ハァッ、ハァッ、ハァッ、と肩で息をしながら自転車を全速力でとばす。口の中が渇き、痰が絡まる。もう何度目か分からなくなったふくらはぎの「つり」をやり過ごし、再び全力でペダルを漕ぎ回す。
クソッ! なんで、なんで今日に限ってこんな事に!
足をつった回数の何倍も多く、同じセリフを頭の中で叫んだ。女の子が5人の不良に囲まれたら・・・なんてことを想像するだけで、胸の辺りが引き締められる。だが、今の自分に出来ることはただ一つ。なんとかして、エイブリーを無事に助け出す。そもそも、何事もあってはならないのに、何かがあってからじゃ遅すぎる!!
とにかく、自分の両足を全力全開で動かすことだけに、意識を集中させるんだ。
〈と、意気込んでいるところ悪いのですが、貴方の言う『なんとか』とは、具体的にどうするのですか?〉
この声は・・・神様か。頭の中に直接話しかけられるのって、何だか気持ち悪い・・・
(すみません、状況が状況なので、心の中で喋るだけで良いですか?)
〈ええ、構いませんよ。貴方はそのまま、貴方のしたい事をしていて下さい〉
いきなりの事で少し驚いたが、声を出さずに言葉を喋る・・・丁度、本を読む時に、『書いてある文字を読む=それを自分の中で言葉として発音し、その音を脳が聞く』ような、そんな感覚で神様と意思疎通をする。
そんな事をしている場合ではないのかもしれないが、無視できなかった。
〈では本題に入りましょう。貴方が助け出そうとしているエイブリーさんの身柄を拘束しているのは、男性5人。それも、各々喧嘩にそれなりの自信があるようですそれぞれに得物もあります〉
〈そんな人達をたった一人の高校生が『なんとかする』などと、無謀にも程があります。貴方は物語の主人公でもなければ英雄でもヒーローでもありませんし、特別な能力もありません〉
(ーーーそんな事、自分が1番よく分かってますよ)
〈分かった結果の行動が、それなのですか? 愚かですね〉
(・・・・・・)
(それでも自分は、今こうしなくちゃいけないんです)
〈えぇ。逃げ道を作るには最善の方法です〉
『逃げ道』という言葉に少し引っかかったが、話の芯に迫る為に会話を少し加速させる。
(・・・既に結果は決まっている、と言いたいんですか)
〈まぁ、そんなところですかね〉
別に俺も、これから俺が対当しなければならない相手のことを考えていない訳じゃない。頭の片隅で色々と策を練っていたのだが、何一つ良い案は浮かばなかった。
〈自分一人ではどうにもならないのが分かっているのに、エイブリーさんの所へ行ってどうしようというのです?〉
(向こうに着いてから考えます)
〈そんなことでは、とても間に合いませんよ〉
(・・・神様は何をする為に俺にこんな話を?)
神様の話の流れが掴めず、真意を問う。
〈そうですね・・・貴方の覚悟を確かめようかと〉
ーーー覚悟、か。簡単そうで、難しい言葉だ。
・・・確かに難しい言葉なのだが、神様は俺の結果が決まっていると言っているのに俺の覚悟を確かめて、どうするつもりなんだ?
一瞬そんな疑問が頭をよぎったが、すぐに消え去った。
〈まさか、『最悪の結果が変わらないから』と、せめてその場で自分の成せることを成し、少しでも責任や負い目を軽くする為の『免罪符作り』をするつもりなのでは?〉
あぁ、そうか。神様が言った『逃げ道』ってのは、そういうことか。
(それは違います。俺はこういう時、過程よりも結果が大事だと思ってるんで)
(『自分に出来る事を精一杯やったから、あの結果は仕方がなかった』なんて、チンピラでも吐かないようなかっこ悪い台詞は言いたくないですからね)
(俺が欲しいのは、過程なんかで手に入る『免罪符』なんかじゃない。エイブリーを助け出すという『結果』だけなんです)
(自己満足で済ませる気なんてありません)
ーーー今の俺に言える、全てだった。
心に浮かんだ言葉を1つ1つ紡ぎ、形を成し、気持ちを伝える。
上手く言えたかどうかは分からないがーーーとにかく、あれが俺の表現できる最高の『己の覚悟』だ。
神様の声はしばらく聞こえてこなくなったが、確実に話はまだ続いていた。俺にはそれが分かっていた。
〈・・・良いでしょう、貴方の覚悟、このイザナミノミコトが見極めました。エイブリーさん救出の為、最大限の助力をする事を約束しましょう〉
「ハァッ・・・ありが・・・とう・・・ございます」
息が切れて上手く喋れなかったが、これだけは、きちんと自分の口から言わなければならないと、そう思った。
(でも、神様が『約束』をするなんて、なんだか可笑しな話ですね)
〈そこはツッコむところではありません。そして助力のことなのですが、この件は『生明圭太郎』しか干渉することができません。他人や知人、友人はおろか、神であるこの私が干渉するのも少々まずいです〉
(じゃあ、手助けなんて出来ないじゃないですか!)
