漆黒の剣閃   作:ファルクラム

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第14話「ナイトレイドVS三獣士」

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界の先では、貧困にあえぐ村の住人達に、米が施されている光景が映し出されている。

 

 アカメ、ラバック、シノン班が密かに護衛している官僚は、その様子を満足そうに眺めていた。

 

 彼が今日、この村にやって来たのは、私財を投じて購入した大量の備蓄米を放出し、村の住人達に配る為だったのだ。

 

 その日の食事にも事欠く村の住人達にとって、備蓄米の放出は正に天からの恵みであると言って良いだろう。

 

 皆の嬉しそうな顔が、潜んでいるシノン達の場所からも見えていた。

 

「さすが良識派、ナイス施しだね」

 

 様子を見ていたラバックが、口笛交じりに賞賛を送る。

 

 こうしている間にも、ラバックは周囲にクローステールの糸を張り巡らせ警戒をしている。これで、もし不審な人物が村に接近すれば、即座に察知できる。

 

「あの量なら、民も一息つけるわね。良識派って言われるだけの事はあるわ」

 

 シノンもシェキナーを手にしながら頷く。

 

 万が一敵が来た場合このチームなら、村雨を持つアカメが前衛を担当し、シノンが後衛、ラバックがクローステールの変幻自在さを利用して遊撃的な立ち位置になるだろう。互いの死角を補い、あらゆる距離(レンジ)に対応できる、万全の布陣である。

 

 その点で行けば、全員が前衛担当の白兵専門部隊となっている、ブラート、キリト、タツミ班に比べると、打撃力では劣るものの、汎用性では勝っているチーム構成と言える。

 

「何だか、見ていたら私もお腹がすいてきた」

 

 食いしん坊キャラのアカメが、そんな事を言いながら腹の虫を鳴らしている。

 

 緊張感が無い少女剣士の様子に、苦笑するラバックとシノン。

 

 まったくこの娘は、どこに行ってもマイペースを崩す事が無い。

 

「ほら、俺のあげるから、敵が来たら頼むよ、ほんと」

 

 そう言ってラバックが差し出した携帯食料を、

 

 アカメは迷う事無くかぶり付いた。

 

 ラバックの腕ごと。

 

 その様子を呆れ気味に眺めながら、シノンは再び警戒するように村の様子に目を向ける。

 

 現在までのところ、偽ナイトレイドが現れる気配は無い。

 

 もし、敵に襲撃の意図があるなら、とっくの昔に仕掛けてきている筈。しかし、それが無いと言う事は、敵はこちらではなく、運河の方へと行ったと考えられる。

 

 その時だった。

 

「おっと、結界に反応だ」

 

 糸の様子を確かめていたラバックが、やや緊張気味に声を上げる。

 

 同時にシノンも、手にしたシェキナーを構え、ラバックの捉えた目標を探す。

 

「標的か?」

「数は、4・・・・・・5・・・・・・いや、どうも動きが素人くさい。俺等の偽物を名乗れる程じゃあないね」

 

 問いかけたアカメに否定の言葉を返すラバック。

 

 同時にシノンの目も、標的を捉えた。

 

 村外の様子を伺うように、怪しい風体の男達が、それぞれ手に剣やナイフを構えているのが見える。

 

「夜盗みたいね。どうやら施し米に釣られてやって来たってところかしら」

 

 言いながら、シノンはシェキナーの弦を引き絞る。

 

 同時に、瞳が射撃に必要なデータを弾き出し、照準を合わせていく。

 

 相手が標的では無いとは言え、明らかに不届きな動きをする輩を野放しにする気は無い。

 

 そもそも武器を持って村に侵入しようとしている時点で、まっとうな連中ではないのは明らかである。

 

 腐肉に釣られて寄ってくるハイエナを、見過ごす事はできない。

 

 あの施し米は、村にとっての命綱である。邪魔はさせない。

 

「狙えそうか?」

「問題無い」

 

 尋ねるアカメに、短く答えるシノン。

 

 マインの指導に加えて数度の実戦を重ねる事で、狙撃手としてのシノンの腕は格段に上達を見せている。

 

 既にその実力は、怪我をして戦線離脱しているマイン本人を補って余りある程だ。

 

 三人がいる位置と、夜盗達が潜んでいる場所はかなりの距離が開いているが、シノンの腕ならば問題無く、全員を射抜く事が可能だった。

 

 しかし、

 

 こちらに現れたのが、あの程度の小物であるとすると、本命はやはり運河の方であると考えるべきだった。

 

 無事だろうか?

