アルゼナルへと送られてから早4年、私は12歳になっていた。
12歳になると一部のノーマはパラメイルを駆るメイルライダーとなりドラゴンを狩る任務に就くことになるらしい。
「メイルライダー志望か」
2年前に変わった司令官のジルに志願書を提出して言われたのがそれだった。
「別に深い意味は無いが何故だ?」
「深い意味が無いなら何となくと答えます」
司令官はフム……と言って志願書から頭を上げた。
「メイルライダーはアルゼナルの中でも損耗率の激しいところだが……覚悟はあるのか?」
「パラメイルに乗ってドラゴンを狩る……楽しそうだから、楽しみに危険は付き物ですし大丈夫です」
司令官は私の返事を聞くと大きな声で笑い出した。
「クハハハハハ! こりゃ傑作だ」
何やら面白いものを見るような目で私に言う。
「良いだろう、レナ。お前の志望通りメイルライダーとして任務について貰う。詳しいことは明日説明する、下がっていいぞ」
「了解しました」
私は右手を人差し指と中指だけを伸ばして頭に掲げる形の敬礼をすると司令室から退室した。
司令室を出るとそこには此処に来てから何かと縁のあるジャスミンが立っていた。
「志望書を出してきたのかい?」
私はコクリと頷いた。
ジャスミンは少し目を閉じて何かを考えるように少し唸ると目を開いて言った。
「メイルライダーに志望したんだろう?」
「なんで分かったの?」
「ここに来た時からアンタのことはよく見てる。その経験からさ」
流石は元司令官で今はアルゼナルの商店とも言えるジャスミンモールを一人で仕切っている人だ……観察眼だけは鋭い。
「パラメイルを改造するときは私に良いな。結構な額は取るがパーツを売ってやるよ」
「レナジャスレートは有効?」
「勿論有効だ。私が勝った時はツケにしといてやるよ」
レナじゃスレートは私がジャスミンモールで何かを大金はたいて買うときに使うジャスミンとの値段交渉勝負でポーカー1回勝負のことだ。私が勝てば値段を半額に、ジャスミンが勝てば倍額にするハイリスクハイリターンの勝負だ。過去にやったのは2回……どっちも負けたが……あれ以来イカサマの技を磨いてきた……今度は負けないはずだ。
「ありがと」
私はそう言って自分の部屋の方へと戻った。
・―・―・―・―・―・―・―・
次の日、朝早くに私への細かい連絡がされた。
通達内容は次の通り
・私をメイルライダーとして第1中隊に配属する
・今回の新人メイルライダーは私一人のみ
他にもあったが、これぐらいだな。
そして私は今、司令官とともにシミュレータ室で入隊式を行っていた。
「司令官に敬礼!」
隊長と思しき人の掛け声で第1中隊の全員が司令官に敬礼をする。
ここにいる司令官と自分以外の全員はライダースーツ(長時間の行動と排泄の利便を考えて胴体部前面と臀部が露出しているもの)で頭にバイザーをしている……これがメイルライダーのパラメイルを扱うときの服装らしい。
「あとは任せたよ、ゾーラ」
「イエス・マム!」
多分隊長(と思われる人)がそう答えると司令官はここから居なくなった。
え、連れて来るためだけに司令官動いてたの……? 他の下っ端にそういうの任せても良くない?
シミュレータ室のドアが閉まる音がすると全員が敬礼で挙げていた腕を下げた。
「死の第1中隊へようこそ。隊長のゾーラだ」
そう言って近づいてきた隊長の私の尻に向かった左手を私はクルリと回り握手するように左手で握った。
「よろしくお願いします。ゾーラ隊長」
他の中隊メンバーが「おぉ~」と声を上げる。私は何かしたんだろうか?
「状況判断能力、反射神経はいいようだねぇ……副長、紹介しな」
そう言って見ていたのは黒髪ツインテールの人……副長さんらしい。カラーリングは水色?
「イエス・マム。第1中隊、副長のサリアよ」
「よろしくお願いします」
副隊長さんはサリア……さん。心が読めるのかね、この人。
「こちらから突撃兵のヴィヴィアン」
「やっほ!」
「ヒルダ」
「テキトウによろしく」
ヴィヴィアンって方がピンク色のちんまいの、ヒルダが赤……ヴィヴィアンは髪がオレンジっぽくてヒルダは真っ赤……ここの人って髪が特殊な人多い。
「軽歩兵のロザリー、重歩兵のクリスとエルシャ」
「よろしくな」
「よろしく……」
「よろしくね」
ロザリーが黄色髪はオレンジ、クリスが銀髪の緑、エルシャがオレンジのピンク髪……胸でかい。
……って、なんで既存メンバーが先なんだ?
