1
並んで建てられた三つの墓。
その一つ一つに、トキハは花束を置いて行く。
リヴァ、ニャウ、ダイダラ。
それらの墓は、大運河での戦いで戦死した三獣士達の物である。
彼等との付き合いはそれほど長くは無かったが、それでも思い出は残る。
紳士然としたリヴァ、豪快なダイダラ、人懐っこいニャウ。
皆それぞれ、遠方から来た余所者のトキハによくしてくれた。
「リヴァ・・・・・・ニャウ・・・・・・ダイダラ・・・・・・」
トキハが花を置くのを待っていたように、後ろに立つエスデスが口を開いた。
「お前達は敗れた。それは、お前達が弱かったからだ」
突き放すような言葉を駆けるエスデス。
しかし、その声は常の物よりも、少し固い感じがあるように、トキハには思えた。
「まったく、しょうがない部下達だよ、お前等は・・・・・・本当にしょうがないから、仇は私が取ってやる」
言ってから、エスデスはトキハに目をやる。
「私を冷たい女だと思うか?」
「別に。エスデスなら、多分そう言うだろうと思っていたし。それに、リヴァ達だって、慰めなんか期待していないと思う」
エスデス軍のモットーは弱肉強食。弱い者は強い者に敗れ、ただ蹂躙されるだけ。
今回は三獣士よりもナイトレイドの方が強かったと言う、ただそれだけの話である。
慰めの言葉を掛けるよりも、仇を打つ事の方が死んでいった者への手向けとなる事を、トキハも理解していた。
「例の特別警察、そろそろ動けるんでしょ?」
「ああ、メンバーの大方は、今日中に集まる筈だ」
オネスト大臣は、エスデスが希望した7人の帝具使いを見事に期日までに集めて見せた。
勿論、その際に強権を発動し、かなり強引に集めたであろう事は想像に難くないが。
「そう言えば・・・・・・・・・・・・」
「?」
訝るトキハを傍らに無視して、エスデスはふと、ある事を思い出す。
大臣が言うには、七人のメンバー選抜が完了し、召集令状を送った直後、飛び入りで一人、参加希望が出て来たと言う。
これで、ここにいるトキハとエスデスを加えると、メンバーは全部で十人と言う事になる。当初エスデスが考えていたよりも、規模が拡大できた。
しかも、聞いた限りでは実力に疑う余地は無く、むしろエスデスとしては願ったりな状況である。
ただ、それだけに飛び入り参加と言う形になったのが、解せない話ではあるのだが。
ニヤリと笑うエスデス。
「あの男」の目論みがどこにあるのかは、エスデスにも判らない。
だがそれでも、状況的に考えて、事はエスデス好みの方向に、事は動いているようだった。
手にした資料に目を通すと、キリトは険しい顔でページをめくって行く。
大運河での戦いから数日。偽ナイトレイドを名乗って凶行を重ねていたエスデス軍三獣士を撃破した事で、一連の文官連続殺人事件は鳴りを潜めるように収束していた。
帝具も一度に大量に手に入り、ナイトレイド側としては満足のいく戦果であったと言える。
無論、ブラートを失った事への悲しみは深い。
ブラートは隊内最強の実力を誇っていただけではなく、面倒見も良く、みんなの兄貴のような存在だった。
それだけに、失われた事への寂寥感は、どうあってもぬぐえなかった。
とは言え、それをいつまでも悲しんでいる事はできない。
ブラートの魂は、彼の相棒だったインクルシオと共にタツミが受け継いだ。
ならば、残された者達は、革命が成功するその日まで、ブラートの分も戦い続けるのみだった。
そんな中、キリトはナジェンダに頼んで、ある資料を取り寄せてもらった。
ナジェンダは今、回収した三獣士達の帝具を持って、南方の革命軍本部へ向かっている。回収した帝具を革命軍で解析、役立ててもらうと同時に、状況を報告する事が目的である。
加えて、ナジェンダは本部と交渉して、メンバーの増員をしてもらおうとしていた。
シェーレ、ブラートと主力メンバーを相次いで失ったナイトレイドの戦力は、一時的に弱体化している。マインの怪我は完治し、復帰に向けて訓練も開始しているが、それでも規模の縮小は避けられない。
そこで、新メンバーを加えた新体制で、スタートを切ろうとしていた。
資料のページをめくるキリト。
