億万+一々 (おくまん たす いちいち)   作:うぇろっく

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第1章 「変わらぬ優しさ」
第一話 最初の逆転生者を知る


神社で神様に出会ってから2日が経った 。

今日は月曜日なので、当然の如く学生の本業を全うしてきた。昨日、完全に忘れていた週末課題と夜遅くまで格闘していたのは言うまでもない。

土曜の朝、〈後ほど、またお会いしましょう・・・〉なんて言われてそのまま帰ってしまったけれど、そもそも普通に生活してて連絡とれるのか? 今更だけど、神様に会ったって実感沸かないんだよなぁ・・・2日経っても音沙汰無しだし。

 

 昨日の夜と同じことを考えながらベットに入って布団をかける。今日の昼休みに、自分は脳に異常があるのではないかと思った。あれは相当タチの悪い夢か幻覚か幻か、そうでないことを祈りながら布団を首元まで引き寄せ眠りにつく。

 

 

 

 

 

 

瞼の向こう側に光を感じて目を覚ますと、何故か自分は熊野神社にいた。何を言っているか分からねぇと思うが、俺も(ry

 

一瞬記憶がすっ飛んだと思ったが、今の自分を見ると着ている服が寝る前と同じだったので、ここは夢の中なのでは? と半信半疑で仮定をした。こんな事を考えられる程度には意識がハッキリしている。

そんな自分の背後から、2日前にこの場所で聞いたあの声が聞こえてくる。

俺はこの前よりも速く、声のする方を振り返った。

 

〈お待たせしました。転生者を連れてくる準備が整ったので、あなたの夢に干渉して連絡に来ました〉

 

そこにいるのはやはり、俺の想像する声の主と同じだった。

 

「また会えるとは思ってましたが、まさか夢枕に立たれるとは思いませんでしたよ。神様って凄いんですね」

 

てっきり、自分から神社に会いに行かなければならないと思っていたから予想外だった。実際、明日の放課後行くつもりだったし。

 

〈ええ。当たり前です。それでは早速、転生してくる者の説明をしましょう〉

 

「・・・」

 

「ーーーどうかなさいましたか?」

 

この時、俺の心の片隅には一欠片の疑念があった。どうやら神様は俺のそれを感じ取ったらしく、俺が『どうかなさっている』のをある程度分かった上でこのように聞いてきたようだ。

誤魔化しは効かなそうなので、正直に話すことにした。

 

「ーーー神様って、なんなのかなぁ・・・って、この数日考えていたんです」

 

〈『神』という存在に疑念を抱いている、と?〉

 

「・・・そんなところ・・・です」

 

目線を下に落として、小さな声でそう呟いた。

神様を前にしてかなり失礼なことを言っているのだと分かってはいるが、どうしてもこのモヤモヤした気持ちを晴らしたかったのと、この神様は俺の疑念を受け止めてくれるような、そんな感じがしたことが相まって、俺は心の内を吐き出すことにした。

 

〈良い機会です。そのような状態では逆転生者の心の闇を取り払うことにも支障をきたしますから、どうか遠慮なさらず、正直に心の内を話してください〉

 

 

 

 

 

 

「今こうしてあなたのような存在が目の前にいるので、あなたが自身を『神だ』と言うならば、俺は『あぁ、そうなんだな』と、そう思いはするんです」

 

〈私の存在については半信半疑、と?〉

 

「はい」

 

実際、言葉では上手く言えないのがもどかしいのだが、やはり『雰囲気』というものが人のそれと明らかに違うのだ。「ここがこうだからこう違うのだ」と詳しく説明出来ないが、俺はよく分からない感覚でそれを捉えているらしい。

 

「国や地方によって色々な種類の、大勢の神様が語り継がれているのは知っています。・・・『神話』や『伝承』といった形で、ずっと昔から」

 

〈えぇ、その通りです〉

 

「イザナミさんは『日本神話』の神様だと思うんですけど、他にも『ギリシャ神話』とか『北欧神話』がありますよね」

 

〈はい〉

 

「そこに登場する神様達が実際に存在しているのだとしても、『神話』っていうのは『人間』が『空想』で作ったものですよね?」

 

〈つまり貴方は、神話とは人々が空想で作ったものであるからそこに登場する神々もまた空想の存在である筈なのに、今こうして神を名乗る存在が目の前にいることに矛盾や疑念を感じている。このような解釈で問題ありませんか?〉

 

「ーーーはい」

 

やっぱり、見透かされてる。

神様に対して「あなたは空想の存在だ」なんて言って、バチが当たったりしないといいけど・・・

 

〈まず最初に・・・私たち『神』とは、世界の均衡を維持するために存在している『力』であり、『概念』です。ありとあらゆる世界を管理し、監視し、保護する為に、時間や空間を超えることさえ可能です。ーーーまぁ、出来ない神の方が多いですが〉

 

〈故に、この世界の人間が過去に『神話』を生み出す遙昔に・・・ホモ・サピエンスやこの星が誕生するよりも前に、神は存在しています〉

 

「じゃあ、何故人間は神様の存在を『神話』として書き記すことができたんですか?」

 

〈これに関しては、『たまたま』としか言いようがありません〉

 

「・・・え? たまたま・・・?」

 

〈本来、人間が神々の存在を五感で捉えることは不可能です。ですが、もう既に存在しているものと、人間が空想で生み出したものが『たまたま一致した』のだとしたら・・・?〉

 

既に存在していた、世界の均衡を保っていた力や概念に、人間はそれらを知覚できないまま姿や名前を与えていたっていうのか?

