IS ~この地球(ほし)の光に導かれし者~ 作:メテオボーイ
暴走したラウラを何とか言い聞かせて教室の前に戻したイチカ。自分の席に戻るとき千冬の方をチラリと見ると目が完全に状況説明を求めていた。
(あとで話す……)
口の動きだけでそう伝えると千冬は納得したのかHRの続きを始めた。
「まったく…次の者、自己紹介を。」
「はい。」
ラウラの第一印象が衝撃的過ぎていまだに教室の空気はざわざわとしていたが忘れかけていたもう一人の転校生を見た瞬間、クラスの空気が一変した。
「初めまして、フランスから来ましたシャルル・デュノアです。僕と同じ境遇の人がいると聞いて転入してきたのですが……」
「「「……………」」」
「え、えっと…あの~「「「きゃあああああ‼」」」」
悲鳴とも取れるような歓声が教室にこだまする。
「二人目の男性操縦者キターーーー‼」
「イチカ君とは違って守ってあげたくなるタイプ‼」
「この夏はイチカ×シャルルで決まりだ~‼」
「あ、あははは……」
女子たちのはしゃぎようにシャルルは若干引き気味だった。まあそうなるだろうな…俺たちも転入してきて同じような反応された時は引いたからな…セシリアとのほほんに至っては目回してるし…俺たちは耳栓してるから良いんだが…
「静かにせんかお前たち‼」
シーーーン……………
これも前に見たな………。
「これでHRは終了する。次の授業は四組との合同実習だから遅れるなよ。クロニクル兄、デュノアを更衣室まで案内してやれ。」
「俺、更衣室使ったことないから分からないんですけど……」
「何だと?普段はどうしている?女子みたいに下に着ているのか?」
「いえ、自分たちの機体にはISスーツみたいなの必要ないので。生身で大丈夫なように設計してあります。」
「そうか……まあデュノアの為だ、場所は教えてやるから一緒に行ってくれないか?」
「分かりました。それじゃ行くか…っと、自己紹介してなかったな。イチカ・クロニクルだ。イチカで良い。マドカとクロエは俺の妹だ。よろしく、シャルル。」
「うん、よろしくイチカ。」
シャルル・デュノア―――――フランスでデュノアって言ったらデュノア社だよな…一度調べてみるか……
そう考えながらも意識の端で大勢の気配を察知するとイチカはシャルルを担ぐと、教室の窓を開け、そこから飛び降りて更衣室に向かった。
余談だが、そのせいでシャルルが目を回して気絶してしまったため授業に遅刻してしまったのは言うまでもない……
「遅い‼待ちくたびれたぞ嫁‼」
「だから男は嫁じゃなくて婿だって言ってるだろラウラ………遅れてすいません、織斑先生。」
遅れて到着して最初に飛んできたのはセシリアの心配の声でも、簪の挨拶でも、ましてや千冬の説教でもなく、ラウラの説教だった。
「おおよそデュノアが気絶して遅れたのだろう?あんな移動の仕方をすれば誰だってそうなる。」
「すいません。これからは気絶させないように運びます。」
「ええっ‼またあれやるの!?」
「兄さんってやっぱり…」
「たまにズレますね…しかしそのギャップがまたかわいいんですよね。この時だけ平和だなって思います。」
「お前らな……織斑先生、授業はどこまで?」
「さっきまでオルコットと更識妹のペアで山田先生と模擬戦をしてもらっていた。今から専用機持ちをリーダーとしてグループ分けをして歩行訓練等をしてもらうつもりだったところだ。」
「了解」
千冬の指示で分けられたグループで専用機持ち達がメンバーに搭乗と歩行の指導を行っていく。イチカも割り当てられたグループのメンバーに指導を行っていく。
「よし、うまく出来たな。今の感じを忘れないように。ハイ、次の人は……篠ノ之さんだな。」
「……よろしく頼む。」
「それじゃ乗ったら歩いてみてくれ。ゆっくりで構わないから。」
箒の順番が回ってきたのでイチカは箒に指示を出し、箒は指示通りに歩いていく。
「よし、オッケーだな。降りるときは立てたままにしないように気を付けてくれよ。」
イチカはその後もそつなく指導を行っていった。
「一夏………」
そんなイチカに箒は声をかけることも出来ずにただただ見ていることしか出来なかった―――――。
放課後、イチカはラウラを連れて寮長室で千冬と話をする―――――つもりだったのだが……
「なぜこんな大所帯になっているんだ?」
ラウラを背負ったイチカの後ろには、それを睨むようにしてセシリア、簪、楯無がいた。因みにマドカとクロエは自室で機体の調整をしている。
「三人が特訓に付き合ってほしいと言われたんですけど織斑先生とラウラの事で話があると言ったらこうなりました。」
「まったく……仕方ない、更識姉、生徒会室を借りるぞ。」
「どうぞどうぞ♪」
一同は生徒会室に移動し、席についた。
