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駆ける4騎の馬が、整列して街道を進んで行く。
ウェイブ、トキハ、クロメ、ボルスのイェーガーズ4人が、かなりのスピードで、ロマリー街道を南へとひた走っていた。
姿を現したナイトレイド。その主要メンバーであるアカメの目撃情報を基に、これを追跡している。
周囲は切り立った崖に囲まれ、こちらに向かって迫って来るかのようだ。
「帝都最強のナイトレイドが相手か・・・・・・私なんかで勝てるかな・・・・・・」
不安そうに発言したのはボルスだった。
とは言え、これが弱気から出た言葉ではないのは、誰もが判っている。
チーム一、慎重な性格のボルスは、常に最悪の事態を想定して動いている。
まして、相手はこれまで、いくつもの凶行を重ねてきたナイトレイド。警戒しすぎて損をする、という事は無い筈だった。
「大丈夫ですよ」
力強く請け負ったのはウェイブだった。
「前に一度、ナイトレイドの1人と戦った時には応戦されませんでしたけど、実力的には自分と互角くらいに感じました」
ウェイブは以前、そうとは知らずにインクルシオを纏ったタツミと戦っている。あの時は、タツミが情報を持ちかえる事を優先して交戦を避けた為、殆ど戦闘らしい戦闘には至らなかった。
だが、インクルシオ(タツミ)がウェイブの猛攻を切り抜けた事から、ウェイブ自身、一方的な戦闘だったにもかかわらず、相手が相当な実力者であると判断していた。
「けど、力を合わせればきっと勝てますって。ボルスさんの帝具は多人数相手に向いていますし、むしろ心強です」
「・・・・・・そうかな」
ウェイブの励ましに、少し勇気付けられたように呟く。
そこで、会話を聞いていたクロメが、話に加わって来た。
「とか言って、ウェイブが一番足引っ張りそう」
「何をォ!?」
無邪気にからかうクロメに、ウェイブは食って掛かる。
その反応が面白かったのか、クロメは更に煽る。
「何かね、ウェイブって、ここぞって時に弱そう」
「お、俺だってなッ グランシャリオを装備すれば、結構やるもんなんだよ!!」
ウェイブの強さは、既に完成された物である。それは、他ならぬエスデス自身が認めている事でもあった。
だが、同時にメンタル面では不安が残る、という評価がされていた。
要するに、何らかの要因があって、実力を発揮しきれない。あるいは、油断から足元を掬われる可能性もある、という事だ。
だが、逆を言えば、それさえ克服してしまえば、ウェイブは他者を完全に圧倒し得る強さを得られると言う事だ。
「強い所見せてよね。期待してるから」
「おお!! 上等じゃねえか!!」
何やら勝手に盛り上がるウェイブとクロメ。戦闘前から士気の高い事である。
そんな中、1人黙って馬を走らせているトキハに、ボルスが寄ってきた。
「どうしたのトキハ君?」
「ボルス・・・・・・・・・・・・」
呟くように言ってから、再び黙り込むトキハ。
何となく、自分の中にある感情を持て余している。そんな感じの仕草だ。
そんな少年の様子から、ある事を想い付き、ボルスは口を開く。
「もしかして、アスナちゃんの事が心配?」
「だッ 誰が、あんな奴ッ」
珍しく、声を荒げるトキハ。
いきなり図星を突かれ、取り繕う暇が無かった、といった感じだろうか? 心なしか、頬が赤く染まっているようにも見える。
「大丈夫だよ。アスナちゃんは強いし。それに、あっちにはエスデス隊長もいるからね」
「だから・・・・・・そんなんじゃない」
不貞腐れたようにそっぽを向くトキハ。これ以上、何も話す気はない。とばかりに口を閉ざしている。
そんな少年の、(ある意味年相応な)反応を見て、ボルスはマスクの奥でクスリと笑う。
トキハは、アスナの事が気になっているのだ。
イェーガーズ結成以来、ともに組んで戦う事が多かったトキハとアスナ。
顔を見合わせれば喧嘩する事が多く、口では素っ気ない事を言いあう両者だが、いざ戦闘になれば、イェーガーズの中で並ぶ者がいない程、高度な連繋を見せる。
つまり、何だかんだといいつつ、息は抜群に合っているのだ。