もし、本当にそれが真実なのだとしたらーーー

 

「ーーー人の空想は、現実のものになる・・・」

 

〈そういうことになります〉

 

神々は既に存在していて、たまたま人の空想がそれと一致した・・・? じゃあ・・・

 

「何故神様は『人の姿』をしているんですか? 人の姿をしているということは、やはり人の空想で生み出されたという説が有力になると思うんですけど・・・」

 

〈人間が生み出したのは、私達の『姿』や『名前』です〉

 

〈私達がこの姿をしているのは、神話の中の神々は最も優れた生命体である『ヒト』の姿をしている、と人間達が意識の中に定着させてしまったからです。人間が五感で捉えられないものは、人間の持ち得る知識や経験、妄想で補うしかありません。空想として生み出した神々を人の形として定着させてしまった結果、人々は実際の神々を人の姿でしかとらえられないのです〉

 

「俺たちが、『神様は人の姿をしている』っていう先入観を持っているせいで、そのようにしか捉えられないってことですか?」

 

〈物分りが良くて助かります。そのような先入観がなければ、私達はあなた達の目に三角形として映ることもありますし、霧にも、動物にも、植物に映ることもあります。動物や植物の姿をした神がいるのにはこのような理由があります〉

 

「はぁ・・・」

 

〈逆に言えば、私達が本来持っていない姿や名前を貴方達人間から与えられた、という解釈もできます〉

 

「ーーーはい?」

 

〈言ったでしょう。私達は元々『力』や『概念』です。身体や名前など持っていません〉

 

〈しかし、こうして人間達が私に『伊邪那美命の分霊』という存在を与えてくれているお陰で、私はこうして貴方の前に現れることができるのです〉

 

「・・・人間は神様を五感で捉えられないって言ってましたけど、何故俺は神様の姿を見て、声を聞くことが出来るんですか?」

 

〈今は、私の存在を『姿』や『声』といった情報で貴方が捉えられるカタチにしています〉

 

「そうだったんですか・・・なんか、ありがとうございます」

 

知らないところで労力を費やしていたと知って、ついお礼を言ってしまった。

 

 

 

 

 

 

なんだかとってもややこしくなってきたが、煙を吐き出しそうな脳味噌をフル回転させてなんとか話についていく。

 

「結局のところ、イザナミノミコトはイザナギノミコトと一緒にたくさんの神様を生み出したんですか?」

 

〈はい。実質、そういうことになります〉

 

神様の「実質」というワードに引っかかったので、そこを詳しく聞いてみることにする。

 

〈貴方が先程仰ったように、『神話』はあくまでも『空想』です。しかし、『神』という存在は間違いなく現実のものです〉

 

〈私達が『神様』として姿形を固定された瞬間に、人間が想像したその神達の言動や他の神との関係も、私達の存在と同様に、現実となります〉

 

「ーーーもう分かんねぇなこれ」

 

話の場を整える意味でも、自分の頭の中を整理する意味でも、一旦自分の言葉でこれまでの話を整理する必要があった。

 

「元々存在した概念と人間の『神』という空想がたまたま一致したことは分かったんですけど、なんで神話上の神様達の言動も本当にあったことになるんですか?」

 

〈例を挙げれば、『イザナミ』とは、イザナギと共に天照大神などの多くの神を生み出した神です〉

 

〈この時、『イザナミノミコト』の存在は今言ったように定義づけられます〉

 

〈そして強大な力を持つある概念が『イザナミノミコト』という名前と姿を得て存在を確立すると、その存在に伴い、定義づけられていた言動も現実となるのです〉

 

なんだかすごく無茶苦茶な事を言われている、ということだけは理解できた。

 

「存在や名前を与えられた、ってのはまだ分かりますけど、既に行われた『言動』を後から与えられてそれが本当にあったことになるなんて、ちょっと無理がありませんか?」

 

〈私達からすれば、因果の逆転など些細なことです〉

 

「左様でごぜぇますか・・・」

 

どうやら、常識は通用しないらしい。ーーーまぁ、薄々分かっちゃいたが。

 

 

 

 

 

 

〈この世界も数多の異世界や平行世界の中の一部分である以上、勿論、『人々が神話という空想をしなかった世界』も別ルートとしてしっかり存在しています〉

 

「ーーーちなみに、そこはどういう世界なんですか?」

 

〈『神』や『仏』という概念が存在しない以外は、大した違いはありません。ただ、この世界における現代のような発展状況になるのは向こうの方が一千年早かったですね〉

 

「一千年も・・・ですか?」

 

