IS ~この地球(ほし)の光に導かれし者~ 作:メテオボーイ
五反田食堂での一時を過ごしたイチカ達は、時間も時間なのでここらでお暇することにした。
「今日はご馳走様でした。いずれまた来ます」
「ええ、いつでもいらっしゃい」
「イチカさん‼私も頑張ってIS学園に行きます‼だからその時はお願いします!!」
「分かった。それまでには俺たちの戦いを終わらせておくとしよう。安心して後ろが続けるようにな」
「そうね、お姉さん達も頑張っちゃうわよ」
「その前に……お姉ちゃんは生徒会の仕事……きちんと終わらせるべきだと思う」
簪の言葉にセシリア、シャルロット、ラウラ、鈴が頷く。
「イチカくぅ~ん……簪ちゃん達がお姉さんの事イジメる~!!」
「まあ……空いた時間に差し入れがてら手伝いに行きますから。楯無さんは自分の仕事をきちんとやってください。でないと………臨海学校の件、織斑先生に言って無しにしてしまいますよ?」
「ちゃんとやります!やらせていただきます!だからイチカ君、それだけは勘弁して!!」
その様子を一歩引いたところからマドカ、クロエは見ていた。
「マドカ、クロエさん、ちょっと………」
何やら蘭が小声で手招きをしているのでそちらに移動する。如何やらイチカは楯無に手いっぱいで三人の様子には気づいていないようだった。
「どうした蘭?」
「あの5人の中にイチカさんの彼女っているんですか?」
「いや、いないぞ。兄さんは今までの経験上、周りからの好意に対してどうしても疎くなってしまうが……ただ、兄さんはあの5人の好意には少なからず気付いていると思うぞ。まあ、好意をどう捉えているかは分からんがな」
「そうですね。今は闘いの真っ只中なので答えはこの闘いが終わってから、とでも考えているのではないでしょうか?そういう境界を兄様はきちんと分けますから」
「そうなんですね……何か納得です!」
「ん?3人とも、何話してるんだ?」
「「「何でもないです!!」」」
蘭の大きな同意の声にイチカが3人が話していたことに気付いて声をかけるが、すぐさま3人が強く反応したためイチカがそれ以上追及することはなかった。
「そうか……それでは、俺たちはこれで失礼します」
「ええ、また来てください」
「またなイチカ、マドカ!」
「また来てください皆さん!」
蓮、弾、蘭に見送られイチカ達は学園への帰路に就くのであった――――――
「―――――58………59………1時間………ふぅ」
五反田家にお世話になってから数日――――
その日、授業が終わるとイチカはすぐさま学園のトレーニングルームへと向かい、トレーニングを始めた。現在はルームランナーで一時間走り終えたところだ。
「さて、次は……」
「お疲れ様です、イチカさん。これ、宜しければどうぞ。温めのスポーツドリンクですわ」
「嫁よ、もうじき夕食の時間だから呼びに来たぞ!」
後ろから声がかかり振り返ると、そこにはセシリアとラウラがいた。時計を見ると18時半を過ぎていた。トレーニングに没頭し過ぎて時間を確認してなかったな……そう思いながらイチカはセシリアからドリンクを受け取った。
「すまない、どうやら時間を気にしてなかったみたいだ。もうそんな時間か……」
「放課後はずっとトレーニングを?」
「ああ……最近は怪獣が出現していないが、だからと言って疎かにするわけにはいかないからな。まあ、日課みたいなものだ」
「それほどトレーニングしていらっしゃるのに……イチカさん、シャープなお身体ですわね」
「別に筋骨隆々になりたいって訳ではないからな。ただ闇雲に数多くたくさんやればいいというものではない。一瞬の爆発的な筋力と筋持久力とではトレーニングの仕方も変わってくるからな……」
「理にかなったトレーニングをしているな」
「まぁな。それより……これはまた珍しい組み合わせだな。セシリアとラウラって」
「確かにそうですわね」
「誰が嫁を呼びに行くかじゃn「な、何でもありませんわ!偶にはこういうのも宜しいかと思いまして!そうですわよねラウラさん?」―――プハッ……ああ、そうだ」
(これは……じゃんけんで誰が俺を呼びに行くか決めた、といった感じか)
危うく口を割ってしまいそうになるラウラと口裏を合わせようとしたセシリアだったが、イチカには隠し立てすること叶わず、完全に全てを悟られてしまっていたのだがイチカはそれを思っても口に出すことはなかった。
「そうか……皆はもう食堂に?」
「いえ、先ほどまでマドカさんとクロエさん指導のもと皆さんで模擬戦をしていましたので恐らく今は着替えていらっしゃる頃かと。私とラウラさんは少し早くに切りあげてここに来ましたの」
「そうだな。シャルロット達にはその足で楯無さん達を呼びに行ってもらっている」
「分かった。それじゃ俺もシャワー浴びて着替えてくるから、食堂で合流で良いか?」
「分かりましたわ」
「嫁よ、早く来るんだぞ‼私はお腹が空いてお腹と背中がくっついてしまうぞ!」
「そんな言葉、何処で覚えたラウラ……」
そう言うとセシリアとラウラは食堂へと向かっていった。それを見届けるとイチカは今日は、大浴場は使えないのでシャワーを浴びるために自室へと向かった。
