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帝都近郊に、ギョガン湖と言う湖がある。
大きさはそれほどでもないが、周囲はうっそうとした森が茂り、街道からもやや外れて居る為、地元民以外が近付く事は殆ど無い。
だが近年、このギョガン湖が、帝国を悩ませる種になっていた。
湖の畔。小高い丘の上に大昔に廃棄された砦があるのだが、最近になって、そこに盗賊の群れが住み着くようになったのだ。
勿論、発見後、すぐに討伐部隊が差し向けられたが、数度にわたって行われた作戦は、悉く失敗に終わっていた。
先述した通り、地形的には街道から外れた小道の先と言う場所にあって大兵力の展開が難しい事。砦自体は古いが、いつの間にか改築と増築が進められ、城塞並みの防御力を誇っている事。常駐している賊の数が当初の見積もりよりも膨大であったこと等が原因である。
この砦があるせいで周辺達の賊たちは活発化し、旅人や近隣の村が被害に遭う一方、対症療法的に、出てきた賊を討伐しようにも、賊達は不利になればすぐに砦へと撤退してしまう為、殆どイタチゴッコに近い状況になっていた。
早急なる状況打破を望む帝国だったが、打開策の無いまま、ただ悪戯に賊達の跳梁を許す結果となっていた。
この難攻不落とも言える砦を攻略するには、一騎当千の実力を持つ少数精鋭部隊を投入する以外には無いと考えられる。
それらの状況を受け、イェーガーズの面々は、砦の見える場所に立っていた。
今回のギョガン湖砦殲滅作戦が、彼等にとっての初陣となる。
参加メンバーはエスデス(とタツミ)を除く9名。これは同時に、エスデスが隊員達の実力を図る為の試験的な意味合いも兼ねていた。
対ナイトレイド戦を意識して編成されたイェーガーズだが、ナイトレイドは神出鬼没で、その拠点がどこにあるかも判然としていない。
そこでまず、こう言った所在の判っている賊から討伐していく事となったのだ。
元より、相手が凶悪な賊であるならば、イェーガーズが動く事に躊躇いは無かった。
「さて・・・・・・・・・・・・」
夜でも煌々と明かりをともす砦の様子を見ながら、ランが口を開いた。
「周辺の地形は頭に叩き込みましたが、作戦はどうしましょうか?」
「勿論、正義は堂々と、正面から!!」
勢い込んで答えたのはセリューである。
確かに、これだけのメンツが揃っているのだ。下手な小細工は、却って状況を悪くしかねない。
そう言う意味で、シンプルだが的確な作戦案であると言えた。
「うう、緊張します。大丈夫でしょうか・・・・・・」
この中で最年少のシリカが、不安げに顔を伏せながら呟く。
彼女自身、南方戦線でそれなりの実績を積んだからこその今回の抜擢なのだが、それでも年齢の低さからくる不安は隠しきれないようだ。
「大丈夫だよ」
そんなシリカの肩を、ボルスが優しく叩いた。
「いざとなったら私達もいるし。シリカちゃんも安心して」
「ボルスさん・・・・・・はい、ありがとうございます」
見た目の不気味さに反して、この中では比較的常識人の部類に入り、尚且つ性格的にも優しいボルスの存在は、こういう時に非常に頼りになった。
「じゃ、行こう」
トキハは低く呟くと、玉梓を手に歩き出す。
それに続くイェーガーズの面々。
街道側から砦にアクセスできるのは、細い小道が一本だけ。当然、その道は砦側から監視を受けている。
イェーガーズが接近すると、それに呼応するように砦から武器を持った男達がワラワラと飛び出してきた。
「おい、お前等ッ ここがどこだかわかって来てんだろうな!?」
「正面からとはいい度胸じゃねえかッ」
「生きて帰れると思うなよ!!」
イェーガーズがたったの9人と知り、一息に捻り潰そうと息巻いている。
中には、アスナ、セリュー、クロメ、シリカらを見てテンションを上げている者もいる。全て、予想通りの反応だ。ゲスはゲスなりに、こちらの期待を裏切らないものである。
「まず、私とドクターの帝具で道を開きます」
