一週間以内に投稿できたぜ!!
「なるほど、意外と奥が深いのですね日本の混血とは」
夜のとある屋敷の書斎でカソック服に身を包んだ女性が言う。
当然のことながら無断侵入であるが埋葬機関としてあらゆる訓練を受けたシエルには造作なかった。
とはいえ、元々シエルはロアの転生候補として遠野志貴に注目していたため、
わざわざこうして遠野の屋敷に忍びこみ家系図などといった資料を調べる気はなかったが、
遠野志貴の豹変ともいえる真祖アルクェイドとの共闘、さらには即座に吸血鬼に成れた弓塚さつきの登場。
などといった変化がシエルにこの騒動の原因と考えられる遠野の一族に興味を抱かせた。
「…軋間の分家の分家に弓塚がありますが、途中で書かれてませんね」
ハラリ、とめくられたページには分家の分家に『弓塚』の名が記されている。
しかし60年前以降は系統が記されておらず、没落したのかあるいは断絶したのかはわからない。
「彼女は混血の末裔で先祖返りの可能性あり、と。
とはいえ、同姓の可能性もありますし明日住民票などで確認しなければいけませんね……むっ?」
さらに別の本に手に付けた時、
ふと感じた違和感を覚えつつ本を開けば、本をくり抜いて鍵が隠されているのを見つけた。
「鍵、ですか」
アンティーク調の鍵を手に取る。
この部屋に侵入した際、真っ先に調べようとしたが鍵が掛っていたので後回しにした、
事務卓の引出しに鍵を差し込むと予想通り引き出しは開いた。
「これは…遠野家本家の家系図、
やはりどれも反転したせいで短命ですが――――こっちは手記?前当主遠野槇久の」
家系図に載る人物はどれも長生きできずろくな死に方をしていない。
それこそ呪われているとしかいえない血族、と表の人は言い表すぐらいに。
が、事前知識として魔の混血が至る運命を知っているシエルは特に違和感を感じなかったが、
前当主が残した手記は興味を引く物であった。
遠野には魔が宿る――――――。
そう始まる手記にはこの屋敷の住人の在り方が記されていた。
「………………」
どれほど時間が経過しただろうか、
シエルは遠野家が隠す数々の暗部を知り、
【シキ】の名前にどこか違和感を感じ始め、真相にたどり着こうとしたが。
「夕方のアルクェイドさんはともかく。
こんな夜遅くに父の部屋に何用ですか、お客さま?」
鈍い木製のドアが開く音と同時にこの屋敷の現当主が姿を現す。
月明かり程度の明かりしかない部屋で彼女、遠野秋葉は正確に不法侵入者を見据えていた。
「……遠野君によると、いつもは寝ている時間帯だと記憶していましたが?」
シエルは手記から視線を外し、音もなく現れた秋葉に驚かず言う。
「…不法侵入者に答える義務はないと思いますが、いかが?」
「あはは、そうですね。
ですが『弓塚さつき』という名前に聞き覚えはありませんか?」
少しだけ間を開けて秋葉が冷やかに答える。
「……さあ、兄さんのクラスメイトと聞きましたが?」
当たり障りもない回答をするが、この時秋葉の頭にはその名前が強く記憶された。
「そうですか、ちょっと厄介な事に彼女吸血鬼でどうもここによると『軋間』の分家の方らしいですけど?」
完全に確定された情報ではないが、ブラフとして出された内容に秋葉は僅かに反応した。
特に『軋間』の単語に一瞬だけ怒り、焦燥、驚愕といった感情がほんのわずかな一瞬に噴出した。
わずかな単語の欠片と今の街の状況から秋葉は眼前の侵入者、シエルがいいたいことを先に口を開く。
「…この遠野の屋敷に侵入したのはそれだけでなく、私や兄さんに何らかの関係があるのかしら?」
「その通り、私はとある吸血鬼を追ってまして。この遠野家が一番怪しいと睨んでいるのです」
シエルは相変わらずにこやかに対応するが、
秋葉からすれば貴女の家族を殺す必要があると宣言する侵入者にしか聞こえなかった。
「で、身内に吸血鬼なんていらっしゃいませんか?」
シエルが懐から黒鍵を取り出し、俄かに室内の緊張感が膨れ上がる。
それだけでなく、秋葉は相手に脳を覗かれているような違和感を感じ、直ぐにその原因を看破した。
