「......つまり、そのお店の代表たるショッププレイヤーはブレイブデュエルの競技のルール上、五人が最適でクローディアさんたち三人とエーベルヴァインちゃんを含めても一人足りない。 だからあと一人ショッププレイヤーになれる人を探してたってこと?」
「一応、あと二人ショッププレイヤーはいるのですが......あの二人は少々特殊な立ち位置なものですから」
あの戦いの後、シュミレーターから出るとスタークスさんが待ち伏せをしていた。 「おめでとうございます。 さあ此方へ」と言って連れてこられたのたのは建物のサイズに相応しい巨大リビングルーム。 そこのソファーに二人で座り、これまで起こった事の説明を受けた。 ラッセルさんやクローディアさんのちょっと強引な行動にはショッププレイヤー候補探しという目的があったらしい。
「それでさっきクローディアさんかた最低限のラインをクリアしったていうのは......」
「王があなたの実力を認めたということです。 まだまだ詰めの甘いところもありますが」
「うへぇっ......厳しいねスタークスさん」
厳しめの評価に苦い表情をしてしまう。 思い返せば砲戦ユニットをもっと活用したり防御ばかりでなく回避行動を取ったりと課題が山盛りだ。 しかもそれは自分から見ての評価であり、第三者から見れば更に課題は増える。 考えると頭が痛い。
「これから鍛えれば済む話ですからあまり気にしないほうがいいですよ。 アナタは自分のアバターについての知識も不足していますからね」
スタークスさんはポケットから小さな端末を出し、スイッチを入れる。 端末のレンズ部分もから出力された光がホロウィンドウを形成する。 暫くタップやスライドを繰り返し忙しく画面を変え、やがてあるページを表示し口を開いた。
「———Forceタイプ。 攻撃系スキルカードの使用が一切不可能になるのと引き換えに豊富で強力な固定スキルを持つCWXシリーズを装備できる唯一のアバターです。 魔力量は低く、各装備に設定された”バッテリー”で戦うかなり特殊なアバターですね。 ご存知でしたか?」
「うん。 だいたいストライクカノン......デバイスから説明は受けてたから。 どの武器がどのくらいバッテリーを消費するかとかは知らないけどね」
ストライクカノンから受けたForceタイプの説明とスタークスさんの説明はほぼ同じだった。 魔力というエネルギーで攻撃するファンタジー系アバターのではなくバッテリー駆動でプラズマ砲や粒子砲をぶっ放す科学系アバター。 消費し過ぎると疲労感が発生する魔力と違い、消費量による疲労感を無視してバッテリーが続く限り強力な火砲で攻撃し続けることが最大のメリット。 デメリットはバッテリーは自然回復しないこと、装備の燃費が基本的に悪いこと。
総評、使い難くて笑えない。
「ならあまり心配はいりませんね。 後は経験を積んで把握するだけですよ。 私たちダークマテリアルズがミッチリ特訓しますので一週間もあればランカーと互角程度には戦えます......たぶん」
「あの......俺がダークマテリアルズに入るのってもしかして決定事項?」
「......入らないのですか? 王もレヴィもいるのでアナタが断る理由はないと思いましたが」
その誤解を招きそうな言い方やめて。
「た、確かに入ってみるのも面白いかもしれないけど、うちには手の掛かるぐうたら金髪がいるんだ。 ダークマテリアルズ......ショッププレイヤーになるってことは毎日通わないとダメでしょ? あいつを一人にするのは心配で......坂登るのキツイし」
非常に魅力的な提案だったが、一緒にホームステイしてる金髪を理由にやんわりと断る。 あの地獄の坂を毎日登りたくないという本音は小声で付け足しておく。
「グランツ研究所の美人姉妹」
俺がそんな、
「無防備なレヴィ」
見え見えの餌に、
「癒しのユーリ」
釣られるわけ、
「———王の手料理」
クマぁ......。
◇◇◇
「———では、改めてブレイブデュエルについて簡単に補足説明をさせていただきます。 レヴィそのマフィンは私のです」
「ほうはっはっけー?」
「レヴィ、口の中のもをを飲み込んでから喋らんか」