それに、
ボルスは、トキハの中で、以前とは少し違う変化があるような気がしていた。
結成当初のトキハは、本当に誰も寄せ付けようとしない、一種の孤高性を持った少年だった。
しかし、最近では、他のメンバー達とも、よくしゃべる光景を目にする。
それをボルスは、アスナと触れ合う事が多くなったからでは、と思っている。
つまり、トキハの中で、アスナは特別な存在となりつつあるのだ。
当人たちが、毛の先程もその事に気付いていないのには、苦笑せざるを得ないが。
もうちょっと素直になっても良いのに。
ボルスとしては、どうしてもそう思ってしまうのだった。
その時、
「ちょっと待ったッ」
先頭を走っていたウェイブが警告を発した為、一同は手綱を引いて急停止させる。
その前方には、何やら木と藁を編んで作った人形が置かれている。
「かかし?」
「だねー」
不審そうな眼差しで案山子を見るトキハとクロメ。
しかも何やら、かかしの逞しい胸板には「池面」などと書かれている。恐らく「イケメン」と読むのだと思われるが、いずれにしてもふざけた造りである。
「何か、明らかに罠って感じだよね」
「そうですね。慎重に近付きましょう」
ボルスの言葉に頷きを返すと、ウェイブは馬から降りて、徒歩で案山子へと近づいて行く。
とにかく、こんな所に道の真ん中で案山子が立っている理由を調べないと。
そう考えて歩み寄ろうとした。
次の瞬間だった。
突如、遠距離より、エネルギーの弾丸が飛来する。
標的になったのは、クロメ。
放ったのはマインである。
案山子が罠である、というウェイブたちの判断は正しかった。ナイトレイドはこの場に陣を張り、イェーガーズを待ち伏せしていたのだ。
この場所にイェーガーズをおびき寄せ、足止めしたところを狙撃で仕留め先制攻撃を加える。
ナジェンダの立案した作戦である。
今回の作戦では特に、クロメとボルスが最優先目標にされている。
クロメもボルスも、軍時代に何人もの人間を殺害し、革命軍本部が最も危険視している者達である。特にボルスは、その能力を駆使して、革命軍に協力した村を丸ごと焼き払う、というような事を何度も行っている。
何としてもこの場で仕留める事が、革命軍本部からナイトレイドに依頼されていた。
放たれたエネルギー弾が、真っ直ぐにクロメへと迫る。
次の瞬間、
クロメは殆ど反射的に身を翻して飛び退くと、同時に自身に迫ったエネルギー弾を紙一重で回避した。
断ち切られた黒髪が数本、忘れ去られるように宙に舞うのが見える。
しかし、それだけだった。
クロメ本人は、傷一つ負ってはいない。
思わず、スコープの先でマインが唸り声を上げたのは言うまでも無い。
完璧に、回避が間に合うタイミングではなかった。
視界外からの超長距離狙撃。マインの技量を如何無く発揮した攻撃は、間違いなくクロメを貫いて絶命させるはずだった。
にも拘らず、クロメは回避して見せた。
恐るべき超反応である。とても、人間にできる技とは思えなかった。
だが、ナイトレイド側の準備にも抜かりは無い。狙撃に失敗する可能性を考慮し、既に次の手は打ってあった。
「クロメッ 大丈夫か!?」
ウェイブの注意が一瞬逸れた瞬間、
件の案山子が、内側から膨れ上がるようにして弾け飛ぶ。
中から姿を現したのは、スサノオである。彼は初めから案山子の中に潜み、襲撃を掛けるチャンスをうかがっていたのだ。
クロメへと真っ直ぐに迫るスサノオ。
その手にした棍が、少女へと襲い掛かる。
次の瞬間、
「危ねえ、クロメ!!」
とっさに庇いに入ったウェイブが、手にした剣でスサノオの棍を受け止める。
だが、衝撃までは殺しきる事ができなかった。
スサノオの膂力をまともに受けるウェイブ。
「ウオッ!?」
その衝撃のすさまじさに、鍛え上げた体は大きく浮き上がり、そのまま視界の彼方へと吹き飛ばされていった。
「ウェイブ君!!」
とっさに助けに行こうとするボルス。
だが、
そこへ足音を踏み慣らし、ボルスの前に立ちはだかる。
ナジェンダにアカメ、ライオネルで変身したレオーネに、インクルシオを纏ったタツミの姿もある。
