土下座して懇願された。

 

ど、どれだけ元龍王との追いかけっこがトラウマになっているのだろうか。帰ってきた時は逞しくなっていたものだから、てっきり普通に修業していたものとばかり思っていたのに。

 

「安心しろ。そんなに日もない上にゲームも先の話になるだろう」

 

イッセーには宿題もあるしな………それに。

 

「い、イッセー。ここに来る前に話していたことを覚えているか?」

 

「ここに来る前?それって冥界に?」

 

「う、うむ」

 

「ここに来る前……ここに来る前……あ、デートの事か!」

 

ポンと手を叩いてイッセーが納得したように言う!

 

「ば、馬鹿!声が大きい!」

 

「いや、智代の方が声が大きいような……」

 

「だ・ま・れ」

 

「はい。すみませんでした」

 

睨みつけながらそう言うと、イッセーはすぐに土下座した。イッセーの謝りテクはこうして培われているのである。悪いのは半分以上イッセーなんだが。

 

「そ、それで話は戻るが、そ、そ、その、で、デデデートの事だが、な………」

 

「う、うん」

 

「実は既に決めてある」

 

というか、決めさせられた。丸一日かけて。

 

なんであんなに気合いが入っているんだろうか。言い出しっぺの私よりも気合が入っていた。

 

いや、やる気があるのは良いことだ。デート範囲は日本の本州並みに広いグレモリー領。いくら殆どが手をつけられていないとはいえ、駒王よりは断然広いし、何も知らない私としてはとてもありがたかった。

 

「私が言い出したことだ。一応私が決めたが……それでいいか?」

 

「おう!楽しみにしてるぜ!」

 

笑顔でサムズアップするイッセー。そ、そこまで期待されても困るのだが。

 

だが、期待されて悪い気はしないな。

 

うむ、ちゃんと準備しなければな。

 

……と、その前に行かなければならないところがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン。

 

「あいよ、どーぞ」

 

「邪魔をするぞ、匙」

 

私が来たのは匙の病室。

 

転送されてきたときはかなり危険な状態だと聞いていたが、全然元気そう……。

 

「なあ、大神。頼みがあるんだ」

 

「なんだ?」

 

「頼むからこの会長サマをどうにかしてくれぇぇぇぇ!」

 

「サジ。叫んでは身体に障りますよ。ほら、じっとしていてください。私が食べさせてあげますから」

 

「良かったな、匙。では、邪魔をした」

 

「待て待て待て!普通この状況で見捨てるか⁉︎」

 

「見捨てるも何も……私がいるのは良くないだろう?」

 

ひょっとして匙は鈍感なのか?それとも単に会長が世話を焼いてるだけなのか?……どちらにしても、私がいるのは邪魔なだけな気がする。

 

「おい、大神。何を勘違いしてんのかは知らねえが、これだけは言っとくぜ。今、俺はお前が思ってるほどハッピーな状況じゃねえんだ」

 

「そうか?」

 

美少女の先輩に看病してもらっているなんてどう考えても役得だろう。おまけにあれは手作りのお菓子だろうか。見た事もない色をしている……うん?待て、見た事のない色?

 

「ソーナ会長。その手にあるのはなんだろうか?」

 

「これですか?固形物は辛いと思い、アイスクリームを作りました。後遺症で体温も上昇していますから、ちょうど良いと思って」

 

あ、アイスクリーム……?

 

こんな短時間で作れることにも驚きだが、そもそもアレを見てアイスクリームだと思えるこの人の神経も疑った。ま、まさかこの人……料理下手なのか?

 

い、いや、だが以前部長からの話に聞いた時、手製のうどんは美味だと聞いた。なのに、何故ああなる⁉︎

 

「大神さんも一口どうですか?」

 

「だ、大丈夫だ。それは匙の分だし、私が食べるわけにはいかない」

 

そして死にたくない。あれは絶対にろくなものじゃない。見た目通りの味と刺激を与え、トドメに地獄に叩き落としてくれるやつだ………あ、ここがその地獄か。

 

「匙、達者でな。お前の事は忘れない」

 

「おい待て!俺を殺すな!つーか、見捨てるな!助ける努力をし…むごっ⁉︎」

 

「サジ。話なら食べてからでもできるでしょう。先に食べないと溶けてしまいますよ」

 

「さ、先に食べたら会話できねえよ……お、大神……」

 

「なんだ、遺言か?」

 

本気で遺言になりそうだったので聞いてみるが、匙は死にかけの様相で首を横に振る。

 

「ち、違えよ……兵藤に伝言だ。ふぅ………『いい喧嘩だった。次はぜってー勝つ』って言っといてくれ」

 

キメ顔でそう言った後、匙は精魂尽き果てたかのように白目をむいて倒れた。思いの外、破壊力は絶大だったらしい。この現場だけ見れば、どう考えても下僕を殺している主にしか見えない………本当に昇天していないだろうな?