焼きたてマフィンを持って現れたクローディアさんとラッセルさんを含めて四人でマフィンを頬張る。 料理にホイホイ釣られてショッププレイヤーになったのを一瞬だけ後悔したが、このマフィンを食べた瞬間にそんな後悔は吹き飛んだ。 外はカリカリ中はふわふわ、ほんのり香るバターの香りがまた食欲をそそる。 噂以上の料理の腕前に感動した。
「はぐっはぐっ」
「......説明、してもいいでしょうか?」
「ほっふぇーでふ!」
「うぬもだ! 誰も盗らぬから少し落ち着いて食わぬか!」
頬張っていたマフィンをよく咀嚼し、飲み込む。 息を一つつき、準備オッケーの合図として視線を送ると、スタークスさんの説明が始まった。
「ブレイブデュエルにはパーソナルカード、スキルカード、装備カードの三種類が存在します。 基本となるパーソナルカードには攻撃力のAT、DF、LC......攻撃力、防御力、ライフコストが設定されています。 この値によっては幼女のパンチが新幹線の衝突に匹敵する破壊力になったり、それに耐え得る堅さを持ったりもできます」
「この値はアバターによって大きく異なる。 シュテルのセイクリッドタイプやうぬのForceタイプはDFが高く設定されているが、逆にレヴィのライトニングタイプは低く設定されている。 代わりにライトニングタイプは高い機動力が特徴だ。 数値には表れないステータスがあるというのも忘れるでないぞ」
数値で表示されないステータス......所謂、マスクデータだ。 ソーシャルゲームなどではよくある数字だが、ブレイブデュエルにも存在するようだ。 マスクデータを把握するにはそれなりのプレイ時間を要する。 その過程でドップリと浸からせてゲームの楽しみを浸透させアクティブプレイヤーを増やすのはもはやゲーム業界の常套手段だ。 ブレイブデュエルも他のそれと変わらない。
だが、それがブレイブデュエルだからこそ確実にハマる。
「このゲームのマスクデータ検証か......いやぁ、ネットが盛り上がりそうだねぇ」
「実際盛り上がりってます。 ライトニングタイプ強すぎワロタとかロード・オブ・グローリー産廃乙とかよく見ます。 後者は大抵、王にシバかれて目を覚ましますが」
「我はただロード・オブ・グローリーの潜在能力の一部を使って教育してやっているだけよ」
ロード・オブ・グローリーの詳しい能力は知らないが、ネットの声はともかく二人の口振りから強力なアバターである事は分かった。 後でアバターごとの能力についても聞いてみようと思う。
「はいではスキルカードに非常に詳しいロード・オブ・グローリーのアバターを持つ王にスキルカードについて説明してもらいましょー」
わーパチパチーと声で効果音を作り、スタークスさんがクローディアさんに説明を丸投げした。 「え、我がするの?」と困惑するクローディアさんをスルーして紅茶に手を出し、上品に啜っている。
「むぅ......仕方あるまい。 この我が直々に説明してやろう! トラバース、心して聞くがよいっ!」
「イエッサーっ!」
ノリに合わせて声が大きくなるが、広大な面積を誇るグランツ研究所では何の問題にもならない。 クローディアさんもそれを分かった上でノリノリでカードを数枚ポケットから出した。
「ブレイブデュエルのカードは大きく分けて三つ......その中でスキルカードは更に二つに分けられる。 先のデュエルで我が使ったエルニシアダガーやアロンダイトなど任意のタイミングで発動させれるアクティブタイプと常に発動状態になっているパッシブタイプの二つだ」
「あ、砲撃とか誘導弾とかぶっ放すだけのゲームじゃないんだね」
「それでは戦略の幅が広がらぬからな。 パッシブタイプのスキルがあってこそのブレイブデュエルと言えよう。 例えばこのシュテルが多用する《アンチマギリングスキン》。 これは常時魔力によるダメージを五パーセントカットするスキルだ。 大抵のミッドスタイルはこれに泣く羽目になる」
ピンク色のビームが半透明の膜に弾かれている絵の描かれたカードには左下に小さくパッシブのPのマークが記され、もう一枚のカードの左下にはAと記されている。 アクティブとパッシブのカードはこの表記で判断しろということか。
「つまりそのパッシブタイプってやつが補助系スキルってこと?」
「良い質問だ。 今の説明を聞くとパッシブタイプ=補助スキルと考える者が多いがそれは間違いだ。 ちゃんとアクティブタイプの補助スキルも存在する。 しかもアクティブはパッシブタイプに比べ強力な効果を持ったものが多い......ただし使い所が難しいぞ」