「人にモノを尋ねる時に、
そんな物騒な物を出してそう答えると思いまして?暗示といい」
常人なら何がされたか理解できずに、
そもそも暗示が掛けられたのも自覚できぬまま本心をさらけ出すはずが、
下手な魔術師よりも神秘側の人間である秋葉にはその手の小細工は無意味であった。
「なるほど、混血には暗示が効かないと、まったく、困りましたねぇ。
こうなれば遠野君は弓塚さんに夢中ですがもう一度会って聞くとしましょうかね…」
まったくもって面倒だと言わんばかりの態度で、
シエルは秋葉の前である種禁句とも言える兄の名を持ちだし―――――。
「そう、なら――――――」
ゆらり、と秋葉の姿が歪む。
それにシエルは一瞬理解できなかった、
こんな真夜中に蜃気楼が遠野秋葉の周辺に発生することが。
否、これは自然現象ではない。
これは混血の能力――――シエルが咄嗟に黒鍵を秋葉の影に投擲し、
影縛りの術でその動きを止めようと試みたが、それよりも早く秋葉の攻撃が届いた。
「ぐっ――――!?」
炎、否。
熱そのものがシエルの腕に蛇のごとく巻きつき皮膚を容赦なく焼き付ける。
――――発火系の能力!?とにかく一旦下がりましょう!
そう判断するとシエルは素早く窓を割り外へ逃走した。
「逃がさないわ、どこの誰だか知らないけど兄さんに手を出させてたまるものですか」
秋葉はどこに侵入者、シエルが行ったか確認した後、
内心に溜められた怒りをぶつけるべく優雅にシエルと同じように窓から出て追跡を開始した。
斯くして、ここで異形同士の戦いが始まった。
※ ※ ※
夕方家に帰ってきた時になぜかアルクェイドが寛いでいた。
しかもその時翡翠が部屋に入って来てどう説明すればいいのか慌てたが、
アルクェイドが暗示で誤魔化してくれた後にこの我儘なお姫様を外に連れ出した。
……けど、どうやらこのアーパー吸血鬼。
どうも秋葉に目撃されたどころか秋葉と会ったらしい……明日、秋葉になんて説明すればいいんだろうか。
まあ、それを置きともかくこうして、
再びアルクェイドと二人で夜の街を歩くことになったが、
「う…ぐっ……」
アルクェイドに魔眼で見るように言われて見た男の第一感想は気持ち悪いに尽きた。
確かにどんな人間にだって「線」は何本かある。
だけどアレは……あり過ぎる、「死」の線がそこらじゅうに描写されている、果たして人間なのか。
「出鱈目、動いているものなら「死者」さえ殺せるのね貴方は…」
さらにアルクェイドが言葉を落とす。
――――本当の化け物は貴方の方じゃない。
それは呆れなのか自虐なのか分らなかったが、
死者を見て頭痛と気持ち悪さの余韻に浸る自分を余所に、
こちらを振り返らず爪を伸ばし自販機の傍に立っている死者を殺そうと歩む。
その姿が、その爪で切り裂く対象がある人物と重なり、俺は尋ねた。
「アルクェイドもシエル先輩と同じように弓塚を殺すのか?」
「……殺すしかないでしょ、だって吸血鬼を殺すのがわたしの役割だもの」
あっさりと殺人を肯定した。
アルクェイドが殺人を肯定したことと弓塚が殺されることにショックだった。
いや、彼女の価値観からすればそうかもしれない。
だけど、俺はどう彼女を説得するか、どうすればいいのかといった小難しいことを考えるよりも先に口が動いた。
「違うんだ、アルクェイド。
昨日会ってあいつはまだ人間らしい心を持っているから、きっと……」
が、それから先の言葉を継げなかった。
「なんで志貴はその女の事に疑問を抱かないの?擬態かもしれないのに」
背中越しに見えた瞳は黄金に輝き明確な殺意が籠る。
アルクェイドのお気楽で、明るい空気はなく、ただただ恐怖をまき散らす。
いつものアルクェイドではなく、吸血鬼らしい存在が一メートルも離れていない場所にいた。
「志貴はそう言うけどさあ――――あの子もわたしも吸血鬼なんだよ?」
ああ、殺される。
本能が逃げろと叫ぶ、
恐怖で膝が震え、喉はカラカラだ。
でも不思議だ、殺されるかもしれないのにアタマは落ちついており、
