漆黒の剣閃   作:ファルクラム

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第21話「アジト攻防戦」

 

 

1

 

 

 

 

 

 アカメとトビーの対決は、達人同士、白熱した物となっていた。

 

 身体能力は、両者ほぼ互角。

 

 しかしトビーはスタイリッシュの改造によって、脳など一部の重要器官以外は全て機械に置き換えられている為、村雨の呪毒を完全にブロックしている事に加え、全身のあらゆる場所に武器を仕込んでいる。

 

 加えて、痛覚神経も除去されている為、いくら斬られようとも戦闘力が落ちる事は無い。

 

 徹底的に「対アカメ」を意識した身体の造りをしているのだ。

 

 これには、流石のアカメも苦戦を免れないかに思われた。

 

 しかし、アカメも一歩も引かずに対峙する。幼少期から、帝国の特務機関で暗殺者として特別教育、今日まで多くの存在を葬って来た手練の殺し屋たる少女にとって、この程度の不利は何度も経験しており、今更慌てるには値しなかった。

 

 相手が村雨の攻撃を封殺できると判った時点で、アカメは直ちに攻撃方法を切り換える選択をした。

 

 一斬必殺ができないのなら、卓抜した剣技を恃みに刻み切るしかない。

 

 元より、強力な帝具を持っているからと言って、アカメはそれのみを頼りに戦っている訳ではない。

 

 帝具を無力化できる存在が出現した場合に備え、常に次善の策は用意していた。

 

 トビーが腕に仕込んだ刃で斬り掛かって来るのに対し、アカメは村雨を擦り上げるようにして振るい対抗する。

 

 ぶつかり合う刃が火花を散らす。

 

「貰ったッ!!」

 

 そこで、トビーは勝負を決するべく、両腕、両足、計4か所から刃を出現させ、四刀流を持ってアカメに斬り掛かる。

 

 対抗するように、アカメは下段から擦り上げるように、村雨を繰り出す。

 

 次の瞬間、

 

 トビーの左腕は、肩の付け根から斬り飛ばされた。

 

 宙を舞う自身の腕を見て、一瞬、驚愕するトビー。

 

 だが、すぐに体勢を立て直しにかかる。

 

 斬られた肩口から、別の刃が出現。再びアカメに斬り掛かってくる。

 

 トビーが繰り出す刃を、後退しつつ防ぐアカメ。

 

 その一瞬の隙をついて、トビーは更に追撃を掛ける。

 

 口の中から出現する銃口。これは、セリューにも施されていた改造だ。

 

 零距離から放たれた弾丸を、しかしアカメは超絶的な反応でスライドし、間一髪で回避してのける。

 

 放たれた弾丸が長い黒髪を揺らす中、アカメは射撃によって生じた一瞬の隙を突いて斬り上げ、トビーの右腕を斬り飛ばした。

 

 これで、両腕を失ったトビー。

 

 だが、トビーは尚も諦めない。

 

 今度は、斬られた右腕の傷口から銃口が出現する。

 

 しかし、

 

 トビーが照準を向けた時には既に、アカメは攻撃態勢を整えていた。

 

 床に這う程に低い姿勢を取ったアカメは、村雨を抜き打つような格好をして、見上げるようにトビーを睨む。

 

「下、ですと!?」

 

 驚愕するトビー。

 

 だが、反応は一歩遅れる。

 

 そして、それはアカメに対しては完全に致命傷だった。

 

 横なぎに振るった斬撃が、トビーの右足を斬り飛ばす。

 

 バランスを失い、倒れ掛かるトビー。

 

 更に、そこへ、背後から槍が飛んできてトビーを背中から刺し貫いた。

 

 槍の攻撃は、アカメによるものではない。

 

「おのれ・・・・・・横槍とは無粋な・・・・・・・・・・・・」

 

 苛立たしげに振り返るトビー。

 

 そこには、投擲の構えを取ったまま、不敵に笑うラバックの姿がある。槍を飛ばしたのは、彼だった。

 

 彼の足元には、トビーの側近2人が転がっているのが見える。

 

 少し時間は掛かったが、ラバックは側近2人に完勝していたのだ。

 

「アジトがヤベーってのに、のんびり観戦しているつもりはねーよ」

 

 不敵に言い放つラバック。

 

 これで2対1。しかもトビーは満身創痍の状態である。

 

 勝敗は、決したも同然であった。

 

「・・・・・・まあ、あのまま1対1で戦い続けていても、私の負けでしたがね・・・・・・・・・・・・」

 