そう言って前へと出たのへセリューである。
同時に、傍らのコロへと目をやる。
「コロ、5番!!」
指示を受けたコロは、頭部を巨大化させ、セリューの右腕にかぶり付いた。
先のシェーレとの戦いに辛うじて勝利したセリューだったが、その代償は大きく、両腕を失ってしまった。
その両腕を、今は高性能義手で補っているのだが、これがただの義手ではない。
セリューとスタイリッシュは、セリューの上司だったオーガとの付き合いで、以前から交流があった。
そのスタイリッシュは、人体改造も行う事ができる程の腕を持つマッドサイエンティストである。
スタイリッシュは己の研究成果の全てをつぎ込んでセリューの腕を治療すると同時に、彼女の体にある改造を施した。
その真価が、今問われる。
ズルリと、コロの口からセリューの腕が引き出される。
次の瞬間、誰もが戦慄する。
セリューの腕に装着された、円錐状のドリルは、セリューの体よりも巨大で凶悪なフォルムをしている。
「十王の裁き5番。正義閻魔槍!!」
凶悪な笑みと共に、セリューのドリルが回転を始める。
突撃するセリュー。
そのあまりの光景に、賊達は皆、唖然としたまま立ち尽くす事しかできない。
たちまち、悲鳴が交錯し、ドリルに巻き込まれた賊達は、肉片と化して砕け散って行く。
更に、怯んだ敵はコロが飛び掛かって捕食。食い散らかしていく。
その頃になって、賊達の方でもようやく、イェーガーズが尋常な存在ではないと悟ったのだろう。慌てて砦の方へと引き返していく。
このまま門を閉ざし、籠城する構えだ。
だが、そんな事は許さないとばかりに、セリューは追撃に移る。
「次、7番!!」
再びコロがセリューの右腕にかぶり付く。
今度は、長大な砲身を持つ大砲が引っ張り出された。
「正義、泰山砲!!」
放たれる砲撃。
凄まじい威力を秘めた砲弾は、今まさに閉じようとしていた砦の門を、一撃で粉砕して見せた。
これこそが、ドクター・スタイリッシュの自信作《十王の裁き》である。
セリュー専用にカスタマイズされた各々の武器は、帝具には劣るものの、それでも必要充分な威力と性能を秘めている事が、たった今の先制攻撃によって証明された。
スタイリッシュ自身は戦闘能力は皆無である物の《神ノ御手パーフェクター》と言う手袋型の帝具を保有している。これは手先の精密動作性を数百倍に引き上げる能力があり、これによってスタイリッシュはどんな細かい作業であっても問題無くこなす事ができるのだ。
反面、スタイリッシュ自身は戦場に立つ事はできない訳だが。
「なら、ドクターの護衛も必要ですかね?」
「あら。心配してくれるのね、嬉しい」
指摘するウェイブにウィンクを返しつつ、指を鳴らすスタイリッシュ。
次の瞬間イェーガーズを取り囲むように、無数の人影が姿を現した。
ウェイブたちがとっさに緊張して身構える中、彼等は皆、スタイリッシュを取り囲むようにして立った。
「彼等は、あたしが自ら作り出した強化兵よ。将棋で言えば「
一同が感嘆する。
戦闘力こそ皆無な物の、その程度のハンデなど問題無い程、高性能な帝具である。否、それを使いこなすスタイリッシュこそが、と言うべきだろうか。
「いずれ、帝具をも超えるスタイリッシュな武具を造る事が、アタシの夢よ」
それは壮大だが、決して実現不可能な夢だとは思えない。そう思わせる程の性能を《十王の裁き》は秘めていた。
ところで、
「あの・・・・・・・・・・・・」
ランが控え気味に手を上げて発言を求めた。
「話をしている間に、クロメさん、もう突入してしまいましたが?」
冷静な発言に、ハッとする一同。
「そ、そう言えば、トキハさんとアスナさんもいません!!」
「あ、あのガキども、人の話聞きなさいよね」
シリカとスタイリッシュが揃って慌てる中、一同はなし崩し的に戦闘に突入していくのだった。
2
流石は暗殺部隊出身というべきだろう。
砦の前庭に突入したクロメは、圧倒的な身のこなしと、帝具、八房を十全に使いこなす腕前を存分に見せつけ、押し寄せる敵を次々と切り捨てていく。