 

 ふと思い浮かべられるのは、キリトの顔だった。

 

 普段は飄々として捉え所が無く、まるで人生を鼻歌交じりで歩いているような印象さえある少年。

 

 そこで、シノンは首を振る。

 

 何であんな奴の事を、自分が心配しなくてはならないのか?

 

 いつもいつも人を食ったような態度をしており、そのくせ自分の事となると徹底的な秘密主義を貫いているのも気に食わない。先日など、パンツまで見られている。

 

 いけ好かない。

 

 それが、キリトに対する、シノンの偽らざる本音である。

 

 しかし、シノンは知っている。

 

 そんなキリトも、その内実では年相応にナイーブな面を持っている事を。

 

 あの、シェーレが死んだあと、訓練で倒れた時、シノンにだけに見せた弱々しい姿が、どうしても印象として残っている。

 

 できれば、行って掩護してやりたい。つい、そう思ってしまう。

 

 だが、こちらの文官が襲撃される可能性が、まだ完全に零でない以上、持ち場を離れる事は許されなかった。

 

 シェキナーを握る手に力を込めるシノン。

 

 同時に、発生した光の矢を解き放つ。

 

 矢は一瞬にして駆け抜けると、今にも村内に侵入しようとしていた先頭の夜盗に命中。首から上を容赦なく吹き飛ばす。

 

 突然、仲間の首が手品のように消失した事で、夜盗達の間に動揺が走る。

 

 シノンの目には、残った夜盗達が、慌てふためくさまが手に取るように見て取れた。

 

 こうなると、狙撃手の少女にとっては良いカモである。

 

 その間にシノンは、更に二射目を放つ。

 

 二人目の夜盗も、確実に射抜いて倒す。

 

 しかし、矢を放ち、自分の仕事をこなしながらも、シノンの心は遥か彼方、大運河の上にいるであろう少年に想いを馳せている。

 

『キリト、無事でいて・・・・・・・・・・・・』

 

 自分でも気づかないうちに心の中で呟きながら、シノンは弓を引き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブラートとリヴァ。

 

 かつて二人は、共に戦場を駆け抜けた戦友同士。

 

 否、苦楽を共にした親友であると言っても良い。

 

 だが、その2人が今、敵同士となって、互いに激突していた。

 

 ブラックマリンの能力を使い、水を操って遠距離攻撃を仕掛けるリヴァ。

 

 対して、インクルシオを纏ったブラートは、どうにか距離を詰めようとする。

 

 インクルシオの副武装であるノインテーターと言う銘の槍を掲げ、飛んでくる水の攻撃を弾くブラート。

 

 一方のリヴァも、接近戦時におけるブラートがいかに脅威であるかは判り切っている。その為、可能な限り遠距離で仕留めようとしてくるのが判った。

 

 接近戦ではブラートが有利。遠距離戦ではリヴァが有利。

 

 戦いは必然的に、間合いの削り合いと言う形で推移していた

 

 やがて、ブラートの槍が、全ての水を弾く。

 

 そのまま距離を詰め、斬り込めるか?

 

 そう思った瞬間、

 

 ブラートが見ている目の前で、船外の水面が大きく盛り上がった。

 

 鎌首を持ち上げる巨大な蛇。

 

 ある意味、ブラックマリンとは優雅な帝具である。水を操り、様々な形の攻撃を繰り出す事ができる。

 

 この蛇もまた、ある種の芸術的とも言える優美な姿を誇っていた。

 

 だが、その攻撃力は驚異的の一言に尽きる。

 

「水圧で潰れろブラートッ 深淵の蛇!!」

 

 上空に飛び上がった蛇が、ブラートへと襲い掛かる。

 

