弓塚さつきの奮闘記   作:第三帝国

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エタりそうになったけどなんとか今週中に更新できたぜ!


第13話「過去と未来」

昨晩、俺はあの男を目にしてからずっと違和感を感じていた。

なんというか、すごく大事な記憶がごっそりと抜けているような、そんな感じがする。

秋葉に俺の昔の話と昨晩どうしていたかを含めて話をしようとしたが、秋葉は寝込んでいた。

 

琥珀さんに案内されて秋葉の部屋に入って見ると、

疲れているのか目にクマを残しつつぐっすりと寝ていた。

 

なので朝食は一人で済ませた後、

丁度今日は休日でしかも雨だったので屋敷を見て回ることにした。

 

昔の記憶や思い出を探し、広い屋敷を徘徊する。

秋葉と名前の早書き競争をした名前が刻まれた柱など懐かしさを覚えたりしたが、

見て回るにつれ重要なことは思い出せず、奇妙な既視感だけが強まった。

そう、どこに行くにせよ子供のころ秋葉だけでなくもう一人誰かがいたような。

 

そうした現象は琥珀さんが言うに使用人が使っていた木造の家から、

さらに奥の森へと入ってますます強くなってくる。

 

「ここは…?」

 

靴を泥で汚しながら歩いて行くと、森の中に広々とした広場があった。

広場の中心にはテラスがあったが、全く手入れが為されておらず、傷つき周囲には雑草が生い茂っている。

 

――――習い事をしている秋葉を連れ出して、隠れて遊ぶにはここが丁度良かった。

 

「あれ……?」

 

ふと、昔の記憶がよみがえる。

ここで習い事をしていた秋葉を連れ出して二人で遊んだ記憶だ。

けれども、もっと、もっと重要なことが思い出せない。

 

ここに、もう一人絶対いたはずだ。

そしてここで俺は一度――――。

 

「あ、ぐ…」

 

そこまで考えた時ひどい頭痛に襲われる。

まるで画面が砂嵐状態のテレビのようにザアザアと音を立てて脳がかき回される

息が苦しい、幾ら息を吸い込んでもまるで足りない。

 

「ア…」

 

朦朧とする視界の中に一人の少年が居た気がした。

その少年は幼かったがどことなく、昨晩会った着流しの男に似ていた。

 

 

――――そうだ、俺はアイツを知っている。

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

「来ないね…志貴」

「うん…そうだね」

 

夜11時過ぎの公園は、

ここの所の騒ぎのせいで相変わらず不気味に静かで、

ボクとアルクェイドさんを除けば誰もこの公園にいない。

 

あれからまた一晩、

再び公園に集合したけど志貴は未だにやって来ないので、

やむえず女二人で寂しく公園で待ちぼうけをくらっており、

特にアルクェイドさんは暇で暇で仕方がなく落ち着きがない。

 

しかし、志貴の奴遅いな。

また何かイベントにでも巻き込まれたのだろうか?

む、イベント……もしかすると今日は【原作】の昔のトラウマが蘇ったせいで寝込む日だったかもしれない。

 

だとするとここで待つ意味はなくなってしまうのだが、

かといって直接遠野家に乗り込めば遠野の人間に見つかる可能性があり、騒ぎになってしまう。

そもそも、寝込んでいる志貴に会ってどうするかという問題がある。

 

……あれ、ボクの【原作】知識が全く役に立たない件について。

 

「……おそいなー」

 

アルクェイドが適当にブランコを漕ぎながら不満げに呟く。

 

「志貴は遅刻癖があるし待ちましょう」

「そうね、待ってみようか」

 

本当は志貴が来ないかもしれないことを知りつつも、

来る可能性に賭けてしばらく、アルクェイドさんと雑談を交わしたが、

かれこれ待つこと数時間が経過し、とうとう時刻は午後11時半過ぎになってしまった。

 

「ねえ、これって約束が破られたってことかしら?」

「……たぶん」

 

