IS ~この地球(ほし)の光に導かれし者~   作:メテオボーイ

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episode 19 歯車《過去》は回り始める

 

 

イチカの手料理を堪能し暫くして、千冬は帰ろうとした束に「少し話がある」と言って再び屋上に来ていた。夜風が二人の髪をなびかせる。二人はそれを手で押さえながら屋上から見える景色を眺めていた。静寂を破ったのは千冬だった。

 

 

「今さらだが束……イチカとマドカを育ててくれて…その、ありがとう。」

 

「まさかちーちゃんからその言葉を聞ける日が来るとは思ってなかったな~、と言いたいところだけど束さんはただ場所と少しのヒントを与えただけ。自分のすべきことも、力の使い方も、全部いっくんとマドっちが見つけてきたんだから。私は何もしてないよ。」

 

「そうか……アイツ等は強くなった。身も心も……姉として誇りに思うよ。」

 

 

そう言うと再び静寂が二人を包む。決して居心地が悪いという訳ではなかったが何か話題が欲しくなった千冬は、以前から疑問に思っていたことを束にぶつけてみた。

 

 

「束……いくつかお前に聞きたいことがある。」

 

「束さんに分かることなら何でも聞いて~♪」

 

 

束の了承も得たので、千冬は質問を始めた。

 

 

「一夏の身体はあれから変わりはないのか?」

 

「そうだね、いっくん自身も医学書とか読んでいろいろ考えてみてるみたいだけど…治す方法はまだ分からない。そっちは束さんでも専門外だから何とも言えないんだよね~。症状はあの時から良くも悪くも変わってないよ。闘うときもマドっちやくーちゃんが見ててくれるけど……いっくん自身には分からないから……そこに関しては危ない橋を渡っている状況かな?」

 

「そうか……」

 

 

そこはあの頃から進展無しか……。こればかりは過去の事を一夏に話すことになってしまうからな……過去の事を覚えていない今は、話さずにおく方が良いだろうな……。

 

 

「なぜ一夏はISを動かせたんだ?」

 

「う~ん……それに関しては分からないんだ~。ISが専門の束さんにも、どうしていっくんにISが動かせたのか全く見当もつかない……。一回だけいっくんに聞いたことがある…『いっくんはどうして自分はISを動かせたと思う?』ってね。そしたらいっくん――――」

 

 

 

 

 

―――――何故かは分かりませんが……初めてコア(コイツ)に触れた時、聞こえたんです。『私はまだ飛べる…もっと高く、もっと速く……でも私は独りじゃ飛べない……だから、お願い……私を連れて行って―――――無限に広がる………あの空へ‼』って。確証はありませんでしたけど……コイツとなら何だって出来る、どこまでも行ける……そう感じたんです。

 

 

 

 

 

 

「―――――って言ってた。現にいっくんは他のISを動かすことは出来ない。ガイアしか動かすことは出来ない。他の機体は声が聞こえないんだってさ。」

 

 

ISの声が聞こえる、か………。一夏らしいな。私の時は声など聞こえなかったが……どんな奴だったのだろうな……。

 

 

「私の時には聞こえなかったが………」

 

「だってちーちゃん目つき悪いし表情変わらないから怖かったんだと思ぁぁぁぁ痛い‼痛たたたたたた‼ちーちゃん痛い‼束さんの頭がリンゴのようにグチャっと――――って冗談冗談冗談‼だからもうやめてぇぇぇええ‼」

 

 

千冬のアイアンクローが束に決まる。千冬の腕力から考えれば相当な威力のはずなのだが、懲りずに束は千冬を囃し立て、それに千冬も乗っかりさらに束を締め上げていく。傍から見ればじゃれ合っているように見えなくもないが、内容はかなりカオスである……………

 

 

「まったくお前は……」

 

「あ~まだ頭が絞められてる感じだよ~。正直言うとそれも分からないんだ~。まあ……いっくんは『あの子』自身に選ばれた、ってことかな?」

 

 

束はそう結論付けた。選ばれた…IS自身が搭乗者を選ぶ、か。アイツの人としての魅力はISまでも惹きつけるのか?

 

そう千冬が熟考していると束が千冬を現実に引き戻した。

 

 

「それじゃあちーちゃん、束さんはそろそろ帰るよ~‼」

 

「なあ束、ここを拠点にすればわざわざ来なくても良くなるのではないのか?」

 

 

千冬の提案に束は渋った表情を浮かべた。

 

 

「う~ん……そうしたいのも山々なんだけど~他にもやることあるし………それに気が進まないんだよね。ここ人いっぱいだし……」

 

「正直に言え。」

 

「篠ノ之箒がいるからです。アイツはいっくんから人として大切なものを奪った。そのせいでいっくんは………あんな奴を私は妹とは認めない。だから篠ノ之とは縁を切ったの。もう良いかい?」

 

 

若干……いや、表情以上に機嫌が悪くなった束。箒との間にある深い深い溝にはイチカが大きく関わっているのだが、その全貌が語られる日もそう遠くはないだろう――――。

 

 

「待て束。あと一つだけ良いか?」

 

「………も~しょうがないなぁ~。ちーちゃんに免じてもう一つだけ良いよ。」

 

 

先ほどの態度が嘘のようにいつもの様子に戻った束。千冬の申し出を快く了承した。

 

 

「すまんな。」

 

「それで質問って?」

 

「ああ……束―――――」

 

 

千冬は一呼吸置くと、一番疑問に思っていたことを束にぶつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏の手紙に書かれていたのだが………一夏の言う『過ち』とは何だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ~………」

 

「手紙には『同じ過ちを犯してしまった俺を許してほしい』と書かれていた。VTシステム事件の時もそうだ。敵に切りかかる前に一夏は……『また守れなかった』、そう言った。アイツは……一夏は一体何を―――「ゴメンねちーちゃん、それは流石に私の口からは言えないよ…」―――束?」