 このまま喰らえば、強烈な水圧によるダメージは免れない。

 

 さりとて回避したとしても、蛇は船に襲い掛かり、水圧によって船は大破する事だろう。

 

 その状況下でブラートは、

 

「ウオォォォォォォォォォォォォ!!」

 

 槍を掲げ、一気に飛び上がる。

 

 真っ二つに斬り裂かれる蛇。

 

 あれだけ巨大な蛇を、一刀のもとに斬り捨てるブラートの技量は、見事の一言に尽きる。

 

 そのまま、勢いを殺さず甲板上のリヴァに斬り掛かるブラート。

 

 だが、

 

「それも予想済みだ。お前なら、必ず蛇を潰しに来る事は判っていたからな」

 

 言いながらリヴァは、更なる追撃を敢行する。

 

 長く共に戦ってきたリヴァには、予知能力のようにブラートの動きが判っている。

 

 故に、常に先回りできる戦術を組む。

 

 渦巻く水面。

 

 一斉に盛り上がる。

 

「受けろブラート、濁流槍!!」

 

 次の瞬間、先端が鋭く尖った無数の槍がブラートへと襲い掛かる。

 

 空中にあって身動きが取れないブラートに、これをかわす術は無い。

 

 槍は次々とブラートに突き刺さり、彼を更なる空中へと弾き飛ばす。

 

 だが、

 

「水を掛けられたぐらいで、俺の情熱は消せねェ!!」

 

 魂の叫びをあげるブラート。

 

 フェイスマスクが破損する中、インクルシオの防御力は辛うじてリヴァの攻撃に耐え抜いた。

 

 対して、

 

 静かに甲板に立ったリヴァは、ゆっくりと上空を見上げた。

 

「そう、あれではまだ、お前を倒せない。判っているつもりだ」

 

 ブラートの強さを、リヴァ程理解している者は他にいない。

 

 ブラートの異名の元となった《100人斬り》の異名は、南方戦線において、バン族の特殊工作員128人を1人で倒した事から来ている。

 

 戦闘力、精神力、信念、勇猛さ。

 

 その全てにおいてブラートに勝っている人間がいるとすれば、上官であるエスデス以外にリヴァは知らない。

 

「だからこそ、最大最強の奥義を馳走してやろう!!」

 

 輝きを増すブラックマリン。

 

 同時に、船の周囲から無数の龍が姿を現す。

 

「水龍天征!!」

 

 一斉に襲い掛かる龍の群れ。

 

 目を見開くブラート。

 

 奥義と言うだけの事はあり、それは、今までの攻撃の比ではなかった。

 

 たとえインクルシオの防御力を持ってしても、防ぎきる事は敵わない。

 

 牙を剥きながら迫る龍。

 

 対して、ブラートは成す術がない。

 

 次の瞬間、

 

 一瞬にして飲み込まれるブラート。

 

 攻撃の全てが命中し、彼を吹き飛ばす。

 

 正に会心の一撃。

 

 必殺の攻撃を放ち、ニヤリと笑みを浮かべるリヴァ。

 

 だが、そんな彼も無傷ではない。

 

 大技を連続して放った衝撃は大きく、口からは鮮血がしたたり落ちている。

 

 しかし、だからこそ勝利への確信も大きい。

 

 これだけやって、倒せないはずが無かった。

 

「・・・・・・・・・・・・やったか?」

 

 そう呟いた。

 

 次の瞬間

 

 

 

 

 

「そう言うセリフを吐くって時はなっ!!」

 

 

 

 

 

 上空から降り注ぐ声に、思わず我に返って振り仰ぐリヴァ。

 

 見上げる天。

 

 水の晴れたその空に、

 

 槍を掲げたブラートの姿があった。

 

 既に鎧もコートもボロボロ、ブラート本人のダメージも小さくない。

 

 しかしそれでも、胸に宿った熱い戦意を一切失う事無く、ブラートは槍を繰り出してリヴァに斬り掛かる。

 

「たいてい、やってねえんだよ!!」

 

 繰り出される槍。

 

 その攻撃を前に、息をのむリヴァ。

 

 もはやリヴァに、その攻撃を回避する術は無い。

 