何故神様まで干渉できないのか。その理由は聞かされなかったが、それをこちらから聞こうとしたり、聞いて理解する余裕はもはや残っていなかった。
〈私に良い考えがあります。・・・ほら、廃工場が見えてきましたよ。息を整えて、今から私の言う通りに動いて下さい。そこからは、貴方の腕の見せ所です。少しギャグをかますくらいの心の余裕を持っていて下さいね。期待していますよ?〉
(フラグでないことを祈る・・・)
「ン~~~~~! ム~~~~~!!」
「黙ってろガキ!」
人間の男はそう叫ぶと同時に、私が拘束されている椅子の足を勢いよく蹴り上げた。私はその反動で、椅子に縛られたまま肩から床に倒れてしまった。捲れてしまった服のスカートを戻すこともできない。
ーーーやっぱり、人間はこういう生き物だ。いつだって、エルフの敵。たまたま人間に優しくされても、最後にはこうなるんだ。
「おいおい、あんまり乱暴にするんじゃねぇよ。お楽しみはもう少し日が暮れてからだ」
「チッ、・・・分かってるっつーの」
「にしても、近くで見るとさらにカワイイじゃねぇの。ホントに『コレ』に手ェつけても大丈夫なんだろうな」
「あぁ、間違いねぇよ。そいつはきっと家出か何かだろう、足は付かねぇ」
「・・・いや、待つのはもうやめだ。どうせこの人数だ、全員終わるのにはかなり時間がかかるだろうし、何よりもう我慢がきかねぇんだよ」
「こいつの体力が持たないだろうしな」
「なら、キメるか?」
「それは、こいつがバテてからでいいだろ。俺達までやるこたぁねーよ」
「オメーはまだキメたことねーからだろ。俺は軽いの頻繁にやってっから問題ねぇーよ」
「な、最初に見つけたオレが一番で良いんだろ!」
「俺、後ろ使っても良いか?」
「あぁ、壊さない程度にしろよ、後ろに四人つかえてるんだからな」
い、イヤッ! 来ないで! 誰か、誰か助けて!! こんな人間達になんて、死んでもイヤ!
お願いだから、誰でも良いから私を助けて!!
私は必死に助けを請う内、なぜか一昨日の夜のことを思い出した。
(俺は絶対にエイブリーを裏切ったりしない。どんな時でも、必ず君を助ける。だからこれからは、もっと俺を頼ってくれ。いつだって、君の期待に応えてみせるから・・・)
ーーー違う。誰でも良いんじゃない。私は、『生明圭太郎さん』に助けてもらいたいんだ。他の誰でもない、私が唯一信じられる、あの『ヒト』に。
だからお願い、圭太郎さん。私に、あなたを信じさせて・・・圭太郎さん・・・!!
心の底から願った。「助けて」と。生きる事で精一杯だった私を、絶望と孤独の沼から引き上げてくれた恩人の名前を、心の中で叫ぶ。
一昨日の夜、ああ言った時の圭太郎さんの優しさを、もう一度・・・
〈遅くなっていしまい、すみませんでした。もう大丈夫です〉
(この・・・声は・・・?)