イチカが自室でシャワーを浴びている頃、夕食を食べたり、宿題をやったりと各々思い思いに過ごしている中で一人の少女がIS学園の屋上で夜空に浮かぶ月を見上げていた――――
長い黒髪を靡かせながら佇んでいる彼女の名前は―――――――『篠ノ之箒』
「こんな時間に何をしている、篠ノ之?」
「千冬さん………」
「織斑先生と……まあ、今くらいは大目に見よう」
箒に声をかけたのは千冬だった。千冬はそう言うと箒の隣に並び立つ。それから暫しの間静寂に包まれるが、千冬はふぅ、と一息吐くと口を開いた。
「篠ノ之、『アイツ』は……来ると思うか?臨海学校辺りにお前の誕生日が来るだろう?」
千冬の言った『アイツ』に箒は一人の人物を思い浮かべた。
『篠ノ之束』―――――たった1人でISの基礎理論を考案、実証し、全てのISのコアを造った自他共に認める『天才(or天災)』科学者。ISを開発したことから政府の監視下に置かれていたが、ISが軍事転用されるようになったことで今の世界に落胆し、破滅招来体の存在を知ってからは夢を守る為にイチカ達と共に突如行方を晦ませた。行方を晦ませるまではかつてイチカ達にISのデータを見せた林の中にある秘密基地に一人籠って研究をしていた。世界で唯一コアの製造方法を知っている人物であるため、現在も各国から追われているのだが……目撃情報はどこからも上がっていない。名字の通り、箒は彼女の妹なのだが………
「分かりません………姉さんが姿を消してからは一切連絡は取っていません。そもそも、今まで使っていた連絡先はあの日から使えなくなっていますが……。なので……姉さんと会ったのは、小学4年生の時に政府の重要人物保護プログラムによって転校することになった日が最後です……その日は如何やら両親に嫌々連れて来られただけみたいで話はしませんでした。それに姉さんは家にいること自体あまりありませんでしたから………」
「話すことくらいはあっただろう?」
「いえ……顔を合わせてもほとんど会話はありませんでした」
「それも『例の件』が関係しているだろうな……」
「それは………」
千冬が口にした『例の件』とは………真実が語られるのはもう暫くお待ちを―――――。
箒にも何か心当たりはあるようで千冬の言葉に狼狽した。
「過去の出来事を蒸し返すことはあまり好きではないが………あのことについて私はお前を許していない。お前の行いのおかげでアイツは………一夏は人が当たり前に感じられることが感じられなくなり、追い込まれていったんだ。それを束は知っていたからこそ、お前を避けていたんだ。だからこそ『篠ノ之』と……いや、お前と縁を切ったんだ」
千冬は箒の目を見つめながら力強く言い放った。箒は千冬と目を合わせることが出来なかった。
「………今さらお前にこんな話をしても無意味だな。………早く部屋に戻れ。明日もあるのだからな」
「―――――千冬さん!アイツは……『イチカ・クロニクル』は、一夏じゃないんですか!?」
そう零すと千冬は箒に背を向け屋上を後にしようとするが、箒の言葉にその歩みを止めた。足を止め振り返った千冬の表情はいつもと同じ、凛とした『織斑先生』としての顔だった。
「―――――そうだ、と言ったら?」
「――――――えっ?」
「そうだ、と言ったら―――――それでお前はどうする?」
予想だにしなかった千冬からの問いに箒はすぐには答えることが出来なかった。
「私は…………私こそが一夏の隣にt「それは無理だな」な!?どうしてですか!」
「過去に縋ってしかいられないような後ろを向いた奴が、確固たる信念のもと前を見て歩み続けている奴の隣に立とうなど……そもそも、貴様の身勝手な行いが……すべての原因なんだぞ!!」
「ぐっ!!」
千冬は箒の胸倉を掴むと箒の背中を屋上の柵に叩き付けた。箒がその衝撃で意識を失わなかった辺り、ギリギリのところで千冬は理性を保っていたようだ。
「貴様はアイツの為を思っての事だったのかもしれんがな……アイツが―――一夏が辛い目に合っている時に貴様が平然とした顔で生活しているのを見て……何度お前に殺意を抱いたか!何度復讐してやろうかと思ったか!だが一夏はその度に『自分なら大丈夫だから。何されても何ともないから』と無理して笑って見せていたんだ!そして一夏は、夜になると一人で……泣いていたんだ!!」
千冬の目には薄っすらとだが涙が溜まっていた。今まで誰にも話すことなく心の内に溜め込んでいた思いを箒にぶつけていた。それが何の解決にもならないと頭で分かっていたとしても―――――
「くっ!!」
千冬は悔しそうな、そして悲しそうな……そんな苦痛の表情を浮かべながらも掴んでいた箒の服を離すと――――
「…………今すぐここから立ち去れ篠ノ之」
「千冬さん!まだ話は――――」
「早くしろ!でなければ………今度こそ私はお前を……潰してしまう!早く行ってくれ!」
「………くっ」
千冬の言葉に箒はやるせないといった表情を浮かべながら千冬に言われた通り、屋上を去って行った。屋上に箒の気配が無くなったことを確認すると千冬は柵に手をかけた状態で膝から崩れ落ちた。
「すまない一夏…………すまない……」
頬を流れ落ちる滴に構うことなく、許しを請うようにそう呟く千冬を―――――――
―――――――夜空に浮かぶ満月が静かに見守っていた………