 次の瞬間、ノインテーターの刃は、リヴァを真っ向から斬り裂いた。

 

「グハッ!?」

 

 鮮血を吐き出しながら、数歩後退するリヴァ。

 

 その体は袈裟懸けに斬り裂かれ、傷口から赤い液体がとめどなく噴き出している。

 

 明らかに致命傷。勝負はあった。

 

 遅れて、甲板に降り立つブラート。

 

 同時に、ブラートが纏っていたインクルシオも解除される。リヴァの放つ大技を喰らい続け、ブラート自身も限界だったのだ。

 

 とは言え、かつての戦友同士の対決は、ブラートに軍配が上がるのは確実だった。

 

「・・・・・・・・・・・・惜しいな」

 

 口から血を吐き出しながら、リヴァは告げる。

 

「ブラート、お前ほどの男が味方にいてくれたら、どれほど心強かった事か・・・・・・お前なら、エスデス様の副将でも務まったはずだ」

「生憎だが、国に仕える気はもうねえよ」

 

 対して、ブラートは素っ気なく答える。

 

 彼が国を裏切ったのではない。国が彼を裏切ったのだ。

 

 既に帝国と言う国家に完全に見切りをつけているブラートにとって、帝国は倒すべき存在であり、戻る場所ではないと言う事だ。

 

「まして、俺はこれでも民の味方のつもりだぜ。大臣とつるんでるエスデスの部下じゃ、それは気取れないだろ」

 

 大臣は民をしいたげ、エスデスは弱い民など見向きもしない。

 

 そんな者達と相いれる事は、ブラートには到底できそうになかった。

 

「民の味方、か・・・・・・殺し屋が言って良いセリフだとは思えんな」

「だから、控えめに言ったのさ」

 

 答えるブラートに対し、リヴァはフッと笑う。

 

 ブラートと違い、リヴァは帝国に残る道を選んだ。

 

 その理由は、エスデスと言う女傑の放つ強烈な個性に惹かれたからに他ならない。

 

 かつて、将軍としての名誉も地位も剥奪され、罪人として裁かれようとしていたリヴァを救い、全ての罪を消して自らの軍に招き入れたエスデス。

 

 リヴァは、そんなエスデスを慕い、今日まで彼女の元で戦い続けてきた。

 

 エスデスが命じれば、どんな非道でも行い、エスデスが命じれば、どんな存在であろうと蹂躙してきた。

 

 いつしか、かつてブラートが慕った清廉潔白な軍人としてのリヴァは消え去り、エスデスを主と仰ぐ、忠実な僕となっている自分がいた。

 

 だが、その事に後悔を抱いた事は無い。

 

 好きなだけ暴れられ、好きなだけ蹂躙できる解放感。

 

 何より、かつて自分を陥れ、失脚させた薄汚い官僚達ですら、今のリヴァには恥も外聞も無く媚を売ってくる。その快感に、リヴァは完全に取りつかれていた。

 

 かつて何もかも奪われた自分が、今度は奪う側に回っていると言う事実が楽しくて仕方が無かった。

 

 片や最強の暗殺者。

 

 片や帝国最強の片腕。

 

 帝国に絶望したと言う過程はブラートもリヴァも一緒だが、結果は完全に真逆となっていた。

 

「ブラート・・・・・・」

 

 静かな声で、リヴァはかつての友に語りかける。

 

「お前に信念がある事は判った。だが、私にも信念があり、そしてエスデス様の配下の者としての意地がある」

 

 不吉な言葉を継げるリヴァ。

 

 同時に、彼の体内を流れる血流が、急激に勢いを増す。

 

「その意地に掛けて、お前の命だけは貰っていく!!」

 

 言い放つと同時に、

 

 ブラートの攻撃によって開いた傷口から、一斉に血飛沫が迸る。

 

 ブラックマリン奥の手 血刀殺(けっとうさつ)

 

 血液もまた液体である以上、ブラックマリンによって制御する事は可能である。

 

 それ故リヴァは、自身の敗北が免れないと悟った時、最後の切り札を使って相打ちを狙ったのだ。

 

 迫る刃。

 

