戦闘シーンだと筆が進みます。予約投稿忘れていました…
(何なんだ、こいつは)
男は一人、目の前の画面に映し出されている
自身の多数の部下がCADを操作し、魔法を発動させるより前にそいつはすでに操作を終え、あり得ないほどの速さと精度を持って撃滅していた。組織でも古株の、様々な任務をこなしてきた自分ですら思わず耳を塞ぎたくなるような苦痛の絶叫と断末魔、気味の悪い破裂音。一般的な汎用型CADによる魔法の使用。ほぼ同型の機器を使用しているというのに圧倒的な魔法の演算能力。
「っっ!くそったれ!」
男は奥歯を噛み締め顔を歪めながらそう吐き捨てた。画面では彼の戦友が風の斬撃によって身を切り刻まれていた。その鮮やかな手口に握りしめた拳が汗で湿る。背中に怖気が走り、身体が小刻みに震える。
どうしてこうなった?
作戦の首謀者である司一が倒された、それで終いの筈だった。そんな時だった。
突然の襲撃
突然の虐殺
男は画面を凝視していた。
悪魔はニッコリと此方を見て笑った。
美琴は自身の汎用型CADであるブレスレットを手をかざし、次々と魔法を発動させては敵を殲滅していた。
彼女が放った魔法陣の先にあるのは数秒後の骸のみ。流石に不意打ちの複数攻撃には魔法で相殺することも叶わなかったが、相手の放った魔法は美琴がヒラリと身を翻すことによって回避されていた。そして、ご丁寧にも撃ってきた方へのお返しは忘れない。
瞬歩で突然背後に回りこまれた敵は今まで距離が離れていた彼女に対処するよりも先に、後手に手首を掴まれ、捻ることでアッサリと肩を外される、美琴はそこにすかさず白打を撃ち込み、腕が破壊され、赤い血潮を撒き散らしながら何処かへ飛んでいく。そしてついでとばかりに背を蹴り前から追撃してきた別の敵へと蹴りつけ、そこに重量を加算させ、動けなくさせる。
「ぎゃあ!!」「ってぇ!」と反射的に出た言葉が彼等の最後の言葉となった。倒れた二人に美琴は二人同時に硬化魔法をかけた。硬化魔法は物体の相対位置を固定するもの。そして美琴が固定したのはーー彼等の心臓と周囲の血管だ。
心臓と血管の位置とそれに相当する血液を固定することで脈動は強制的に停止し、二人は胸を掻き毟りながら泡を吹き、絶命した。
(何人か、手練れが混ざってる…)
美琴は敵を瞬殺しながら思考していた。息をするように腕を突き出し、脚を駆使し、魔法を発動させる。
敵と自身の魔法陣の光と敵の悲鳴が交差しあい、視界がチカチカと煩い。
ブランシュの下部組織と思われる者達は皆、程度の低い魔法を闇雲に発動してきたりと鬱陶しいことこの上ないが、十人に一人程の割合ではあるが実戦経験豊富な戦士も混ざっていると美琴は確信していた。その者達は美琴の足運びや息遣いを訓み、跳躍した着地地点や交戦の隙などに魔法を撃ち込むほか、体術や刃物も躊躇いなく使用していた。
魔法師にとっては魔法で闘うのが当たり前となっている現代において、接近戦に重きをおく体術や刃物は嫌煙されがちのきらいがあるが、実戦経験者は違う。
なんでも身につけていればそれで命が助かる可能性があるのだ。馬鹿にするなど、以ての外。現に先程美琴に掠った攻撃は体術によるものだった。
(師め…何が虫退治ですか)
面倒なこと、この上ない。
「いたぞ!あいつだ!」
と、そこにまた援軍が舞い込んできた。相手の士気が僅かながらに上がるにつれて、美琴の心中は降下していく。
(…少し、遊びすぎたかな)
思うも、既に遅い気がする。
