IS ~この地球(ほし)の光に導かれし者~ 作:メテオボーイ
「~~~~~♪」
「楽しそうだねラウラ…何かいいことでもあった?」
シャルルは転入して同室となったラウラのご機嫌な様子が気になって訪ねた。
「嫁の手料理をご馳走になっていたのだ‼ああ……ハンバーグ、美味かった…そういえばシャルルはどこにいたんだ?食事のときは姿が見えなかったのだが…」
「あ、うん…僕の転入って結構ギリギリに決まったからまだ提出出来てなかったり足りてないものとかあったから職員室で山田先生に呼ばれてその書類の作成をしてたんだ。イチカの料理ってそんなに美味しいの?」
シャルルの質問にラウラは目を輝かせながら物凄い勢いで語り始めた。
「嫁の料理は美味しいという簡単な言葉で表せれるものではない‼あれはもはや芸術の域に達していると言っても過言ではない‼私は今まで食事など、必要最低限の栄養さえ取れればいいと思っていた。だがその考えも今ではすっかり嫁に感化されて食べることが好きになったんだ‼ドイツでは食べ歩きとかもしたぞ‼レーションばかり食べていた昔の自分に一発くれてやりたいぐらいだ‼」
「あはは……でもラウラがそこまで言うんだったら僕も食べてみたかったな。」
「機会があればその時はシャルルも一緒だな。」
そんな話をしながらシャルルは紅茶を二人分入れてラウラに片方を渡す。
「すまない、いただこう。」
「いえいえ。料理ってイチカの部屋で食べるの?」
「そうだぞ。嫁の部屋には本格的なキッチンが付いてるからな。それに嫁、マドカ、クロエの三人部屋だから広めに作ってあるらしいから大人数でも大丈夫だぞ。」
「そうなんだ…あっ、でも僕イチカの部屋って知らないや。」
「嫁の部屋なら最上階の角部屋だ。今度案内するぞ。」
「ありがとうラウラ。じゃあ僕はシャワー浴びてくるね。」
「分かった。覗いたりしないから安心して入ってくるといい。」
「ラウラ……」
シャルルはそそくさとシャワールームに消えていった。
「フゥ…頼まれた仕事は終わったことだし…………そうだ、歯を磨いてなかったな。嫁に散々言われてきたからきちんと磨かなければ嫁に嫌われてしまう……。」
そう呟きながらラウラは念入りに歯を磨き始めるのであった―――――――――
「ハァ…ハァ…急がなきゃ‼ごめんねイチカ、悪く思わないでね…」
息を切らしながらシャルルは一人廊下を走っていた。向かう先はイチカの部屋――――
シャルルはラウラからイチカの部屋の場所を聞き出したあの日から、密かにイチカの行動を観察していた。そこでシャルルは、イチカは食堂で夕飯を食べるときは必ず自分のパソコンを食堂に持ち込まず、部屋に置いていることに気が付いた。シャルルは早速、イチカ達の夕飯に同席、全員分のお茶を用意しそこにコッソリと用意しておいた遅行性の睡眠薬を入れた。食事が終わるころには全員が眠りにつき、それを見計らってイチカからルームキーを拝借、そして今に至る。
「……ハァ、ハァ、ハァ…イチカの、部屋、遠すぎ……」
ようやくイチカの部屋に到着したシャルル。早速くすねたルームキーを使ってイチカの部屋に入ると机の上にイチカのパソコンが置いてあった。
「あった……。……確かパスワードはこんな感じだったような……開いた‼」
パソコンを開くとパスワード入力画面が出てきた。シャルルは教室で以前チラリと見て何となく覚えていたパスワードを打ち込んでいくと二度目の入力でロックが解除された。
「機体データのファイルは……これかな?」
画面にはいくつかのファイルが貼り付けてあった。シャルルはその中にあった『SURVANT』というファイルを開いた。そこには案の定、イチカのガイア、マドカのポセイディア、クロエのゼウスのデータが入っていた。
「これがイチカ達の機体……ハッキリ言って第三世代の性能を遥かに凌駕してる‼全身装甲型に大容量の拡張領域……これってISって呼んでも良いのかな…ISコアは使われてるみたいだけど。……ん?何だろ、このファイルは?」
情報を閲覧しているとシャルルはガイアのページにだけもう一つファイルがあるのに気付いた。
「ファイル名は……Weißer Ritter…?――――何だろ?ドイツ語かな、ラウラと親しくしてたし……って、それより早く情報を‼みんなが起きちゃう‼」
シャルルはUSBメモリをパソコンに差し込み、情報をコピーしていく。少しするとコピーが完了し、先ほど見つけた謎のファイルをどうするか考えていた。
「これ…何のファイルなんだろ?」
気になったのでシャルルはカーソルを動かしファイルを開こうとファイル名をクリック―――――――するつもりだったが……
「そこまでだ………シャルル・デュノア…いや―――――――『シャルロット・デュノア』。」
「‼」
突然背後からかけられた殺気すら帯びた声とで首元に突き付けられたサーベルによってシャルルの行為は強制的に停止した。
「イ、イチカ……どうして……」
「既に調べはついている。デュノアに『シャルル・デュノア』などという人間は存在しない。お前の正体はデュノア社の社長の実子だが、愛人との間に生まれた子供『シャルロット・デュノア』、女だ。デュノア社は今IS開発の遅れによる経営危機に陥っているそうだな。数少ない男性の操縦者として世間の注目を集めることで会社をアピールするとともに、俺達に接近して俺達とその専用機のデータを盗め、みたいな社長命令を断ることすら許されず学園に転入してきた―――といったところだろ?」
「なんだ……もう全部ばれちゃってたんだ。いつから気づいてたの?」