 対して、

 

「ウォォォォォォォォォォォォ!!」

 

 ブラートはとっさに背中から剣を抜き放つと、飛んでくる血の刃を切り払う。

 

 やがて、全ての血刃が切り払われた時、

 

 リヴァは、甲板にゆっくりと倒れ込んだ。

 

「・・・・・・わが命を振り絞った一撃にすら、対応するか」

 

 その意識が、ゆっくりと沈んで行く。

 

「見事だ・・・・・・ブラート」

 

 笑みを浮かべるリヴァ。

 

 最後の最後で戦えた相手が、かつて友であった事に満足するように、

 

 その笑みはとても満ち足りた物であった。

 

 

 

 

 

 対峙するキリト。

 

 向かってくるのは三獣士の内の二人、ダイダラとニャウ。

 

 ともに、キリトを挟み込むようにして向かってくる。

 

「俺の攻撃に耐えられるか、小僧!!」

 

 ベルヴァークを振り翳すダイダラ。

 

 対抗するように、キリトはエリュシデータを下段から振り上げるように繰り出す。

 

 その様子に、ニヤリと笑うダイダラ。

 

「ハッ 馬鹿め!! そんな細い剣なんぞ、へし折ってやるよ!!」

 

 ぶつかり合う両者。

 

 剣と斧の刃がこすれ合い、火花が盛大に飛び散る。

 

 次の瞬間、

 

 大きく弾かれたのはダイダラの方だった。

 

「ぬおッ!?」

 

 思わず、たたらを踏んで後退するダイダラ。

 

 対してキリトは、ニヤリと笑う。

 

「残念だったな、へし折れなくて」

 

 静かに言い放つと同時に、剣を繰り出すキリト。

 

 高速で袈裟懸けに放たれる剣技は、未だに体勢を整えていないダイダラに襲い掛かる。

 

「うおゥッ!?」

 

 思わず、バランスを崩しながらも、キリトの剣を受け止める事に成功したダイダラ。

 

 そのまま、有り余る膂力でキリトの体を弾き飛ばそうとする。

 

 だが、それよりも一瞬早く、キリトは後方宙返りをしながら後退、ダイダラから距離を取る。

 

 そこへ、

 

「馬鹿めッ 動きを止めたね!!」

 

 スクリームを打撃用武器として構えたニャウが襲い掛かって来た。

 

 スクリームの強度は通常の笛より遥かに高いため、鈍器としても使用できるのだ。

 

 振るわれる笛は、

 

 しかし、それよりも早く、キリトがエリュシデータを擦り上げるように振るい跳ね除ける。

 

「おわっ とと!?」

 

 とっさに、空中でバランスを取り戻しながら甲板に着地するニャウ。

 

 そこへ、斬り込んで来たキリトの剣を、とっさにスクリームで受け止めた。

 

「・・・・・・君、おかしいんじゃない? 何で普通に動けるのさ?」

 

 スクリームにより無気力化の演奏を流され、船全体は眠りについた状態にある。

 

 にも拘らず、キリトは何も問題が無いように動いている。

 

 ブラートのように、体の一部を抉って意識を覚醒させている様子も無い。そもそも、キリトがそんな事をしたら、痛みで戦うどころではなくなるだろう。

 

「さあな。腕がヘボすぎたから、効果が無かったんじゃないのか?」

「ぬかせッ!!」

 

 挑発するような言葉に、ニャウはとっさにスクリームを振るってキリトの剣を弾く。

 

 そこへ、ベルヴァークを掲げたダイダラが突っ込んでくるのが見えた。

 

「何だって良いさッ 俺が吹き飛ばしてやる!!」

 

 叫びながら、ベルヴァークを袈裟懸けに振るうダイダラ。

 

 対して、

 

 キリトはとっさにその場から跳躍。ダイダラの斧を回避すると同時に、自身はトンボを切るようにしてダイダラの顔面を踏み台にし、そのまま後方に着地した。

 

「グアッ テメェ!?」

 

 踏まれた顔面を押さえ、苦悶の表情を浮かべるダイダラ。

 

