億万+一々 (おくまん たす いちいち)   作:うぇろっく

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第2章「笑ふはひとがたに非ず」
第十一話 次の転生者を知る


「おい生明、お前、ここに書いてある文章を読んでみろ」

 

我が高校、県立境堀(さかいのほり)高等学校の進路指導室に重苦しい空気が漂う。その部屋にいるのは教師と生徒の二人だけ。

 

「はい・・・えー、第一志望:未定大学・未定科 2年4組1番 生明圭太郎・・・です」

 

「これは何の書類なのか把握しているか?」

 

「進路希望調査、です」

 

「そこまで分かっているのなら、何でこんな風に書いたんだ?」

 

「その・・・なんというか、そうとしか書けないというか・・・」

 

えー、遅くなりましたが皆さんこんにちは。圭太郎です。

ただいま、俺のクラスの担任の鬼怒川 熊二先生と放課後に臨時の二者面談をしています。

・・・おい誰だ、「あ、そういえばこんな人いたなぁ」って思った人。この人の目の前でそのセリフを言ってみろ、ぶっ〇されんぞ。

 

で、面談をしているその理由。それは、俺が進路希望調査に『未定』と書いたから。だって、それしか書く事がないんだもん・・・

 

この高校は地方によくある『古き良き伝統()』パターンの学校だが、進学校を謳っている。

前年度の大学進学率は7割以上で、公務員や地元の企業に就職する人も少なくない。そういう訳で、1年次から進路講話だのオープンキャンパスだの模試だの小論文だのと、進学向けのカリキュラムが組まれる。

その中の1つがこの進路希望調査。これに関してはどこの高校でもやってるとは思うが、うちのはちょいと面倒くさい。志望する大学のアドミッションポリシーや合格者平均点や使用科目や「合格のために自分に足りないもの」「それを補うにはどうすれば良いか」など、別に3年になってからでもいいだろ、って思うようなことばかり書かされる。

 

このご時世、大学卒業者でも就職が難しい。それは百も承知。しかし、俺は『将来の夢』なんて大層なものは持ち合わせていないので、志望する大学はない。

・・・はい。このまま行けばバイト暮らしの世間一般で言う無気力人間でございます。

でもまぁ、やりたい仕事が見つかってそのために大学に行かなきゃいけなくなる可能性も無きにしも非ずなので、とりあえず『未定』ということにしている訳なのでした。長文失礼。

 

鬼の熊ちゃんはかけている眼鏡をはずしてポケットにしまい、さぁ、ここからが本気モードだぜ、みたいな雰囲気を醸し出している。生きて帰れるかなぁ、俺・・・

 

 

 

 

 

 

 

「生明は何かやりたい事は無いのか?」

 

「えーと・・・特に、無いです。というか、進学するか就職するかも決まってません」

 

「お前・・・ふざけてるのか?」

 

「い、いやいや! そんな滅相も無い!!」

 

ヤバいヤバい、鬼のくまちゃんを怒らせる=死 という方程式をここで証明してしまうのはなんとしても防がなければ。

 

「やりたい仕事が見つかって、それが大学に行かなければならない職業ならば大学に行こうと考えています。けど、その仕事が大卒でも高卒変わらないのならば、高卒で早めに働き始めたいとも考えています。勿論、専門的な技術や知識が必要ならば専門学校にだって」

 

「・・・」

 

でもぶっちゃけ、大学はあまり乗り気ではない。なにしろ俺は一人暮らしだから、俺が家を離れてしまうと土地とか色んな面倒な事を対処できなくなってしまう。・・・それに、俺はもう1人で暮らしてる訳じゃないしな。

 

「・・・それに、進路を早く決めなければならないのは百も承知ですけど、自分が将来、定年退職するまでの残り30年以上を17歳やそこらで決めろなんて、冷静に考えればかなり無茶な事だと思いませんか?」

 

面接練習をしてる人達を見てると思うんだけど、自分の今後の将来がどうなるかなんて誰にも・・・ましてや自分にすら確実に分かる筈なんてないのになんであんな自信満々に、分かりきったように言えるのか・・・俺には分からん。

 

「ふむ・・・それもそうだな」

 

「ですから、もっと時間をかけてちゃんと決めたいんです。自分の大切な将来がかかってますから」

 