「さて…話を聞く前に…ボーデヴィッヒ、取りあえずそいつの背中から離れろ。そこの三人が話を聞く体勢にならんからな。」
セシリア、簪、楯無は未だラウラに視線で『イチカから離れろ』と訴えていた。それを見たラウラは何を思ったのか考える素振りを見せてからイチカの背中から降りた。
「なるほど…私のライバルですか。しかし思いを伝えている分私が優勢なのは変わりませんが…。」
「「「/////‼」」」
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。ラウラで構わない。ライバル……いや、同志と言った方が適切か?これからよろしく頼む。」
ラウラの物怖じしない言動に若干圧倒されながらも三人は差し出された手を握り返した。
「セシリア・オルコット、イギリス代表候補生ですわ。セシリアとお呼びください。」
「更識簪…よろしくラウラ。」
「この学園の生徒会長でロシア代表の更識楯無よ。よろしく、ラウラちゃん。」
「終わったか?」
「はい、教官‼」
「教官はよせ。」
「では――――――」
ここで一同驚愕の爆弾が投下された。
「―――――今の内からお義姉さん(おねえさん)とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「………………………ハ?」
皆の口が開いたまま戻らなくなっていた。ラウラ……
「ラウラ、それは結婚してからの呼び方だ。織斑先生と呼んだ方が良い。余計な混乱を招きかねん。……いや、既に手遅れか。」
「イチカさん‼御一人で納得しないでくださいまし‼」
「そうよイチカ君‼ラウラちゃんとは一体どういう関係なの!?」
「イチカ、詳しく教えて‼」
「お前たちちょっと待て。ボーデヴィッヒ、もしや知っているのか?」
千冬に問われたラウラは平然と言ってのけた。
「嫁が教官の弟だということですか?もちろん知っています。」
「やはりか…」
「嫁とは教官がドイツに教官として赴任してくるより前に出会いました。遺伝子強化試験体(簡単に言うと生体兵器に近い試験管ベビー)として生み出された私は戦うための道具としてありとあらゆる兵器の操縦方法や戦略などを体得し、良い成績を収めていました。しかしISが生み出され、ISとの適合性向上のために行われたヴォーダン・オージェの不適合により左目が金色に変色し、能力を制御しきれずそれ以降の訓練では全て基準以下の成績となってしまっていました。……闘うことしか知らず、闘うことにしか自分の居場所はない、存在意義は闘うことしかない……しかしそれすらも奪われて周りからは手のひらを反すように出来損ない扱いされる日々を送っていました。そんな時です、嫁と出会ったのは……。」
「俺はその時、掴んでいた情報の真相を確かめるために束さんも連れて四人でドイツを訪れていたんだ。」
「情報…ですの?それは一体……」
「『ドイツでVTシステムの研究、開発が秘密裏に行われている』というものだ。」
「VTシステムだと!?しかしあれは現在世界のあらゆる企業や国家での開発は禁止されているはずだ‼」
――――――――VTシステム
Valkyrie Trace System(ヴァルキリー・トレース・システム)の略で、過去のモンド・グロッソ優勝者の戦闘方法をデータ化し、そのまま再現・実行するシステムで、パイロットに「能力以上のスペック」を要求するため、肉体に莫大な負荷が掛かり、場合によっては生命が危ぶまれるため現在は世界のあらゆる企業・国家での開発が禁止されている。
「イチカ君の言っていることは間違ってないですよ織斑先生。確かに更識にもそういう噂は入ってきていました。あくまで『噂』の範疇でしたが。……でも確かその研究をしていた企業や会社等の施設は全て壊滅したってニュースにもなったわね…――――って、もしかしてイチカ君達……」
更識のもとにも少なからず情報は入っていたようで楯無がイチカの話に補足した。その途中で何かに気付いたのかイチカ達に半ば確信めいたように問いかけた。
「壊滅だとただの実力行使のように聞こえますが…まあそんなところです。ドイツ政府のネットワークにアクセスして情報を得て、その中にあった企業のリストに記されていた施設の中から怪しいところに片っ端からアクセスして証拠となる情報を掴んだらあとは……ドーンってしました。」
「ドーンって何!?イチカ君、絶対実力行使でしょ!?殺っちゃったでしょ!?」
「大丈夫です。死者は出してませんから。」
「そうだな。全員縛り上げてブランデンブルク門にぶら下げてきたぞ。」
「情報や証拠は全て消しましたし、仕上げも束様が行ったのであれをやったのが私たちということがばれることはないと思います。」