大運河での戦いで、限界を超えて帝具の力を使ったキリトは、その後何とか龍船から脱出する事に成功したものの、そこで力尽きて倒れてしまい、あとはタツミに運んでもらう形でアジトへと戻って来たのだ。
それから数日、キリトはベッドに放り込まれ、完全療養を言い渡された。
そしてつい昨日、ようやく動けるようになったところで、キリトは資料に目を通す事が出来た。
「・・・・・・ラフィン・コフィン」
苦々しく呟くキリト。
それは、あの龍船で姿を現した、3人が名乗った組織の名前。
キリトが今読んでいるのは、そのラフィン・コフィンに関わる資料だった。
ラフィン・コフィン
その存在は帝国全土で確認されている、広域指定犯罪組織の名称。
構成員は百人を下らないとさえ言われる巨大組織であり、いくつかの帝具は彼等が所持しているとさえ言われている。
その残虐性は言葉では語り尽くせぬほどであり、彼等に狙われて生き残った人間は殆どいないとさえ言われている。
ある時、事態を重く見た、とある地方領主は、私兵部隊を中心に五百から成る討伐隊を組織。このラフィン・コフィン殲滅に乗り出した。
数の上から言って、討伐隊の勝利は確実かと思われたこの戦いは、しかし誰もが予想だにしなかった結末を迎える事になる。
ある朝、領主の館に仕える年若いメイドが、庭を見て甲高い悲鳴を上げた。
驚いて、領主以下の家人たちが庭へと出てみる。
そこで、絶句した。
その庭には、出撃した討伐隊の兵士全員の首が、整然と並べられていたのだ。
流れ出た血で中庭全体が真っ赤に染まり、並べられた兵士の首は、不気味な視線を見守る一同に向けて来ていたと言う。
それは、盛大過ぎる警告だった。
「自分達に手を出せば、お前達も簡単にこうなる」と言う。
このように、ラフィン・コフィンとは、残虐な行為も厭わない最悪の犯罪者集団である。その為、早急なる殲滅が望ましいと考えられる。
最後のページには、幹部格3人の簡単な特徴が、人相書き入りで載っていた。
まず、ブラートに致命傷を与えたと思われるズタ袋の男、《ジョニー・ブラック》。この男は何種類もの毒を使いこなし、数多くの毒殺に関わって来た。
髑髏の顔に赤い目のマスクをしているのは《赤目のザザ》。隊内でも武闘派に位置づけされる一方、数多くの殺人もこなして来ており、その犠牲者は単独でも三ケタに上るとさえ言われる危険人物である。
そして、
「・・・・・・・・・・・・」
キリトは最後の1人、あのフード男に目をやった。
《PoH》と言う名のダガー使い。こいつが組織のリーダーであるらしい。素性、経歴は一切不明。ただ帝具使いである事、組織随一の戦闘力を誇っている事は確実と言われている。
書類から目を放すキリト。
ラフィン・コフィンとの戦いは、まだ始まったばかりである。それを考えれば、連中はまた、必ず現れる事になる。
「・・・・・・奴等との戦い、案外長い物になるかもしれないな」
そう呟きながら、資料を閉じるキリト。
敵の実力は、未だに底が知れない感がする。ある程度、覚悟を決めてかかる必要があると感じた。
その時、
「キリト、入るわよ」
声を掛けて部屋に入って来たのは、シノンだった。
その姿に、キリトは僅かに顔をほころばせる。
キリトが倒れている間、シノンはグチグチと不満を言いつつも面倒を見てくれたのだ。
普段は素っ気ない態度を取る事が多いシノンだが、どうやら割と面倒見の良い性格であるらしい。
ちょっと、可愛いと思った。
シノンはキリトよりも1歳年下だが、何だか妹ができた気分である。
もっとも、キリトは故郷に本物の妹が1人いるし、それでなくても、こんな取っ付きの悪い妹は願い下げなのだが。
「・・・・・・・・・・・・何か失礼なこと考えてない?」
「き、気のせいだよ」
鋭い指摘をしてくるシノンに、キリトはドモリながら否定する。
何だか最近、シノンの勘が前よりも鋭くなってきている気がするのは気のせいなのか、あるいはこの勘の鋭さも帝具の能力なのか? キリトとしては是非とも、後者では無い事を祈るだけである。
そんなおバカな事を考えていると、シノンがキリトの頭に手を伸ばしてきた。
殴られるか?