始めはお互い他愛もない会話を楽しんでいたが、

一時間、また一時間と時間が過ぎてゆくにつれて、

 

口数は少なくなり、表情は消えうせて、

明るく太陽のような笑顔と楽しげな雰囲気は消え失せ、怒りのオーラがアルクェイドから湧いていた。

 

「ふ、ふふ……ふふふ。そっかぁ、なるほどなぁ…。

 これが『怒り』という感情かあ……ふふ、志貴の首。引き千切っちゃいたい」

 

志貴に約束が破られたのに気づいて、

アルクェイドさんはピリピリと殺意すら発しており……正直逃げたいです。

 

「ねえ、さっちん」

「は、はいっ!?」

 

いっそ逃げてしまおうか、

なんて現実逃避気味に考えていたら、ガシッ!!

という擬音がつきそうな勢いでしっかりと腕を掴まれた。

 

「志貴の家に行くわよ。さっちんも来なさい」

「えっと、拒否権は?」

「ないわ」

 

ボクに拒否権はないですか、そうですか…。

 

「……………」

「……………」

 

アルクェイドさんに引っ張られる形で、

公園の外に向かって歩く、その間お互い無言であった。

 

「あのね、さっちん」

 

が、公園の出口に差し掛かった所でアルクェイドさんが口を開いた。

顔はこちらに向けず、自分からは彼女の背中しか見えなかったが、どこか寂しげな空気を纏っていた。

 

「さっきさ、志貴が約束を破ったことにわたしすごく怒ったけど、

 わたし、なんでこんなに怒るのかなって改めて考えて見たんだけど、

 例えばさっちんはきっと、わたしと一緒に居られるから約束を破ってもまた会えるけど、

 志貴は人間だからいつか死んじゃって二度と会えない、それこそ次の日にはこの世から亡くなっているかもしれないくらい脆い」

 

続けて彼女は語る。

 

「志貴と会えなくなると思うと、不安で不安でたまらないの。

 ねえ、なんでだろう。なんで考えることが志貴のことばかりなんだろう?

 わたし、こんな気持ちは初めて――――何かを失う事を恐れるんなんて、永い時を生きるわたしが時間を恐れるなんて」

 

……そういえばこの人、

アルクェイド・ブリュンスタッドは一見楽観的に見えて根は悲観主義者だった。

だから、仮定とはいえ明日志貴は居なくなっているかもしれないという発想に辿りついてしまうのだろう。

 

ああ、くそ。

自分も吸血鬼になってしまったから、アルクェイドさんの不安は人ごとではない。

永い時の流れの中、周囲は変化する中で一人だけ変わらず何もかもに置いて行かれるのは自分も半ば確定している。

今は目先の問題の解決だけを見て、考えないようにしてきたのに考え出したら不安が止まらない。

 

先が見えない未来ほど恐ろしい物はない。

しかし、延々とその未来と言う名の道を自分は歩まねばならない。

考えれば考える程考えたくもない苦難が待ち受けている事を知っている。

 

けど――――。

 

「アルクェイドさんはたぶん何もかもが初めてだから困惑しているのかもしれない、

 だから不安や焦燥といった気持ちが出ているかもしれない、けどそれを含めて今を楽しめばいいなんてボクは思うな」

 

今を楽しめとはいい言葉であるが、結局根本的な解決にはなっていない。

けど考え過ぎて後ろ向きになるよりも、前向きに今だけを考えていればずっと救いにはなるかもしれない。

 

「今を楽しむか、その言葉。

 ずっと、眠ってばかりだったわたしには関係のない話ね。

 目先のことに夢中になって星を食いつぶす人間らしい言葉だけど…うん、わたしはそういった楽観的な考えは嫌いじゃないわ」

 

クルリとこちらに顔を向けて、続けて言った。

 

「さっちん、ありがとね。お陰で少しだけ気分が軽くなったわ!」

「そりゃ、どうも」

 

