IS ~この地球(ほし)の光に導かれし者~ 作:メテオボーイ
(緊迫した状況のはずですのに……どうしてでしょう、私冷静でいられてますわ。)
セシリアは、緊迫したこの状況の中、とても落ち着いて動けていた。―――いや、セシリア自身今の自分の冷静さに内心驚いていた。自分たちの攻撃にラウラたちが慣れ始め、中々最後の一撃が入れられない拮抗した闘いが続いているこの状況でまったく焦りや不安というものが何故だか全く湧いてこないのだ。
(恐らくあちらの要はラウラさんのAICとシールド・ピアーズでしょう……特にAICが厄介ですわ。一つのベクトルにしか向けられないとはいえ、簪さんの山嵐を確実に当てるためにはAICを何とかしませんと。何か…何か見落としていることは―――――あ……)
冷静に分析できていたセシリア。その甲斐あってある一つの仮説が浮かんだ。
(そういえば……ラウラさん、あの時AICを使いませんでした。……そうですわ。その時気付くべきでした……「セシリア危ない‼」―――――‼)
プライベート・チャネルでの簪の声で引き戻されたセシリアはギリギリのところで迫っていたラウラのワイヤーブレードを躱した。
(しかしこれにはビットとの同時攻撃は必須……特訓でもあまり距離は伸びませんでした。ほぼぶっつけ本番で出来るでしょうか……)
「セシリア‼大丈夫?」
「ええ、すみません……大丈夫ですわ…………」
「セシリア?」
先ほどまで冷静だったセシリアの様子が変わったのに画面越しに簪は気づいた。そんなセシリアを見て簪は少し微笑む。
「大丈夫、私はセシリアを信じるよ。」
「……簪さん?」
「私は…一応日本の代表候補生だけど、セシリアほど射撃が得意じゃないし、お姉ちゃんや本音みたいに明るくないし、虚さんみたいに頭よくないし、ラウラみたいにハッキリ物申せない……私はみんなの中で一番弱い。それは自覚してる。でもね、もう迷わないって決めたの。胸張ってイチカの隣に立てるまで私は自分を磨き続けるって……。私知ってる…セシリアが一人でビットの操作の特訓してたの。だから大丈夫…セシリアなら出来るよ。」
簪の言葉のおかげでセシリアは胸につっかえていた焦りや不安が消えていくのを感じた。
「(……簪さんの言う通りですわ。私もイチカさんのお力になれるよう、特訓に特訓を重ねてきましたわ‼その時間を、努力を、仲間を、そしてブルー・ティアーズを信じます‼)―――簪さん、一つ考えがあります――――――――というのはどうでしょうか?」
「任せて。失敗は……しない‼」
「行きましょう――――ブルー・ティアーズ‼」
セシリアがビットを展開すると、二人はラウラとシャルルに向かっていった。
「シャルル‼セシリアを狙え‼二人を分断し、私が簪をAICで止める。止めはシャルルが‼」
「まかせて‼―――――って、えええええぇっ‼‼‼‼」
ラウラの指示でシャルルはアサルトカノン「ガルム」を構え狙いを定める。しかしシャルルの視界に入ってきたのは―――――――――打鉄弐式の最大武装、48発の独立稼動型誘導ミサイル『山嵐』だった。山嵐は全てシャルルに向かっていた。それに気づいたラウラはシャルルの援護に向かおうとするが………
「シャルル‼」
「よそ見はいけないよ、ラウラ?」
その一瞬の隙をついて回り込んだセシリアがラウラの背後から、簪が正面からインターセプターと夢現を構えて突っ込んできた。
「その程度で不意打ちのつもりか‼」
ラウラは簪をAIC、セシリアをワイヤーブレードで動きを封じた。そしてラウラは右肩に搭載されたレールカノンをセシリアに向けた。
「形勢逆転だなセシリア、簪?」
「それはどうでしょうか?」
「作戦成功だね、セシリア?」
絶望的なこの状況でセシリアと簪はここでも至って冷静だった。その様子にラウラは疑念を抱いた。
(おかしい……なぜ二人はこの状況でここまで余裕なのだ?そういえばセシリアが向かってくるときに展開していたビットが見当たらない――――――まさか!?)