「この程度の敵、帝具の能力を起動するまでもないね」
薄笑いを浮かべて呟くと、八房を横なぎに一閃。近付こうとした敵を容赦なく斬り捨てる。
「こ、この女ッ 可愛い顔して、なんて腕だ!?」
賊達に戦慄が走る。
まさか、こんな少女が、これほどの戦闘力を有しているなど、彼等にとっては想像の埒外だった事だろう。
その間にもクロメは砦内を駆け抜け、次々と賊を屠って行く。
「全部終わったら、組み替えて遊んであげる。お人形さん達」
そう言ってクロメは、ゾッとする笑みを浮かべた。
その時、クロメの背後の物陰から、彼女を狙う銃口があった。
クロメの凶刃を逃れた賊の1人が、手にした銃で彼女を狙っているのである。
角度的に、クロメからは死角になっている為、彼女は気付いていない可能性が高い。
「死ねッ ガキが!!」
トリガーを引こうとする男。
だが、その前に壁伝いに背後から接近したウェイブが、鋭い蹴りを放った。
顔面にウェイブの蹴りを喰らい、トリガーを引く前に昏倒する賊。
そこで、ようやくクロメは振り返った。
「危なかったな」
クロメに対し、ウェイブは会心の笑みを向ける。
「別に気にしなくて良いぞ。仲間同士、助けあうのは当たり前だしな」
だが、
「やっ 別に。気付いてたし」
「マジで!?」
恰好よく決めたつもりが、自分がやった事が余計なお世話だったと知り、ウェイブは愕然とするのだった。
巨体を揺らしながら突進してくるボルスの存在感は、それだけで圧倒的な光景である。
ちょっと、見ていて怖いが。
そのボルスを射殺すべく、砦内から一斉に弓矢が射かけられる。
圧倒的なまでの攻撃を前に、逃げ場は埋め尽くされる。
だが、ボルスは慌てない。そもそも初めから、逃げ道など考えてもいなかった。
「これも、お仕事だから・・・・・・・・・・・・」
哀愁と諦念を込めて呟くとともに、ボルスは背中の装備を取り出した。
常識人であり、優しい心を持つボルス。
だが、任務があり、仲間を守る為ならば、ボルスは喜んで地獄の使者になるつもりだった。
巨大なタンクとホース。それに噴射口が一体となった武器。
火炎放射器型帝具《煉獄招致ルビカンテ》。
数々の罪人や反乱分子を焼き殺してきた、ボルスの帝具である。
噴射口から放たれた炎が、飛んできた矢を一本残らず焼き尽くす。
それだけではない。極大の炎は砦にも襲い掛かり、壁と言わず人と言わず、容赦無く飲み込んでいく。
慌てて水を被る賊達。
だが、ルビカンテの帝具としての恐ろしさは、ここからである。
急いで水を被り、火を消そうとする賊達だったが、すぐに異常事態に気付く。
炎が、消えない。
ルビカンテの炎は、一度着火すると、標的を燃やし尽くすまで決して消えないのだ。
そうしている間にも、炎は貪欲に犠牲者を飲み込んで行く。
やがて彼等は、骨まで燃やし尽くされ、物言わぬ屍と化していくのだった。
「ピナ、行くよ!!」
「キュアァー!!」
相棒の小竜に声を掛けると、シリカは腰から短剣を抜き放ち、敵の中へと踊り込んで行く。
その身のこなしは、小柄な事も相まってかなりの素早さを誇っている。
一方、賊達の方でも相手が子供だと侮ったのだろう。すぐにシリカを取り囲むようにして近付いて来る。
「ガキがッ いきがってんじゃねえぞ!!」
「こいつはとっ捕まえて、たっぷりとお仕置きしてやらないとなあ」
下卑た笑いを浮かべて、シリカに手を伸ばそうとする男達。
だが、彼等はすぐに、自分達の浅はかさを思い知る事になる。
「ヤァ!!」
鋭い掛け声と共に、地を蹴るシリカ。
同時に、手にした短剣が鋭い軌跡を描いて襲い掛かった。
放たれる斬撃を前に、賊達は次々と斬り飛ばされ、あるいは急所に刃を突き立てられていく。
シリカを見て、まるで小動物のような印象を受ける者も多い。
勿論、その印象は間違いではない。彼女の可愛らしさは、手乗りサイズの動物を連想させられるだろう。
だが、そんな小動物でさえ、突き立てるべき牙は持っている。