 

「大神さん。私からも兵藤くんにはお礼を言わせてもらいます。本当は直接出向くべきなのはわかっていますが、サジの事もありますので……今回のゲーム、サジがここまで成長出来たのは、兵藤くんという存在がいたからです。彼がいなければ、ここまでサジが強くなることはなかったでしょう。本当に感謝している、と」

 

「了承した。そう伝えておこう」

 

私は頷いて、部屋を出た。

 

イッセーのお蔭か……。

 

それは半分だけ正解で、半分だけ違う。

 

イッセーのお蔭で匙が強くなったというのは確かにあるかもしれない。

 

でも、それ以前に自分の主を勝たせたいという思いの方が強かったはずだ。

 

イッセーから匙のことは聞いた。おおよそ原作通りの発言に対して、匙が噛みついた事。そしてその悪魔達を見返すためにイッセーを倒すと宣言したことを。

 

二人はお互いに意識していたが、それ以前に初の公式戦を勝利で飾ろうと意気込んでいた。

 

それが今回は二人とも強かった。二人とも、譲れないものがあったから。だから相打ちになった。

 

さてと、もう一度イッセーのところに……

 

「ひゃっ⁉︎」

 

「ふぉふぉふぉ、なかなか良い尻をしとるふげっ!」

 

「やめろ、ヘンタイ!」

 

いきなり尻を撫でられたので、反射的に全力で蹴り飛ばした。

 

なんだ、あの爺さんは。痴呆症の入院患者か何かか。

 

「いきなり蹴り飛ばすとは酷いことをするのぅ。せっかく、わし自ら会いに来てやったというのに」

 

「なんだ、お前は。変態ならお引き取り願う」

 

「変態とは失礼千万じゃて。わしは北田舎のクソジジイじゃよ。アザゼルやサーゼクスの小僧に面白いのがいると聞いたのでな。どんなのか見に来てやったわい」

 

「で、その感想は?おじいちゃん?」

 

苛立ち気味に聞くと、爺さんはいやらしい目つきで舐めるように私の身体を見て、松田や元浜に近いものを感じさせる。

 

「なかなか身体をしとるわい。どれもこれも申し分ない」

 

「誰もそんなことは聞いていない。私が聞いているのは北欧の主神(・・・・・)から見ても、私が異質に見えるかと聞いている」

 

「なんじゃ、気づいとったのか」

 

「当然だ。後ろにハリセンをもったヴァルキリーがいるからな」

 

スパン!

 

「オーディン様!あれ程、一人で歩き回られては困ると言ったじゃないですか!」

 

「じゃから、行き先は告げたじゃろう。何が不満なんじゃ」

 

「それでは付き人の意味がないと言いました!全く、あなたという人は……」

 

苦労臭のするヴァルキリーさんだ。確かこの人も原作キャラだったか………名前は……ろ、ロス……ロスヴァイセ?だったと思う。

 

「すみません。もしや、オーディン様が何かセクハラをしませんでしたか?」

 

「されたので蹴り飛ばした。なので問題ない」

 

「そうですか。それは何よりです」

 

「いや、ロスヴァイセ。お主はわしの付き人じゃろ?今の発言に疑問を持たないのか?」

 

「オーディン様の自業自得です。女の人を見つけてはセクハラ三昧。主神としてのメンツが立ちません。大体、オーディン様はーー」

 

「それはそうとな。お主、なかなか面白い事になっとるな。大神の血はとうの昔に絶えたと思っとったが、まさか、今になってその集大成が現れるとは……魔王の血族のテロリストに聖書の神に仕えし集大成……和平を結んだというのに問題は山積みじゃのう。ほっほっほ」

 

「何か知っているのか?『大神』の事を」

 

「さてな。だが、お主によう似た者がいた事を知っとるわい。赤龍帝の小僧の近くにいるというのはなんとも数奇なもんじゃがな」

 

オーディンもタンニーン殿と同じ事を言った。

 

私と似た者がいて、その者は赤龍帝と……いや、ドライグと何か関係があるのか?

 

「どれ、ここで会ったのも何かの縁じゃて。手を出してみい」

 

言われるがままに手を出す。相変わらずおとぼけた雰囲気だが、さっきのようにセクハラをしてきそうな気配はなかったからだ。

 

「……まあ、こんなもんじゃろ。また会うときを楽しみにしとるぞい」

 

「わかっていますか、オーディン様……って、人の話を聞いてください!オーディン様⁉︎」

 

今の今まで説教していたお付きのヴァルキリーさんは去っていったオーディンの方へと歩いて行った。

 

なんだったんだ?いまいち何を考えてるのか、さっぱりわからない老人だ。

 

「……まあいい。とりあえず、イッセーのところに行くか」

 

オーディンの行った方向を少しの間見届けた後、私は踵を返してイッセーの部屋へと向かった。

 

 

 




と、いうわけでイッセーvs匙戦以降は省きました。書いてみたら、ほぼ原作と同じになってしまったので。

それなりにまたまた伏線を匂わせつつ、次回は皆さんお待ちかね?二人のデートです!

それなりにラブコメっぽく描けたらいいなぁとか思ってますが、期待はほどほどに。

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