経験値を得られるなら別にコイキングからでも構わんのであろう?な話。
いったい自分がどういう状況に置かれているのかさっぱり分からないが、一つだけ確かなことがある。
「コイキングは食える。」
気がついたら薄暗い洞窟の中にいて、目の前でこいつがビッタンビッタンしているのを見たときはあまりの衝撃に蹴り飛ばしてしまったものだが、今となっては大事な大事なわが食卓の主役である。本当に食べてしまって大丈夫なのかとか、ここはどこなのかとか、そろそろ温かい布団とお風呂が恋しいとか、思うところが無いわけではないのだが、とりあえずは食欲優先ということになっている。というわけで今日も自分はコイキングを食べる。いただきます。
自分はポケモンの世界に迷い込んでしまったのだろう、という推論はおそらく間違っていない。しかしながらそれで状況は好転しない。いくら頭を悩ませたところでコイキングに味は付かないのだ。生のコイキングを素でかじる生活はあまりにも味気なく、自分に莫大な疲労感を与えた。塩味がほしい。できたら醤油がいい。俺の中の日本人が叫ぶのである。ついでに自分も叫ぶ。叫ぶのは疲れるのである。まあそれはいいとして今日もコイキングをかじる。
うすうす感じてはいたのだが、この世界にきてからというもの自分には満腹というものが無くなってしまったようである。いくらでも食べられるのだ。しかし美味くもないものをいくら食べても仕方ないだろうとあまり量は食べていない。まあ、それでも一食に一匹は食べるのだが。ああ塩味がほしい。
自分は着の身着のままでこの世界に放り込まれた。スタート地点はこの洞窟である。そして自分はこの洞窟から一歩も出ていない。つまり自分は未だ釣竿を入手していない。それではいったいどうしてコイキングを狩っているのか。それは簡単、奴ら勝手に陸地に上がってくるのである。そしてひとしきり跳ねまわって満足したら水中へと帰っていく。ビッタンビッタンうるさいのでいい睡眠妨害だと思う。もっとも最近はそれでも起きはしないのだが。人間の適応力ってすさまじいものがある。それはそれとして今日もコイキングを召し上がる。
コイキング生活を始めてしばらく経った頃、自分はコイキングを焼きコイキングに出来るようになった。拳から炎が出るのである。何かほのおのパンチっぽい。しばらく前からコイキングをワンパン出来るようになっていたので、自分にも経験値は入ってるんだろーなーとは思っていたのだが、これはうれしい知らせである。うれしくて五匹ぐらい焼きコイキングにした。うまー。
ほのおのパンチを覚えて半年ほど過ぎた頃。自分は自らの中に変化を感じていた。何を隠そう、塩味を欲しなくなっていたのである。ただ焼いただけのコイキングがこんなにもおいしい。塩味が無くても、いやむしろ塩味が無いからこそ美味い、そんな感覚に目覚めたのである。そんな新たな自分の発見を祝し、最近使えるようになったれいとうパンチっぽいアレで保存しておいたコイキングを解凍して、一人焼きコイキングパーティーを豪勢に執り行った。今の自分なら本当の意味でいくらでも食べられそうである。
とうとうかみなりなパンチも習得してしまった。これで三色そろったことになる。しかし黄色は使い道が無い。ほのおなアレはなんだかんだ使い勝手がいいし、こおりのやつはコイキングの保存にとても重宝している。しかしこいつは。まあ別にあって困るわけではないし気にすることでもないので、とりあえずコイキングを食べる。凍りコイキングが最近のマイブームだ。しゃりっとするのだ。
何か青いのが出た。多分ギャラドスだと思う。襲ってきたのでこんがりと撃退してやった。で、腹のあたりをかじってみると筋張っててまずかったのでもう二度と来ないように重々言い聞かせて帰してやった。今日はやけコイキングだ。
最近自分の中で一つの理論が確立されつつある。コイキングは7と8の中間の若干7より割の焼け具合が一番うまい気がする、という理論だ。もちろん他の可能性もまだまだ残されているためこれからも研究は続けていく所存だ。一つのところにとどまり続けては進歩は得られないのだ。というわけで今日は6割と5割の間に挑戦なのである。
