第二十六話 アフターサービス
黒いオーラが立ち上るエリーと小春を、神様の協力もあって何とか静めることに成功した。
あの時あのままエラと一緒に自分も下に降りていたら、すぐそこにいたであろう2人が彼女に襲い掛かるのは確実だったろう。
だが・・・
「それはそれとして、普通に危なかったって自覚してます? そんなに紫色になるくらい絞められてたっていうのに・・・」
「よもやそなたがエラの力量を侮っていた筈はあるまい。何故解こうとしなかった」
・・・はい、絶賛説教タイムです。おのずと正座してしまいます。
「いやー、馬乗りされた時にちょっとマズいかなーって思ったんだけど、その方がかえって都合が良かったっていうか・・・」
「馬乗り!? そんなの今初めて聞きましたよ!」
「今初めて言ったもん」
「そういう事を言いたいんじゃなくて!」
「そなたの言う都合が良いとは、合法的に麗しい少女を己の上に跨らせるということか?」
「・・・は?」
「けーいーたーろーうーさーん?」ニコッ
「そ、それは誤解だ小春! エリーも、ニコッとは書いてあるけど目が全然笑ってないから!!」
小春は狙って言ったのだろう、とても意地悪な顔をしている。
「俺にとって都合が良いっていうのは、エラの目をまっすぐ見て言えるから、ってだけだ。決して他意はない」
「・・・まぁ、ちゃんと目を見て言った方が効果的なのは分かりますけど・・・」
「ふむ、そなたの言う事も一理あるな」
納得してもらえたか? ・・・っていうか、これ以上馬乗りの件に関してつっこまれるのは御免だ。
「正直俺もビックリだったよ。昨日エラが目を覚まして俺をぶった時は全然力が入ってなかったのに、今日のエラのアレは同年代の男の子くらいの力だったんじゃないかな・・・?」
「感心している場合か」
「あ、ごめん・・・」
「・・・そなたの言い分は理解した。その首も放っておけば大丈夫だろうし、妾はもうその件について口を挟まぬ」
「・・・上に同じく」
「2人共ごめん、心配をかけて。これからは自重するよ」
((どうだか・・・))
2人を説得して説教タイムも終わりにしてもらったので、そろそろ下に降りてもいい頃かと思い3人で静かに降りる。
申し訳ない気持ちを抱きながらそーっと隙間からハンナ姉弟がいるであろう和室を覗く。すると、ちょうどエラがダレンを抱きしめているところだった。
俺の下で覗いているエリーと小春も少し顔を赤くしているようだ。
2人をつついて『これくらいにしておこう』と目で指示を出す。2人共俺の考えている事を理解してくれたようで、覗いた時のようにそーっと立ち去った。
暫くして、エラとダレンが和室から出てきた。2人のすっきりした顔を見る限り、蟠り(わだかまり)は無くなったようだ。
「「あ」」
襖を開けたらすぐそこに俺達が座っているもんだから、エラとダレンは揃って「あ」と口にして顔を見合わせる。少し恥ずかしいのかな?
「2人共、話は終わったか?」
「えぇ、おかげさまで」
「はい、自分の気持ちをしっかり伝えられました」
エラの後に続いてダレンが喋る。
「そんで、2人はこれからどのようにしていくんだ?」
俺が重ねて問う。答えたのはダレンだった。
「これからは姉弟の関係ではなく、より対等な双子として助け合っていくことにしました。僕もようやく『エラ』を支える気持ちがまとまったので」
すると、みんなの前でダレンに『エラ』と呼ばれたのが恥ずかしかったのか、当の本人が赤面している。
「ち、ちょっと・・・名前で呼んでとは言ったけど、いきなり3人の前で呼ばれるのは・・・その・・・」
「・・・え? 頼んだのはエラでしょ?」
「〜〜〜ッ! バカ!!」バシッ
「な、何でー・・・」
あらあら、2人共仲がよろしいようで。やっと二人の間の溝が埋まってきたかな。
・・・昨日と比べれば、本当に仲の良い双子になった。2人の間にあったギスギスした何かは解消されて、今はお互いに信頼し合っているのが目に見える。
「 へぇー、ダレン君もエラを名前で呼ぶようにしたんですね」
「どうやらもう小心者ではなくなったようだな。大躍進したと見える」