 諦念したように、トビーは呟く。

 

 技量においてはほぼ互角だった。武装面では、むしろトビーの方がアカメよりも勝っていたと言える。

 

 だが、戦闘は終始、アカメ優勢のまま推移した。

 

「教えてくださいアカメ。私があなたに劣っていたのは何ですか?」

「・・・・・・・・・・・・攻撃はとても激しかったが、反面、隙は大きかったと思う」

 

 質問に対するアカメの答えに、トビーは納得したように笑みを浮かべる。

 

 なるほど、それは確かに、と思った。

 

 トビーは戦闘力を維持し続ける為に痛覚を除去されていたが、痛みを感じない故に、防御の必要性が薄くなってしまっていたのだ。

 

 ダメージを受けないが故に、切り捨てた防御が、トビーの命を結果的に縮めた事になる。

 

 戦闘能力を向上させる為に受けた手術が、却って自分の致命傷になるとは思っても見なかった。

 

 次の瞬間、

 

 アカメは村雨を横なぎに振るい、トビーの首を斬り飛ばした。

 

 

 

 

 

2

 

 

 

 

 

 振るった剣が、音を立てて折れ飛ぶ。

 

 その様に、タツミは思わず目を見張った。

 

 対して、対峙するカクサンは会心の笑みを浮かべている。

 

 インクルシオを纏う事で戦闘力を上げているタツミだが、剣の方は、強化されたカクサンの筋肉に当たった瞬間、耐え切れずにへし折られたのだ。

 

「肉を切らせてッ」

 

 同時に、カクサンはエクスタスを取り出して振るう。

 

「骨を断ァつ!!」

「クッ!?」

 

 挟み込まれる刃がタツミを襲う。

 

 両側から迫る刃に対し、一瞬、身を翻すタツミ。

 

 金属音と共に挟み込まれた瞬間、

 

 刃は、タツミの右手首を掠め、僅かに血を滲ませた。

 

 どっと、冷や汗がタツミを襲う。

 

 インクルシオを纏っていなかったら、今の一撃で致命傷を喰らっていたかもしれない。

 

「む、良い反応だな。斬り落としてやろうと思ったのに・・・・・・・・・・・・」

 

 感心したように呟くカクサン。

 

 その間に、タツミは着地して体勢を立て直す。

 

 しかし、カクサンの防御力は予想以上だ。剣で斬っても斬れない相手では、外から殴っても効果は薄いだろう。

 

 加えてエクスタスの攻撃力までも備えて居る為、厄介極まりなかった。タツミの攻め手は封殺されているに等しい。

 

「折角固い鎧を持っているのに可哀そうにな。こっちはこの世の全てを斬る帝具。防御力なんぞ、無視だ無視」

 

 そう言って、自慢げにエクスタスを掲げるカクサンに対し、タツミはギリッと歯を噛み鳴らす。

 

 嘲笑うようなカクサンの姿を見るだけで、頭の中身が弾け飛びそうな怒りに捕らわれる。

 

「返せッ それはシェーレのだ!!」

 

 突撃するタツミ。

 

 シェーレの優しさ。

 

 シェーレの温もり。

 

 シェーレの声。

 

 シェーレの笑顔。

 

 それらが脳裏によみがえる。

 

 その全てを、目の前の男は土足で踏み躙っているのだ。

 

 群がる戦闘員をなぎ倒し、カクサンに迫るタツミ。

 

 だが、

 

「ああ? 知れねえな、誰だよそれは?」

 

 言い放つと同時に、タツミを殴り飛ばすカクサン。

 

 膂力において劣るタツミは、その衝撃に耐えきれずに吹き飛ばされる。

 

「詰まらねえ事言ってんじゃねえよ。もっと楽しもうぜ、兄ちゃん」

「詰まらない・・・・・・だと・・・・・・」

 

 血が、沸騰する気がした。

 

 シェーレが殺されて以来、ナイトレイドの誰もが悲しみを乗り越えようと必死に戦ってきた。

 

 タツミも、キリトも、ブラートも、マインも、ラバックも、ナジェンダも、レオーネも、シノンも、そしてアカメも。

 

 皆、シェーレの死を無駄にしない為、彼女を忘れない為に。

 

 だが今、カクサンは公然と、そんな皆の想いに唾を吐きかけて見せたのだ。

 

「ふ、ざけんな・・・・・・・・・・・・」

 

 許せなかった。

 

 目の前の男が。

 

 まるでオモチャのように、シェーレの帝具を弄ぶカクサンが。

 

