鬼達が斬る!(仮)   作:小鳥遊 虹

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第6話

 エスデスに蹂躙された北の地で、勇者と呼ばれて常勝無敗だった王子が敗れ、自国の要塞都市も落ちて尚、各地で抵抗を続けて蠢く者達がいた。

 リーダーは10代後半の少女。ヌマ・セイカ王子と共に上位の指揮官が全滅した為、判明している生存者の中で一番階級の高かった彼女が指揮を執ることになったのだ。

 エスデス軍の兵士達の目を避けて潜み、仲間を囮にして襲撃を掛けては即行で撤退する。勘のいいエスデスによって被害は尋常では無いが、それでも少しずつエスデスにもバレないように南東に向かって生き残り達を逃がしていた。

 エスデスに捕まった同胞(どうほう)達の凄惨な悲鳴から耳を背け、ただひたすらと南東を目指させる。

 北方異民族のリーダーは既に戦いに勝つことより、如何(いか)にエスデス達から仲間の命を1つでも多く救えるかを考えていた。

 

「リーダー、作戦終了しました」

 

「……結果はどうだった?」

 

「南西で囮をやった者達は全滅、北から襲撃を掛けた者達は指示通り一回攻撃したら即撤退、逃げる時は2人1組でバラバラに散ったのですが、それでもエスデスとその配下によって半数が捕まりました。南東への逃走は今のところ順調です。まだエスデスにもバレていないようです」

 

「そう。……必要な犠牲だと分かっていても、嘘で塗り固めた説明で同胞達を死地に追いやるのは心苦しいわね」

 

「堪えて下さい。我々2人を除けば誰一人本当の作戦を知らないが故にエスデス軍は民が南東に逃げているのに気付かず、我々が北へ北へと移動しつつ徹底交戦を企んでいると信じるのですから」

 

「もう少しエスデスを北に引きずり込んで置きたいわね」

 

 溜め息を吐いた北方異民族の生存者を束ねるリーダーは大きく伸びをすると次の手を考える。

 失敗すれば全滅の無駄死に、成功しても犠牲者が多数のこんな稚拙な作戦でもやらなくては誰も生き残れない。

 北方異民族の民がどれだけ生き残れるかはまだ20にもならない少女の行動にかかっていた。

 

 現在、少女は北方異民族の民に北でエスデス軍と決着をつけるという共通の情報と本来の目的を隠す為、共通性の無いバラバラの行動を取らせる指示を出していた。当然無駄な犠牲を避ける為にそれぞれお互いの情報は教えていない。

 それと同時に取り引きのある東方鬼々に南東への脱出に成功した者達の回収と事情の説明を任せていた。

 大規模作戦を成功させる為、後から合流した上位の部隊も指揮下に取り込んでいた。エスデスをできる限り避ける為に全員身を潜め、情報を徹底的に伏せているから出来たことだった。

 

「それじゃあ、そろそろ東の戦線も動かしましょう。まだ残っている人達はいる?」

 

「エスデスと遭遇していない部族で抵抗しているところが1つ、残りは降伏したようです」

 

「そう、ではその部族に北に集結すべく北東に移動するように伝えて。物資はこっち持ちで良いわ。……どうせ全滅するんだし」

 

 少女が地図を眺めながらもう一度口を開いた時、別の部下が部屋に駆け込んで来た。

 

「失礼します!帝国の鬼が来ているのですがどうしますか?」

 

「丁度良いわ、通し「邪魔するぜぃ」……」

 

 少女が部屋に通せと言う前に東方鬼々の鬼は勝手に部屋へ入って来た。元々自分勝手な者が多い東方鬼々の幹部らしい態度だった。

 

「お前らいちいち拠点をちょこちょこ変えるから探すのに苦労していけねぇ。せめて何処にいるのか情報をよこせよ」

 

「それで場所が漏れては意味が無いわ。わが国最強の勇者が勝てなかった敵を相手にしていることを理解して頂きたい。現に2度程拠点のあった場所が襲撃を受けているわ」

 

「カァー!!弱い奴は大変だねぇ、クマ・ケイサ殿?」

 

「あなた達の助力には感謝している。しかし、こちらの行動にまでは口を出さないで貰おうか、一目鬼(サイクロプス)殿」

 

 一目鬼(サイクロプス)には悪気が一切無いのだが、そのおちょくるような口調がクマ・ケイサの苛立ちを誘う。

 睨み付けるようにして抗議するクマの様子に肩をすくめたサイクロプスはヒラヒラと両手を振って降参のポーズをとる。

 

「おぉ、怖い怖い。まぁこっちもエスデスに捕まった不死鬼(フェネクス)を救わねえとだからな。見つからない程度に助力するぜ」

 

「……では早速動いて貰うわ。これから東の戦線を動かすの。今まで北に集めた兵力を一斉に動かすから、恐らくエスデスは北に来るわ。それと同時に東の戦力を北東に動かすからあなた達はコレを追うエスデス軍を殲滅して頂戴」

 