ーーー頭の中に響いた声は、聞き覚えのある声だった。
ガッシャーーーン!! と廃工場内に、自転車をウィリーで漕いでシャッターをブチ破る音が響いた。その後に続くのは男の声。
「チワーッス! 三河屋で〜っす!!」
完全に油断していた5人は、突然の第三者の登場に驚き振り返った。
「ーーーあ?」
「誰だよ。知ってっか?」
「いや・・・」
お互いの顔を見合わせるが、誰も知らない。
「おい、誰だテメェ」
しかし男は口を開かない。
「テメェは誰だって聞いてンだよ!」
少年は自転車から降り、不良達の方へ体を向ける。しかし、依然として声を発しない。
「オウオウ、ヒーローごっこも良いんだけどよぉガキ、お前この状況がわかってんのか? こっちは5人、オメェは1人、誰がどう考えても結果は見えてるだろ」
不良達は笑いながら、少年を取り囲むように円になる。
釘バット、メリケンサック・・・物騒な得物ばかり。
「って思うじゃん?実はそうでもないんだなぁ、これが」
少年がニヒルな笑みを浮かべると、先程破られたシャッターを踏む足音が聞こえてくる。1人の足音ではなく、もっと大勢の人間の足音だ。足並みを揃え入り一列に並んだのは、6人の男達だった。
「あ? 今度は誰だよ」
彼らは質問には答えず無言のまま、コツコツと足を進める。舞い上がった埃と影によって見えなくなっていた彼らの顔が次第に露わになっていく、その顔は・・・
「・・・は?」
少年を取り囲む不良達は彼らの顔を見て驚愕し、あっけらかんとした顔をする。肝心の少年はというと・・・
「誰が来てくれるかまでは聞いてなかったけど、教えてくれなかったのはこういう理由だったからなんですね」
少年は何かを悟ったように笑い、先程の会話を思い出す。
(〈この件は『生明圭太郎』しか干渉することができません〉)
ーーその男達は多少の年齢の違いが見られるが、全員が少年と『同じ顔』だったーー
(け、圭太郎さんが1.2.3.4.5.6・・・7人も!? 一人は凄く年寄りですけど・・・)
いずれの男も圭太郎と顔が同じだが、全員が圭太郎よりいくらか老けており、明らかに圭太郎よりも年齢が上だった。
「さぁ、若かりし頃のワシ達よ。遠慮はいらん、ぶっとばせ!!」
『お前もやるんだよ!!』
「ーーーチッ、老体をこき使いおって・・・」
「おい聞こえてんぞ老いぼれジジイ」
すると、割と歳をとった俺が何か大切な事を思い出したように声をかけてきた。
「おっ、そうだった16歳のワシ。お前はエリーを助けに行くんだ」
「(エリー?)お、おう」
「・・・さぁ、若かりし頃のワシ達よ、ワシ達が16の時に助けられた、その恩を返す時だ!!」
『オウ!!』
「何なんだよ・・・一体何だってんだよテメェらは! こんなの無茶苦茶だ!!」
すると、圭太郎達はまるで待っていた台詞がきたかのように顔を見合わせ、まるでお決まりのように叫ぶ。
『そうさ、俺は無茶苦茶なのさ!!』
(実は、一番無茶苦茶なのは神様な件について・・・ってそんな事考えてる場合じゃないな、早くエイブリーを!)