 

 

まだ私たちに話していない何かを一夏は胸の内に抱えている―――そう考えた千冬は少しでも一夏の力になりたい一心でいたのだが、それは束にバッサリと切り捨てられた。そして束の顔はどこか悲しげだった。

 

 

「私もマドっちもくーちゃんも……いっくんに何がそう言わせているのか知ってるよ。でも……その『何が』について私たちは言うつもりはないよ。これは今のいっくんの心の根幹を支えているものでもあり、誰にも見せることのないいっくん自身の心の闇でもあるんだから………」

 

 

そう言うと束は屋上の柵を乗り越え、飛び降りた。千冬は急いで柵に駆け寄り下を見下ろすが、束の姿はどこにもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千冬と束が屋上で話している頃、イチカ達の部屋ではこの部屋の住人とイチカLOVERSが眠りについていた。一緒に夕飯を食べていた虚、鈴は各々自室へと戻って行った。本音は同室の簪がイチカの部屋で寝ると一人になるからとのことで一緒に寝ている。一度風呂に入ってから寝巻に着替え、先ほどまでパジャマパーティーと称して楯無が持ってきたトランプをしていたのだが、やはり闘いの疲れが残っていたのだろう―――普段三人で寝ている大きなベッドにはマドカ、クロエ、ラウラ、本音が、元々部屋に備え付けられているベッドには簪と楯無、セシリアとシャルロットが寝ていた。彼女たちをそれぞれ運んだのはイチカだった。

 

 

「これでよし、っと。……皆気持ちよさそうに寝ているな。疲れが溜まって――――ってそれもこれも俺のせいか。」

 

 

頬をポリポリと掻きながらイチカはそう言うと部屋のソファに寝転ぶ。すると、やはりこの空間の居心地が良いのか、すぐに深い眠りについた。それから暫くして、イチカが完全に寝たことを確認すると一人の人物がむくりと起き上がると、専用機を展開しイチカを起こさないようにソっと運び自分のベッドに寝かせるとイチカの腕に抱き付き、今度こそ彼女は眠りについた―――

 

 

 

 

 

(作戦成功♪)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某国、「地図にない基地(イレイズド)」――――――

 

 

そこで一人の少女が、一機のISを目の前にしてまるで我が子を見る母親にような表情を浮かべながら眺めていた。

 

 

「やっぱりここにいた‼アンタ好きね、ここに来るの。」

 

「あら、イーリ。だってもうすぐ『この子』と飛べるんですもの。何だか落ち着かなくて……」

 

「まあ分からなくはないけど。」

 

 

イーリと呼ばれた彼女、イーリス・コーリングはやれやれ……といった表情で肩を竦めた。

 

 

「それより、貴女に二つ伝えることがあるの。一つは試験運用の日程が決まったわ。貴女の端末に送っておくからきちんと目を通しておいてね。」

 

「分かったわ。それまでにきちんと、この子の調整は作業部の人たちと詰めておくわ。」

 

「もう一つは以前から貴女が上に提案していた件についてよ。」

 

 

その言葉を聞いて少女の顔つきが一変した。

 

 

「それで………どうだった?」

 

「先ほどの会議で決定したわ。貴女には試験運用終了後、その子――――銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)のデータ収集のためにIS学園に入学してもらうわ―――――良かったわね、ナタル。」

 

「ええ。」

 

 

イーリの報告を受けたナタル―――ナターシャ・ファイルスは微笑みながら返した。しかしその内心は―――

 

 

「これで愛しの一夏君に会える~‼―――って思ってるでしょナタル?」

 

「ちょっとイーリ‼い、いきなり何言いだすのよ‼別に私はそんな事……」

 

「思ってない、なんて言わせないわよ?一夏がいなくなってからしばらくの間はアナタ、抜け殻のようだったじゃない。毎日一夏との2ショット写真ばっか見て………。ニュースに一夏が出てた時の喜び様ときたらアナタ………」

 

「もう‼その話は良いでしょ‼私、外の空気吸ってくる‼」

 

 

イーリにからかわれたナターシャは堪らず咄嗟の言い訳でその場を離れた。

 

 

「ちょっちからかいすぎたか……。まあ、何はともあれよかったなナタル。――――――そうだ、私も一緒にサポートとして入学するってこと言い忘れてたわ。……後でメールしとこ。」

 

 

 

 

 

 

 

部屋を飛び出したナターシャは気持ちを落ち着けると、胸ポケットからいつも肌身離さず持ち歩いている一枚の写真を取り出した。そこには満面の笑みで一夏の腕に抱き付いているナターシャとそれに笑顔で応じる一夏が写っていた。

 

 

「やっと貴方に会える………あの日から止まった私の時間が本当の意味で動きだす。だから待ってて―――一夏。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナターシャが一夏に思いを馳せている頃、イチカはというと―――――

 

 

(………なぜ俺はここで寝ているんだ?)

 

 

喉が渇いたので、水を飲むために起きようとしたら、俺は楯無と簪に挟まれた状態でベッドに寝ていた。おまけに二人ともガッチリ俺の腕にしがみついている。これでは動けないから二人を起こそうと――――

 

 

「………フフッ……イチカく~ん……」

 

「イチカ………温かい………」

 

 

――――――――起こせなかった。二人とも幸せそうに寝ている。二人の顔を見たら……起こすに起こせなかった。だから俺は………

 

 

「………チェックメイト。」

 

 

完敗だ………。そう言い聞かせるとイチカは諦めて再び眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――翌朝の展開は、皆さんの想像通りになりましたとさ……

 

 






オリジナル設定でナタルとイーリは共に楯無と同い年設定です……
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