漆黒の剣閃   作:ファルクラム

30 / 30
第30話「クロスクラッシュ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロマリー街道におけるナイトレイドとイェーガーズの史上初となる大規模な激突は、時を追うごとに激しさを増しつつあった。

 

 当初、戦力分断に加え、奇襲攻撃によって包囲網を完成させたナイトレイド側は、早々にウェイブを脱落に追いやり、戦闘における有利を一気に確立できるものと考えられていた。

 

 しかし、意に反してクロメが八房の能力を発動したことで、戦況は逆転しつつあった。

 

 アカメの鋭い斬り込みは、防御戦闘を得意とするウォールによって完全に防がれている。

 

 キリトはトキハと交戦中。実力はほぼ互角と言って良い2人だが、それゆえに長期戦の様相を見せ始めている。

 

 レオーネはロクゴウの鞭裁きに翻弄され、身動きが取れなくなっている。

 

 タツミはエイプマンとヘンターに挟撃され、剛柔合わせた攻撃に苦戦中。

 

 援護射撃を行うはずのマインも、ドーヤに捕捉されてしまっている。

 

 そして何より脅威となっているのは、デスタグールの存在だった。

 

 超級危険種を死体人形にしたデスタグールの存在感は圧倒的である。

 

 およそ「人」が対抗できる類の相手でないことは明白であろう。

 

 だが、

 

 対峙する存在もまた「人」の枠から外れているとすればどうであろう?

 

 スサノオはマスターであるナジェンダを抱えたままデスタグールの攻撃を回避。同時に大きく後退する。

 

「さすがの破壊力だな」

 

 そのスサノオに抱えられたまま、ナジェンダはデスタグールが放つ破壊と言う名の存在感に舌を巻く。

 

 ナジェンダとしては、万全の体制をもって臨んだはずの戦いにおいて、思わぬ苦戦を強いられている事が歯がゆく感じられているのだ。

 

 だが、隻眼の戦略家は同時に、戦況を冷静に見極めていた。

 

 現状、最大の脅威となっているのはデスタグールと見て間違いない。

 

 ならば、そのデスタグールを排除する事ができれば、逆転の目もあり得るというものだ。

 

「スサノオッ 皆であいつを止めるぞ!!」

 

 命じるナジェンダ。

 

 まずは全員一斉攻撃でデスタグールを排除。その後は残敵掃討に移行する。

 

 それが、ナジェンダがとっさに建てた作戦であった。

 

 対して、

 

「その命令は間違いだ、ナジェンダ」

 

 スサノオをは静かな声で、マスターの命令を否定する。

 

「確かに奴は強敵だ・・・・・・だが!!」

 

 言い放つと同時に、スサノオは手にした棍でデスタグールの腕をはじいた。

 

 デスタグールの巨体が、大きくよろめくのが見える。

 

 それは異様な光景だった。

 

 恐竜の如き巨躯を持つデスタグールを、人間とさほど変わらない大きさのスサノオが弾き飛ばしたのだから。

 

 踏鞴を踏みつつ、それでも踏みとどまるデスタグール。

 

 その様を、スサノオは鋭い眼差しで睨み据える。

 

「奴の相手は俺1人で十分だ。皆には他を当らせろ」

 

 その様に、ナジェンダですら軽い戦慄を覚えざるを得ない。

 

 しかし、同時に自らの帝具であり、相棒たる存在に対して、絶大なる信頼を再確認するのだった。

 

 

 

 

 

 一方、トキハもまた、キリト相手に苦戦を強いられてきた。

 

 複雑な軌跡を描いて繰り出される黒白の剣閃。

 

 対抗するように、トキハも玉梓を振るって斬り掛かる。

 

 互いの繰り出す軌跡が複雑に絡み合い、金属音が連続する。

 

 キリトは真っ向から振り下ろされたトキハの斬撃をダークリパルサーで受け、同時に右手に構えたエリュシデータを繰り出す。

 

 とっさに後退する事で、キリトの斬撃を回避するトキハ。

 

 そのまま地面を蹴って体勢を入れ替えると、キリトに対して斬り掛かろうとする。

 

 だが、

 

「ッ!?」

 

