IS ~この地球(ほし)の光に導かれし者~ 作:メテオボーイ
闘いを終えたイチカは学園の屋上、いつものベンチに腰掛け夕日を見つめていた。
「綺麗な夕日だ………。そう思いませんか――――束さん?」
夕日から視線を外さずイチカがそう言うと、どこからともなく束が姿を現した。
「ありゃりゃ……バレちゃってたかぁ~‼流石いっくんだね‼」
「隠れるつもりなんてなかったくせに。気配がダダ漏れでした。」
「細かいことは気にしない気にしな~い‼」
ため息をつきながら話すイチカの隣に束は腰を下ろすと、足をバタバタとぶらつかせた。
「それで?今の今までどこに行ってたんですか?」
「ちょっとね~、私の『協力者』のところに行って来たんだ~‼向こうも向こうで破滅招来体に対する情報や対策を考えてくれるってさ。そうそう‼向こうも久しぶりにいっくんに会いたいなって言ってたよ‼」
「そうですか……あの人たちには色々とお世話になってますからね……時間が空いたら会いに行くのも良いかもしれませんね。」
「そうだね~‼でもその前に――――」
「目の前の壁に打ち勝たなくては―――ですね?」
そう言うとイチカは胸元からエスプレンダーを取り出した。それを見た束は驚く素振りを全く見せなかった。
「その様子だとやはり……束さん、気づいてましたよね?俺が、『ウルトラマンガイア』だと。」
「まぁね~♪アグルはマドっちでしょ?」
「ええ。……いつから気づいてたんですか?」
「初めてガイアとアグルが現れて戦った時からかな~?何か似てたんだよね~二人の戦い方に‼」
「流石ですね………。」
「忘れてないかいいっくん?いっくん達に稽古つけたのは私だよ~?まあ、今はいっくんには勝てるかどうか分からないけどね~‼ハッハッハ~ッ‼」
敵いませんね……そう呟きながらもイチカはどこか嬉しそうな表情を浮かべていた。それから少し他愛もない話をしてから再び夕日を見つめていると、束がイチカに質問した。
「それでいっくん……いっくんは―――何のために戦うの?」
束の質問に握ったままだったエスプレンダーを見つめながら答えた。
「俺が戦う理由は後にも先にも変わらない……『夢を守る』、ただそれだけだと思ってました。IS学園に来たのもここならどこからも介入されずに行動できるし、代表候補生もいるから情報が得やすいと思ったからです。だけど……学園に来て、みんなと過ごすことで俺は初めて……人の温かさに触れることが出来たんです。」
「俺はもう迷いません。最後まで闘います。例え世界を敵に回しても、居場所を失ったとしても、罵られようと―――夢を、そして俺を受け入れてくれた彼女たちを守る為に、俺は闘います。それが俺の闘う理由です。」
イチカの言葉に呼応するかのようにエスプレンダーにあるガイアとアグル、二つの光が光った。それを見てイチカは笑みを零すとエスプレンダーを胸元にしまった。
「うんうん‼いっくんがそう決めたんなら束さんは文句なし‼―――――学園の方はどうするの?」
「それは―――「イチカ君‼」「嫁‼」」
突然呼ばれたイチカが振り向くと、ここまで走って来たのか肩で息をしている楯無とラウラの姿があった。
「楯無さん……ラウラ……」
「「「イチカ(さん)‼」」」
「セシリア…シャルロット…簪…」
続いてセシリア、シャルロット、簪が息を切らして屋上に上がってきた。
「みんな……どうして―――」
イチカは言葉を途中で切ってしまう。彼女たちの後ろからひょっこりと姿を見せた人物たちを見て、全てを悟ったのだ―――
「二人の仕業か……マドカ、クロエ。」
「あの後捕まっちゃいまして……」
「兄様ならここにいるだろうと束様からも連絡を貰っていたので……」
「くーちゃん‼それは言わないって約束でしょ~?」
「てへぺろ♪」
「クロエ……お前そんなキャラじゃないだろ……」
ハア……と大きく溜息をついたイチカ。やれやれ、といったように肩を竦めていると束がイチカの肩に手をやった。
「いっくんは覚えていないけど……昔とは違う。今はこんなにもいっくんに手を差し伸べてくれてる人たちがいる。必要としてくれているんだよ。そしてそれは……いっくん、君自身が傷ついて、それでも努力して……今まで積み重ねてきた全てが紡ぎ出したとってもとっても頑丈な……『絆』―――。」
普段の束からは考えられないような優しい声色で言葉を一つ一つ紡いでいく。束はイチカの背後にまわり込むとそっとイチカの背中に両手を当てる。
「せっかく出来た居場所じゃないか……手放しちゃダメだ―――ぞ‼」
そう言って束はイチカの背中を強く押した。少しバランスを崩したが持ち直したイチカは顔を上げると、一人一人に視線を移していく。
(セシリア…シャルロット…ラウラ…簪…楯無さん……)
誰一人として目を逸らす者はいなかった。全員の目はしっかりとイチカの瞳を見つめていた。
「(絆、か………。)俺は………」
気持ちは固まっているはずなのに、中々言葉が出てこない。そんなイチカの様子を見て楯無がそっと歩み寄り、イチカに右手を差し出した。
「―――お帰りなさい………イチカ君‼」
「あっ………」
(『イチカ‼』)
その光景が、いつかの懐かしき記憶と一瞬重なって見えた。本当に目の前に『彼女』がいるような――――――
