太陽が東の山脈の上空に登った頃、《グラス》は朝食の準備をしていた。
準備とはいっても、肉を焼くだけの簡単な作業だ。
雑に切り分けられ、串に貫かれた肉の塊が、火に炙られて美味しそうに肉汁を垂らしている。
香ばしい匂いを漂わせ、頃合いになった肉に手を伸ばした《グラス》のもとに2人組の男女が現れた。
「うわっやべぇ人がいる」
「ばかっイエヤス! だから止めなさいって言ったのに、関係ない人を巻き込んじゃったじゃない!」
どうやら特級危険種のワイバーンの群れに追われているようで、随分長く戦い続けていたのか2人共既にボロボロで疲弊しきった様子だ。
ワイバーンの群れを見ても逃げようとしない《グラス》に気づいた2人は忠告の声を上げる。
しかし、その逃げろという声を無視した《グラス》は最初に喰らい掛かって来たワイバーンを受け止め身じろぎをする事も無く、地面へと叩きつけて押さえ込んだ。
ワイバーンの羽ばたきによって砂埃が付いてしまった肉を見て眉をしかめた《グラス》は残りのワイバーンも殲滅してしまうことにした。
鬼具を引き抜き、力を解放する。
突如、場の空気が切り替わり、殺気に似た気配が辺りに振りまかれる。
先ほどまでのほのぼのとした様子は全く見られず、ただその場に佇んでいるだけでも強烈なプレッシャーをワイバーン達に与えている。
つい今さっきまで逃げ回っていた2人だって別に弱いわけではない。《グラス》の様子を見て、数が多く、切りの無かったワイバーン達を圧倒出来る、自分たちよりも遥かに強い実力者だと気づく。
「凄い、あの人相当強いよ」
「ああ、そうだな」
すぐに2人は逃げようとしていたのを共闘する動きへと切り換える。お互いに声を掛けて素早い状況判断を見せた2人に少し関心を持った《グラス》。
強者独特の雰囲気を纏った《グラス》は鬼具を振るい嵐を吹き起こした。
「切り裂け!!」
鬼具によって起こされた嵐によって見えない風の刃がワイバーン達を切り刻む。
2人の手助けを必要ともせず一瞬で勝負を決め、飛んでいたワイバーン達は力を失い地へと墜ちて来た。
地響きを立てて全滅したワイバーン達を唖然とした様子で見ている2人を余所に、《グラス》はもう一度1から朝食作りを始めた。
◆◆◆
「ワイバーンを片手で押さえ込むなんて、凄いですね!」
「助かりました、ありがとうございます」
肉を焼いている火を挟み、《グラス》と向かい合って座っている2人。
男女の名はイエヤスとサヨといい、ここにはいないもう1人を含めて仲のいい幼馴染らしい。
帝都で兵士となって出世し、故郷の村にいっぱい仕送りするために3人で村を出たのだが、道中、夜盗の襲撃にあって1人はぐれてしまったと説明するサヨとイエヤス。
重税によって村を捨て、野盗に成り下がる者は決して少なくない。村ぐるみで野盗になる者達も多いので、質はともかく数だけならこの国にいっぱいいる。2人を襲ったのもそんな賊の一つであろうと《グラス》は考えた。
「あいつが一番うっかりしているから心配なんだよなぁ」
「そうね、騙されやすい性格しているし……1人でも生活していけるだけの腕はあるから大丈夫だとは思うけど……」
話しているうちに、丁度良く肉が焼けてきた。
再び、美味しそうな匂いが辺りに漂い出す。
早速遅くなった朝食を再会しようとする《グラス》に、ゴクリ、と音を立てて唾を飲み込んだイエヤスが飯を分けて欲しいとお願いする。
「コラ! イエヤス! 助けてもらった上にご飯まで──」
慌ててサヨが注意しようとするが、タイミング良く、クゥ、と可愛らしくお腹のなる音が聞こえた。
顔を真っ赤にして俯き、黙ってしまったサヨに苦笑し、《グラス》はイエヤスとサヨに焼けたばかりの肉を差し出す。
「よっしゃ! ありがとうございます」
「すみませんレッド・キャップさん。……いいんですか?」
頷く《グラス》はおかわりも用意してあげる。
「東方には“袖振り合うも他生の縁”って言葉があってね。こういうちょっとした出会いは大切にするものなのさ」
「「ありがとうございます」」
気前の良い《グラス》に感謝し、遠慮なく食事を続ける2人。
《グラス》自身も食事を再会する。