 強化された聴力が、風を切って迫る存在を察知する。

 

 とっさに突撃をキャンセルして、飛びのくトキハ。

 

 一拍の間をおいて、それまでトキハがいた場所で閃光が炸裂した。

 

 舌打ちするトキハ。

 

 彼を襲ったものの正体は、シノンの狙撃である。

 

 いかに強敵とは言え、相手がキリト1人であるならトキハもここまでの苦戦はしないだろう。

 

 だが、こうして一瞬のスキをついて仕掛けてくるシノンの狙撃が、しばしばトキハの気を逸らしてしまうのだ。

 

 そこへ、畳みかけるようにキリトが斬り掛かる。

 

 体を捻り、回転を加えた強烈な一撃。

 

 その一撃を、トキハは玉梓を盾に辛うじて防ぎきる。

 

 だが、

 

 その軌跡を追うように、白剣がトキハに迫る。

 

 二刀流による連撃。

 

 その2撃目を、

 

 トキハは体を大きく仰け反らせることによって回避した。

 

 キリトの剣は、トキハの前髪数本を断ち切るに留まる。

 

 今度は、キリトが舌打ちする番である。

 

 必殺のタイミングを狙って放った一撃が、まさか、こんな形で回避されるとは思ってもみなかったのだ。

 

 キリトが技後の硬直によって動きを止めている内に、トキハは距離を置いて体勢を立て直した。

 

「・・・・・・厄介」

「それはこっちのセリフだよ」

 

 互いに吐き捨てるように、呟きを漏らすキリトとトキハ。

 

 高度な連携を見せて攻めてくるキリトとシノンの前に、トキハは完全に攻め手を欠いている状態である。

 

 一方のキリトとしても、初手から奥の手の開放に加え、シノンの援護射撃があってなお攻め切れていない状況について、忸怩たる物を感じずにはいられなかった。

 

 帝具によって動作をアシストしているキリトと、帝具によって身体能力を強化しているトキハ。

 

 ある意味、似たような能力を持つ2人の戦闘は、互いの長所を潰しあう形になっていた。

 

 再び、剣を構える両者。

 

 先の動いたのは、キリトだった。

 

 両手のエリュシデータ、ダークリパルサーを掲げて切り込むキリト。

 

 対抗するように、トキハもまた玉梓を構えなおしてキリトを迎え撃った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 激闘の様子は、離れた場所で待機しているラバックとリーファの元へも伝わってきていた。

 

 大地を揺らす振動と、離れていても聞こえてくる鳴動が、戦いの激しさを物語っていた。

 

「始まりましたね」

「ああ。みんな、無事でいてくれよな」

 

 2人は今回、後方で待機するように命じられている。

 

 と言っても休んでいるわけではない。

 

 ナジェンダは敢えて戦場から離れた場所に2人を配置することで、包囲網を万全な物としているのだ。

 

 ナイトレイドとイェーガーズが激突すれば、必ず双方に大きな被害が出る。

 

 そうなると敵、特に標的であるボルスやクロメを取り逃がす可能性がある。

 

 加えて、万が一の可能性として、分断したエスデス達が、罠を察知して駆けつけてくる可能性もある。

 

 そこで、機動力の高いリーファと、広範囲をカバーできるラバックを、敢えて後方に残したのである。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 無言のまま、戦場の方向を見つめるリーファ。

 

 自分たちの役割は理解している。その適正ゆえに選ばれたことも。

 

 だが、

 

 あの場では今、彼女の兄をはじめ、仲間たちが戦っているのかと思うと、どうしても気は逸ってしまう。

 

『お兄ちゃん、みんな、どうか無事で・・・・・・・・・・・・』

 

 リーファは心の中で、祈るように呟いた。

 

 

 

 

 

 強烈な鞭裁きで攻め立ててくるロクゴウ。

 

 対して、レオーネは静かな声で言い放つ。

 

「おっさん、帝国の将軍だったのか。どうりで強いわけだよ」

 

 対して、物言わぬ死体人形のロクゴウは、無言のまま鞭を繰り出す。

 

 しなりを加えて襲い来る鞭。

 

 だが、

 

「流石にもう慣れた!! いつまでも同じ技が通用すると思うなよ!!」

 