誰だ、「高2にそんな時間は無いだろ」って言った奴は。

ーーーはい、仰る通りでございます調子に乗ってすみませんでした。

 

・・・さてどうだ、ここまで口を並べれば流石に折れるだろ。

俺は机の下でグッとガッツポーズをしてみせる。

 

「・・・良いだろう、今日のところはこれ位にしてやる」

 

ッシャ! ラッk

 

「ただし、次回は都合の良い理由をつけて誤魔化さないように。分かっているだろうな?」

 

「・・・はい」

 

ちょっとでも、この人を誤魔化せると思った自分が馬鹿だった・・・

 

話が終わったと思って席を立とうとすると、熊二先生は俺を呼び止めた。

 

「おい生明」

 

「え? あっ、はい」

 

「新しいクラスでの生活が始まってそれなりの時間が経ったが、お前の普段の生活を見ていると、どこか周りと馴染めていない様子があるな。袋と小原とは仲良くやっているようだが」

 

「はぁ、そうですか・・・でも、自分はそれなりにクラスメイトとうまくやってるつもりですけど・・・」

 

話しかけられれば笑顔で対応するし、女子と話すのが苦手な訳でもない。掃除だって真面目にやるし、与えられた仕事や課題はちゃんとこなしてる筈なのに・・・どこか熊ちゃんを不安にさせるようなことってあったかなぁ・・・?

 

「それだ。『それなり』とか『うまくやってる』とか、お前は自分の教室を職場とでも勘違いしているのか?」

 

「あ、いや、そんなつもりは・・・」

 

「もっと、ありのままでいいと言っているんだ。お前はもう少し周りと同調しろ」

 

『同調』ねぇ・・・それははしてると思うんだけどなぁ。『協調』はしてないかもしれないけど。

 

「頑張ります」

 

「あまり難しく考えるなよ、まずは自分のやりたい事からゆっくと探していけ」

 

「・・・はい、ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

「という事があったんだ」

 

「へぇー、圭太郎さんも大変なんですねぇ」

 

今日は1人で、何事も無くに家に着いた。ここのところ家に帰るとエリーが出迎えてくれるのが日課になってきた。アレ? 俺ってリア充・・・?(違います)

 

学校の荷物を部屋に片付けたので、リビングでくつろぐことにした。

 

「そういえば、エリーには何か将来の夢とかはあるの?」

 

学校での熊二先生との会話もあってか、ふと気になったので聞いてみることにした。

 

「そうですねぇ、一応ありましたよ。植物を調合して薬を作るお仕事です」

 

ふーん、良く分からないけど、薬剤師みたいなものなのかな? いや、適当なことを言うのはよしておこう。

 

「確かに、エリーはそういう仕事が似合ってると思うよ。なんというか、エリーは植物を触ってるのが様になってるというか・・・」

 

実際、家の庭の花壇の手入れを日中暇だ暇だというエリーに任せてみたのだが、それはもう凄かったね。俺はフラワーアレジメントとかそういうのに疎いけど、立派な花壇だと思った。でも、芝桜で『あざみ』ってやるのはちょっとどうかと・・・

 

〈ですが、芝桜を『あざみ』と植えるのはちょっとどうかと思いますよ。さすがのこの人もご近所さんからの目が痛いでしょうに〉

 

「そうそう・・・ってit's no money!?」

 

最近、近所の神様が神出鬼没な件について・・・って違うそうじゃない。

 

「ちゃんと履物を脱いで家にあがってくれるようになったのはいいんですけど、せめて何か一言言ってくれませんかねぇ・・・」

 

〈何を言いますか、普通に出てきたってつまらないではありませんか〉

 

クッ、この駄神め・・・俺のプライベートゾーンがどんどん浸食されていく・・・

と、またしてもいきなり現れた神様の対応をしていると何やら隣からすすり泣く声が・・・

 

「・・・」グスン

 

エリーを完全に空気扱いしてしまっていた。

 

「〈あ、ごめん(なさい)・・・〉」

 

 

 

 

 

 

数分かかって機嫌を直してくれたエリーと、彼女の機嫌を悪くした張本人のうちの1人である俺に神様が本題を切り出した。

 