「エイブリー!」
俺を取り囲む不良達があっけらかんとしている隙に輪を抜け出してエイブリーのもとへ素早く駆け寄り、噛ませられていた猿轡(さるぐつわ)と手足を縛っていた紐を解く。
「プハッ、圭太郎さん!」
するとエイブリーはよっぽど怖かったのか、勢いよく抱きついてきた。
「ごめんなさい、ごめんなさい! 私がさらわれちゃったばかりに・・・」
「いや、それを言うのは俺の方だよ。今回は完全に俺の落ち度だ。エイブリーは何も悪くない。怖い思いをさせてしまってごめんよ・・・」
エイブリーは泣くのをやめて少し落ち着いた。
「あの、圭太郎さんにそっくりの人達は?」
「あぁ、神様が、エイブリーを助けるのに助っ人を連れてくるって言ってたんだけど・・・まさか未来の俺を呼ぶなんてね、流石に驚いたよ。ていうかあの一番歳とってる俺、ドス振り回してるし・・・俺も将来あんな風になっちゃうのかな・・・」
「圭太郎さん、遠い目をしないでくださいよ・・・」
釘バットなどの武器をものともせず、圭太郎達は相手を一方的にボコしている。絵面だけみれば、どっちが不良だか分からないようなひどい状況だ。
スクリーンで見るような格闘ではなく、殴る蹴るの原始的で野蛮な暴行。顎を撃ち抜き、みぞおちに拳をめりこませ、目を潰し、腕を折り、踏みつけ、蹴り上げ、叩き潰す。
俺と同じ顔をした人間のそのような姿をエイブリーに見て欲しくなかったので、エイブリーの視界を遮る。
しばらくして、不良達は皆ズタボロになって地面へ倒れこんだ。
「おし、ざっとこんなもんかな」
ーーー強い。神様は、あの不良達は喧嘩に自信があるって言ってたけど、そんなのを全く感じさせない程未来の俺達は相手を圧倒していた。
未来の俺達に怪力や超スピードや特別な能力があった訳ではないが、ただ単純に『相手を打ちのめす、単なる暴力』を振るうことに慣れているようだった。
エイブリーに酷いことをしようとした不良達に同情の余地など無いが、彼等があまりにも酷い姿だったので僅かばかりの心配をしてしまった。
「さぁ、俺達の仕事はこれで終わりだ。ここからは、お前の番だぜ」
もはや誰がどの歳の俺か約1名を除いて分からなくなってしまったが・・・とにかく未来の俺がそう言うと、他の未来の俺も頷いた。
「もう・・・行くのか?」
「当たり前の事聞くなよ。他に何か聞いておきたいことはあるか? 答えてやるぜ。・・・あ、ネタバレにならない程度でな」
・・・聞いておきたいこと、か。
「俺はこれからも『コレ』を続けていくのか?」
「そんなの、お前が・・・俺達自身が一番よく知ってるだろ」
「今までと変わらない生活は出来るか?」
「うーん、フィフティフィフティってとこだな」
「俺もアンタ達みたいに・・・強くなれるか?」
「あ、その点は心配なく。嫌でもこうならなきゃいけなくなるから」
「じゃあ最後に・・・神様はデレますk〈はい、そこまでです〉ひでぶっ」
アレ? 何か頭に強い衝撃が・・・なんで未来の俺達は「アイツ、タブー中のタブーに触れやがった・・・」みたいな顔で俺を見るの? ・・・あ、駄目、意識もたない・・・
薄れる意識の中、またしてもエイブリーの慌てる顔が見えた気がした。
俺は意識がハッキリしないまま目を覚ました。そして一言、
「・・・おもクソ見慣れた天井だな」
テンプレを心の内にしまい込むと、自分の隣にいる存在に気がつく。それはエリーと神様だった。
「あれ? 何でエイブリーと神様が一緒にいるの?」
「いちゃダメなんですか?」
と、エイブリーがムスッとした顔で言う。
夢でも見ているのだろうか? 確か頭を何かで強打されて・・・
〈まだ意識がハッキリしないようですね。私の口から今の状況の説明をしましょう。〉
そう言ったのは神様だった。
〈あの不良達は、近所の人が騒ぎを聞いて通報し駆けつけた警察のお世話になっているところです〉
「そっか、良かった・・・って、どうやってここまで?」
〈私が運びました〉
「あ、そうでしたか。ありがとうございます」
〈当然の事をしたまでです〉
「ところで、俺さっき何かで頭を打たれたような・・・」
〈貴方は緊張と疲労で倒れた。いいですね?〉
「あっハイ」
俺が一連の事件の終着に安堵で胸を撫で下ろすと、エイブリーが神妙な面持ちで俺に向き直った。なにやら大切な話があるようだ。
「あのですね、圭太郎さん、私決めました。私はこれからも、この世界で圭太郎さんのお手伝いをします!」
「・・・」
「えっと、圭太郎さん・・・?」
えっと、何だって? この子は何を言ってんだ・・・?
お手伝い? ここに、残るの?