 ライオネルによって身体能力を強化したレオーネは、ロクゴウの鞭裁きを見切り、素手で掴み取った。

 

 と、

 

「よく言った、レオーネ!!」

 

 鋭い囁き。

 

 次の瞬間、飛び込んできたナジェンダが、義手の手首を飛ばしてロクゴウに対して攻撃を仕掛けた。

 

 ロクゴウの巨体が、大きく吹き飛ばされる。

 

 そこへ、ナジェンダは馬乗りになって抑えつけた。

 

「ロクゴウ将軍・・・・・・・・・・・・元同僚として、一刻も早くあなたを呪縛から解き放ちます」

 

 帝国軍時代の旧友に、静かな声で語り掛けるナジェンダ。

 

 その隻眼には、哀愁の色が混じって見えるのは、決して間違いではないだろう。

 

 それにしても、

 

「・・・・・・ボスが戦っているところ、久しぶりに見た」

 

 レオーネは、ナジェンダの姿を呆然と眺めながらつぶやく。

 

 ナジェンダは、かつてエスデスによって負傷を負わされたことが響き、昔のように戦うことはできなくなっている。そのため、ナイトレイドでは専ら、後方で指揮に専念することが多かった。

 

 だが、

 

 帝都最強の殺し屋集団を束ねるリーダーが、無力であるはずもない。

 

 たとえ負傷していても、十分に戦える力は持っていた。

 

 ともかく、ナジェンダまで参戦してきた以上、早々にけりをつける必要があるだろう。

 

「よーし、私も・・・・・・・・・・・・」

 

 レオーネが言いかけた時だった。

 

 彼女の背後から、

 

 音もなく忍び寄る影。

 

 次の瞬間、

 

 背後から接近したクロメが八房を一閃。

 

 レオーネの左腕は、鮮血とともに肩口から斬り飛ばされた。

 

「なッ!?」

 

 驚愕とともに、肩を押えるレオーネ。

 

 対して、クロメはゾッとする笑みを浮かべてレオーネを見やった。

 

「ふふ、ダメだよ。私から完全に目を逸らしたら。隙あらばガンガン仕掛けていくからね。あなた達が全滅するまで」

 

 開放された帝具の能力にばかり目が行きがちだが、クロメも超一級の暗殺者である。決して油断できる相手ではない。

 

「やってくれたな、お前・・・・・・・・・・・・」

 

 殺気の籠った瞳で、クロメを睨みつけるレオーネ。

 

 同時に、斬られた左腕に力を籠める。

 

 すると、傷口の筋肉が隆起し、吹き出る血流が停止してしまった。

 

 これもライオネルの超回復能力を応用したものである。

 

 その様子に、クロメは無邪気に目を輝かせた。

 

「おおッ 自力で止血できるなんてすごいね。コレクションにほしくなったよ」

 

 対して、レオーネのほうは怒りの籠った視線をクロメへ向ける。

 

「獅子を怒らせるとどうなるか、見せてやるよ!!」

 

 たとえ片腕だろうと負けはしない。

 

 殺気をむき出しにするレオーネ。

 

 だが、

 

「突っ込むなレオーネ。クロメには護衛もいる!!」

 

 そんな獅子を制したのは、彼女の上司だった。

 

 戦略家たるナジェンダは、今この段階で大将首(クロメ)を狙うのは得策ではないと判断したのだ。

 

「まずは着実に相手の戦力を削るぞ。クロメを狙うのはそれからだ」

「・・・・・・・・・・・・了解」

 

 ナジェンダの指示に、不承不承と言った感じに頷くレオーネ。

 

 だが、

 

 その鋭い視線だけは、遥か崖の上で笑みを浮かべるクロメを真っ直ぐに睨み据えていた。

 

 

 

 

 

 数度に渡って剣を交える、キリトとトキハ。

 

 互いの剣閃が掠める度に、2人の少年は互いの存在を削りあう。

 

「ハァッ!!」

 

 右手に持ったエリュシデータを、擦り上げるように繰り出すキリト。

 

 対して、トキハは玉梓を繰り出してキリトの剣を防ぐ。

 

 ぶつかり合う、互いの刃。

 