「お気づきになりましたか、ラウラさん?チェックメイト……ですわ。」
ラウラは既にセシリアにロックオンされていた――――いつの間にか背後につけていた6基のブルー・ティアーズによって。
「AICの弱点……ですか?」
真耶の疑問にイチカが答えた。
「ええ。AICは使用の際にかなりの集中力が必要なため、複数の対象物を止めることは出来ません。しかし今回セシリアが目を付けたのはそこではありません。『AICはビーム兵器に対しては効果が薄い』んです。」
「セシリアちゃんはAICに相性が良かったのね。」
「まず山嵐を二人ではなくシャルルだけに向けることでより確実に意識を山嵐に集中させ自分たちとビットを視界から消します。二人は少なからず焦ったでしょう。援護に向かおうとしたところへ間髪入れずに回り込んだ簪とセシリアが突っ込みます…この時ラウラの視界には前から来た簪しか見えていなかった…セシリアはその後に気付いたと思います。最初AICで山嵐を少なからず止めるつもりだったラウラは簪をそのままAICで、セシリアをワイヤーブレードで封じます。はたから見たら形勢逆転ですがこの状況こそセシリアが狙っていたものです。セシリアの狙い、それは――――『確実に一撃を入れられる状況を作り出すこと』だったのでしょう。狙い通り今完全にビットがラウラの背後をとれていますしAICは使えません。特訓したことと簪を信じて決断したセシリアの作戦勝ちだ。」
スラスラとセシリアの考えを言い当てていくイチカの様子を真耶だけではなく楯無や虚も驚いた様子で聞き入っていた。
「そこまでを一瞬で考えたオルコットさんもすごいですけど……クロニクル君もすごいですね。そこまで理解してしまうなんて。」
「本当ですね……(ますます惚れちゃうじゃない‼////)」
「お嬢様……考えてること丸分かりですよ………」
どこまでも自分のペースを崩さない楯無に虚はため息をつくしかなかったのだった――――
チェックメイト―――セシリアのその言葉にラウラは下唇を噛んだ。
(私が………負ける?)
自分は既にセシリアの作戦によって背後を取られ、シャルルは山嵐によってシールドエネルギーを0にされ既に戦闘不能となっている……
(そんな……そんな……)
この状況が嫌でもラウラに現実を突きつける。
(力を使う意味をくれた…そして私を私と認めてくれた嫁に恥じぬ私になろうと決意したのに……もう負けぬと誓ったのに……本当の意味で強くなろうと努力してきたのに………私は嫁の前で負けるのか?)
負の感情が、ラウラの精神を徐々に蝕んでいく―――――
(いやだ………いやだ………もう負けるのは嫌だ………)
ラウラの心に生まれたのはたった一つの強い思い――――
《負けたくない‼》
そうラウラが強く思った瞬間、ラウラの身体を黒いドロドロした『何か』が包んでいく。
「ガアアアアアアアアアアァァァァァァッ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
「「ラウラ(さん)!?」」
突然変わったラウラの様子に焦ったセシリアと簪がラウラの名を呼ぶとラウラ―――ではない『何か』は形成した剣らしきもので捕まえていた二人に切りかかった。
「「きゃああああっ‼」」
攻撃をくらってしまったセシリアと簪はシャルルの方へ飛ばされてしまった。
「くっ……‼」
「そんな……絶対防御を貫くなんて‼」
「セシリア‼簪‼大丈夫!?」
絶対防御をも貫いた攻撃のせいでセシリアは右腕、簪は右脇腹から出血していた。
『オルコット、更識妹、デュノア‼今すぐそこから離れろ‼教員部隊が対応する‼』
千冬の指示で既に客席の避難が始まっていた。しかし、彼女たちの退避の時間を敵は与えてすらくれなかった。
「セシリア、簪、前‼」
「「!?」」
眼前に、振りかぶった敵が迫っていた。次の瞬間、三人の姿が爆風で見えなくなった――――
本部のモニターの映像を見て一同はアリーナのただならぬ様子に焦っていた。
「山田先生、避難の状況は?」
「ハ、ハイ‼何とか完了しました……それよりもクロニクル君の姿が先ほどから見えないのですが……」
「ついさっき飛び出して行った。アイツの事だ……何か考えがあるのだろう。」