「………イチカ君?」
その一言でイチカは現実に引き戻された。無意識の内にじっと見つめてしまっていたのか楯無の頬は若干赤みを帯びていた。
(そうだよな………やっとできたもう一つの繋がりなんだ……手放してはいけない―――――)
イチカは楯無の差し出された手を握り返すと、先ほど言おうとしていた言葉を口にした。今度は詰まることなく、その言葉はスッと出てきた。
「みんな――――――」
――――――――――ただいま。
「「「お帰りなさい(ませ)、イチ………」」」
「嫁~~~~~‼‼‼」ガバッ‼
「イチカく~ん‼‼‼」ガバッ‼
セシリア、シャルロット、簪がイチカを迎え入れようとかけた言葉を遮るように楯無とラウラがイチカに思いっ切り抱き付いた。突進するかのような勢いで抱き付いた二人をイチカは一瞬驚くがあまり表情を崩すことなく受け止めた。
「ちょっとラウラさん、楯無さん‼何してますの!?」
「見て分からんのかセシリア……ハグだ。愛情表現だ。」
「いやラウラ……そんな堂々と言われても……」
「フフフッ、イチカ君温かいわね♪」
「お姉ちゃん……抜け駆けはダメ。」
そう言いつつも結局全員イチカにくっついてしまう。イチカがそれを甘んじて受け入れていると、千冬と鈴が屋上に上がってきた。
「うわ……何なの、このカオスな状況は!?」
「いや……俺も何が何だか……気づいたらこうなってた。」
「まあ勝手にいなくなったどこかの誰かさんが悪いんだから…助けるつもりはないけど?」
「その顔を見れば分かる。」
鈴は俺の様子を見て完全に面白がっていた。…ん?アイツ携帯なんか取り出して何を「パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ―――――」ってオイ……何連射で写真撮ってんだよ。
「諦めろクロニクル兄。今回はお前が悪いんだからな。」
「千冬姉…」
「お前の籍はまだ残してある。勝手にいなくなった罰として反省文を用意してやる。」
「了解…。」
何だ……残しておいてくれたのか。ありがとう、千冬姉……
「まあ…だが、その、何だ……再び戻ってきてくれたから今回だけは反省文なしにしてやろう。――――お帰り、一夏。」
「ただいま、千冬姉。」
千冬姉は照れ臭そうにそう言うと、咳払いをしてからそそくさと束さんのもとに行ってしまった。まったく……慣れないことするから…
「ねえイチカ君?」
そんなことを考えていると楯無さんが俺を呼んだ。
「どうしました?」
「今度臨海学校ってあるじゃない?」
「確かそんなようなものがありましたね。」
どうしたんだ楯無さん?急にそんな事………
「やっぱ海じゃない?」
「まあ…俺はあまり好きじゃありませんが……それがどうしたんですか?」
身体の至る所に傷があるからな……見られて気持ちいいものではない。
「海入るには水着って必要じゃない?」
「……なるほど、そういう魂胆ですか……。しかし、楯無さんは上級生ですよね?」
「織斑先生‼」
助けを求めるかのように千冬の名を呼ぶ楯無。束と何やら話していたようだが、どうやら話は聞いていたらしく……
「昨年お前は確かその頃候補生の関係でロシアに行っていていなかったんだったな……」
そして少し考えた後―――――
「更識姉、生徒会の仕事は……「終わらせます‼」……マドカ、クロエ、臨海学校の時に学園が襲われる確率は?」
「う~んどうだろう……今までの事を考えれば学園が襲われる確率は低いと思うよ。」
「そうですね…敵が来るとしたら私たちの方だと思います。かなりの戦力が集まりますから。」
「そうか……束はどう思う?」
「二人の意見に賛成‼まあ仮に学園に現れてもいっくん達ならMAXスピードならすぐに来れるし‼」
「それもそうか……」
ちょっと千冬姉……俺の話になった途端楽観的になってないか?まあ束さんの言う通りなんだが………
「……更識姉、学園にはうまいこと言っておく。」
「流石織斑先生‼―――という訳でイチカ君、私の水着を選んでもらうわよ~‼」
楯無さんの扇子には達筆で『決定事項』と書かれていた。流石に今回は断るつもりは毛頭なかった。
「良いですよ。」
「何!?嫁よ、私のも頼む‼」
「良いぞ。」
「そ、そうか‼(クラリッサに後で連絡しておかなければ……)」
「セシリアとシャルロットと簪も。〇〇日、空けといてくれ。その日に水着、買いに行くぞ。」
「「「ありがとう(ございます)イチカ(さん)‼」」」
みんな喜んでくれて何よりだ。まあ俺が選ぶ訳じゃないから多少は気が楽なんだが……
「マドカ、クロエ、鈴はどうする?」
「私とクロエは二人で買いに行くよ。」
「兄様はみなさんをエスコートしてあげてください。」
「私はその日予定があるからパスするわ。」
という訳で、〇〇日はセシリア、シャルロット、ラウラ、簪、楯無さんと一緒にレゾナンスに出掛けることに決まった。さて……それじゃあ、時間も時間だし―――――
「みんな、今日は俺がご馳走する。腕によりをかけてな。」
今日はご馳走にするか……ってか、まずは部屋を元に戻さないといけないな……食材は……急いで買って来よう。それにしても………
『ご馳走』の言葉を聞いた瞬間が一番彼女達の目が輝いていたと感じたのは……俺の見間違いか――――――?