 火花が盛大に吹き抜け、周囲にまき散らされる。

 

 後退する両者。

 

 体勢を立て直したのは、

 

 キリトが早かった。

 

 地を蹴ると同時に疾走。体を大きく回転させながら、ダークリパルサーを横薙ぎに繰り出した。

 

「んッ!?」

 

 対して、いまだに体勢を立て直していないトキハは、対応が間に合わない。

 

 とっさに、地面を転がりながら回避。そのまま膝を突くようにして刀を構えなおした。

 

 強い。

 

 玉梓の切っ先をキリトに向けながら、トキハは内心で呟いた。

 

 以前、フェイクマウンテンで対峙したときは、キリトが逃げの一手を刻んだために、交戦は最低限で終わった。

 

 だが今、キリトは明確な戦闘意欲をもってトキハと対峙している。

 

 トキハ自身、エスデスに認められるほどの実力者ではあるが、キリトの戦闘能力は、そのトキハをも凌駕している。それでも拮抗していられるのは、帝具の能力があるからこそだった。

 

 どうする・・・・・・・・・・・・

 

 内心で考えを巡らせるトキハ。

 

 状況は互いに決定打を欠いたまま、消耗戦の様相を呈している。

 

 このままだと明暗を分けるのは互いの「体力」と言う事になるだろう。どちらが帝具の能力開放に耐え続けられるかで勝敗が決まる。

 

 しかも、キリトには狙撃手(シノン)という援護があるのに対し、トキハは1人。不利は否めなかった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 奥の手を使うか?

 

 トキハにとっての最後の切り札。

 

 だがそれには、賭けの要素が強すぎる。

 

 玉梓の奥の手は体力的な消耗が激しい。今の状態では数分程度で解除せざるを得ないだろう。

 

 どうする?

 

 その時、

 

 すぐ2人の横で、巨大な炎が湧き上がった。

 

 

 

 

 

 致死の炎を吐き出すボルスと、鉄壁の防御力を誇るウォール。

 

 その2人の連携を前に、さしものアカメも攻めあぐねていた。

 

 何しろ、どれだけ斬り掛かってもウォールの盾が村雨の刃を防ぎ、動きを止めたところで、ボルスが容赦なくルビカンテで攻撃を仕掛けてくる。

 

 先程から、あわやというシーンが何度もあったほどである。

 

 ナイトレイド最強の実力を誇るアカメでなければ、とうに焼き殺されていたことだろう。

 

 しかし、

 

 苦戦を強いられながらも、アカメの思考は冷静さを保っていた。

 

 不利な状況ほど焦りは禁物。雌伏してチャンスを待つのだ。そうすれば勝機は、いずれ必ず巡ってくるはずだから。

 

 アカメはボルスとウォールの周りを、高速で回り始める。

 

 その動きの素早さたるや、残像が見えるほどである。

 

 対して、ボルスのほうも、アカメが隙を窺っていることに気付いたのだろう。慎重にルビカンテを構え、アカメの反応に備えている。

 

 ルビカンテから炎を放つボルス。

 

 その瞬間、アカメは炎の軌跡を見切り回避。同時に体勢を入れ替えると、動きを止めたボルスへ斬り込む。

 

 当然のように、ウォールが防御に入る。

 

 だが、動きはアカメのほうが速い。

 

 円を描くような動きでウォールの足元を低く抜けるアカメ。

 

 そのままボルスの胸へ切っ先を突き立てるように、村雨を繰り出す。

 

 神速の勢いで繰り出される刃。

 

 だが、

 

 ガキッ

 

「なッ!?」

 

 目を見開くアカメ。

 

 その手には、相手を斬った感触は伝わってこない。

 

 見ると、ボルスが掌を掲げて、村雨の刃を受け止めているのが見える。

 

 その掌には金属製の小さな盾が握り込まれている。それが、必殺の刃を受け止めていたのだ。

 

 ほぼゼロの距離で炎を噴射するボルス。

 

 完全なる必中距離。

 

 しかし対して、アカメは仰け反るようにして回避する。

 

 これにはボルスも驚きを隠せなかった。まさか、このような形で回避されるとは、思ってもみなかったのである。

 