常時発動のパッシブタイプに比べて自分の判断で発動するアクティブタイプはいつ使用するかの判断が難しい、という意味だろう。 戦況ごとに最適な判断を下し強力な補助効果で一気にカタをつける上級者向けスキルになりそうだ。
「アナタのアバターは攻撃系スキルカードを使用できないので、いかに補助系スキルを使いこなせるかが勝敗の鍵を握るでしょうね」
「今から考えるだけで気が重い......なんでこのアバターを当てちゃったかな俺は」
「運命というやつですね。 ドラマチックな展開は嫌いではありません」
......ドラマチックなのかなそれ
「では最後の装備カードについてだが———」
「ハイハイハイ! ハーーーイ! その説明、僕がやるーっ!!」
「ではレヴィ、お願いします」
「え? 我の出番終わり? 振っておきながら終わりなのか!?」
クローディアさんのスキル講座が強制終了し、今度はラッセルさんの装備講座が始まった。
「装備カードっていうのは僕たちの持ってるデバイスとはまた別の武器のことなのさ! 種類は剣、斧、銃とか! 他にもいっぱいあって、戦いの幅を広げるには持ってこいのカードなんだよ! トラにゃんにはスキルカード以上に大切になるかもしれないからちゃんと使い方を覚えなきゃめっ、だから!」
「CWX”シリーズ”て言うくらいなんだから他の武装もあるもんね。 うぅ、余計に扱いが難しくなる......覚えきれるかなぁ」
「だーいじょうぶっ! 覚えるまで僕達がみっちり教えてあげるから! トラにゃんならできるよっ!」
日曜の朝七時から始まる戦隊物のポーズをとって無邪気に笑う姿を見ると、なんだかやれそうな気がしてきた。 人の笑顔は見てて気持ちの良いものだが、ラッセルさんのそれは更に相手に元気を与えてくれる。 学校で一番の人気者たる所以は間違いなくこの笑顔だ。 一緒にいるとどこまでも頑張れる、はず。
「———僕たちと一人一人と一日十回ずつ戦えばすぐだからさっ!」
ごめんちょっとそれは頑張れない
「素晴らしい特訓メニューです。 善は急げと言いますし、早速実行しましょうか。 行きますよ、カイナ」
「あ、決定事項ですかそうですか......ん? スタークスさん今なんて?」
「名前を呼んだだけですが、何か問題でも?」
「も、問題は無いけど......」
つい先程までアナタと呼ばれていたのに急に下の名前で呼ばれれば驚かずにはいられない。 色々な意味で心が揺れてしまった。 少し恥ずかしがる俺を見てスタークスさんは首を傾げながら言う。
「同じチームの所属になったので試しに呼んでみたのですが......やはりトラにゃんの方がいいと?」
「あ、カイナでお願いします」
スタークスさん、見た目に反して茶目っ気たっぷりである。
「分かりましたよ、カイナ。 では私達の呼び方も変えてもらいましょう。 クローディアさんから王へ、ラッセルさんからレヴィへ、スタークスさんから———シュテルンへ」
「了解! 王様にレヴィにシュテルンね———シュテルン!?」
スタークスさんの呼び方だけ何故かニックネームになっている。 しかもラッセルさんしか使っていないものだ。
さ、流石に恥ずかしい......普通にシュテルと呼ばせてもら———
「王、レヴィ。 カイナの私達の呼び方はこれでいいですね?」
「......うぬがその名で呼ばれても良いのなら好きにすればいい」
「もっちろん! 僕以外にもシュテルンて呼ぶ仲間が増えるのは大歓迎だよっ!」
「はい決定しました。 これからはシュテルンと呼んでもらわなければ反応しませんのでご了承ください」
......呼ばせてもらえなさそうだ。
「スタークスさーん?」
「......」
反応無し。
「シュテル?」
「......」
反応無し。
「シュ、シュテル......ン?」
「はい、何でしょうか」
そしてこの笑顔である。
「ああなってはシュテルは聞かんぞ。 諦めろトラ......カイナ」
「あはは〜っ、トラにゃん頑張れ!」
「......そうするよ、王様、レヴィ」
こうして俺はクローディアさんを王様と、ラッセルさんをレヴィと、そしてスタークスさんをシュテルンと呼ぶことが決まったのであった。
......同時に学校でシュテルンとの接触時には周りに気を付けようと思う。
ストーリーが動くのは次回から......のはず。