「たいちょ、たいちょ」
「何だ、新米」
「普通新米先じゃないですか?」
「状況適応能力も高い、普通以上の一般常識もある……マナを使えない不良品と呼ばれるノーマの中では優良品だな」
「もっとも差別意識が高いのはその差別を受けている側……というのは本当ですね」
隊長は大きな声で笑い始めた。他の隊員は苦笑いだったが……
「面白いなぁ、お前。一般常識があるんじゃなくて知識量豊富なんだな」
「ルームメイトからは本が多すぎて頭が痛いと言われてます」
大概は哲学書とか文学小説だけど……歴史本もあるか。
あれよあれよと言う内に増えに増え続けて今では百冊超えた……ジャスミンに処分を頼もうにもキャッシュが掛かる……現状本棚では足らずに積んで積んでという状況。メイルライダーに志望したのは実入りが良いという話だからだ。
「こうやって雑談するのもいいがやることもあるからな。自己紹介しな」
「レナと言います。趣味は読書、よろしくお願いします」
礼をして顔を上げるとさっきまで顔の左側に掛かっていた髪がズレて左目にヤッたものが全員に見られる。
ペンタクル(五芒星形)のタトゥー
何となく入れてみたものだったが案外気に入ったのでそのままにしているものだ。
「品行方正な中身のくせに左目のそれとは……チグハグ感がまたイイなァ」
また尻を揉もうとする隊長の手を引っ張り、脚を掛ける。
「おっと」
存外運動神経は良いようで転びそうな姿勢からしっかりリカバリしていた。
「すいません、余り好きじゃないので」
「此処にゃ男は居ないからねぇ……人によってはそういう方向に目覚めちまうのさ」
「悪いとは言いませんが程々にお願いします」
結構この隊長さんいい人だ。上官に対してやってはいけないことをやっているのに特に何も言わない……スキンシップ程度の考えなんだろうけどそれは親密になろうとしていることだし……
「ま、レクリエーションもここらへんにして……サリア、コイツを預ける色々教えてやれ」
「イエス・マム」
「まぁ、流して教えるだけでも問題とは思うがな」
「隊長さん、そんな過剰評価しないでください」
まるで私の言ったことなど聞いていないような調子で続ける。
「皆、期待の新人と仲良くな」
頼むよ、話を聞いてくれ……
「サリアは新人教育、他は訓練だいいね」
「「「「「「了解」」」」」」
「では、掛かれ」
『イエス・マム』
私の教育係になったサリアを除いて各個にシミュレータに入る。
「こっちよ、レナ」
「はい」
私の返事を聞いて少し苦い顔をするサリア……なんだろうか……
「それ、素じゃないわよね」
「仮にも上官ですし」
「……ここでは自分のままの方が良いわよ。猫を被る必要なんて無いわ」
「はーい」
サリアは1つ息を吐くと「こっちよ」と言ってシミュレータ室から出た。
「何をするので?」
「更衣室に行ってライダースーツに着替えて貰うわ」
着いたドアを開けると複数のロッカーがあり、サリアはその中からいくつかのロッカーを開けて確認し1つ引っ張ってきた。
「これで良いかな」
出してきたのは灰色のライダースーツ……内側には『LIZA』のワッペン、そして……
「赤いの付いてない?」
「ああ、前の持ち主の……死んだわ。確か一昨日」
わぁー……なんつー恐ろしい場所だろうか……持ち主亡くなったのもつい最近て……
「嫌なら新品買って」
「別に良い」
私はワッペンを剥がしそれを着た。
・―・―・―・―・―・―・―・
場所変わってシミュレータの中。私はバイザー付けてパラメイルの説明を受けていた。
「これが機体を操作するスロットル、火器関係を操作するスイッチにトリガ。こっちが機体の状態や電装系のチェックが行えるインジケータ」
「パラメイルそのまま何ですか?これ」
「一部は違うけどだいたいそうね」
サリアが居なくなってバイザーからの通信に切り替わる。
『――最初から出来る訳はないからまずは飛ぶ感覚を叩き込んで』
「あい、了解」
――各部チェック、問題なし
――プリナムチャンバーのチャージ確認
――アレスティングギアリリース
――リクエスト、コンフォームド
『ミッション07、スタート』
始まった瞬間、シミュレータに表示された風景が後ろに流れ始め、顔に風が掛かる。
「うゎ……凄い……」
上昇、旋回……それらを凄い速度で行うパラメイルのスペックの高さが伺える。
『案外、怖がってないのね』
「アルゼナルに来る前は山の中で暮らしていたもので……川では似たような感覚が……」
『子供のするような遊びじゃないわね』
風が気持ち良いね……偽物だからちょっと嫌だけど……
『急降下訓練を開始するわ』
唐突に下がる機首……速度がどんどん上がり地面が近づいてくる。
私はスロットルを引いて機首を上げて地面に激突するのを回避する。急降下は結構怖い……けど、なんか面白い。子供の頃の川での遊びの比じゃない!
「面白いね! これ!!」
自動操縦が無くなると私は自由にスロットルやレバーを操作し、パラメイルを操る。
急上昇、急旋回、宙返り、後ろ流しながら旋回……自由に空を飛ぶような感覚……自分の動かしたいように機体が動く……!
・―・―・―・―・―・―・―・
パラメイルの訓練が終わった後、中隊員全員でシャワー室で汗を流していた。
「なかなかにやるじゃないか、新米」
「レナですよー隊長殿ー」
冷たいシャワーを頭から被り体を冷やす。
5秒程度だが……やり過ぎるとショックで気を失ったり最悪死ぬためそれが限度。温かいシャワーに切り替えて浴びる。
ふとシャワー室の向こうが気になってサリアに聞く。
「あっちの空が見えてる方にドアあるけど何?」
「お風呂ね。湯が張ってあるのよ」
「あったんだ」
私はシャワーを止めてお風呂の方へ向かう。
「おや、新米はフロの方が好きかい?」
「こっちのほうがゆっくり出来るので」
私はドアを開けて湯を一度被ると風呂に浸かった。空が見えるようになっており、結構な絶景だった。