そう思って僅かに身構えるキリトだったが、すぐにそれが杞憂である事が判った。
頭に手を伸ばしたシノンは、キリトの額に手を当てて来た。
「ふうん。熱は下がったみたいね。まったく、アンタの場合、多少具合が悪くても体動かすから、見ていても大丈夫なのかどうか判り辛いのよね」
「面倒をおかけします」
そう答えつつも、
キリトはシノンの掌が齎す柔らかい温もりに、ほんの少し気恥ずかしい物を感じずには入れらない。
同年代の女の子にこのような事をしてもらうと、嬉しい以前に緊張してしまうのが思春期の少年と言う物だろう。
そう考えれば、シノンは普段の言動に似合わず、割と無防備な所があるらしかった。
「い、いや、もう大丈夫だって」
慌てて、シノンの手から額を離すキリト。
そんなキリトの様子を、シノンは意味が分からないと言った感じにキョトンとして見詰めているのだった。
2
エスデス主導による特別警察立ち上げの日。
トキハは宮殿内の、指定された部屋へと向かっていた。
相変わらず巨大で、内部構造が複雑な宮殿内の様相には、辟易してくる。
記憶力にはそれなりの自信があるトキハですら、案内なしで宮殿内を歩けるようになるまで、しばらく時間がかかってしまった。
「こんなに複雑にして、どうするんだか」
城の構造を複雑化するのには、一応の理由がある。万が一、敵や賊が侵入した場合、これを撃退しやすくするためだ。また、複雑な構造にする事で、侵入その物を不可能にしてしまおうと言う狙いもある。
とは言え、この宮殿の複雑さは異常だと思った。
全ては、官僚達の小心から来ている。
彼等は、自分達の命が脅かされる事を恐れ、税金と労働力を湯水のように使い込んで、この複雑怪奇な構造をした宮殿を完成させたのだ。
バカバカしい事だ、とトキハは思う。
宮殿にはブドー大将軍率いる近衛の精鋭部隊が、常に目を光らせている。それだけでも賊に対する抑止力としては充分すぎるくらいだ。
だが、小心者の官僚たちは、自分達の安全を「目に見える形」で表さないと気が済まない連中ばかりであるから始末に負えなかった。
民がいくら苦しもうが、自分達の命と財産が守られればそれで充分、と言う事だろう。
巨大な国家を支配しておきながら、皇帝や大臣、官僚達にとって「帝国」とは、この宮殿の中だけの事を差しているのだ。
「えっと、この辺だよな。エスデスが言ってた集合場所って」
トキハはメモに目を落としながら、廊下を進んで行く。
そこで、ようやく目的の部屋を見付ける。
「ここか・・・・・・失礼します」
ドアを開けて、中へと入る。
そこで、
「「えッ!?」」
思わず、中にいた人物とハモる形で、トキハは硬直した。
中には女性が1人いる。
女性、と表現したが、実際の所は「少女」と言った方が正しいだろう。年齢は、トキハと同じくらいか、少し上。
茶色がかったロングヘアの中から、少女は可憐な瞳でトキハの方を見詰めてきている。
スラリとした白い手足に、大きすぎず小さすぎない、手ごろなサイズの胸、腹部はキュッと引き締まり、その下のお尻は好ましい丸みを帯びている。
まさに、ミドルティーン世代としては理想的なスタイルの持ち主であると言える。
で、
何でトキハにそんな事が判るのかと言えば、
目の前の少女が、下着姿だからに他ならなかった。
白地に赤い縁取りの入った、お揃いの上下が、少女を美しく飾り立てている。
そうしていると、まるで天上の女神が降臨したような印象さえある。
もっとも、
その女神は、今まさに細剣を鞘から抜き放ち、その鋭い切っ先をトキハに向けてきている訳だが。
一拍置かれる、静寂の間。
次の瞬間、
「キャァァァァァァァァァァァァ!?」
「うわッ!?」
少女の悲鳴とと門放たれる超高速の連続突き。