彼女を前にして自然と言葉が、問われた答えを提示した。
「だって俺はあいつを信じているから」
「…………そう、勝手にすれば」
その回答に不機嫌と苛立ちが混じった声で答え、
俺を無視する形で小走りに自販機に立つ男に向かう。
「おい、待て。くそ!」
弓塚も見捨てれないがアルクェイドも放っておけない。
路地に駆けこむのを後ろから追う形で走る。
嫌な予感しかしない。
――――ギ
見えないはずなのに肉体の捻じれる音と光景。
合わせて喉からせり上がる嘔吐感、必死に耐える。
――――ゴ、キン
聞こえた、見えた。
細い道の奥の奥、濃厚な死の気配が。
遥か遠くの有視界内、眼鏡をかけていても分かる程の死と、
やっとのことで白い背中が見え―――――。
「また会ったわね」
アルクェイドは敵意をまき散らしながら前を睨む。
「……そう、ですね」
暗がりでもぼんやり浮き上がる人型、
それは紅い瞳を除けば間違いなく弓塚であった。
あいつの役に立ちたい、でも。
弓塚もアルクェイドの態度を見て臨戦状態に突入している。
消えゆく犠牲者を挟み弓塚とアルクェイドはまさに一触即発状況だ。
「正直、貴女とはこんな形でやりあいたくなかったわ、
そしてこんな出会い方をしたくなかったわ――――だからと言って手加減するつもりはないわ」
「ボクも正直戦いたくないですけど、
戦わねば生きられないとなればここで戦いましょう――――今のアルクェイドさんなら、生き残れるチャンスはある」
まずい、一気に場の空気が戦争一色となりつつある。
正面から見て弓塚、アルクェイド、俺という位置関係上、
巻き添えを嫌うならば逃げることは確かにできるが、このまま見ているわけにいかない。
だけど、逃げてたまるか。
二人は人を超越してるが何か出来るはずだ。
考えろ考えろ考えろ――――。
「へぇ、言うじゃない。なんで死者を倒しているか分からないけど、わたしを前にして―――――あれ?」
「それは…………いつつ、くそまた痛む」
アルクェイドは最初俺を庇って出来た傷のあたりを抑え弱弱しく壁にもたれる。
よく見れば弓塚の方も胸を抑え、痛みに堪えていた。
狭い路地に充満していた殺気が嘘のように胡散している。
これは……チャンスか?
「なあ、二人ともそんなのでやってけるのか」
「…………」
「…………」
二人して沈黙する
これを肯定と受け取ってよいだろうか。
「……正直きつい、路上生活で精神的に来ることもあるけど、吸血鬼化して間もないせいか身体が時々痛む」
「同感ね、わたしがわたしで無くなってしまえばいいけど、ここは志貴の言う通りね」
いける。
そろって調子が良くないお陰で、
特にアルクェイドの頭が冷えているみたいだし。
「二人とも組まないか、お互い争う理由なんてないし。」
「……志貴、正気?」
「……今更かもしれないが、誰に対しても優しすぎると思うなボクは」
呆れ、溜息が聞こえた。
アルクェイド、弓塚の順でひどい言われようだ。
「ま、志貴が言うなら見逃してあげる。正直今の自分じゃただで済まなそうだし」
どうもアルクェイドは思った以上に弱っているらしく、良く見ると顔が青白くなっていた。
思わずギョッとした俺はアルクェイドに声をかけようとするが、それより先に衰弱激しい彼女はチラリ、と弓塚を一瞥して。
「でも、変な事をしたらその限りでないけどね。それに、さつきには『色々』聞きたい事があるから。」
弓塚もその『色々』について理解していたかコクン、と頷く。
「ここで話すのも何だから場所を変えましょう」
アルクェイドは壁から離れるとゆるやかに歩き始めた。
背後に弓塚がいるのに実に堂々とした振舞いであり弓塚はやや呆れていた。
「さっきまで殺し合いをしようとした相手に背中を見せるなんて、
余裕なのか、それとも天然なのか……とりあえず、よろしく志貴」
「ああ、」
アルクェイドの後をついて行く弓塚とすれ違う際に俺は頷いた。
まだまだ、俺たちにある問題は何一つ解決していなかったが、
なにはともあれこの日の夜、俺は再び弓塚と出会えたことが嬉しかった。