「で、でも、エリーを帰してあげなきゃいけなくて、このままだと戦争を起こすって、そう神様が・・・」
「戦争・・・?」
エイブリーは何のことやら、と首を傾げる。すると神様は俺の方を黙って見ながら、直接頭の中に話しかけてきた。
〈彼女が元の世界に帰った後に戦争を引き起こす事は事実です。ですが、それは彼女の心の闇を取り払えずに帰してしまった場合の話です。今の彼女は戦争の引き金になる本人こそすれ、戦争を起こそうなどという気は微塵もありません〉
エイブリーが戦争を起こそうと考えるのは、彼女があちらに帰ってからの話・・・か。まぁ、今はその気がないんだったらそれでいいか。
ーーーけど、なんで神様は俺がエイブリーの心の闇をどうにかできなかった場合のことを知っているんだ・・・?
「あのー・・・圭太郎さん?」
深く考えを巡らせていると、それを遮るようにエイブリーが話しかけてきた。彼女としては、俺が意味不明なことを言いだして黙りこくってるもんだから心配してくれたのだろう。
「え? あ、あぁ、何でもないよ。それで、こっちに残るっていうのは一体・・・」
神様だから何でも知ってるってことなんだろう。・・・多分。今はその程度に考えるくらいにしておこう。
〈実は私はエイブリーさんがこの世界に転生した一日目の夜に、彼女の夢に干渉しました。 そこでエリーさんにこう言ったのです。【圭太郎さんの『仕事』を手伝うなら、ずっとこの世界にいてもいい】と。勿論、その時は仕事の内容を明かしていません〉
「えっ? そんなことって可能なんですか?」
〈ええ、可能です。手伝ってくれる者は、多い方が良いですからね〉
なら最初からそういう目的で連れて来ればいいのに・・・って、それじゃ俺の意味が無くなるのか。
〈そしてエリーさんは2日目の朝に【仕事を手伝う】と直接言ってくれたので、こうしてこの世界にいるのです〉
「2日目の朝・・・あの時に神様に会っていたんだな」
「ーーー私、考えたんです。圭太郎さんに私の家族と変わらない優しさがあったなら、他の人間にもエルフと同じ優しさがあるんじゃないか、って。さっきは人間達に酷いことをされたしあの人達を許すつもりはありませんけど・・・人間のこと、少し信じてみようと思います。もし裏切られても、私には信じられる『ヒト』がいますから」
「・・・そっか、そう言ってくれて嬉しいよ」
少し照れ隠ししながら、そう返答した。
「というわけで、不束者(ふつつかもの)ですが、これからもよろしくお願いします」
「あぁ、こちらからもよろしく頼むよ」
これからエイブリーと暮らしていくわけか。まだ実感は沸かないし、どんな生活になるか想像もつかないけど・・・こちらを見て微笑みかける、この子の笑顔を絶やさない。そんな生活にしたいと思った。
「あのー、圭太郎さん。折り入ってお願いがあるんですけど・・・」
「ん? どうしたの?」
「私、前の世界では家族から『エリー』って呼ばれてたんです。だから圭太郎さんにも、そう呼んでほしいなぁ、なんて思ってみたり・・・」
彼女はそっぽを向いてモジモジしながらそう言った。
「『エイブリー』を縮めて『エリー』か。ーーーあっ」
あぁ、やっと分かった。未来の俺が彼女の事を『エリー』って呼んでいたのは、そういう理由だったからなのか。
じゃあ早速・・・
〈もしもし? 私を抜いて二人っきりで良いムードにならないで下さい〉
「あ、それじゃあ、神様のことも何か別の名前で呼ぼうよ」
「良いですねそれ! うーん、何が良いですかねぇ・・・」
〈あの、お二人共・・・?〉
「あ、じゃぁ、イザナミノミコトだから『ナミちゃん』とかは?」
「その呼び方、可愛くて良いと思います!」
〈あの、私の意見は・・・〉
「悪質なウソをつかれた仕返しです。これで差引勘定0にしてあげます」
「神様も満更でないようですし、良いんじゃないですか?」
〈いえ、私はまだ・・・〉
「よーし、それじゃあ『エリー』、『ナm、フフッ ナミちゃん』。これからもよろしく」
「はい!」
(どうしてこうなってしまったのか・・・)