 その様子を見ながら、ようやくキリトが油断できない相手であると悟ったのだろう。ニャウとダイダラは、それまでの雑な攻めを改めるように、慎重に間合いを詰めてくる。

 

「持久戦かよ・・・・・・・・・・・・」

 

 対抗するように、キリトもまたエリュシデータを構え直す。

 

 とは言え、

 

 あまり時間を掛け過ぎるのは得策とは言い難い。

 

 なぜなら、キリト自身、スクリームの演奏による影響を受けていない訳ではないのだ。それを、ある方法で無理やり無効化しているにすぎない。

 

 時間を掛ければ、また状況を覆される事もあり得る。

 

「スゲェ・・・・・・・・・・・・」

 

 戦いの様子を眺めていたタツミが、感嘆の声を上げる。

 

 タツミにとっては初めて目撃する帝具戦の様相に、少年は圧倒されていた。

 

 タツミ自身、武術にはかなりの自信があるが、やはり帝具戦ともなると戦いの次元が全く違ったものとなってくる。

 

 正直、目で追うのがやっとの状態だった。

 

 一方のニャウとダイダラの方でも、キリトの存在が脅威と映り始めたのだろう。それまでの戦いで見せていた油断が完全に消えているのが判る。

 

「ダイダラ、少し時間を稼いで」

「あん?」

 

 ニャウの言葉に一瞬、訝るような顔をするダイダラだが、すぐにその意図に気付きにやりと笑う。

 

「成程な。任せとけ」

 

 そう言うと、ベルヴァークを二丁に分離、片方をキリト目がけて投擲する。

 

「キリト、気を付けろ!!」

 

 その様子を後方から見ていたタツミが叫ぶ。

 

「あの斧、どこまでも追っかけて来るぞ!!」

「なるほど、それがあいつの能力か」

 

 タツミの言葉に頷きを返しながら、キリトは飛んできた斧を、身体を傾ける事で回避する。

 

 頭のすぐ横を駆け抜けていくベルヴァーク。

 

 しかしタツミの言うとおり、あるていど飛翔すると、ベルヴァークは勢いを殺さずにターンして再びキリトに戻ってくる。

 

 その動きを冷静に見据えるキリト。

 

 次の瞬間、下段から鋭く斬り上げたエリュシデータが、ベルヴァークを弾き飛ばす。

 

 勢いを失い、舞い上がるベルヴァーク。

 

 だが、

 

「オラァッ まだ終わりじゃねェぞ!!」

 

 ダイダラが勢い込んで言い放つと同時に、もう片方のベルヴァークを投擲。その隙に、放物線を描いて戻ってきた片割をキャッチする。

 

 舌打ちするキリト。

 

 飛んできたベルヴァークを横ステップで辛うじて回避しつつ、どうにか反撃の隙を伺おうとした。

 

 その時だった。

 

 背後から聞こえてきた笛の音に、思わず動きを止める。

 

 その視線の先では、スクリームを口に当てたニャウが、先程とは別の曲を吹いている所だった。

 

 やがて演奏も終わる時、

 

 驚くべき変化が起こった。

 

 ニャウの体が、一気に膨らんで行く。

 

 それまでは少年のように華奢な外見だったと言うのに、見る見るうちに筋肉質に盛り上がり、着ている服ははちきれんばかりに膨らむ。

 

 顔つきも大人びた者に変化し、まるで最前までとは別人であるかのように思える程だった。

 

「奥の手、《鬼人招来》。悪いけど、一気に決めさせてもらうよ」

 

 催眠効果のある演奏によって自身の能力を強化し白兵戦能力を、飛躍的に向上させる。それがスクリームの奥の手である。

 

 ニャウの参戦に合わせて、距離を詰めてくるダイダラ。

 

 その手のベルヴァークが掲げられる。

 

「オラッ 死ねェ!!」

 

 放たれるベルヴァーク。

 

 正面から、旋回しながら飛んでくるベルヴァークを回避するキリト。

 

 だがそこへ、後方からスクリームを振り翳したニャウも同時に迫る。

 

 正面にはダイダラ。後方からはベルヴァークとニャウ。

 