そもそも、彼女がいた南方戦線は、かつてのバン族の反乱からも判る通り、決して楽な任務地ではない。
そのような場所で活躍し、イェーガーズに引き抜かれる程の実力を持っているのだから、シリカの実力もまた、押して知るべしと言ったところだろう。
更に、
「ピナ、ブレスお願い!!」
「キュアー!!」
シリカの求めに応じ、彼女の上空を旋回していたピナが急降下。
口から高出力のブレスを放ち、シリカを攻撃しようとしていた賊を炎で飲み込んで行く。
《龍精天翔フェザーリドラ》
ピナは危険種の幼生では無く、れっきとした生物型帝具である。その特性は主に寄り添って戦闘を掩護する事にある。
コロことヘカトンケイルのような爆発的な戦闘力には欠けるものの、小型で小回りが利き、なおかつ飛行可能である点から、汎用性の高さが伺えた。
イェーガーズの攻勢は、ますます勢いを増しつつある。
少数とは言え全員が帝具使い。それも大半が激戦区からの転任組と言う事もあり、並みの賊程度では相手にもならない。
数百人規模でいた賊達は、既に生き残っているのはほんの一握りである。
もはや、砦は陥落寸前の状態にまで追い込まれていた。
「じょ、冗談じゃないッ こんな地獄とは、さっさとおさらばしてやる!!」
何人かの賊が、裏口からけもの道へと続く退避路に向かおうとした。
その時、
上空から飛来した数枚の羽根が、弾丸のような勢いで襲い掛かり、彼等の頭を正確に撃ち抜いて行った。
当然、致命傷である。
賊の一人が、最後の力を振り絞って、背後を見やる。
そこには、美しい翼を広げた1人の青年が、微笑を浮かべて佇んでいた。
「・・・・・・天・・・・・・使?」
その言葉を最後に、賊は崩れ落ちる。
だが、彼が最後に見て、彼に断罪の審判を下したのは天使ではなかった。
「1人も逃すわけにはいきません」
そう呟いたランの背には、美しい一対の翼が広げられている。
《万里飛翔マスティマ》
現在、存在が確認されている数少ない飛行型の帝具の1つであり、同時にその羽根は、弾丸のように飛ばす事で射撃武器として使う事もできた。
砦の9割は既にイェーガーズによって制圧され、残った賊達の運命も旦夕に迫りつつあった。
もともと、街道を通る旅人や、近隣に住む村人を襲っていたような連中である。一騎当千の実力を誇るイェーガーズの敵ではなかった。
それでも、残った賊達は窮鼠とかし、逃げられないならせめて人たちなりとも浴びせようと、襲い掛かってくる者も少なくない。
だが、そんな彼等の運命もまた、完全に確定されていた。
白い軍服をと赤いスカートを靡かせ、アスナは鋭い踏み込みで相手との距離を詰める。
その速さに、誰もが追いつく事ができない。
放たれる光速の8連撃。
その一撃一撃が、全て必殺。
たちまち、急所を貫かれた賊達が、血しぶきを上げて地面に倒れ伏す。
だが、空中に飛び跳ねた血の一滴ですら、戦女神を濡らす事能わない。
その前にアスナは、既に次の標的へと駆け抜けていた。
少女の凄まじいスピードを前に、誰も追いつく事ができない。
勿論、アスナの技量が高い事は間違いない。既にこの歳で近衛軍に所属し、血盟騎士団の副団長を任されるアスナの実力は伊達ではない。
だが、彼女の強さにはもう一つ、大きな要素が存在した。
それは、彼女が手にしている細剣。
《閃光一刃ランベントライト》
細剣型の帝具であり、その特性は、使用者の速力を極限まで強化する事にある。
帝具発動中のアスナを捉える事は、誰にも不可能だった。
と、
「へー 結構やるね」
横合いから掛けられた声に、アスナは動きを止めて振り返る。
そこには、玉梓を肩に担ぐようにして立つ、トキハの姿があった。
ムッとするアスナ。
トキハののんびりした様子が、何となく癇に障ったのだ。
「あのね、遊んでないで、君も少しは・・・・・・・・・・・・」
言いかけて、アスナは口をつぐんだ。
少年の背後には、いくつかの賊の死体が転がっているのが見える。
アスナが戦っている間、トキハもまた敵と戦っていたのである。それも、アスナに気付かれない程、静かに。