それに対し、トキハはとっさに、のけぞるようにして少女の剣をかわす。
だが、少女の攻撃は、そこで収まる事無く、次々と襲い掛かって来た。
ウェイブは、自分が屈強な海の男を目指しており、常に悪を討つ為に戦い続ける誇り高い戦士である事を自認している。
帝国海軍に所属し、日々、凶悪な海賊たちを相手に戦い続けるウェイブの実力は、海軍内でもトップクラスである。
その為、このほどエスデス将軍が編成を進めていると言う特別警察の隊員に選ばれ、手土産を手にはるばる帝都までやって来たのだ。
だが、意気揚々と集合場所の部屋に入った途端、ウェイブはこの場所に来た事を魂の底から後悔していた。
同僚が変人すぎる。
まず、入った時に既に先着していた人物は、ガタイの良い上半身が裸であり、なぜか頭部を不気味なマスクですっぽりと覆っている。しかも、さっきからジッとウェイブを見詰めてきている。ハッキリ言って怖かった。
この時点で、先制パンチとしてはクリティカル級である。
2人目は、学生服を着た少女で、髪をショートカットにした可愛らしい女の子である。が、なぜか持ち込んだお菓子を一心不乱に頬張っている。ウェイブが挨拶しようとした瞬間、間髪入れずに返ってきた言葉は「このお菓子はあげない」だった。
3人目はウェイブと同年代くらいの女性。セリューと名乗ったその人物は、溌剌としていて好印象を持てる。足元にいる謎生物はともかく。
だが次に、セリューの紹介で入って来た人物に、絶句した。
赤いバラの花びらを撒き散らしながら入ってきた中年の男性は、一言で言えば「オカマ」だった。口調も仕草も、紛う事無く、完璧なまでのオカマだった。しかも、ウェイブに狙いまで定めている始末である。
うん、何というか・・・・・・
もう帰りたかった。
て言うか、もう帰っても良いだろうか?
5人目に入って来たウェイブよりも少し年上くらいの男性が、物腰の柔らかい優しげな性格だったのが唯一の救いであるが。
ともかく、これがウェイブの同僚たち。これから一緒に戦う仲間達と言う訳だ。
激しく不安を覚える。
と言うよりむしろ、不安意外何物も存在しない状況である。
その時だった。
扉が開き、軍服を着た人物が会議室の中へと入って来た。
すらりと伸びた手足や、軍服の上から膨らんだ胸など、明らかに女性である事が判る。
しかし、その顔は仮面で覆われており、窺い知る事ができなかった。
その仮面の女性は壇上に立つと、居並ぶウェイブたちを指差して言った。
「お前達、見ない顔だなッ ここで何をしている!?」
いきなり発せられた一方的な物言い、ウェイブはムッと顔をしかめる。
先程から感じていたストレスの連続に、いい加減、鬱憤も溜まっていたところであったから尚更である。
「おいおい、俺達はここに集合するように言われて・・・・・・・・・・・・」
ウェイブは、最後まで言い切る事ができなかった。
その前に、一瞬で距離を詰めて来た女が、ウェイブを容赦なく蹴り飛ばしたのだ。
衝撃と共に、成す術も無く床に転がるウェイブ。
あまりの威力に、ウェイブは悲鳴を上げる事すらできず、そのまま起き上がれずにいる。
その様子を見て、居並ぶ一同に緊張が走る。もっとも、学生服の少女だけはマイペースにお菓子を食べているが。
「賊の中には殺し屋もいる。常に警戒を怠るな!!」
ウェイブを無力化した女は、今度は物腰の柔らかそうな優男へと狙いを定めて襲い掛かる。
だが、自分が狙われている事を悟った男は読んでいた本を閉じると、とっさに後退する事で女の攻撃を回避して見せた。これは、顔に似合わずなかなかの反応速度であると言えよう。
動きを止める女。
そこへ、背後からセリューと、彼女の相棒であるコロことヘカトンケイルが襲い掛かった。