 次の瞬間、

 

 タツミの手に、一振りの槍が出現する。

 

 幅広の刀身を持つ大槍。

 

 インクルシオの副武装「ノインテーター」である。

 

 ブラートも常用していたこの槍を、タツミもまた、この土壇場で使いこなせるようになったのだ。

 

 あるいは、タツミの熱い魂にインクルシオが応えたのかもしれない。

 

「行くぞ!!」

 

 地を蹴って疾走するタツミ。

 

 その速度は先程よりも明らかな上昇を見せ、殆ど疾風が駆け抜けているようにさえ見える。

 

 たなびくマントを従え、カクサンに迫るタツミ。

 

 間合いに入ると同時に、ノインテーターを繰り出す。

 

「うおッ!?」

 

 その素早い動きを前に、とっさに防御に回るカクサン。

 

 エクスタスの刃が、ノインテーターを弾く。

 

 だが、タツミは動きを止めずに、更なる攻撃へと移る。

 

 跳躍と同時にノインテーターを振りかぶると、勢いをつけて振り下ろす。

 

 対して、カクサンもまた、エクスタスを振り上げるような形で迎え撃つ。

 

 両者の刃が激突して火花を散らす中、タツミは空中で体勢を入れ替え、カクサンを飛び越える形で、その背後に着地する。

 

「チッ こいつ、ちょこまかと動きやがって!!」

 

 振り返ろうとするカクサン。

 

 だが、動きはタツミの方が速い。

 

「遅ェ!!」

 

 横なぎに振るわれるノインテーター。

 

 その一閃が、逆袈裟にカクサンを斬り裂く。

 

「グッ!?」

 

 巨体から血飛沫が上がる。

 

 浅い傷だったが、自身の強固な筋肉が斬り裂かれたカクサンは、思わずたたらを踏むようにして後退する。

 

「やってくれたな、この野郎・・・・・・・・・・・・」

 

 絞り出すようなカクサンの低い声。

 

 どうやら、無敵と信じていた自分の防御力を斬り裂かれ、頭に血が上っているらしい。

 

 それに対し、タツミは油断なくノインテーターを構える。

 

 状況は互角と言うべきだったが、尚も攻撃力と防御力に関しては、エクスタスを持つカクサンの方が勝っている。

 

 その状況を、タツミはスピードで翻弄する事で拮抗させているのだ。

 

 決め手に欠けるタツミの苦戦は、火を見るよりも明らかだった。

 

 その時、

 

 ザッ

 

 軽い足音が聞こえ、タツミとカクサンは同時に振り返る。

 

 そこには、重砲撃仕様に換装したパンプキンを携えたマインが、鋭い眼つきでカクサンを見据えて立っていた。

 

 やはり就寝中だったのか、リボンをあしらった可愛らしい寝間着姿をしており、普段はツインテールにしている長い髪も、今はストレートに下ろしている。。

 

「いつまでチンタラやってるのよ。こっちはだいたい片付いたわよ」

 

 言ってから、

 

 マインは思わず言葉を詰まらせた。

 

 彼女も、カクサンの手の中にあるエクスタスの存在に気付いたのだ。

 

「チッ 雑魚は足止めもできなかったのか。合流されてしまったじゃないか」

 

 そう言って、カクサンは苛立たしげにため息を吐く。

 

 雑兵を大量投入する事でナイトレイド達を分断して、その隙にアジト内部へ侵入したトビー、カクサン、クイント、トローマの精鋭4人が各個撃破する、と言うのスタイリッシュの立てた作戦だった。

 

 だが、その作戦は予想を超えたナイトレイド側の抵抗によって、頓挫しつつあった。

 

 そもそも、殺し屋の戦いは単独、もしくは少数の行動が基本である。たとえ分断されたとしても、ナイトレイド達は独自に戦う術を幾らでも持っていた。

 

 対して、

 

 マインはそんなカクサンの言葉に耳を貸さず、静かにパンプキンを持ち上げて構える。

 

「・・・・・・さっさと片付けるわよ。敵がエクスタスを持っているってだけで腹が立つ」

 

 静かな怒りを燃やすマイン。

 

 対して、カクサンは嘲笑を向ける。

 

「『さっさと片付ける』だぁ? おいおい、今の状況考えて物言えよ。アジトが発見されて敵に突入されて総攻撃喰らってんだよ!!」

「だからこそよ」

 

 嘲るカクサンに対し、あくまでも冷静な口調を崩さないマイン。

 