〈『神』という人間を超えた超常の存在を知覚できずに想像もしない場合、彼らにとって重要なのは目に見える『現実』です。その分、宗教戦争などの余計な争いが消え、科学技術の発展が早かったのです。・・・勿論、戦争や争いはありましたが〉

 

最初から現実主義だったってことか。

 

〈対して、小説などの物語の文化の発展はこちらよりも遅いですね。物語の妄想や空想力の欠如とでも言いますか・・・そのような点が原因です〉

 

「うーん、成る程なぁ・・・」

 

〈ーーーさて、長い話になってしまいましたが、私達について理解していただけましたか?〉

 

「まぁ、なんとなく理解しました。失礼なことを言ってしまってすみませんでした」

 

〈いえ、お気になさらず。人間であれば抱いて当然の疑問です。世界のバランスを保つ補助を神である私が貴方に託す以上、貴方に対する説明責任は十分にあります。ましてやそれが、貴方の不安や疑念に関するものであるならば、尚更のことです〉

 

「・・・ありがとうございます」

 

こうして、俺の疑念や疑問はある程度すっきりした。後から考えればまだまだ聞きたいことや疑問点はあったのだろうが、その時は十分な回答を得られたと思ったので、それ以上深く質問する気は起きなかった。

 

 

 

 

 

 

〈では、改めて、この世界に転生させる者についての説明をします〉

 

「・・・はい。よろしくお願いします」

 

ぶっちゃけ緊張してる。夢の中のはずなのに、胸のあたりがキュウッとなっているのが分かる。

さて、ただでさえ相手は負の感情が溜まっているのだろうから、ちょっとしたことでまた鬱な気分になってしまうだろうし、細心の注意を払おう。

意を決して、返事を待った。

 

〈今回の転生者は【エルフの少女】です〉

 

「ーーーは?」

 

〈ですから、【エルフの少女】ですよ〉

 

「・・・」

 

この場合、勘違いをしていたのが俺だとしても、悪いのは俺なのだろうか。もはや自分でも何を考えているのか分かっていない。

 

「えーっと・・・来るのって負の感情が溜まった『人々』って言ってませんでしたっけ?」

 

俺は神様に、自分が言われた事を再確認するように問う。

 

〈では、私がいつ、来るのは『人間』だと言ったのですか?〉

 

もっともらしい理由が帰ってきた。日本語難しー。

ーーーとか言ってる余裕の1つや2つがあればよかったのに・・・

 

完全に予想の斜め上を行っていたが、もしも同じ言語で会話を交わせるのなら勝機はある。・・・ん? 同じ?

 

「ーーーあ」

 

〈どうかしましたか?〉

 

「俺とその娘って、会話できるんですかね? 主な言語的な意味で」

 

初対面の、種族も違う、言語も通じない+ネガティヴになっているエルフとコミュニーケーションをとれるだろうか、いやとれない。これなんて無理ゲー?

 

〈基本的に、この世界に転生させる者達には一般的な日本語を使える程度の言語能力を授けています。所謂、特典というやつです〉

 

「・・・まぁそれなら、会話を交わすことについては大丈夫そうですね」

 

ご都合展開だけど正直助かった。つーか、さらっと言語を理解させるとか言ってるけどそれって色々大丈夫なのか? 脳に負担がかかるとかなんとか・・・

 

「ちなみに、言語能力を身につけさせるのって身体的に影響があったりするんですかね? 脳に負担がかかるとか・・・」

 

〈その点に関しては心配無用です。脳をちょちょいと弄るだけですから〉

 

神様は人差し指をクルッと回しながらそう言った。

寧ろ余計に心配を掻き立てる発言が返ってきたんだが・・・

神様はエルフの女の子についての説明を始めた。

 

〈彼女の住むエルフの隠れ里がとある商人に見つかってしまい、彼らの持つ知識・技術・物資などの強奪を目的として近くにある人間の国に攻め入られ、国の人間と里のエルフの間で戦争が起こった結果、エルフの里は彼女以外、家族も含めて皆殺しにされてしまいました〉

 

さらっと『戦争』というワードが出てきたことに少し身を竦めた。

 

「親戚などが生き残っていればまだしも、同族皆殺しなんて小さな女の子に耐えられる筈ないだろうに・・・」

 

〈ーーーえぇ。そうでしょう〉

 

ここにきて、事の重大さがようやく分かるようになってきた。これから俺の身にのしかかる様々なものの重さを予感して、先程よりも胸の締め付けが強くなった。

神様はそんな俺の状態を察したのか、少し厳しい言葉を投げかける。

 

〈しかし、避けて通る道はありません〉

 

「・・・分かってますよ。元からそのつもりです」

 

神様の言う通りだ。これは俺が決めたことで、避けてなんか通れない。誠心誠意、真正面からぶつかって彼女と打ち解けてみせる。

 

〈では明日の夕方に神社の鳥居(とりい)の下に彼女を転生させます〉

 

「はい、分かりました」

 

神様はこの前と同じようにスゥーっと消えて見えなくなってしまい、俺もそこで目が覚めた。

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