「小春とエリーにもだいぶ迷惑をかけてしまったわ。・・・ごめんなさい」
エラは深々と頭を下げた。
「けど、おかげさまでこうしてダレンと和解出来たわ。昨日の夜、小春に諭されて半分気づいていたんだけど、それを認めたくなかった。・・・まぁ、翌日にそこにいる人に無理やり気づかされたんだけどね」
「ははは、手厳しいなぁ」
「それが此奴の仕事だからな。妾とエリーも歩いた道だ」
「でしょうね。じゃなかったらあんな事、面と向かって言えないと思うわ」
「・・・だがまぁ、棘のある言い草だったのは認めよう。妾にも非はある」
そう言うと小春は立ち上がり、エラに近づいた。何をするのかと思うと、無言で手を差し出した。
「・・・」
エラは小春の意思を汲み取ったようで、同じように手を差し出して固い握手を交わした。
今の2人の間に、言葉はいらなかったようだ。
するとダレンも俺の方に近づいてきた。
「ありがとうございました。何もかも、圭太郎さんのおかげです」
「馬鹿言うんじゃあないよ、実際に行動に移して『今』を掴んだのはダレンだ。俺はただ、背中をちょいと押しただけだよ」
「その小さな前進が、僕にとっては大きな進歩でした」
「またまた上手いこと言っちゃって〜、口まで達者になるように言った覚えは無いぞ〜?」
「い、いひゃいへふへいはほうはん」
よく滑るようになったダレンの口を横に引っ張る。思ったより肌がスベスベで、まるで女の子の肌みたいだ。
・・・実際に女の子の肌を触ったことは無いけど。
すると、後方から不穏な空気が・・・
「むー・・・」
転生者1号のエイブリーが文字通りムスッとしていた。
「ふーんだ、どうせ私は何も出来なかったですよー」
誰が見ても分かる程いじけているエリー。1人だけ構ってもらえないせいなのだろう。
みんな反応に困ってしまうが、どうにか機嫌を取ろうとする。
「そ、そんなことないわ。今朝ワタシが食器を割っちゃった時も、エリーが片付けてくれたじゃない」
「・・・まぁ」
「それに、エリーさんが作ってくれたシチュー、とっても美味しかったですよ」
「・・・そう?」
「そうそう。自分は何もしてなかったなんて思っちゃいけないぞ。みんなの力があったから、今こうして笑えてるんじゃないか」
「・・・はい」
エリーの顔の曇りが晴れ始めた。
よーし、ここでもう一押しだ。
「それに、あの時小春に気を使ってくれただろ?」
「あの時って・・・?」
知るはずもないエラが不思議そうに俺に聞く。
「あ、圭太郎さんそれは・・・」
エリーが待ったをかけようとするが、俺の口は止まることなく・・・
「それはな、昨日の夜に小春が泣い「だあああぁぁぁ!! 」」
全て言い終わる前に小春からラリアットが飛んできた。
「ば、馬鹿者! 喋り終わる前だったから良いものの、本っ当に此奴は・・・!」
「ス、スンマセンシタ・・・」
日は暮れて辺りは暗くなった。
夕飯の準備をしようと腰を上げたのだが、エラが「ワタシがやる」と言って俺を座らせた。
そんなこんなで夕飯はエリーとダレンとエラが作ることになった。
・・・ん? 小春はやらないのかって? 勿論やってるさ。・・・食器並べを。
「・・・今、何か無礼な事を考えておらんかったか?」
「いえいえ滅相もない」
「そうか、ならよい」
少し前までは考えもしなかった光景だ。俺は座布団に座って、料理が出来るのを待つだけなんて。自分の分だけを作ってそそくさと食べ終わらせていた頃とは大違いだ。
・・・賑やかなのもいいもんだな。
夕食を食べ終わり、デザートにリンゴを剥いてみんなで食べている。
・・・さて、そろそろ言わなきゃいけないかな。
「おし、みんな注目ー」
4人の視線が俺に集まる。
いち早くエリーが反応した
「どうしたんですか? わざわざ声をかけて」
「俺なりに考えたこれからの事を話そうと思って」
エラとダレンの顔が少し引き締まる。
「・・・で? そなたはどのように考えたのだ?」
場に緊張が走る。
「まずエラとダレンについて。今日の2人の顔と様子を見る限り、もう2人に問題はない。これからはお互いに助け合って、どんな困難でも乗り越えられるだろう」
