クロスアンジュ 儚き竜達への鎮魂歌   作:見知らぬ誰か

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第01話 サヨナラ

 私がマナを使えないノーマだと自分自身で理解したのは8歳の頃だった。

 私の家族が住んでいたのは集落どころか山の中……周りに家はなく、私と父さん、母さんの3人だけの生活だった。

 父さんも母さんも私の前でマナを使おうとはしなかった……どうやら二人共私を守るために私が生まれて早々に自分の両親や社会と縁を切り山奥の家に引っ越してきたようだ。

 ある日の夜、私は両親の話を聞いてしまった……それが8歳。

 まだまだ幼い私だったが両親が私のために無理をしていたことが分かった私は両親から習った字で手紙を書いて家出した。手紙の内容は以下のとおり

 

『愛する父さんと母さんへ

 

 私のために無理をしてくれてありがとう。そして無理をさせてごめんなさい。

 私は父さんと母さんのために出て行きます。どうか私のことは忘れて幸せに暮らしてください。

 こんな馬鹿な子供でごめんなさい。生まれてきてごめんなさい、迷惑かけてごめんなさい。

 だから、どうか幸せに

 

2人の娘、レナータ=レーンクヴィスト』

 

 家出した後は家からも見えた村に行きお堅い服を着た人に声を掛けた。私も傷つきたくは無かったから。

 

「あの……」

「どうしたんだい?」

 

 その人は優しそうな顔で私にそう聞いた。

 

「周りに聞かれたくないこと……だから……」

「……? ああ、分かったよ。おいで」

 

 私はその人に手を引かれ、着いたのはいかにもお役所的な場所。その中にある個室だった。

 

「それで、聞かれたくないことって?」

「ノーマ」

「ノーマについて聞きたいの?」

 

 私はそう聞かれて一度考えなおし言った。

 

「マナってどうやって使うの?」

「ああ、たまに居るからね……マナの使い方を教えない親が。よく見てるんだよ?」

 

 そう言ってその人は「マナの光よ」と言って右手に緑色に輝く玉を作り出した。

 

「こうするんだよ」

 

 私はその玉を見て……そして右手を伸ばし、触れた。

 

パリン

 

 そんな音を立てて輝く緑色の玉は割れた。

 

「私はノーマ、どうすればいい?」

「え……お、親は?」

「お父さんとお母さんは私を守るために山奥に住んでた。私はノーマってりかいした時に家を出た。だから、居ないよ?」

 

 その人はとても驚いていた。何に驚いていたのかは分からない……けど、その人はすぐに聞いてきた。

 

「名前は?」

「レナータ=レーンクヴィスト、8歳」

「……ノーマ管理法第一条第三項に基づき君を第1194-34ノーマとして認定する……辛かったろう?」

「お父さんとお母さんに比べれば……まだマシ……」

「強いんだね、君は」

 

 私は、その人に「最期の人の世界を見てからこの世界からサヨナラしよう」と言われてその日、夜まで最期の世界を見た……人の赤ちゃんがノーマとして認定される瞬間も。

 

「醜い」

 

 私はノーマを見る人の姿を見てそう小さく口にした。

 なんと醜いことか……大して人と変わらないノーマを侮蔑の目で見る人の姿はまだ純粋だった私の目にはそう映った。

 そして、その日の内にノーマ収監施設アルゼナルへと送られて、ノーマとしての生活が始まった。

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

「この子が親に黙って出てきたノーマかい」

「そのようです」

「名前は?」

「レナータ=レーンクヴィストだそうです」

 

 私はややくすんだ金髪を持つ女性と紺色の髪の女性の前に立っていた。服は着てる、まぁ……母さんの手作りだけど捨てられるのがオチかな。

 

「守ってくれた親を裏切ってまで此処に来るとはねぇ……」

「親のことを考えてノーマとして出頭したらしいです。元いた世界に未練は無いようです」

「未練が無いんじゃなくて……親のために来ただけ……」

 

 二人共関心したような顔をして笑った。

 

「とてもいい親だったみたいだね」

「マナが使えない故に初等教育は受けなかったようですが親から生活する上で必要なことは教わっているようです」

「……しっかりした親だ」

「私みたいなのを産んで、不幸になるなんて可哀想」

 

 再び2人はフフッと笑った。何が可笑しいんだろう?