 その事が、カクサンの癇に触れる。

 

「余裕ぶってんじゃねえよ!!」

 

 エクスタスを振り翳して突進するカクサン。

 

 対抗するように、タツミもノインテーターを構えて前へ出る。

 

「やらせねェ!!」

 

 横なぎに振るわれる槍の一撃。

 

 それに対し、カクサンは跳躍して回避する。

 

「お前の相手は後だッ まずはそっちの女から・・・・・・」

 

 言いかけて、カクサンは言葉を止めた。

 

 視線の先には、パンプキンを構えたマインの姿がある。

 

 だが、その銃口に込められたエネルギー量は、半端な物ではない。

 

 もはや銃と言うより、大砲と言った感じだ。

 

 出現する、極大のエネルギー砲。

 

 その大きさが、マインの怒りを如実に表してる。

 

「撃て、マイン!!」

「判ってる!!」

 

 引き絞られるトリガー。

 

 放たれるエネルギー弾によって、周囲は昼間のように照らし出される。

 

 まるで、太陽が地上に出現したかのような光景だ。

 

「な、ちょっ、デカっ!?」

 

 驚愕するカクサン。

 

 だが、もはやどうしようもなかった。

 

 放たれた砲撃はカクサンを飲み込んで、一瞬にして分子レベルまで解体していく。

 

 断末魔の悲鳴を上げるカクサン。

 

 やがて、その巨体は塵も残さず消滅する。

 

 残ったのは、最高強度を誇るレアメタル製の帝具《万物両断エクスタス》のみだった。

 

「・・・・・・・・・・・・能力を甘く見たわね。ピンチの時ほどアタシは強くなるのよ」

 

 静かな声音で告げると、

 

 マインは地面に転がったエクスタスに近付き、そっと手を伸ばす。

 

 その目に浮かぶ涙。

 

 見れば、傍らのタツミも、天を仰いで涙を堪えているのが判る。

 

「・・・・・・・・・・・・おかえり、シェーレ」

 

 エクスタスを優しく抱きしめるマイン。

 

 長い紆余曲折を経て、

 

 今ようやく、シェーレの魂は、愛する仲間達の元へと帰って来たのだった。

 

 

 

 

 

3

 

 

 

 

 

 戦況は、徐々にだがナイトレイド側が盛り返しつつあった。

 

 各メンバーの奮闘により、チーム・スタイリッシュの戦闘員達は大半が喪失し、戦線維持が困難となりつつあった。

 

 その事は、《耳》を通じて、スタイリッシュ本人にももたらされる。

 

「カクサンがやられました。トビーも先程・・・・・・既に歩兵も大半がやられています」

「あらやだ。流石に困ったわね」

 

 ここまで抵抗されるのは、流石のスタイリッシュとしても予想外だった。

 

 彼の計画では、この時点ですでにナイトレイドの半分は制圧している筈だったのだ。

 

 しかし今だに、最初のトローマが上げた戦果以外、芳しい報告は上げられてこなかった。

 

 もっとも、兵隊がいくら死のうと、スタイリッシュにとってはどうでも良い事だった。

 

 どうせこいつ等は皆、元々は罪人として処刑されるはずの所を、減刑を条件にスタイリッシュの研究に協力する事を約束した連中である。

 

 勿論、スタイリッシュには約束を守るつもりは毛頭なく、死ぬまで使い潰す気でいるのだ。

 

 どうせ、代わりは掃いて捨てるほどいる。ここでナイトレイド達と、その帝具を手に入れる事ができれば、戦闘員全員を使い潰したとしてもお釣りがくるくらいだった。

 

 しかし、それもナイトレイドを捕えない事には始まらなかった。

 

「クイントの方はどうなっているかしら?」

「現在、敵メンバーの1人と交戦中。状況は優勢の模様です」

 

 《耳》からの報告に、スタイリッシュは考え込む。

 

 クイントが生き残っているのは予想通りだが、それでも状況はこちらにとって不利である。

 

 このまま撤退すれば、収支は完全に赤字だ。どうにかして、逆転の一手を刻まない事には。

 

「・・・・・・奥の手の準備を、しておく必要がありそうね」

 

 スタイリッシュは、誰にも聞こえない声で、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 数度にわたって繰り出す剣戟は、全てクイントの体によって防がれる。

 

 そして次の瞬間には、反撃の為に斬り込まれる。

 

 揃えられた指の爪が、刃のように輝き、キリトへと襲い掛かってくる。

 

 とっさに、横跳びに回避するキリト。

 