ふぅ、と美琴は一つ息を吹き出した。数が多い…と、魔法と白打などを発動させていた。鬼道は使わない。白打は古式武術などで言い訳がたつが鬼道は美琴のオリジナルとなっているため、そして音声が漏れてしまうためにもし記録がされていたとなれば此方が糾弾されてしまうからだ。
そのために美琴は現在、顔半分には狐の面を着け、装束は黒で纏められていた。幻惑で姿もある程度変えており、大抵のものは見ても美琴とは気づかないであろう出で立ちだ。
(さて…と。)
辺りは死屍累々の湖となっているが、まだいるな。と美琴は脚を気配のする方へ進めていた。
長い廊下に、コツリコツリという美琴の靴音が木霊した。根城になっていたこのビルは数ヶ月前に倒産した会社の廃ビルだ。至る所で硝子は割れ、釘は散らかっている。
もっと奥…
美琴の見立て通り、もっと奥に行ったところには管制室の札が掛かっていた。彼女はそれを、まるで自分の部屋へ入るかのように気安く開き、CADも構えることなく部屋の中を見ながら笑った。部屋は案外でかく、目線の先には一人の壮年の男が椅子に座って彼女同様、此方を見つめていた。
「ココは何も
「ええ、そのようですね」
美琴はアッサリと声を発した。逆に男の方が動揺したが、顔には出さなかった。そのかわり「おもしれーなあ… 」というが早いか、自身の特化型のCADを取り出した。腰掛けていた椅子から腰をあげる。拳銃型のCADは奇しくも美琴の見慣れたものであった。
「おう、テメェ名は?」
「お答えできかねます」
「…そうかよ。」
男は彼女に標準を合わせながら問うていた。指を掛けてはいない、問うた声にはどこか子どものような無邪気さを孕んでいるようにも感じられた。
「一人の戦士として、お相手願いたい。」
男は過去に戻ったかのような錯覚をしていた。若かりしあの頃、自分よりも遥かに高みにいた人々。その人達と対峙するときの、身が凍るような寒気と快感。
「こちらこそ、是非にも」
そう言うと腰元に提げていた刀を鞘より抜き去った。画面の光に刀が反射する。
「CAD…特化型か。刀など珍しい…今までは使っていなかったようだが、手加減していたのか。」
「いや、していませんよ。」
そう言うと刀を水平に持ち上げ、刀の腹を指でなぞる。滑るように、存在を愛おしむように。刀のつかに付いた鈴が場違いなほど涼やかな音を奏でる。
「この子はね、退屈が嫌いなんですよ、そして好き嫌いも激しい。
闘いたくない相手の時は鞘から抜けてすらくれないんです。」
「気紛れでね、困ったものですよ。」と、美琴は男に伝えた。男はさも可笑しそうに声を立てて笑った。
「私は目金に叶ったのかな?」
「はい。そのようですね」
そしてそれを言い終わると同時に二人とも相手に得物を向けた。かたや拳銃、かたや刀。どちらも特化型のCADではあるが、特性の違いに定評がある。近場なら物理攻撃も与えられる刀に軍牌が上がるが、遠距離では拳銃型のほうに軍牌が上がった。
そして双方の位置は中距離だ。少々、刀には厳しい。
男が魔法を繰り出す。魔法陣が発動され、振動系魔法によって生み出された灼熱の球体が美琴に突き進んできたかと思うと、美琴はそれを軽く剣でいなした。熱源にもろに触れたというのに刀は曲がることもなく、いなされた軌道の先にあった壁は黒く変色し、溶け出している。男は続けて魔法を繰り出した。床に収束系魔法を繰り出し、摩擦を強め、さらに減速系、加重魔法によって辺りの空気の濃度を圧縮した。美琴は心中、この男に拍手を送った。なかなかのスピードに判断力、戦闘経験、分析力。
「貴方、軍関係者ですね」
断定系で告げられた言葉に男の口角が上がる。その間にも魔法は展開され続け、美琴は笑いながらそれを受け流す。
「お嬢ちゃん、
「そうでしたか。」