「へえ・・・・・・・・・・・・」
少しだけ、感心したようにアスナはトキハに目をやる。
最初の印象がアレすぎたせいでトキハの事を色眼鏡付きで見ていたアスナだが、どうやら実力的には申し分ない物を持っているらしかった。
もっとも、そうでなければ、わざわざエスデスが客将に招いたりはしないのだが。
だが、
「なにぼうっとしてる? 悪い物でも食った?」
「・・・・・・・・・・・・」
台無しにするようなトキハの発言に、アスナは思わず、無言のままランベントライトを振り上げようとする。
その時だった。
「ッ!?」
突如、
微かな風切り音が響いた。
トキハはとっさに振り返ると、飛来したナイフを玉梓で切り払う。
キンッ
軽い金属音と共に、真っ二つに折れて地面に転がるナイフ。
トキハは、油断なく刀を構え、ナイフが飛来した方向を見る。
「何が・・・・・・・・・・・・」
遅れて振り返るアスナ。
その視線の先には、
「あっちゃ~ 失敗かよ」
「思った、よりは、やるな」
闇の中に不気味にたたずむ、2人の男がいた。
ジョニー・ブラックとザザ。
南部にあるラフィン・コフィンのアジトに戻る前に、この砦に立ち寄った2人だったが、そこに折り悪く、イェーガーズの襲撃に出くわしてしまったのである。
イェーガーズの襲撃によって砦が壊滅状態に陥る中、2人は脱出する為に反撃に出たのだった。
「さて、このまま帰るってのは、ちょっとばかり癪だよなー」
「無論、だ。手土産くらい、持って、いくぞ」
言いながら、ザザはゆらりとした足取りでジョニー・ブラックから距離を取る。
ちょうど、ジョニー・ブラックとザザで、トキハとアスナを挟み込むような格好だ。
膨れ上がる殺気。
「来る」
「判ってる」
短く頷き合う、トキハとアスナ。
次の瞬間、
ジョニー・ブラックとザザは、タイミングを合わせて2人に襲い掛かった。
3
ゆらりとした動きから、一気に襲い掛かってくる。
その挙動は、不気味な髑髏の面と相まって、まるで実体のない亡霊を連想させる。
静と動を混ぜ合わせたザザの動きを前に、アスナの感覚が一瞬惑わされた。
「クッ!?」
襲い来る、鋭い突き込み。
だがそれでも、一瞬速くアスナが動いた事でザザの攻撃は僅かにそらされた。
しかし、
「速いッ・・・・・・」
呟きと共に攻撃を回避しながら、アスナは自身の中で警戒レベルを上げる。
ザザの攻撃の鋭さは、アスナの予想をも上回っていたのだ。
「やるな・・・・・・だが、まだ行くぞ」
不気味な声で呟きながら、ザザは更なる攻撃を繰り出してきた。
ボロボロのマントを跳ね上げるようにして攻撃を仕掛けるザザ。
その武器を見て、アスナは思わず目を見張る。
「レイピア・・・・・・いえッ・・・・・・」
一瞬、自分と同じ武器を使用しているのかと思ったが、すぐにそうではないと気付く。
レイピアには一応刃があり、「斬る」事も可能だが、ザザの武器は戦端が鋭利に尖り「斬撃」と言う要素を完全に排している。
エストックと言う、刺突に特化した武器だ。
その鋭い突き込みを、アスナはランベントライトを振るって辛うじて裁きつつ、どうにか体勢を立て直そうとする。
だが、そうはさせじと追いすがるザザ。
その素早い攻撃を前に、アスナは成す術無く後退を余儀なくされた。
一方、トキハの方でも、ジョニー・ブラックを相手に、苦戦を強いられていた。
次々と繰り出されるナイフの攻撃をを前に、足止めを喰らうトキハ。
「おらおら、よそ見してると刺しちゃうぜ~!!」
「いったい、何本ある!?」
飛んできたナイフを玉梓で弾き、同時に距離を詰めようとするトキハ。
だが、その正面から再びナイフが迫り、足止めを余儀なくされる。
「遅ェぜ!!」
放たれる投げナイフ。
対して、後方宙返りをしながら回避するトキハ。
着地と同時に、顔を上げる。
そこへ、両手にナイフを構え、ジョニー・ブラックが斬り掛かってきた。
その刃を、とっさに回避しようとするトキハ。
だが、
「ッ!?」
直感、とでも言うべきだろうか?