アルクェイドさんはブンブン握った手を振りつつ、笑顔で感謝の言葉を言った。

いささかオーバーアクションな感情表現であるが、彼女にはそうした天真爛満な姿が似合っていた。

 

「それじゃ、気分も晴れて来たことだし。

 志貴の首を千切るの止めて、二人で約束を破った志貴ボコボコにしましょう!」

 

やめてくださいしんでしまいます、主に志貴が。

 

「2人とも遅くなってゴメン!!」

 

その時、第三者が介入してきた。

というよりも、吸血鬼二人にボコボコにされることが確定した遠野志貴であった。

もっとも幸いというべきか志貴の首がもげたりボコボコにはされることはなかった。

 

なぜなら志貴の声を聞いた瞬間、

志貴の所に豹のごとくすっ飛んでゆきそうだった、

アルクェイドさんを押しとどめたのは褒められてもいいと思う。

 

ただし、そのさいお互い絡み合い、

地面に仲良くキスする羽目になり志貴から「お前たち何やってんだ?」みたいな目で見られた。

こっちとしては、ボコボコにされるのを防いでやったのに…。

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

「2日連続して死者を積極的に見ないなんてよほどの小心者ね、敵は」

 

昼に気絶して倒れてから夕方までずっと寝てしまい、

夜にはなんとか動けるようになったけど、買う物があったから、

約束の時間帯に来るのに遅れてしまったがこうして今日の探索を終えた。

 

「魔法陣の方は結構壊したから、それでいいんじゃないかな」

「うん、そこはさっちんのお陰ね。わたし1人じゃそういう発想が出来なかったかも」

 

今日も【死者】は現れなかったが、

弓塚が隠蔽のための術が施されている可能性を提示したので、そうした術の探索と破壊を今日は専念した。

アルクェイドや弓塚が違和感を感じ取った場所が丁度そうした術が施された魔法陣があり、二人で競争し合うように物理的に破壊した。

 

俺は生物以外のものを【直死の魔眼】で視るのは負担が掛るとアルクェイドに口酸っぱく言われたので、

たまに出てくる【死者】を倒す程度にしかできなかった。

 

それにしても、その術をアルクェイドが初めて見た瞬間、

ありえないくらいの殺意を周囲にまき散らしたが、理由を聞くとなんでも数紋秘という魔術をベースに施された術であり、

隠蔽もあるが、そこから霊脈を通じて本体が隠れている魔術要塞のエネルギー供給の蛇口となっている、と忌々しげに言った。

 

「そういえば、志貴。

 来た時からずっとその紙袋を持ってるけど何かしら?」

 

ふと、興味深げにアルクェイドは俺の手に持っていた物について尋ねて来た。

そうだな、今日もこれで終わりだし、いい加減あげないと。

 

「弓塚、」

「え、ボクか?」

 

きょとんと意外そうに声を上げる。

 

「今日はアルクェイドの服を借りたみたいだけど。

 その、ずっと同じ服だとあれだと思って、弓塚に服を持ってきた」

 

「え、ええ!?」

 

俺はシャツとセーターが入った紙袋を彼女に差し出した。

弓塚の服装は先輩と戦ったときから変わっていなかったので弓塚の服を買って来たのだが、

今日の弓塚はアルクェイドのを借りたのか白い長袖の服に黒のミニスカ、黒タイツの姿をしていた。

 

…そういえば、弓塚はスカートよりもズボンを好んでいたし。

ましてや、ミニスカなんて死んでも履きたくないなんて公言していたのに珍しいな。

 

なんて考えつつじっくりと彼女を観察していた時、

受け取った弓塚は中身を見て、ふと聞いてきた。

 

「志貴、これってたしかそこそこのブランド物だったような気がするけど…」

 

表紙のメーカー名に気がついたみたいだ。

たしかに、安い物でもよかったけど、あまりそういうのをあげたくなかったから。

 

「別に弓塚は気にしなくてもいいよ、心配するなって」

「………………」

 