特筆すべきは、ナジェンダとアカメの存在だろう。
事前の情報では、2人は別れて別々の街道を言ったとあったはず。
しかし、そんな彼女らが揃ってこの場にいると言う事は・・・・・・
「ナイトレイド・・・・・・しかもほぼ全員。て言う事は、東は全くのフェイクだったんだね」
事ここに居たり、ナジェンダの立てた作戦の全貌が明らかになった。
彼女は初めからイェーガーズを分断し、その片割を全力で叩く腹積もりだったのだ。
恐らくこの場には、姿を現していない他のメンバーも来ている筈。
それに対しイェーガーズは、先制攻撃でウェイブがやられて今や3人のみ。数的不利は否めない。
しかも、エスデスは不利な場合は逃げろと命じていたが、今やそれも不可能である。撤退しようとすれば、背後から追撃されるのは目に見えていた。
「クロメにボルス。イェーガーズの中でも、お前達は標的だ。覚悟してもらうぞ」
言い放ったナジェンダの言葉に、ボルスは自らの運命が差し迫っている事を悟る。
覚悟はしていた。
自分はこれまで、多くの人間を殺してきた。
罪の無い人間ですら、
ボルスにとって、いつか自身が標的にされる事は、とっくの昔に覚悟ができていた。むしろ、この瞬間が来るのが遅すぎたくらいである。
「でも・・・・・・・・・・・・」
ボルスの脳裏には、自分の帰りを待つ愛しい妻と、最愛の娘の姿がよぎる。
「私はまだ、死ぬわけにいかない!!」
彼女達を残しては死ねない。
それがいかに、手前勝手で独りよがりな言い分であるかは、他ならぬボルス自身が最もよく判っている。
だがそれでも、
愛する家族の為なら、エゴイストにでも何でもなろうと決めていた。
一方、
アカメとクロメもまた、共に視線を交わして対峙していた。
「お姉ちゃん」
「クロメ・・・・・・・・・・・・」
笑顔のクロメに対し、アカメは暗い表情のまま妹を見る。
かつて共に同じ刻を歩きながら、運命によって引き裂かれた姉妹。
否、引き裂いたのは、他ならぬアカメ自身である。
かつて、同じ暗殺組織にいながら、姉は組織を抜け、妹は残る道を選んだ。
その時から、2人の道は別たれたのだ。
「会いたかったよ、お姉ちゃん。すごくうれしい」
無邪気に笑うクロメ。
その様は、アカメの記憶の中にある、妹の笑顔と寸分違わない物である。
だが、その内実は、狂気によって彩られていた。
「これでやっと、お姉ちゃんを殺して、私のコレクションに加えてあげられるね」
言いながら、八房をすらりと抜き放つクロメ。
同時に、刃を高らかに掲げる。
次の瞬間、驚愕すべき事態が起こった。
突然、クロメの足元の地面が盛り上がり、次々と無数の腕が突き出してきたのだ。
まるで、冥界から死者が、この世に這い出て来るかのような光景である。
否、
「まるで」ではない。文字通り、死者が這いずり出てきているのだ。
帝具《死者行軍 八房》
その能力は、使用者がトドメを刺した生物を、最大で8体まで「死者人形」として使役できる事にある。
クロメを取り巻くように、彼女の「軍勢」が姿を現す。
更に、
突然、地鳴りのような振動が、一同を襲う。
「な、何だ!? 地震か!?」
驚くタツミ。他の皆も、何が起こっている岡判らず、戸惑いを隠せないでいる。
そんな中、
地中から、死体人形たちよりも、更に巨大な物が、這いずり出てくる。
全長だけで、人間の50倍以上。威容なら100倍以上だろう。
それは、一言で言えば恐竜の骨だった。
恐らく危険種の物だと思われるが、当然ながら生きているようには見えない。
「超級危険種デスタグールだと!?」
ナジェンダが呻き声を漏らす。
エスデスが部隊を二分した訳を、ナジェンダは理解していた。
二分した戦力でも充分に勝てる。そう判断したからこそ、エスデスは二手に分かれたのだ。
「さあ、帝具戦の始まりだよ。何人死ぬかな?」
デスタグールの掌に腰掛けながら、クロメは可笑しそうに言い放った。
2
先制したのはアカメだった。
自身のトップスピードで駆け抜けながら村雨を抜刀、そのまま横なぎに刃を繰り出しクロメへと斬り掛かる。
一切の呵責の無い攻撃。
妹に対して、