トキハはとっさに回避せず、玉梓を横なぎに振るってジョニー・ブラックを牽制した。
「おっとッ」
ずた袋の奥から、くぐもった声を発するジョニー・ブラック。
崩れた体勢で放ったトキハの斬撃は、ジョニー・ブラックを捉えるには至らなかった。
しかし・・・・・・
「やるじゃーん。良い勘してるよ、お前」
せせら笑うように言いながら、ジョニー・ブラックは手の中のナイフを弄ぶように見せ付ける。
その刃が、怪しく光っているのをトキハは見逃さなかった。
「・・・・・・・・・・・・毒?」
呟くトキハに、しかしジョニー・ブラックは返事を返す事は無い。
代わりに、地を蹴って襲い掛かって来た。
「バーカッ そう簡単に答を言うかよ!!」
突き込まれるナイフを、ステップを刻んで回避するときは。
相手が毒使いである可能性がある以上、下手に剣を交えるのは、命取りに繋がりかねない。
ジョニー・ブラックの鋭い攻撃を、辛うじて回避しながら後退するトキハ。
ちょうどその時、ザザの攻撃を回避しながら、どうにか後退してきたアスナと背中を合わせる形となった。
「あなたも、随分と苦戦しているわね」
「・・・・・・そっちに言われたくない」
苦笑交じりに告げるアスナに、ムッとした口調で答えるトキハ。
ただ実際のところ、2人揃って苦戦を強いられているのは事実である。
砦の制圧は、ほぼ完了してる。残るは、このザザとジョニー・ブラックくらいの物だった。
「・・・・・・打開策、あるけど、乗る?」
トキハは低い声で告げる。
この状況を一気に覆せるかどうかは判らないが、少なくとも意表を突く事はできると考えていた。
「・・・・・・気は進まないけど、聞くだけ聞いてあげるわ」
不承不承と言った感じに、頷きを返すアスナ。正直、彼女もまた、現在の状況に不満を抱いていたのだ。
「相談は、終わった、か!?」
「これで、おっわり~!!」
左右両方から、斬り込んでくるザザとジョニー・ブラック。
次の瞬間、
トキハとアスナは、互いに背中を合わせながら、位置を入れ替えるようにターンした。
「「ッ!?」」
驚愕するザザとジョニー・ブラック。
一瞬、動きを鈍らせるラフィンコフィンの2人。
その隙を、イェーガーズの2人は見逃さない。
トキハはザザを、アスナはジョニー・ブラックを見据え、
攻勢に転じる。
「ハァっ!!」
鋭い突きを放つアスナ。
その攻撃を前に、思わず手にしたナイフを弾かれるジョニー・ブラック。
一方、トキハは玉梓を逆袈裟に一閃。ザザの手にあるエストックを、半ばから斬り飛ばした。
「チッ」
舌打ちするザザ。
柄だけになったエストックを投げ捨てると、その下面の下から相棒に目配せする。
「退くぞ」
「あいよッ ここは三六計だなー!!」
言いながら、後退していくザザとジョニー・ブラック。
それに対し、
トキハとアスナは、追撃する事もできずに立ち尽くすのだった。
第18話「イェーガーズの初陣」 終わり