挟み込むように、女に飛び掛かるセリューとコロ。
セリューは凶悪な笑みを浮かべ、女に殴り掛かる。
次の瞬間、
セリューは突き出した腕を女に掴まれ、勢いそのままに背負い投げの要領で床に叩き付けられた。
「グッ!?」
床板が破壊される程の威力を前に、セリューは息を詰まらせ、その場から動けなくなってしまう。
「背後から襲うにしては、お前は殺気が剥き出し過ぎるぞ」
「クッ!?」
悔しそうに舌打ちするセリュー。見れば、ヘカトンケイルも氷漬けにされて捕まっている。
完全に子ども扱いだった。
と、
そこで、それまで無関心にお菓子を食べていた少女が動いた。
ビスケットを口に含みながら立ち上がると、腰の刀の鯉口を切って駆ける。
そのあまりの速さに、誰もが目で追う事ができなかったほどである。
間合いに入ると同時に抜刀。横なぎの一閃を繰り出す少女。
その鋭い一閃が、女の仮面を掠める。
「・・・・・・・・・・・・ふざけられても、こっちは手加減できない」
低く囁かれる少女の言葉。
それに対して、
仮面の女はフッと、笑みを返す。
「それが帝具《
同時に、刃が霞めた仮面が崩れ、床へと落ちる。
その下から、強烈な美貌を誇る素顔が顕になった。
「あ、あなたは!?」
声を発したのは、一番初めに来ていた不気味なマスクの男性である。
仮面の下から現れた、女の顔には見覚えがあったのだ。
「エ、エスデス将軍!?」
女の正体はエスデスだった。
今日、メンバーの大半が集合すると聞いて、余興ついでに皆の実力を見てみようと考えたのだ。
実にエスデスらしい発想である。
その時、
「エスデス、趣味悪いよ」
ぼやくような言葉と共に、2人の人物が部屋の中へと入って来た。
一人はトキハである。しかしなぜか、その姿はボロボロに近い格好になっている。
そしてもう1人は、純白の軍服に身を包んだ、血盟騎士団副団長のアスナでった。こちらは、頬を膨らませてそっぽを向いている。
そんな二人の様子を見て、エスデスは意外そうな顔をする。
「珍しい組み合わせだな、お前達」
「強猥の現行犯です」
「この女は、殺人未遂の現行犯」
そう言って、互いを指差すトキハとアスナ。
トキハが間違って入った部屋で着替えていたアスナ。
下着姿を見られたアスナは激昂し、容赦なく愛剣でトキハに斬り掛かった。
行動としては、なかなか過激な物である事は間違いない。
幸い、アスナの攻撃をトキハは全部裁く事が出来た為、大事には至らなかったものの、互いの第一印象が最悪な物になったのは言うまでも無い事である。
結局その後、騒ぎを聞きつけてすっ飛んできたブドー大将軍に、2人そろって大目玉をくらってしまった。
2人が遅れて来たのは、そう言った理由である。
そんなトキハとアスナを見て、エスデスは笑みを浮かべる。
「どうやら、相性が良いようで何よりだ。お前達、気が合うな」
「「合って無い!!」」
声をそろえる二人。タイミングもバッチリだった。
そんな中、マスクをかぶった男は、ウェイブに近寄って右手を差し出してきた。
「さっきは、ずっと黙っていてごめんね。私、人見知りって奴で、緊張してたんだよね。けど、ここじゃ多分、私が一番年上だから、しっかりしなくちゃね」
「ハ、ハァ・・・・・・・・・・・・」
人見知りって外見かよ? と内心で思うウェイブだったが、思ったよりも相手の物腰が柔らかかったせいか、第一印象の強烈なインパクトは幾分、和らいだ感じがある。
「焼却部隊から来たボルスです。よろしくね」
「あ、こっちこそ。俺は、帝国海軍から来たウェイブです」
そう言ってウェイブは、ボルスの手を握り返す。
焼却部隊と言うのは、その名の通り火を専門的に扱う部隊であり、スパイ容疑が掛かって処刑される者や、疫病が蔓延し手の施しようがないと判断された村を焼き払うのが任務である。