否、妹だからこそ、愛する者だからこそ、他に委ねず、自ら決着をつけたいと考えていた。
対抗するように、クロメも八房を繰り出す。
ガキンッ
ぶつかり合い、火花を散らす両者の刃。
すれ違う、姉と妹。
と同時に、アカメは素早く次の行動を起こした。
進路を強引に反転させると、背中を向けているクロメを追う。
再度、繰り出される刃。
クロメの反応は遅い。
そのままアカメが斬り掛かる。
次の瞬間、
立ちはだかるように現れた人影が、アカメの刃を手にした槍で受け止めた。
その姿を見て、驚愕するアカメ。
「お前、ナタラか!?」
長身の若い青年は、かつて暗殺部隊で同僚だったナタラだった。
任務中に重傷を負い、もはや死を待つだけだったナタラを、クロメは八房でトドメを刺し、自らの死体人形にして今日まで使役して来たのだ。
ナタラが素早い連撃を仕掛け、アカメを押し返しにかかる。
八房の能力で死体人形になった生物は、生前の能力をそのまま継承している。その為、ナタラもまた、暗殺者時代の実力を十全に発揮できるのだ。
堪らず、後退してナタラの攻撃を回避するアカメ。
同時に、鋭い視線をクロメへと投げ掛ける。
「もう土に還してやれッ 共に育った仲間だろう!!」
「何言ってるの、お姉ちゃん?」
抗弁するアカメに対し、クロメは本当に意味が分からない、とばかりに首をかしげて見せる。
「大切な仲間だからこそ、ずっと一緒にいたいって思うのは当然でしょ」
言いながらクロメは、八房の切っ先をアカメへと向ける。
「お姉ちゃんも、私のコレクションに加えてあげる。そうしたら、いつまでも一緒にいられるよね」
話が通じない。
アカメとクロメでは、見ている物、生きて来た道、そこで至った答、全てが異なっている為、まるで会話が噛みあわない。
次の瞬間、クロメは姉目がけて斬り掛かって行く。
猛攻を仕掛けるクロメとナタラ。
いかにアカメといえども、自身と同等の実力を誇る暗殺者2人を相手では不利は否めない。
しかも、彼女を狙っているのは、2人だけではなかった。
ルビカンテのノズルを構えたボルスが、アカメに対して慎重に照準を合わせているのが見える。
「
次の瞬間、物質化するまでに凝縮された炎が、弾丸と化してアカメへと襲い掛かった。
ルビカンテ奥の手マグマドライブ。
炎を弾丸と化し、遠距離砲撃用武装として使用できる。
目を見開くアカメ。
空中にある彼女に、回避する手段は無い。
直撃を喰らい、炎に包まれるかと思われた次の瞬間、
横合いから飛び出した白い影が、空中でアカメをキャッチ、そのまま射線から飛び退く。
「一人で突っ込むんじゃねえッ らしくないぞ、アカメ!!」
「すまない・・・・・・・・・・・・」
アカメを抱きかかえながら、タツミが声を上げる。
普段の冷静さを欠いたアカメの行動は、やはり最愛の妹を敵に回していると言う、精神的負荷が原因であると思われた。
着地するタツミ。
そこへ、追撃を仕掛けようと、ルビカンテを構え直すボルス。
だが、
それを阻止せんと、漆黒の影が躍り出た。
「やらせるかよ!!」
キリトだ。
その素顔は、敵を前にして白昼に晒されている。
この戦いに赴く前、キリトはナジェンダに呼ばれ、こう言われた。
「お前には死んでもらわなくてはならない」と。
その理由は今回、キリトが敵相手に素顔を晒す必要があった事にある。
何しろ、フルフェイスマスクで顔を覆っているタツミや、遠距離攻撃専門のシノンと違い、キリトは最前線で顔を晒す事になる。
これは暗殺者としては致命的と言って良い。今後、暗殺任務にキリトを投入できない事態が発生する恐れもあった。
とは言え今回の作戦、相手がイェーガーズである以上、ナイトレイドが全力で挑まないと成功はおぼつかない。キリトほどの戦力を遊兵化するのは惜しい。
そこで熟慮の末、投入するべきという判断が下されたのだ。
「新手の敵!?」
キリトの奇襲に驚くボルス。
すぐさま標的を変更。ルビカンテのノズルをキリトへと向け、炎を吹きだす。
だが
「ウオォォォォォォ!!」
キリトはエリュシデータを正面に掲げると、そのまま両掌で高速回転させる。
そんな物で何を!?