あれから半年、自分はどうやら焼きコイキングを極めてしまったようだ。やわらかいのに弾力がある、ぷりぷりなのにふわふわ、ジューシーなのにしつこくない。そんな相反する性質をいくつも兼ね備えたこの世の奇跡とも言えるようなコイキングを自分は焼き上げてしまったのだ。おそらくこれ以上ここにとどまっていても何も得られるものはないのだろう。自分は外の世界に出ていくことにした。コイキングをパシリに使い、いつかのギャラドスを呼び出す。言葉の問題ではない。会話はふぃーりんぐが大事だ。話せば分かるというものだ。自分はギャラドスの背に乗って外の世界へと旅立つのだった。世界は広い。奇跡をも超える究極の焼きコイキング。まだ見ぬそれが必ずあると信じて。
適当な町に乗りつけてギャラドスを解放してやる。呼んだらまたいつでも来るように言い含めておくことも忘れない。自分は究極を求めて世界中を旅する予定なのである。足は大切。
町をぶらぶらしていると声をかけられる。なんでもポケモンバトルがしたいのだとか。とりあえず了承する。今の自分は無一文であるから賞金がほしかったのである。お金があれば今までにない焼き方に挑戦出来るだろう。圧勝した。技を使うまでもなかった。しかし金は手に入らなかった。ポケモンを使わないとポケモンバトルとは言えないとか何とか。納得である。なのでさっそくギャラドスを呼びもどした。そしてアルミホイルを買った。今日はホイル焼きコイキングだ。
金を稼ぐならジム戦が手っ取り早いと聞いた。というわけでジムに突撃する。ジムリーダーはマチス。どうやら自分がいるのはカントー地方だったようだ。まあそんなことはどうでもいいのでさっくり賞金を頂戴して炭火焼きコイキングなのである。
コイキング焼きは外道だと思う。というかあれはコイキングではない。ふっくらとしたコイキング型の生地にさっぱりとしたあんを詰め込んだだけのただのお菓子だ。確かにうまいとは思うし、コイキングをモチーフとするのは大変結構なことだと思うが、やはり形をまねるだけでは本物足りえないということだ。やはりコイキングこそ至高だ。この世の真理を噛みしめながら自分はコイキング焼きを10個ほど追加注文した。美味い物は美味いのである。
ファイャーだ。伝説のポケモンで焼けば伝説においしい焼きコイキングになるに違いない。そんな訳でチャンピオンロードに入る。バッジはもう8つ全て集めてあるので問題はない。サクッとワンパンして作業に移る。浄化の炎というやつなのだろうか、ファイャーの翼で焼きあげられたコイキングからは一切の雑味が消えていた。自分は新たな世界の扉を開いてしまったのかもしれない。ファイャーは持ち帰って研究することにした。
コイキングを焼き、食す。そのたった二つの自分の日常に新たな日常ができた。自分は知ったのだ。究極の焼きコイキングを生み出すためには究極の技術だけでは足りないと。究極の技術、究極の炎、そして究極のコイキング、この三つがそろったとき初めてそれを成すことができるのだと。そんな感じで自分はファイャーに乗って全国を飛び回り炎を探すようになったのである。今日は一万年を生きたと言われる伝説のキュウコンで焼いてきた。コイキングの味の深みの増す不思議な炎であった。これからの研究が楽しみな素材である。
勧誘が来た。なんでも遺伝子組み換えで極上のコイキングを作ろうとか。即座に断った。自分にはそれが邪道に感じられてならなかったのだ。コイキングをコイキングとするものは何なのか。遺伝子を弄ばれたそれが果たして本当にコイキングであると言えるのか。否である。コイキングとはこの世のありとあらゆる自然に存在するその姿を指すのである。そして過酷な環境にいればいるほどうまみが増すのである。
ミュウツーを手に入れた。というのも、この世にコイキングもどきが蔓延ることを恐れた自分が先日の勧誘の元を調べて襲撃したところ、そこは何とロケット団のアジトだったのである。そこでけしかけられたこのミュウツーをワンパンしたところ何かなついたのである。世の中何が起こるか分からないのである。
驚くなかれ、このミュウツーテレポートが使えるのである。おかげでいつでもどこでも瞬く間にひとっ飛びである。自分の探索範囲はカントー、ジョウトを超え、世界を覆った。まだ見ぬ炎よ、グラードンよ、ヒードランよ、レシラムよ。そして世界のコイキングたちよ。待っていろよ。絶対に究極を見つけだしてみせるのだ!
山もなく谷もなく唐突に終わることをお許しください。