「ジョヨウ総督府から来ましたランです。どうぞよろしく」
そう言って柔らかく微笑んだのは、最後に入って来た優男の青年である。こうして見ると、警察などと言う荒事専門の仕事をするようには見えない。書記官のような文官か。あるいはもっと言えば、教壇で教鞭を振るう教師のようにも見える。
ジョヨウと言えば、地方の大都市の中でも犯罪発生率が最も低い都市として有名な場所である。ランの物腰の柔らかさも、そこら辺から来ていると想像できた。
「帝都警備隊のセリュー・ユビキタス、アンド、こっちが相棒のコロです。って、さっきも名乗りましたね」
敬礼しながら、自分の行動に苦笑するセリュー。
それだけ見ると、体育会系少女のような溌剌とした印象がある。
だが、その笑顔の下に、凶悪かつ凶暴な素顔が隠されている事は、まだこの中の誰も知らなかった。
「特殊工作部隊から来たクロメ、よろしく」
素っ気なく言ったのは、学生服を着た少女である。相変わらず、お菓子をバクバクと食っている。
しかし、
特殊工作部隊とは所謂、潜入や暗殺を主任務とする部隊であり、中には敵組織の中に単独で潜り込み目標を殺害する事もあり得る。外見の細さからは想像もできないが、クロメが先ほど見せた強さも、それで納得できる。
「中央研究開発部から来たスタイリッシュよ。よろしくね」
そう言って自分に対しウィンクしてくるスタイリッシュに対し、ウェイブは容赦ない寒気を感じる。
中央研究開発部は兵器や薬品の開発を主に扱っている部署であり、中には罪人を使用した人体実験まで行っていると言う黒い噂まであった。勿論、真偽については不明だが。
「近衛軍特別機動部隊『血盟騎士団』から来たアスナです。よろしくお願いします」
アスナは名乗ってから、今回の自分自身の事について思い起こす。
今回の件、最後に飛び入りで参加した8人目のメンバーとは、アスナの事である。
血盟騎士団本隊は現在、団長のヒースクリフ自らが率いて南方の要害。シスイカンへと赴いている。最近、急速に勢力を拡大しつつある
その際、アスナも当然同行するものと考え準備していたのだが、ヒースクリフから言い渡された任務は、アスナにとって意外な物だった。
それは、エスデスの指揮下に入り、彼女が新設する特別警察に出向せよと言う事だった。
当然、アスナは反対した。皆がシスイカンの守りに付く時に、なぜ副団長の自分一人が帝都に残らなくてはならないのか、と。
だが、ヒースクリフは学生と両立しているアスナの立場を重んじ、またその剣の腕を存分に振るう事ができる警察機構への出向を命じたのだ、とアスナに説明した。
正直、団長のヒースクリフは、アスナにすら本音を見せない所がある為、言った事が真実かどうかは判らない。
しかし、それが正式な命令である以上、従わない訳にはいかなかった。
更に言えば、エスデス指揮下の新組織は、これまでにな全く新しい発想の元に生れた部隊であり、あのナイトレイドにすら対抗が可能であると言う。そのような部隊に配属されるのならば、アスナとしてもむしろ本望だった。
「北方討伐軍所属エスデス隊客将のトキハだ」
素っ気なく言ってから、トキハは傍らのアスナを睨む。
対するアスナはと言えば、そんなトキハには目もくれずにそっぽを向いている。
エスデスは気が合う、などと言っていたが、お互いの第一印象が最悪なのは、この光景を見ただけで明らかだった。
その時、廊下の方でパタパタと走ってくる音が聞こえてきた。
一同が振り向いて視線を向ける中、駆け込んで来たのは1人の少女だった。
小柄で、髪を左右で結んだ可愛らしい少女である。肩のあたりには、羽の生えたトカゲが浮かんでいる。
「ち、遅刻して・・・・・・す、すいませんッ!!」