ボルスがそう思った次の瞬間、驚くべき事態が起こった。
キリトの剣に弾かれ、ルビカンテの炎が散らされていくのだ。
「まさか、そんな手でッ!?」
絶句するボルス。
剣を高速回転させて盾の代わりとする。
これもまた、エリュシデータの元となった剣豪が使用していた、技の1つである。
いかに全てを焼き尽くすルビカンテの炎といえど、帝具の能力まで焼き尽くす事はできなかった訳だ。
「貰った!!」
間合いに入ると同時に、右手に持ち直したエリュシデータを振り翳すキリト。
しかし、
そのキリトの攻撃を、いち早く動きを察知した者が阻止しに掛かる。
「やらせない」
横合いからキリトに接近する影。
低い呟きと共に、トキハは玉梓を鞘奔らせる。
その鋭い斬撃が、横合いからキリトへと襲い掛かる。
「クッ!?」
とっさに、ボルスへの攻撃を諦め、回避行動を取るキリト。
体勢を立て直すと同時に、相手を見やる。
「お前ッ・・・・・・」
見覚えのある少年の姿に、思わず歯を噛み鳴らすキリト。
フェイクマウンテンでタツミを捜索していた時に、キリトとトキハは一度剣を交えている。その時の記憶は、まだ新しい物だった。
「ああ・・・・・・あの時の」
対して、トキハもまた、フェイクマウンテンでの対峙を思い出し、素っ気ない調子で声を上げる。
「やっぱり、ナイトレイドだったんだ」
「・・・・・・・・・・・・ああ」
事ここに至った以上、隠す事に意味は無い。
重々しく頷きを返すと、キリトは真っ向からトキハを見やる。
「ナイトレイドのキリトだ」
同時に、帝具の能力を解放する。
背中に加わる、新たな重み。
キリトは手を伸ばし、ダークリパルサーを抜き放つ。
「お前の実力は判っている。悪いが、初めから手加減無しで行かせてもらうぞ」
「・・・・・・それはこっちのセリフ」
茫洋とした声で言い放つと、トキハも玉梓の能力を解放する。
黒かった髪は白く染まり、同時に目は毒々しいまでの赤に変化する。
《邪神転生 玉梓》の能力は解き放たれ、少年の身体能力は飛躍的な向上を見せる。
両者、視線が激しく激突する。
「イェーガーズ、トキハ、参る・・・・・・」
言い放つと同時に、
2人の少年は、互いの剣を掲げて地を蹴った。
他のメンバー達も、それぞれの死体人形たちと交戦状態に入っている。
そんな様子を、少し離れた場所から、ナタラを伴ったクロメが眺めていた。
八房発動中の彼女は、各死体人形を制御する為、一時的に能力が低下している。その為、最も
それにしても、
「お姉ちゃん・・・・・・私達を裏切って、あんな奴等と一緒にいるなんて・・・・・・・・・・・・」
面白くなかった。
お姉ちゃんは、私と一緒にいるべきだったのに。それが、裏切った挙句、いつの間にやら訳の判らない連中と仲良しこよししているなんて。
これはちょっと、懲らしめてやる必要がある。
「やれ、デスタグール!!」
クロメの命令を受け、巨大な影が動く。
のけぞるように胸郭を逸らしながら、吸い込んだ。
膨らんだ胸郭が限界に達した瞬間、一気に解放される。
放たれる極大の咆哮。
その圧倒的な威力は致死量を超越し、地形すら薙ぎ払う。
帝具の素材にもなったと言われる超級危険種の攻撃は、正に想像を絶していると言って良かった。
だが、
スサノオがナジェンダを抱えて退避したのを皮切りに、ナイトレイド達も次々と退避行動に移る。
キリトとレオーネは、交戦を中断してとっさにその場から飛び退き、マインは物陰に退避、タツミはアカメを庇うようにしてマントを広げ、衝撃波に耐える。
勿論、デスタグールの放った衝撃が収まるまでは、イェーガーズ側も身動きが取れない。
強烈すぎる攻撃と言うのも、ある意味で考え物だった。
やがて、衝撃が収まる。
同時に、両勢力は再動する。
だが、
分断に成功し、本来なら有利に作戦展開できるはずのナイトレイドが、思わぬ苦戦を強いられていた。
問題は、クロメの死体人形たちである。
これらは皆、厄介な物で、それぞれが一騎当千と称して良い実力者達である。