 次の瞬間、

 

 クイントの指はキリトの背後にあった壁に突き刺さり、これを斬り裂く。

 

「無駄ですよッ!!」

 

 クイントは口元に笑みを浮かべ、後退するキリトに追撃に移る。

 

 対抗するように足を止め、剣を振り翳すキリト。

 

 真っ向から振り下ろされるエリュシデータに対し、クイントも自らの腕を交差させて防御の姿勢を取る。

 

 次の瞬間、

 

 ガキンッ

 

 あり得ない音と共に、エリュシデータの刃はクイントの腕に防ぎ止められる。

 

「ッ またか」

 

 驚愕するキリトに対し、クイントはニヤリと会心の笑みを浮かべる。

 

 キリトの攻撃は、全てクイントの体を斬り裂く事無く抑えられ、次の瞬間には反撃を喰らう。

 

 先程から、この調子の繰り返しだった。

 

 見ればクイントの腕には、何か鱗のような物がびっしりと張り付き、それが繰り出した剣を、悉く防ぎ止めているのが判った。

 

「人体改造かッ!?」

 

 その正体に気付いたキリトが呻き声を発する。

 

 帝具の攻撃すら防ぎ止める程の人体改造を行うとは、流石に予想外過ぎる事態である。いかにすれば、そのような事が可能になるのか、キリトには皆目見当もつかなかった。

 

 対して、クイントは更なる攻勢をかけるべく前へと出る。

 

「その通り!!」

 

 連続して繰り出される手刀の攻撃を、キリトはエリュシデータで防ぎながら後退しつつ、体勢を整えようとする。

 

 そうはさせじと、クイントも追いすがる。

 

 その体には、いたるところに強靭な鱗が張り巡らせ、あらゆる攻撃を完全にストップすると同時に、強化され、刃のように鋭い爪を武器に攻撃を繰り出す。

 

「カクサンの防御力と、トビーの機動力を併せ持つ存在。言わば、将棋には無い駒『クイーン』に相当する存在、それがこの私、クイントだ!!」

 

 横なぎに繰り出されるクイントの攻撃を、キリトはとっさに屈みこむ事で回避。

 

 同時に、間髪入れずにエリュシデータを斬り上げるが、その時には既にクイントは宙返りをするような軌跡でキリトを飛び越え、背後に着地していた。

 

 単純な防御力だけではない。攻撃力においても卓抜した物を持っていた。

 

「故に、私はチーム・スタイリッシュの『切り札』足り得るのだよ!!」

 

 連続して繰り出されるクイントの攻撃を、辛うじて後退する事で回避するキリト。

 

 同時に、距離を置いて体勢の立て直しを図る。

 

「キリト!!」

 

 シェキナーで群がってくる敵兵を排除していたシノンが声を掛けてくる。

 

 彼女の放つ矢によって、相当数の敵が葬られているが、尚も複数の敵がと巻に包囲している状況であり、シノンがキリトの援護に入るのは難しい。

 

 そんなシノンの目から見ても、今のキリトの苦戦は火を見るよりも明らかだった。

 

「心配すんな、シノン」

 

 キリトは流れ出た汗を、コートの袖でグイッと拭うと、再びエリュシデータの切っ先をクイントへ向ける。

 

 そんなキリトを、クイントは勝ち誇るように見据える。

 

「随分とがんばるね、君。けど、強がりはやめたまえよ」

 

 言いながら、両手を構えて攻撃態勢を取る。

 

「君の力は私に届かない。それは一連の戦闘で、既に判り切っている筈だ。それでも尚、抵抗しようとするのは、等しく愚か者の行為だ」

「まあ、仲間内じゃ、結構バカ呼ばわりされる事が多いのは確かだな。不本意だけどな」

 

 嘯くキリト。

 

「来いよ。限界をぶち切る力って奴を見せてやる」

 

 挑発するように言い放つキリトに対し、クイントは沈黙しながら睨み据える。

 

 気に入らなかった。

 

 状況は間違いなくクイントが優勢であると言うのに、尚も強気な態度を崩さないキリトの存在が苛立たしかった。

 

「良いでしょう・・・・・・」

 

 スッと体勢を低くして、突撃に備えるクイント。

 

「ならば、さっさと死ぬが良い!!」

 

 次の瞬間、床を蹴って一気に突撃する。

 

 キリトを正面に見据えた状態で、最高速度で迫るクイント。

 

 キリトがどんな攻撃を繰り出して来たとしても問題は無い。自分の防御力を剣で貫く事はできないのだから。

 