「どうした!攻めてこないのかい!」
「……そうですねえ」
美琴は向かってくる炎の球を見ながらそう呟き、そっと目を閉じた。
その瞬間、灼熱のそれが美琴を飲み込んだ。
男はそれでも注意を怠らなかった。これくらいで死ぬわけがないと、どこかで確信していたからだ。
だが次の瞬間、ザシュッと男の肩からは真っ赤な鮮血が迸った。男は認識するよりも早くその場から飛び退いた。飛び退いた先から今までいたところを見ると、そのには美琴が微笑みを浮かべたまま立っていたことに、男は瞠目した。見た目には火傷の痕すら残っていないように見える。
「
先程までのかたなは刀身を数多の血液を飲みほしたかのような不吉な鈍色。そこに独特の艶やかさは、刀が醸し出すオーラのような雰囲気にピッタリと重なる。その声がひっそりと地を這うと同時に、男の斬られた肩から流れていた血がピチャピチャと踊り出した。傷口から溢れ、膨張し、まるで生き物のように鼓動を感じる。
「あ、ああ、あ、いっ!!
ぎゃぁぁぁあぁ、ああ、あぁぁあ!!!」
初めは見た目だけだった異変が、だんだんと痛みを伴ってきた、そしてその数瞬ののち身体中に蟲が這っているような不可解感と同時に、今までに味わったことのないほどの痛みに男は震え、床に転げ回った。その痛みはまるで、痛覚という機関を、金槌で思いっきり殴られているかのような感覚。身体のどこかが炙られているかのような錯覚を覚える。歴戦の戦士である男がまるで赤子のように絶叫をあげていた。
「気をしっかり保ってください。コレは幻ですよ」
精神干渉魔法。その中でも今使用したのは美琴の
そもそもの彼女の斬魄刀の能力だ。
詳しくは相手に幻を見せる。それに意識を集中させるように導くだけだ。
幻というのはよくできた精巧なものであればあるほど意識に働きかけ、幻覚の感覚をそのものに感じさせる。後は潜り込ませた霊圧を操作してよりリアルに魅せるだけだ。幻とわかっていても深層心理はそう簡単には覆ることはない。それは自身の意思に関係なく意識が痛覚を訴えるからだ。だから治療も関係ない。身体につけた傷はたいしたことがないからだ。永劫にその痛みは男の身体を蝕む。それが美琴の斬魄刀の能力。
その彼は美琴の声が聞こえているのかいないのか、いぜん絶叫を辺りに撒き散らしながらのたうち回り、最早美琴の事も見ていないようだ。実際見えていないのかもしれない、目が血走っている。
「すみません、この刀は意地が悪いのです」
そう言うと美琴は音もなく近づき男の頭に刀を突き刺した。
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先程までの惨劇そのもの自体がまるで幻であるかのように美琴は公園で一人、彼女の髪を吹き抜ける風を受けていた。途端に、自嘲の笑みを顔に浮かべ、微かに声を出しながら嗤う。
「本当、とんだ人でなしになったものだ」
前世でもここまでは酷くなかったと思ったが…どっちもどっちか、と嘆息する。
死する魂を救うはずの死神が、逆に命を狩る。途中から違えた道ではあるが、元々がそれであったことは揺るぎない。
いつだって、自分は身勝手なのだ。命令とあれば、必要とあれば平気で汚れることも厭わない。ある意味では楽しんでいるといっても過言ではない道徳に反することも辞さないのに、それがその事を知らない者にバレるのは恐ろしく感じるのだ。
斬魄刀を夜の宙に掲げる。血がこびりついたかのような、魅せられる刀。己の精神に、さざ波をたてる愛刀。
美琴はそのまま何時間もそこで座り込んでいた。
楽しかったです。今回とことん改行が少ないですね…