普通の事のように言っているがイチカ達のやったことはとんでもないことである。一同も彼らのハイスペックぶりには段々慣れてきたようだ―――――。
「話を戻すぞ…施設を殲滅している途中でいくつか秘密裏にドイツ軍に流そうとしている動きを掴んだんだ。如何やらスパイを送り込んでいたようだ。そのスパイが送られていたのがラウラの部隊、『シュヴァルツェ・ハーゼ』だったんだ。」
「そのスパイ達ももちろんブランデンブルク門にぶら下げたぞ。」
「そういえばそうでしたね。」
「でだ、スパイを捕らえるときに一戦交えてな…それをラウラやクラリッサ、シュヴァルツェ・ハーゼのメンバーに見られてしまってな…『訓練を見てほしい』と頼まれたんだ。」
「兄さん…そりゃ銃だの何だの持ってる相手に対して兄さんは生身で圧倒したんだからそうなるよ。」
あきれるようにマドカはそう零した。
「最初は断るつもりだった。目立つようなことはしたくなかったからな…。しかしラウラの存在を知って、目を見たとき……どうしても放っておくことが出来なかった。……その時のラウラの、信じられるものが何もなく。全てを敵視したようなあの目を―――――。だから俺は彼女たちの頼みを期間限定で引き受けた。」
「私は嫁から力の正しい使い方、仲間の大切さ、そして何より―――――私は闘うための兵器ではなく『ラウラ・ボーデヴィッヒ』であるということを私に教えてもらった。私を一個人として見てくれる人がいる――――嬉しかった。耐えて、耐えて、今日まで生きてきてよかった……心の底からそう思いました。」
清々しい表情でラウラは胸の奥に秘めていた思いをありのままに話した。ラウラの話にイチカ、マドカ、クロエは笑みを浮かべ、セシリア、簪はラウラに暖かい眼差しを送り、楯無に至ってはハンカチ片手に号泣していた。
「うううっ‼ラウラちゃん、辛かったわね……これからはお姉さんたちも一緒よぉ~‼」
「な、何だ!?くっつくな‼ちょ、やめっ……‼」
ラウラの頬をすりすりしながら抱き付く楯無にラウラは抵抗するも結局なされるがままになってしまった。
「お姉ちゃん、泣きすぎ……ハイ、ハンカチ使う?」
「まあそうなる気持ちも分からなくもないですが……」
「簪、セシリア‼見てないで助けろ‼」
こんな彼女たちの様子を千冬は穏やかな表情で見ていた。
「何か強い信念を持っているとは赴任した時から感じてはいたが……なるほど、お前たちが要因だったのか。」
「まあな。良い顔して笑えるようになったよラウラは。」
「クラリッサのせいで変な知識を植え付けられているのが少し残念だけどね。」
「生活等に最低限必要な知識は大丈夫なんですけどその他は……私たちが教える前にクラリッサに洗脳されてましたね。」
「まったくアイツは……」
クラリッサ・ハルフォーフ―――ドイツのIS配備特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」の副隊長なのだが、日本の少女漫画のファンで、そこから日本文化の知識を得ているためかその内容はかなり偏っている。ラウラに色々な(誤った)知識を吹き込んでしまい、イチカを『嫁』と呼んでいる現状が出来上がってしまっている。
酒を飲み交わす中であった彼女を思い出しながら千冬はため息をついた。
「時間を取らせてしまってすまなかったな。もういいぞ。」
「なに、千冬姉の教え子なんだ…気になるのも無理ない。俺は全然かまわないさ。」
「すまないな……一夏、ボーデヴィッヒの事は頼んだぞ。」
「もとからそのつもりさ。さてと……ラウラ大丈夫か?ほら楯無さん、ラウラから離れてください。」
「ええ~っ…」
なかなかラウラから離れてくれない楯無に向かってイチカは一撃必殺とも言える言葉を言った。
「夕飯ご馳走しようと思ってたんですけど残念です。楯無さんだけ夕飯抜きn「離れた‼離れたからそれだけは勘弁‼ね、ね?」さてみんな行こうか。千冬姉も食うだろ?」
「そうだな、いただこう。」
「無視しないで~‼ねえイチカ君‼私の分は!?ちゃんとあるわよね!?ねえってばぁ~‼」
「冗談ですよ。ちゃんと楯無さんの分も作りますよ。安心してください。」
「良かった~……」
イチカの腕にしがみついた状態でホッと息を吐く楯無。相当イチカの料理に胃袋を掴まれてしまっているようだ…
「いつまでイチカにくっついてるのお姉ちゃん‼」
「そうですわ‼」
「ここは私がもらった‼」
楯無がイチカの腕に、ラウラが背中にくっついているのを簪とセシリアが注意する――――その中心にイチカはいた。
「賑やかですね……」
「そうだな……そしてその中心には兄さんがいる。」
「ああ……」
そんな光景を三人はしみじみと見ていた。いつも独りで辛い思いを背負って戦っていた昔のイチカの事を思うとそれは夢にまで見ていた平和な光景だった――――――。