 そうして間合いに入った瞬間、切り刻んでやる。

 

 頭の中で思い描いた戦術を実行するクイント。

 

 両手の爪が怪しく光り、一気に繰り出される。

 

 対して、

 

 キリトはエリュシデータの切っ先を、突撃してくるクイントに向けたまま、

 

 自身も前へと出た。

 

 繰り出される高速突き。

 

 その数、5連撃。

 

 鋭い切っ先が、次々とクイントの体に突き刺さる。

 

「なッ!?」

 

 思わず、驚愕して動きを止めるクイント。

 

 強靭な装甲は、キリトが放つ全ての攻撃を防ぎ止め、ダメージは入らない。

 

 だがキリトの強烈な剣戟を前に、クイントの突撃の勢いは完全に削がれてしまう。

 

 そして、

 

 キリトの攻撃は、そこで終わらない。

 

「ハァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 大上段に振りかぶったエリュシデータが、体勢を崩しているクイントへ振り下ろされる。

 

 縦に振り抜かれる刃。

 

 その一撃は、クイントの防御装甲に当たって火花を散らす。

 

 流石はスタイリッシュ自慢の切り札と言うべきか、この段になって尚、キリトの攻撃を防ぎ止めている。

 

 だが、キリトは尚も動きを止めない。

 

 振り下ろした剣を、再び勢いよく振り上げる。

 

「ウオッ!?」

 

 その刃をまともに受け、今度こそ完全にバランスを崩すクイント。

 

 そこへ、

 

 トドメとも言うべき、再度の上段斬りが襲い掛かる。

 

 一挙に放たれた、高速8連撃。

 

 その攻撃を前に、度重なるダメージで歪みを来していたクイントの装甲は耐えられなかった。

 

 今度こそ、

 

 キリトの剣はクイントの体を完全にとらえ、真っ向から斬り裂く。

 

「ハウリング・オクターブ」

 

 キリトが低い呟きをした瞬間、

 

 クイントは身体から鮮血を吹き出し、前のめりに倒れ込んだ。

 

 剣を一振りして、鞘へと戻すキリト。

 

 そこへ、ひたひたと背後から足音が近付いて来るのが聞こえた。

 

「片付いたみたいね」

 

 自身もシェキナーで戦闘員と戦っていたシノンが近付いて来る。

 

 既に、この辺に敵はシノンによって一掃されている。残りがどれくらいかは判らないが、かなりの数を減らす事に成功したのは間違いなかった。

 

「お疲れシノン。じゃあ、他の奴等を掩護に・・・・・・・・・・・・」

 

 言いかけて、言葉を止めるキリト。

 

 そんなキリトに、シノンは怪訝な眼差しを向ける。

 

「どうかした?」

「い、いや・・・・・・・・・・・・」

 

 なぜか、顔を紅くして言葉を詰まらせるキリト。

 

 対して、シノンはますます不信感を募らせる。

 

 やがて、意を決してキリトは口を開いた。

 

「その・・・・・・・・・・・・シノン、その格好・・・・・・・・・・・・」

 

 言われて、シノンは改めて自分の恰好に目をやる。

 

 寝ていたところを襲撃されたせいで、シノンは起きた時のまま、ずっと戦っていた。

 

 しかし、今日は泊まる予定が無かったため、寝間着等の準備はしていなかった。そこで、下着の上からYシャツを羽織るだけという、ラフな格好で寝ていたのだ。

 

 胸元は上3つのボタンが外され、膨らんだ胸が僅かに見えている。寝る時に苦しいからと、ブラは外されているようだ。

 

 そして、裾からはパステルブルーのパンツと、眩しいくらい白く、スラリと伸びた足が惜しげも無く晒されている。

 

 少女の艶姿は、殺伐とした戦場にあって可憐に咲き誇っている。

 

 次の瞬間、

 

 顔を真っ赤にしたシノンは、迷う事無く突撃すると、キリトに殴り掛かる。

 

 グーで。

 

「ドワァッ!?」

 

 直撃を喰らって吹き飛ぶキリト。

 

 何とも、締まらない2人だった。

 

 

 

 

 

第21話「アジト攻防戦」      終わり

 




オリキャラ紹介

クイント
男

スタイリッシュが改造した強化人間の一体であり、本来、将棋には存在しない「クイーン」に相当する兵士。トビーの機動力とカクサンの防御力を併せ持ちキリトと互角に戦うが、帝具の能力を解放したキリトの前に敗れた。
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