2人共、「当たり前だ」って顔に書いてある。自信に満ち溢れた顔だ。
「じゃあ、エラとダレン君については・・・」
「あぁ、お仕事完了かな」
「やった! やったよ小春!!」
「うむ。これでようやく恩返しの一歩を踏み出せたな」
エリーと小春は嬉しくなって抱き合っている。
本当はこの空気をぶち壊したくないんだけど・・・エラとダレンを任された身として、『最後まで』責任を持たなければなるまい。
「静粛に」
4人の行動がピタリと止まる。
「俺は今、『2人については』問題がないと言ったんだ」
「え・・・? 他に、何かあるんですか・・・?」
「忘れたのか? 2人は元々、『街にアルビノの人間がいると災厄が訪れる』っていう言い伝えのせいで、周りの人達から酷い扱いをされていたんじゃないか」
「・・・あ」
「そうであったな。そしてイザナミ神の話では、実際に災害や疫病が発生していたらしいしな」
2人の眼の前でこんな話はしたくないけど、仕方あるまい。
「小春の言う通りだ。確かに2人はもう大丈夫だけど、向こうが大丈夫じゃなかったら大丈夫な2人を送り返してもまたこういう事になるかもしれないだろ?」
エラが口を開く。
「心配してくれるのは嬉しいけど、あなたがワタシ達双子を信頼しているのであればそれはいらない心配よ。あなたも『どんな困難でも乗り越えられる』って言ったじゃない」
「すまないエラ。これは信頼でどうこう決められる話じゃない。俺は2人を預かった身として、送り返した後でも普通に暮らせるように完璧な状態で返さなきゃいけないんだ。また2人が酷い目にあうかもしれないんだったら、このまま帰すわけにはいかない」
「・・・」
ダレンは真剣な顔になって黙っている。
「それではどうするというのだ? 大人を倒せるように武術でも仕込むのか?」
「さっきも言ったけど、問題があるのはエラとダレンじゃなくて、元いた世界の方だ。やれ地震だやれ火災だか知らないけど、どうも胡散臭い」
「・・・それでは、そなたは一体何をするつもりなのだ」
俺が返答しないせいで、暫く部屋を静寂が包む。
「その答えこそ、俺がみんなに伝えたかったことだ。
・・・俺の責任を最後まで果たす為に決めた。心して聞いてくれ」
「2人の元いた世界に直接行って、胡散臭い言い伝えの真相を暴いてくる」
先程よりも長く、ずっと長く、場の空気が静まり返る。
「・・・・・・ねぇ、エリー、小春」
「「・・・」」
「この人っていつもこんな感じなの・・・?」
「「・・・」」
「沈黙は肯定と捉えるわ・・・」
「いや、流石の圭太郎さんでもそれは無茶苦茶過ぎます! 僕達のいた世界へなんて・・・」
「あぁ、俺は無茶苦茶だからな」
「そっか、無茶苦茶なら仕方ないですよね・・・って、仕方なくないですから!!」
「「・・・」」
未だエリーと小春はハイライトの消えた目で虚空を仰ぎ見ている。何度目の光景だろうか。・・・2回目か。
「・・・圭太郎さん、私、無理しないで下さいって言いましたよね?」
「あぁ」
「・・・どうしても、やるんですか?」
「・・・あぁ」
「一応そなたの言い分を聞かせてもらおう」
「俺は2人の『保護者』として、俺の元を離れてからの安心と安全を確保する義務がある。2人の障害になるであろうその言い伝えの真否を、俺の目で直接見て判断したい」
「本気・・・なのだな」
「あぁ」
「・・・エリーよ、それにハンナ達よ、これはもう此奴の生まれ持った性だ。・・・運命だ。残念な事だが、妾達が何を言っても此奴の考えを変えられないのは、他でもない妾達が良く知っている」
「「「・・・」」」
「皆等しく此奴に助けられたからこそ、此奴の正義と義務と信念を汲み取ってやらねばならぬのも良く知っている筈だ。・・・エリーよ、そなたからも此奴に言ってやれ」
エリーは小春にそう言われると、無言で近づき俺の眼の前に座り、俺の手を両手で力いっぱい握りしめた。
「ただ、無事に・・・帰って来て下さい・・・!」
本当に・・・本当に苦しそうな顔でそう言った。