 キリトがどれか一方に対応しようとすれば、即座に背後から別の攻撃が襲ってくる事になる。

 

 完全な包囲網がキリトに襲い掛かる。

 

 その状況において、

 

 キリトはダイダラを目標と見定め駆け出した。

 

 対して、ニヤリと笑みを浮かべるダイダラ。

 

 既にダイダラの中では、必勝パターンが形成されていた。

 

 キリトがどんな攻撃をして来ようとも、ダイダラは耐えきる自信が充分にある。その間にニャウとベルヴァークが背後から襲う。それで終わりだ。

 

「死ねェ!!」

 

 ベルヴァークを振りかざすダイダラ。

 

 次の瞬間、

 

 キリトは右手に構えたエリュシデータを、弓を引くように大きく引き絞る。

 

 加速するキリト。

 

 その動きは、ダイダラの目測を大きく狂わせる。

 

「なッ!?」

 

 顔を引きつらせるダイダラ。

 

 だが、もはや防御も回避も間に合わない。

 

「ヴォーパルストライク!!」

 

 突き込まれる刃。

 

 その一撃が、ダイダラのど元を貫通し吹き飛ばした。

 

 鮮血を撒き散らして倒れ込むダイダラ。

 

 同時に、主を失ったベルヴァークも、コントロール不能となり甲板に転がる。

 

 キリトは三方向から包囲された状況を冷静に見極め、どこを突けば最も包囲網を突き崩せるかを判断したのだ。

 

 ベルヴァークやニャウを攻撃しても、突き崩せるのは包囲網の一角のみ。その場合、背後から攻撃を喰らってアウトである。

 

 だが、ダイダラを倒す事ができれば、ダイダラとベルヴァーク、双方を一気に無力化できる。

 

 キリトはそこまで計算した上で、瞬時にダイダラ攻撃を決定したのだ。

 

 轟音を上げて、床に落下するダイダラ。

 

 だが、戦いはまだ終わっていない。

 

「ダイダラの仇、死ね!!」

 

 拳を振り翳して迫るニャウ。

 

 その体は、既にダイダラと比べても遜色無い程に膨れ上がっている。なまじ、顔付が端正なままなので、却って不気味な感すらある。

 

 対して、キリトは未だに動く事ができない。

 

 ヴォーパルストライクを放った硬直が解けず、次の動きが取れないのだ。

 

 それを見越したタイミングで、ニャウが攻め込んでくる。

 

 その拳がキリトを捉えると思った。

 

 次の瞬間、飛翔してきた剣がニャウに襲い掛かる。

 

「くそッ!?」

 

 とっさに、キリトへの攻撃を諦めて、飛んできた剣を払うニャウ。

 

 キリトの危機に、とっさに剣を投げたのはタツミだった。

 

 帝具戦では手も足も出せなかったタツミだが、それで戦いを投げた訳では決してない。

 

 タツミはタツミなりに状況を見極め、キリトを掩護できる最良のタイミングを計っていたのだ。

 

「サンクス、タツミ。ナイス掩護だ!!」

 

 言いながら振り返るキリト。その視界の彼方で、剣を投げたタツミが親指を立ててサムズアップしている。

 

 同時に、右手に持ったエリュシデータを、捻り込むような姿勢で左の脇に構える。

 

「くそッ とんだ邪魔を!!」

 

 苛立つような声と共に、ニャウは再びキリトへと向き直る。

 

 しかし、その時には既に、キリトも攻撃態勢を整えていた。

 

 駆けるキリト。

 

 対して、ニャウの反応は一瞬遅れる。

 

 一気に距離を詰めたキリトが、真正面から剣を振るう。

 

 交錯する両者。

 

 次の瞬間、

 

 左から右に奔ったキリトの剣は、間髪入れずに再び、右から左へと返される。

 

 その間、刹那以下。

 

 目撃した人間は誰もが、二つの斬撃が左右同時に放たれたようにも感じた事だろう。

 

「スネークバイト!!」

 

 告げるキリト。

 

 次の瞬間、

 

 キリトの剣に斬り裂かれたニャウの体から鮮血がほとばしる。

 

「グッ 馬鹿な・・・・・・・・・・・・」

 