 そこでウォールが追い付いてきてアカメを攻撃。

 

 アカメは状況不利と判断して、後退せざるを得なかった。

 

 互いに、攻め切ることができないでいる。

 

 1対2の状況を保たせているアカメは流石と言うべきだが、そのアカメ相手に曲がりなりにも優勢に戦闘を進めているボルスも賞賛すべきだろう。

 

「・・・・・・一つだけ、聞いて良いかな、アカメちゃん」

 

 ボルスの方から声をかけたのは、その時だった。

 

「アカメちゃんはどうして反乱軍に入ったの? 味方のままでいてくれた心強かったのに」

 

 それはボルスの本心である。

 

 アカメほどの実力者が帝国軍に残ってくれていたら、どれほど助かったことか。

 

 否、それ以前に、クロメとの経緯を知っているボルスは、彼女が最愛の妹を振り切ってまで、なぜ敵に回ったのか知りたかったのだ。

 

 対して、

 

 アカメは自らの胸に手を当て、まっすぐにボルスを見据えていった。

 

「わたしの心が、そちらが正しいと決めたからだ。己の信じる道を歩んだまでだ」

 

 戦乱の温床である、腐敗した帝国を打倒する。

 

 たとえ仲間を裏切り、妹と袂を別つ事になっても、アカメの中で、この思いだけは捨て去ることができなかったのだ。

 

 そんなアカメの言葉に、ボルスも頷きを返す。

 

「分かりやすい回答だね。ありがとう」

 

 言いながら、再びルビカンテを構える。

 

「でも、その信念ごと燃やすのが、私のお仕事!!」

 

 言い放つと同時に、ボルスは再び炎を放った。

 

 次の瞬間、

 

「アカメッ!!」

 

 横合いからの声。

 

 同時にアカメは瞬時に、相手の意図を理解する。

 

 身を翻すアカメ。

 

 入れ替わるように、漆黒の影が炎の中へと飛び込んできた。

 

 奔る黒の一閃。

 

 ボルスの放った炎は、真っ二つに切り裂かれる。

 

 霧散する炎の影から、

 

 エリュシデータの切っ先を向けたキリトが姿を現した。

 

「悪いな、選手交代だ」

 

 不敵に言い放つキリト。

 

 対して、ボルスはルビカンテを持つ手に力を籠める。

 

「君は手配書が回っていない子、だよね・・・・・・・・・・・・」

 

 キリトの実力を測りかね、緊張を増すボルス。数度にわたってルビカンテの炎を防いでいることから考えても、相手が相当な実力者であることは理解できた。

 

 ルビカンテの噴射口を向けるボルス。

 

 同時にウォールもキリトを警戒して盾を構える。

 

 対して、

 

「それじゃあ、第2ラウンドと行こうか」

 

 キリトもまた、剣を構えなおして両者と対峙した。

 

 

 

 

 

 一方、

 

 キリトと交代したアカメは、改めてトキハと対峙していた。

 

 飛び込んできた髪の長い少女が振るう刀。

 

 その切っ先を目にした瞬間、

 

「ッ!?」

 

 トキハの背筋に、ゾワリと怖気が奔る。

 

 とっさに後退して回避するトキハ。

 

 アカメが振るった村雨は、後退したトキハの胸元を掠める。

 

 直撃はない。トキハの回避が僅かに早かったのだ。

 

 距離を置いて対峙するトキハとアカメ。

 

 アカメは村雨の切っ先を真っ直ぐ向けているのに対し、トキハは剣先を下げたまま、じっとアカメの顔を見ている。

 

「どうした、構えないのか?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 尋ねるアカメに対し、トキハはしばらく考えた後、

 

「ああ」

 

 何か納得したように、アカメを指さし、そして自信満々に言い放った。

 

「アケミ」

「アカメだ」

 

 「ア」しか合っていなかった。

 

 自信満々に何を言っているのか。

 

 などと言う割とどうでもいいやり取りを交わしてから、両者の闘志がほとばしるのが分かった。

 

 次の瞬間、

 

 トキハとアカメは、同時に地を蹴って刃を繰り出した。

 

 

 

 

 

第30話「クロスクラッシュ」      終わり

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。