「転入初日から何となくだがおかしいとは思っていた。貴重な男性操縦者が見つかったのにその情報が一切ニュース等で流れていなかった。俺という存在が現れたことで世界の国々で男性にも適性テストが行われているらしいが見つかったという情報は一切ない。そもそも俺は存在しえない人間だし加えて無国籍ということもあって直前まで存在自体を隠して生きてきたから外部に情報が漏れることはなかったが他の国が同じようにどれだけ規制しようがこれほどの情報ならどこかからいずれ漏れてしまうものだがその痕跡もどこにもなかった。だから俺は確固たる証拠を押さえることにした。」
「証拠?」
「さっき俺が言ったことは確かなことだが証拠としては弱い。『俺が都合よく事実をでっち上げた』と言われたらそこまでだからな。まずはラウラに協力してもらってシャルルに俺の部屋の場所をそれとなく流してもらった。そうすれば俺は、シャルルは俺の行動パターンを把握し、俺とパソコンが離れる時を狙ってくると踏んでわざと夕飯の時にはパソコンを部屋に置くという習慣を見せシャルルをこの部屋におびき出し証拠を掴もうとしたってわけだ。睡眠薬は飲んでない…みんなは飲んだから今は食堂でぐっすりだけどな。マドカとクロエ、ラウラに見張ってもらっている。」
「僕が皆でイチカの部屋で食べてる時に行動を起こすとは思わなかったの?」
最後の抵抗としてシャルルはイチカに質問した。
「その可能性も考えた。そっちの方がもし何かあった時に言い訳しやすいが同時に周りにみんながいる状態だからリスクも大きい。証言者が増えるからな。トータルで考えたらこっちの方がリスクは低いからな。あとは――――」
そう言うとイチカはおもむろにパソコンを閉じ、片手で自分の方に引き寄せる。
「このディスクに入っている監視カメラの映像とこのパソコンとUSBに残っている指紋をシャルロット・デュノアの物と照合して合致すれば完璧な物証になる。これをデュノア社に突き付ければ……」
「僕は本国に強制送還……投獄かな…。ハハハッ……。」
シャルル改めシャルロットは諦めた表情を浮かべ乾いた笑い声をあげる。
「まあそうなるだろうな…。お前はどうしたい?」
「―――――――えっ?」
質問の意味が分からなかったシャルロットは素っ頓狂な声をあげる。
「最後ぐらい偽りの仮面脱いで心の内をさらけ出してみろ。聞いてやるから……お前はどうしたい?何がしたい?」
イチカの言葉を聞いてシャルロットはありのままに自分の本心を叫んだ。
「……だよ……嫌だよ‼こんな風に自分を偽って生きていくなんて‼愛人の子だからって白い目で見られて自分に居場所なんてなかった‼僕はシャルルじゃない―――――お母さんがくれたシャルロットっていう大切な名前があるんだ‼友達だってたくさん作りたいし遊びにだって行きたい‼普通の女の子としてもっと―――――生きたいよ‼」
捲し立てるように心の内に秘めていた思いを叫んだシャルロット。それをイチカは黙って聞いていた。
「生きたい…それがお前の本心か?」
「うん……イチカ、聞いてくれてありがとう。それと、ごめんね…騙すような真似しちゃって。その物証は家の会社に送ってくれて構わないから……。」
「…………………」
「イチカ?」
急に黙ってしまったイチカ。不思議に思ったシャルロットがイチカに声をかけるとイチカは今までシャルロットの首元に突き付けていたサーベル『ライトニング』を首から離すと手に持っていたディスクとUSBメモリに視線を移す。
「イチカ、どうしたの―――――――って、えええっ!?」
シャルロットは突然イチカの取った行動に驚きを隠せなかった――――――――
物証となるディスクとUSBメモリを握り潰してしまったのだから――――――。
「気が変わった。―――――IS学園は治外法権が確約されており三年間は己の自由が保障される。シャルロットが拒否すれば本国への送還すらも拒否できる。シャルロット、その間にお前は自分の成したいことを見つけるんだ。そのために今を精いっぱい生きろ。罰してほしいなら成したいことが見つからなかった時に罰してやる。」
「どうして……僕を助けるような真似を?」
シャルロットには分からなかった。自分にそんな言葉をかけてくれるイチカの真意が――――。
「どうして、か……俺も同じような経験があるからだろうな。」
「どういう事?」
「まあ…それは追々話す。デュノア社の方は束さんに任せるとして、取りあえずみんなのところに戻ってこの事を話すか。心配するな、みんな受け入れてくれるさ。だがくれぐれも教師には話すなよ。織斑先生は例外な。」
「うん、分かった。」
「それと……さっきはすまなかった。剣を向けてしまって。」
「ううん、気にしないで。」
イチカ、心配してくれるんだ…。何か……嬉しいな。
「ん?…どうしたシャルロット?」
「な、なんでもないよ‼」
う~ん…何なんだろ、この感じ………初めての感覚だな。
シャルロットがこの時感じた気持ちに気付くのはこれから先の話――――――
「みんなの前ではシャルルの方が良いか……。じゃあ、行こうシャルル。」
「うん‼」
二人はみんなのもとへと向かった。その後シャルロットは全てを包み隠さずみんなに告白した。イチカの言った通り、みんなはシャルロットを受け入れてくれた。シャルロット改めシャルルはこの学園で新たな一歩を踏み出したのであった――――――――。
余談ではあるが、その数日後、束からの連絡でデュノア社のシャルロットへの連絡及び干渉の禁止の約束を取り付けたことがイチカに伝えられた。束曰く、「言い聞かせた」そうだが本当のところどうなのかは束のみぞ知る、となった。