レオーネを変幻自在な鞭攻撃で抑え込んでいる大柄な男はロクゴウ。かつては帝国の将軍であり、ナジェンダの同僚だった人物である。帝国を裏切り、革命軍に身を投じようとしたところを察知され、クロメに暗殺された。
狙撃の為、潜んでいたマインを発見し、激しい銃撃戦を交わしている二丁拳銃の女は、かつてクロメを暗殺する為に北方異民族が送り込んで来た刺客のドーヤ。
タツミには2体の死体人形が襲い掛かっている。
そのうち一体、エイプマンは類人猿型の特級危険種である。所謂「脳筋タイプ」である為、あまり知能は高くないが、攻撃力、瞬発力、耐久性は死体人形たちの中でもぴか一の存在であり、クロメに割と酷使される率が高い、ある意味「苦労人」である。
もう一体のヘンターは南方異民族であるバン族の特殊部隊員で、エイプマンとは逆に技術と身体能力を駆使した暗殺技術を得意としている。
エイプマンが正面から掛かってタツミを足止めし、その間にヘンターが搦め手から攻撃を仕掛ける、という戦法でタツミを翻弄していた。
ボルスに斬り掛かろうとしたアカメの前に、禿頭にサングラスを掛けた男が、透明特殊樹脂性の盾を手に立ちはだかる。
ウォールと呼ばれる男は、かつて、クロメが暗殺した要人の警護をしていたガードマンである。盾を主武装にしている事からも分かる通り、防御技術に優れている。その盾も、刀剣の刃を防ぐ特殊材質に加え、微妙に表面が湾曲している関係で、アカメの必殺の斬撃はしばしば狂わされていた。
そして、
キリトとトキハもまた、己が刃を振り翳して激突していた。
同時に地を蹴ると、互いの距離が一気に迫る。
先制したのはトキハだ。
玉梓によって強化された身体能力を十全に駆使してキリトへと斬り掛かる。
だが、キリトの反応も素早い。
トキハの斬撃に対し、左右の剣を交差させて防御。勢いを殺すと同時に腕を払って押し返す。
後退するトキハ。
そこへ、キリトはすかさず追撃を掛ける。
「行けッ!!」
左手に握ったダークリパルサーを、横なぎに繰り出して斬り掛かる。
対して、
トキハはとっさに、防御よりも回避を選択する。
繰り出されたキリトの剣に対し、前方宙返りをするようにして回避しながら飛び越えると、キリトの背後に着地。同時に、振り向き様に刃を繰り出すトキハ。
一拍遅れて、キリトも追随する。
振り向き様に放った剣が、トキハの玉梓と激突。互いの刃がぶつかり合い、火花を盛大に散らす。
衝撃に押され、両者、後退を余儀なくされる。
地面に足を着き、制動を掛けるトキハ。
次の瞬間、
自身に向かって飛来する、光の矢の存在に気付いた。
「ッ!?」
息を飲みながらも、とっさに身を翻すトキハ。
間一髪、光の矢は、トキハの鼻先を掠めて飛び去って行った。
その様子を見て、キリトは舌打ちする。
潜んでいるシノンには、隙を見付けて狙撃を行うように指示を出していたのだが、それが回避されてしまうとは。
「新手?」
「さあな」
嘯くように言いながら、黒白の二刀を構え直すキリト。
対抗するように、トキハもまた、玉梓の切っ先を向け直した。
その頃、狙撃位置についていたシノンは、思わず呻き声を漏らしていた。
「まさか、今のをかわすなんて・・・・・・・・・・・・」
自身の必殺の意志でもって放った狙撃。
まさか、それをトキハが回避するとは思っても見なかった。先程、マインの狙撃を回避したクロメといい、イェーガーズの実力は底が知れなかった。
「まあ良いか、次」
気持ちを切り替えて、新たな目標を探す。
マインも敵に発見された以上、シノンは唯一の狙撃手となってしまった。
できればクロメを狙いたいところだったが、先ほどの光景を見る限り、無理に狙撃を敢行したとしても、成功の望みは薄いだろう。
ここは味方を掩護しつつ、着実に敵の戦力を減らして行こうと思った。
シェキナーの弦を引くシノン。
その瞳が照準の為のデータを映し出す。
次の瞬間、シェキナーから光の矢が奔った。
第29話「死戦の街道」 終わり