〈というわけで、今日はお二人への連絡をするために来ました〉

 

「というと、新しい転生者が決まったんですね」

 

分かりきったことだが一応確認のために聞いておいた。ここ最近の楽しみでもあったしね。

 

「それで、今回はどんな人物なんですか?」

 

エリーも身を乗り出し、興味津々に聞く。もちろん俺にも興味はある。

 

〈今回の転生者は、『平安時代の貴族の娘』です〉

 

「・・・今度はどんなぶっとんだ人が来るかと思っていたんですけど、わりかし普通ですね」

 

人間・・・ヒトで良かったと安堵している。

 

「へいあん・・・?」

 

エリーは『平安時代』に関しての知識がないらしい・・・ってそりゃそうか。

 

〈平安というのは、1200年程昔のこの国の時代の名称です。今回はその時代の貴族の娘を転生させることにしました〉

 

なるほど。今回は転生とタイムスリップを兼ねているのか。

 

「この国は長い歴史を持った国なんですね」

 

「平安の貴族というと、藤原氏ですか?」

 

〈いえ、彼女は『橘氏』の人間です。源氏・平氏・藤原氏とともに『源平藤橘』の四姓と総称される程の名家なんですよ?〉

 

「へぇ~、神様は物知りなんですね」

 

〈当たり前です。これでも、国造りの神の分霊ですから〉

 

俺は、エリーからの感心にエッヘンと胸を張る神様へ質問を重ねる。

 

「で、その娘さんは一体どんな心の闇をかかえているんです?」

 

これこれ、これが一番大事。

 

〈詳しくは彼女が自分から言い出すのを待つとして、まぁざっくりと言えば結婚騒動ですかね〉

 

「あの~、その娘さんって何歳ですか?」

 

エリーが『結婚』というワードに敏感に反応した。

 

〈もうすぐ・・・いえ、既に15です〉

 

「ふえっ!? そんなに若いのに結婚できるんですか!?」

 

エリーがすっとんきょうな声を出したが、まぁ無理もないだろう。

 

「エリー、昔のこの国はね、政略結婚とかのために14,15歳で結婚するのはあたりまえのことだったんだ。それこそ、12,13歳とかでも。そして、当人の意思とは関係なく・・・」

 

〈どうやら貴方はもう察しがついているようですね〉

 

まぁ、大体だけどね。

 

「多分、平安時代は摂関政治がされていたから、良いお家の人達は自分の娘を天皇の嫁、それも本妻にして、生まれてきた子供が次の天皇になった時に、自分がその天皇の祖父として摂政や関白になって政治の実権を握ろうと必死になっていたんだろう。今回のその娘はきっと、そういう政略結婚の渦に巻き込まれてしまったんでしょうね」

 

〈えぇ、貴方の言う通りです〉

 

「そんな事が・・・」

 

エリーは自分と同年代の女の子が人間のドロドロとした私欲のために利用されていたことを知ってショックだったのか、言葉を失っている。

 

〈というわけで、明日の16:30にいつもの場所へ彼女を転生させます。よろしいですね?〉

 

「是非も無い。今回は同じ種族、同じ国に生まれた人だからエリーの時よりすんなりいきそうですね」

 

「ム~、それじゃあ私が面倒くさかったみたいじゃないですか!」

 

まぁ、服買ったり、走ったり、不良にケンカ売ったりしたからなぁ・・・なんてことは口が裂けても言わない。

 

〈さぁ? 本当に貴方の思っている通りになりますかね・・・?〉

 

ーーーえ、なにその不敵な笑みは・・・

 

〈先程言ったように、彼女は平安時代の名家『橘氏』の人間です。現代日本の一般人である貴方は、平安貴族の文化や嗜み(たしなみ)を知っているのですか?〉

 

「・・・」

 

「あの~、圭太郎さん・・・?」

 

エリーが俺を心配して声を掛けてくれたが、当の俺はそんな場合じゃない。

 

「・・・エリー」

 

「は、はい・・・?」

 

「ゴーグル先生とヤフォーの力を借りる! 今夜は寝かさないからな!!」

 

俺は言うが早いか早速パソコンがある自室へと足を進めた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ圭太郎さん!! 今夜は寝かさないってどういう意味なんですか~!?」

 

 

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