 クマ・ケイサが机の上に広がる地図を指差して作戦を説明する。

 説明を聞いたサイクロプスが口笛を吹いて上機嫌そうにする。

 

「ヒュー、いよいよ大攻勢って訳だ!!今まで地味な仕事ばっかりで飽き飽きしてたんだ。やっぱり(いくさ)ってのは派手じゃないとなぁ!」

 

「出来ればここで三獣士の1人でも討って貰いたいのだけど」

 

「あぁー、わりぃな。そりゃ無理だ。三獣士はエスデスと同じで帝具使いだ。実力がほぼ俺と同じぐらいだろうから勝てるか分からん。出来るだけ戦闘は避けさせて貰うわ」

 

「そう、ではエスデスの拠点には私たちが攻撃を仕掛けるからあなた達は戦闘後、北東に向かう部族に接触して非戦闘員を回収し、南東の帝国との境目で待機していて頂戴。実行は3日後よ」

 

 説明が終わると用済みとばかりに素早くサイクロプスを追い払う。

 サイクロプスが出て行ったのを確認すると、部下達に拠点を変える指示を出して、再び信頼する部下と2人で部屋に戻る。当然のように地図を指差し、先程話していた作戦とは全く違う作戦を伝え始める。

 

「東の作戦は変えないわ、帝国の鬼共の奮闘に期待しましょう。北はこの地点に一回全戦力を集結させるのは一緒。集結しないとエスデスは動かないでしょうから……一網打尽にすべく、最大戦力で来るはずよ。同時に動き始めた東には部下を向ける筈。集結した同胞達は南ではなく北に進ませなさい。どうせ一瞬で負けるんだから、少しでも接触までの時間を長引かせる必要があるわ。理由は……そうね、北から遅れて来るエスデスに勝てる王子以上の実力を持った援軍と合流する為と伝えなさい」

 

 そこまで話すとクマ・ケイサは腕を組んで考え事を始めた。

 北に集めた兵力をもう一度複数に分けたり、南の生き残りを帝国に攻め込ませたりと他にも複数考えていたのだが、効果が薄そうだと気づいたからだ。

 

「……エスデスの居る場所から集結位置まで2日掛かる。こちらの行動さえ遅れなければ集結した同胞達とエスデス軍がぶつかるまでに半日の余裕が作れる筈。……エスデス軍が北に向かって1日後に南と西の残存兵はエスデスの拠点へ向かって密かに進み、近くに潜伏。2日後に拠点を襲撃するように伝えて」

 

 本来の予定より戦場は北になる。万が一南と西の兵がエスデスの拠点を狙っているのに気づいても、最速でエスデスに伝わるまで1日半、エスデス軍が戻って来るまで1日半掛かり、3日の余裕が出来ると判断した。当然戦場が北になればなる程エスデスが戻って来るのも遅くなる。

 逃げるには充分な時間だろう。

 

 部下が作戦遂行の為に頭を下げてから出て行った後、一人になったクマ・ケイサはその部下にも伝えていない本当の目的をポツリと呟いた。

 

「ヌマ・セイカ王子はまだ生きている。民も最低限逃がせた以上、王子さえ取り戻せばいずれ復国も可能だろう」

 

 敵も味方もだまし尽くした少女の絶対なる忠誠心がそこにあった。




ネタバレ
エスデスとニャウは北へ、ダイダラは東へ、リヴァは拠点防衛の予定。

サイクロプスVSダイダラ
 サイクロプスはダイダラの経験値に。但し、東方鬼々と北方異民族東の民はエスデス軍の撃退に成功。南東へ撤退。サイクロプスの鬼具は回収されずに放置。

リヴァVSクマ・ケイサ
 エスデスも三獣士も北と東に出払っている予定で攻め込んだクマの部隊だったが、リヴァが防衛に残っていた。
 激しい戦闘の末、どちらも重傷を負うが、フェネクスとヌマ・セイカの救出に成功したクマの戦略上勝利。
 予想を遥かに上回るエスデスの帰還を知り、ヌマ・セイカを逃がすべくヌマ・セイカを部下に任せて囮をかおうとするが、部下に気を失わされヌマ・セイカ達と共に南東へ逃がされる。

エスデスVSクマの忠臣
 北の戦線では現場の指揮官がクマの指示を無視して南へと進軍。これによりエスデスの帰還が早まった。
 クマを気絶させて南東に逃がした部下は残っていた兵を素早く回収して南西へと撤退を始めた。(エスデス帰還の情報と実際にエスデスが帰還するまでに半日のズレがあった。)
 エスデスは南西へ軍を進め、撤退する敵兵を全滅させる。(戦力差が圧倒的で戦闘は一瞬なので、心理描写を増やすべき)
 時間稼ぎのおかげで東方鬼々の部隊はクマ・ケイサ達も回収した上で、自分たちの土地に撤退することに成功した。
 南東を中心に捜索していたが(フェネクスも一緒に居なくなった為)、王都から召集が掛かり、エスデスは北の地を去る。
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