余程急いできたのだろう、肩で息をしながら、少女はようやく顔を上げると、ビシッと敬礼する。
「南方方面軍斥候部隊から来ましたシリカと言います!! こっちはお友達のピナですッ よろしくお願いします!!」
「キュァ~」
シリカの紹介に合わせて、ピナと言うトカゲ、と言うか小竜が小さく鳴き声を発する。
その言葉に、一同は目を見張った。
見た感じ、シリカと名乗った少女の年齢は、この中で一番若い。恐らく10代前半くらいだろう。
それでも南方方面軍、と言う事は、この少女は軍人と言う事だ。この若さで、驚くべき事である。
と、
「ほほう、私の招集に遅刻するとは貴様、良い度胸だな」
「ひィッ!?」
凄味を利かせるエスデスに、シリカは思わず悲鳴を上げる。
エスデスのドS振りは、帝国全土に知れ渡っている。そのエスデスを怒らせればどうなるか、想像できない者はいなかった。
「到着早々、早速で悪いが、このまま拷問部屋まで御同行願おうか? なに、はじめての事だ。お仕置きは軽くで済ませてやる」
「あわわわわわわ」
思わず、ピナとヒシッと抱き合うシリカ。
エスデスの言う「軽く」がどの程度の事を言うのか判らない以上、安心などできようはずも無かった。
恐怖で震えるシリカ。
そのシリカに、エスデスは手を伸ばし、
そして、
笑顔で、頭を優しく撫でてやった。
「冗談だ。私の見立てでは、遠方から来るお前の到着は、あと2日は遅れるはずだったからな。よくぞ、これ程早く辿りついた。褒めてやる。期待しているぞ」
「は、はい~~~~~~」
そのまま、シリカは腰が抜けたように、その場にへたり込んだ。
「いじめっ子だ」
「いじめっ子ね」
「いじめっ子だな」
「いじめっ子ですね」
「いじめっ子・・・・・・」
エスデスを見て、ヒソヒソと話し合うトキハ、アスナ、ウェイブ、セリュー、クロメ達。
と、そこでエスデスが振り返る。
「お前達、何か言ったか?」
「「「「「イエ、ナンデモアリマセン」」」」」
揃って首を振る一同。
帝国最強ドS将軍に逆らえば命がいくつあっても足りなかった。
ランがシリカに手を伸ばして立たせてやるの横に見ながら、エスデスは一同を振り返って言った。
「さて、これ以上の自己紹介は、各々後日に回すとして、このあと全員、礼服に着替えて陛下に謁見するから、一同、そのつもりでいてくれ」
「えッ いきなり陛下とですか!?」
「初日から、随分と飛ばしているスケジュールですね」
エスデスの言葉に、ウェイブとランが驚いて声を上げる。
エスデスが言う皇帝とは、言わずもがな、この国の至高の存在だが、まさかいきなり皇帝に謁見する事になるとは思ってもいなかったのだ。
「面倒事は、ちゃっちゃと済ませるに限るからな」
そう言って肩を竦めるエスデス。
そこで、何かを思い出したようにスタイリッシュが口を開いた。
「それでエスデス様。アタシ達のチーム名とか決まってるんでしょうか?」
それは些細な事無ようでいて、割と重要な事である。
自分達が何者であるか存在を他に証明して士気を向上させ、相対的に敵の士気を挫く為にもチーム名と言う物は重要な位置づけにある。
全ての賊が、自分達の名前を聞くだけで震え上がるような、そんな存在に、自分達はならなくてはならない。
エスデスの方でも、その問いかけは予想していたのだろう。頷きを淀みなく返す。
「我々は独自の機動性を持ち、凶悪な賊の群れを容赦なく狩る組織・・・・・・」
この日の為に構想していた部隊名を、一同に披露する。
全ての凶賊に対し、天敵となる、その存在の名は、
「特殊警察イェーガーズだ」
第16話「天敵、集結」 終わり
やっとイェーガーズを出せた。
物語は、ここから本当の意味で始まるって気がします。