 信じられないと言った面持ちで、その場に膝を突くニャウ。

 

 スクリームの奥の手を使い、能力を強化した自分が、ここまであっさりとやられるとは。

 

 次の瞬間、

 

 剣を振り上げたキリトが、ニャウの目の前に立った。

 

 冷ややかに見下ろしてくる、漆黒の少年。

 

 その鋭い眼差しが射抜いた瞬間、数々の戦場で猛威を振るった三獣士ニャウは、魂の底から震えるのを感じた。

 

 目の前にいるキリトから発せられる威圧感が、完全にニャウを凌駕していた。

 

 息をのむニャウ。

 

 だが、彼にできたのはそこまでだった。

 

 鋭く、キリトの剣が振り下ろされる。

 

 次の瞬間、ニャウの顔面は縦に斬り裂かれる。

 

 キリトの剣が、真っ向からニャウを斬り下ろしたのだ。

 

 ニャウの手から、スクリームが零れ落ちる。

 

 次の瞬間、

 

 轟音と共に、巨体が甲板に倒れ伏す。

 

 同時に、能力が解けたのか、膨らんでいた身体が急速にしぼんで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニャウ撃破を確認した瞬間、キリトは思わず、その場で膝を突いた。

 

「グッ!?」

 

 込み上げる疲労感を必死でこらえ、甲板に突き立てたエリュシデータを杖代わりにして、辛うじて倒れるのを防ぐ。

 

 そうでもしないと、あっという間に意識を失ってしまいそうだった。

 

「キリト!!」

 

 駆け寄ってきたタツミが、とっさにキリトの体を支える。

 

「キリト、お前やっぱり、笛の影響が・・・・・・・・・・・・」

 

 タツミが見て居た限りでは、キリトは敵の攻撃を受けていない。にも拘らず、これほどのダメージがあると言う事は、スクリームの影響であると考えるべきだった。

 

 そのタツミの言葉に対し、キリトは苦笑で返す。

 

「ちょっと、無理しすぎたかもな」

 

 実のところ、キリトはスクリームの影響を無効化していた訳ではない。強引なやり方で、無理やり体を動かしていたのだ。

 

 帝具エリュシデータの能力は、その元となった剣豪の技を、使用者が模倣できる点にある。

 

 これはつまり、体の動きを剣がアシストしてくれるわけだが、キリトはこの能力を利用し、動かない身体を能力で補正する事で辛うじて動かしていたのだ。

 

 しかし当然、そんな事をすれば体に掛かる負荷も半端な物ではなくなる。

 

 その為、戦いを終えた途端、キリトには凄まじいまでの疲労感が襲ってきたのだ。

 

「大丈夫なのかよ?」

「ああ、問題無いさ。少し休めば、これくらい」

 

 心配してくれるタツミに、キリトはそう言って笑い掛ける。

 

 そこへ、リヴァを撃破したらしいブラートが歩いて来るのが見えた。

 

「終わったようだな」

 

 倒れているダイダラとニャウの遺体を見て、ブラートは頷きながら言った。

 

 三獣士撃破。

 

 これで、偽ナイトレイドによる文官連続殺人事件は、ストップするはずである。

 

「よし、後は連中の帝具を回収して撤退するぞ。他の連中が起きてこないうちに・・・・・・」

 

 ブラートがそこまで言った時だった。

 

 

 

 

 

 トスッ

 

 

 

 

 

 軽めの音が鳴り響く。

 

 何の音なのか、誰もが一瞬判らなかった。

 

 だが、

 

 気が付いた時には、

 

 ブラートの胸に、1本のナイフが突き刺さっていた。

 

「兄貴?」

 

 タツミが声を掛けた瞬間、

 

「ガハッ!?」

 

 突如、ブラートは口から大量の血を吐き出し、その場に膝を突いた。

 

 崩れ落ちる巨体。

 

「兄貴!?」

「ブラート!?」

 

 タツミとキリトが驚愕な声を上げる中、

 

 くぐもった笑い声が、龍船の上に響き渡った。

 

 

 

 

 

第14話「ナイトレイドVS三獣士」      終わり

 

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