 

「ノーマでここまで親思いなのも珍しいもんだねぇ……」

「そうですね。では、もろもろのことをしますか」

「身体的にはデータ上は?」

「特に問題なし、とても健康ですよ」

「服はどうする」

「一度こちらで回収後、返還という形に――」

「――返さなくて良い」

 

 今度は驚いたような顔の2人。

 何か微笑ましいものを見る顔はなんだか両親に近いものを思い出させた。

 

「辛いんだろう? 好きだった親と離れて」

「8歳の子が判断することじゃ無いですからね」

 

 気付けば目から涙を流していた……ああ、悲しかったんだ……私。

 

「分かった、服は回収した後処分する。監察官殿、制服を」

「はい」

 

 監査官と呼ばれた女性は袋に入った服を渡してきた。

 

「これがここでの服です」

「ん………………」

 

 私はそれを受け取り、袋から出すと来ていた服を脱いでその制服に着替えた。

 脱ぎ捨てた服を見て……私は言った。

 

「マッチとタライ貸してください」

「何するんだい?」

「私の手で処分します」

 

 再び驚いたような顔……くすんだ金髪の女性がマッチとタライを持ってくる。

 私は監察官を見て聞いた。

 

「検査はしないの?」

「毒物なんて無いでしょう?」

 

 私はコクリと頷いて服を手に取ると片手でマッチに火を付け服に近付けた。

 涙で視界が歪んで見難かったがそれでもマッチの火を服に近付け燃やした。徐々に赤く黒くなっていく服をタライに落とし、その様子を静かに見守る。

 

「ぁ……………………」

 

 全て燃えて灰になった時、私の心からナニカがフッと消えたような感覚がした。何か重いものを背負っていてそれが消えるような感覚……

 

「時間を取らせてごめんなさい……」

 

 私は制服の入っていた袋に燃えた灰を入れてタライとマッチを返した。

 

「その灰、どうするつもりだい?」

「どこか適当な場所に埋めます。私の心だったもの」

「レナータ=レーンクヴィスト」

 

 金髪の人にそう呼ばれてその人のほうを向く。

 

「お前は今からレナだ。いいね?」

「まるで愛称」

「そんなものだ。ここでの名前なんて」

「はい」

 

 私がそう返事をすると金髪の人が言った。

 

「私はジャスミン、ここアルゼナルの司令をやっている。近いうちに変わるだろうがね」

「監査官のローザ・ランプレヒトよ。ローザ監察官殿と呼ぶように」

「分かりました、司令、ローザ監察官殿」

 

 ローザ監査官殿はよろしいと頷くと言った。

 

「あなたにはまずここでの教育課程を踏んで貰います」

「4年で実戦……案外酷な話だ」

「教育課程……ですか」

「ここでの教育という話です。一般教養などではないのですぐに終わるでしょう」

 

 何を勉強するのだろうか……まぁ、そのうち分かるかな……

 

・―・―・―・―・―・―・―・

 

 次の日、早速初等部の子達と教育課程を行っていた。

 

「Dimensional Rift Attuned Gargantuan Organic Neototypes(次元を越えて侵攻してくる巨大攻性生物)という通称『ドラゴン』を迎撃・殲滅し人類の版図を守るのがこのアルゼナルとノーマの任務です」

 

 私は液晶モニタを見ながら説明されることを聞きながらその内容を理解していった。

 

「ノーマはドラゴンを殺す兵器としてのみこの世で生きることを許されているのです。そのことを忘れず、しっかり戦いに励みましょう」

『イエス・マム』

「これから私達は――――」

 

 そこからは比較的どうでもいい話だったので聞き流した。多分一番最初のを理解してれば十分だろうし……

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