彼女は気不味そうな眼で俺を見て

何か言おうと口にしたが、一度口を閉じ。

眼をつむり顔を伏せてたが、すぐに顔をあげて言った。

 

「…ごめん、ありがとう。絶対に大事にするから」

 

小さく申し訳なさそうに呟き、持っている紙袋を握りしめた。

 

「ねね、わたしは、わたしは?」

 

そんなやり取りを横で見ていたアルクェイドは、

穢れのない、キラキラ光る瞳と共に期待する眼差しで俺に寄るが…いや、これは替えの服がない弓塚用なんだ。

 

「ぶぅ~~、さっちんだけずるい!」

 

アルクェイドが頬を膨らませ駄々を捏ねる。

まるで子供のような態度だな、けど、それがアルクェイドらし、うぉ!?

 

「ア、 アルクェイド、その…」

「へー、志貴はレディーに『重い』なんて言いたいのかしら?」

 

いきなりアルクェイドは横から飛び乗り、俺の背中におんぶする形となった。

白く細い腕が肩越しに首に軽く巻きつき足を腰に引っ掛かけている。

 

突然人が乗ってきて転倒しなかった自分はエライと思う。

が、昼間寝込んだこともあり貧血気味な身体は盛んに悲鳴を上げている。

 

それに加え、首元にかかるアルクェイドの甘い吐息。

飾り気のない服装の下に隠された、柔らく温かい女性の肉体の感触。

秋葉とは違いたわわに実った胸やら何やらが全体に密着しており、

 

その、なんだ、アルクェイドの堪らないくらいの『雌』の香りが、

俺の制御棒とか加熱して非常にマズイ状態です、はい。

 

「志貴がわたしに何かしてくれるまで離さないんだから」

 

……このアーパー吸血鬼め、人の気も知らないで。

 

「アルクェイドさん。明日志貴と遊べばいいのでは?」

 

どうすればいいか考えた時、

そんな様子を見かねて弓塚が助け舟を出してくれた。

 

弓塚の提案を聞いたアルクェイドは、その発想があったのか!

とばかりに驚くと同時に俺から離れて嬉しそうに弓塚の手を取った。

 

「いいねいいね!!行こうよ!明日の夕方さっちんも一緒に志貴と遊びましょう!」

「あー自分いや、ほら。自分はまだ…」

 

喜んでいるアルクェイドとは逆に、弓塚は申し訳なさそうに言う。

あれ、何で弓塚は少し残念そうにしているのだろう…あ、そっか。

 

「その、行けたらいいけど。

 まだ太陽に浴びると即死するから…」

 

「あ…」

 

アルクェイドはしまったと言わんばかりな顔を浮かべている。

俺も何時もと変わらない会話を続けていたからすっかり忘れてた、弓塚は吸血鬼だということを。

 

思えば、本人は何でもなさそうにふるまっているが果たしてどうだろうか。

絶望に飲み込まれてもおかしくないのに普段と変わらぬ態度をとっている。

 

「弓塚」

 

だから俺はそんな彼女に誓いたい。

 

「『行けたらいい』じゃなくて行くんだ。

 昼が駄目なら夜に行けばいいし、あるいは何もかも終わったら3人で行こう」

 

「―――――――」

 

……あれ?

何か可笑しなことでもいったのだろうか?

弓塚はやや頬を赤らめ、眼を見開いている。

 

「――――ほんと、志貴はまるで主人公だな」

 

しばらくして、彼女は呆れ交じりに言葉を発した。

何時もと違いどこか声が震えつつ。

 

「そうだな、全てが終わったら行こうか。3人で」

 

まだまだ、目先の問題は解決されていない。

けど、あの変化はなく穏やかな日々への帰還はたぶんもう直ぐだ。

 

「ああ、約束する。絶対行こう」

 

いつも学校で、当たり前の日常の中で傍にいた彼女。

純粋に支えてやりたいと俺は思った。

 

 

 

 

 

 


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