「クロエ、あれはもしかして……」
「マドカ、恐らくそうだと思います……」
「二人とも、あれが何か知ってるの!?知ってるなら教えて‼」
『何か』について知っているようであった二人に楯無が詰め寄った。無理もない、その現場に妹の簪がいるのだから――――そんな楯無の問いにクロエが答えた。
「あれはValkyrie Trace System(ヴァルキリー・トレース・システム)、通称VTシステム……過去のモンド・グロッソ優勝者の戦闘方法をデータ化し、そのまま再現・実行するシステムです。以前ドイツで私たちがすべて処理したはずだったのですが……まさかラウラのシュヴァルツェア・レーゲンに残っていたとは思いませんでした。完全に私たちのミスです。」
「姉さんだったらわかるんじゃないか?ラウラに搭載されたVTシステム……誰のデータなのか……」
「ああ……太刀筋、動き、間違いない。紛れもなく……私だ。」
千冬の言葉に本部が一気に静まり返る。
「正直教員部隊は時間稼ぎになるかどうかも分からん。そうなれば……」
「分かってる。幸いこの場には私たちしかいないから大丈夫。カメラ等の類いもないしね。あとはこの煙が晴れれば……」
ポセイディアのセンサーを使って確認しながら話すマドカ。そう言っているとモニターに映っていた土煙が晴れ始めた。そこに映っていたのは、機体が解除され地面に横たわる三人とそれを見下ろす敵の姿だった。
「簪ちゃん‼セシリアちゃん‼シャルロットちゃん‼」
楯無の声が届くはずもなく、三人は倒れたままであった。敵は三人のうち、簪の首を掴むとそのまま持ち上げ右手の剣を構えた。
「やめてぇぇぇぇぇ‼」
「くっ‼」
楯無の声も届くはずなく、無情にも剣は振り下ろされた―――――
抵抗する力がもうほとんど残っていない簪は敵の手を解くことは出来なかった。
(もうダメ……力が入らない………お姉ちゃん…みんな…………イチカ………)
簪の祈りも空しく、敵の剣が振り下ろされる。
「―――――ッ‼」
「「簪(さん)‼」」
恐怖に目を固く閉じる簪。しかし、いつまで経っても痛みはやってこなかった。代わりに何かがぶつかるような大きな音が聞こえてきた。そのことを不思議に思い恐る恐る目を開けるとアリーナの反対側の壁に敵がめり込んでいた。そして自分を救ってくれたのがイチカであるということが分かった。
「イ……………チカ……」
「大丈夫か簪?」
「ありがとう……イチカ……‼―――イチカ、後ろ……」
簪の視線の先ではめり込んだ敵が壁をぶち壊して出てきた。簪を助けるために蹴り落とした敵の腕はいつの間にか再生していた。
「やはりこの程度では倒れないか……なら――――――」
その瞬間一筋の光が天より敵に差しこんだ。その光にイチカは見覚えがあった。
―――――――――――破滅招来体
そして敵は腹に手を突っ込みラウラを引きづり出すと用済みだと言わんばかりにイチカに向かって放り投げた。キャッチしたラウラは憔悴しきっていた。
「す……まない、嫁………私が……強く望んでしまった……ばかりに……」
そう呟くとラウラは気を失ってしまった。ぐったりとしたラウラを簪と共にセシリアとシャルルのもとへ運ぶとそっと下ろした。
「……セシリア、シャルル、二人を頼んだ。」
「任せて。」
「イチカさん、この後どうなさいますの?」
「…………」
「………イチカ?…………ッ‼」
セシリアの問いに答えなかったイチカを不審に思って痛む身体を起こしてイチカの顔を覗き見た簪はイチカの表情を見て一種の恐怖の覚えた。今までに見たことのない―――――怒りを押し殺した冷たい表情をしていた。
「イチ―――「お前たちは待ってろ。すぐに教員部隊が来るはずだ――――」」
簪の声を遮る形で淡々とイチカは話し始めた。
「教員に伝えてくれ。手を出すな、アリーナから退避しろ。コイツは……コイツだけは―――――」
ガイアを呼び出し纏うと、押し殺していた怒りを解放する。
「「「――――‼」」」
あまりの衝撃に三人は恐怖し、身構えてしまった。自分たちの目の前にいるのはイチカの姿をした別人のように感じてしまった。
「――――――俺が始末する。」