弓塚さつきの奮闘記   作:第三帝国

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まさかの秋葉様、ヒロインレースでトップに躍り出る予感!?


第17話「吸血鬼Ⅱ」

月明かりをバックに白いシャツをだらしなく着た男。

瞳は血のように赤く髪は黒くボサボサで、少なくても俺の周囲では見たことのない人物。

いや、あの夜に出会った男だと思うけど、呼吸が乱れる。

 

知らないはずなのに、知っている気がする。

いや違う、随分と変わってしまったけど俺は知っている。

 

――――ジクリ、ジクリ

 

「う―――ー」

 

胸の傷が疼く。

触れれば服がじわりと血で滲んでいる。

そして封印された記憶が解放され、次々に過去の記憶が流れる。

 

八年前、シキは一度俺を殺した。

あの広場で俺は殺され、シキ、四季も殺された。

 

「ぐ―――ー」

 

ひどい頭痛が走り、

次々に過去の風景が再現されてゆく。

 

思いだす、いつも一緒にいた少年のことを。

習い事から連れ出した秋葉と三人で遊んでいたあの時、

あの暑い夏の日までずっと一緒だったのにどうして俺は――――。

 

「四季、なのか?」

「そうだよ、志貴、ほんとうに、ほんとうに久しぶりだな」

 

シキは実に嬉しそうに言う。

でも、ありえない、シキはあの日死んだはずじゃあ…。

 

「ひゃはははは!!『ありえない』なんて顔してんなぁ。

 たしかに俺は一度死んだ、けどあのクソ親父、情があったのか今日までピンピンしていたってわけだ」

 

俺の呆然とした顔が面白いのか、四季は可笑しそうに笑う。

よほど可笑しいのか腹を抱え、涙を流しながら笑い、直後四季から蒸気が吹き出て絶叫が響く。

 

「だまり、なさい……四、季」

「秋葉!?」

 

胸元にいる秋葉の攻撃だった。

髪を赤くした秋葉が息絶え絶えになりつつも四季を攻撃していた。

どうして!?そう疑問に思い口を開く前に秋葉が語った。

 

「今まで黙っていてごめんなさい、兄さん。後で必ず説明します」

「……秋葉」

 

眼を伏せて、罪悪感に浸る秋葉。

秋葉は俺の隠された過去を知っていた、

けどどうやら俺が想像していた以上に複雑な事情が入り組んでいるらしい。

 

「は、ははは、秋葉も大人になったなぁ」

 

え、と秋葉が驚くと。

ロア、いや四季は酷い凍傷に罹った姿をしつつも、

魔法陣のような物を展開させててそこに立っていた。

 

「そんな……わたしの混血の能力が防がれた!」

「いやいや、結構秋葉の攻撃は効いたぜ、まるで親父のようによぉ」

 

秋葉が信じられないと唖然とし、親父の言葉で硬直させる。

 

「そして、これはお返しだよ秋葉」

 

お返しとばかりに一閃、

まずい、初動が遅れたから避けることができない。

せめて秋葉だけは守ろう、そう思って秋葉を抱きしめて守るように身をかがめたが、

 

ガキィン、と鋭い音と火花が辺りに散った。

 

「ボクを忘れてもらってはこまるかな」

「ああ、テメェか小娘。無粋な真似を折角の家族の会話を妨げるなんてよぉ」

 

乱入者は弓塚だった、

弓塚を四季が睨むがすぐに強者特有の余裕の笑みを浮かべる。

 

「作り掛けだった拠点が代行者に潰されたとはいえ、

 今のオレ、いや私は貴様などに比べればアリと象以上の力の差があるのがわらないのか?

 幾多の死を受け入れ乗り越えて来た私からすれば、例え貴様のポテンシャルが高くてもあまりにも――――脆い」

 

役者のつもりか腕を広げ大げさに言う。

でも、言っている内容が法螺ではなく本当の事だと俺にはわかる。

 

「所で、もしかしてここも学校と同様に拠点化しているのかな?」

 

「おや、小娘。いや、君はどうやら聡いようだな。

 その通りだ、メインではないがここはサブの拠点となっている。

 本来ならばメインの学校を拠点に街全体に精気を吸収する陣を引いたが、

 君たちの努力と代行者がまさか昼間から拠点を強襲するとは思わなくてね、だからこうしてここで顔を見せたわけだ」

 

四季、いや口調が変わったからロアかもしれないが、弓塚と比較すればどちらが勝つかは明確だ。

たかが数日で吸血鬼になったばかりの弓塚よりも、幾百年もの歳月を過ごした元凶の吸血鬼の方が勝つのが子供でも分る。

それに、眼の前の男は俺と同様にあの死の世界が『視えて』いるのだから。

 

「たしかにこれじゃあ、ボク1人じゃまけるね」

「ほう……」

「弓塚っ!!」

 

弓塚はあっさりと自分に勝機がないことを表明した。

 

「けど、時間を稼ぐことぐらいは出来る。

 それに――――勝利のカギは既にこちらの手札にあるから」

 

「はっ!笑わせてくれる!!勝利だと、この私にか!!」

 

侮るロア、しかし弓塚はどこまでも冷静で、

 

「だから一緒に戦いましょう――――アルクェイドさん」

 

刹那、ロアが吹き飛んだ。

いや正しく表現すると体が地面ごと真空の刃に八つ裂きにされて、

肉片と贓物をまき散らしながら飛んでいったと言うのが正しかった。

 

「ようやく、会えたわねロア」

「アルクェイド…」

 

そして、それはアルクェイドによるものだった。

何か言おうと思ったが彼女が纏う空気に気圧されて辛うじて名前を口にすることしかできない。

 

俺が知るようなア―パーな空気は消えうせており、

ネロや暴走した弓塚の時よりもずっと、殺意と敵意をまき散らしていた。

 

けど俺は『視た』、死の線はアルクェイドの全身に走っており、

まるで継ぎはぎだらけの人形を無理やり動かしていたようなもので嫌な予感しかしない。

 

「アルク、ェイド」

「ん、志貴。私は大丈夫だよ」

 

くるりと振り返ると何時もの笑顔を見せる。

 

「私は死なないよ、だって私は吸血鬼だもん」

 

――――嘘だ。

 

「やだ、志貴。泣きそうになっているじゃない。

 それに今の私にはさっちんもいるし大丈夫大丈夫」

 

それが、嘘であることは俺にも分った。

たしかに2人掛かりならば元凶の吸血鬼を確実に殺せるだろう。

けど、アルクェイド・ブリュンスタッドもそこで限界を迎えてしまう。

 

認めない、認めてたまるか。

アルクェイドをほっといてたまるか。

弓塚といいどうしてこのア―パー吸血鬼は黙って自分で解決しようとするんだ。

 

「く、くは、くはははははは!!

 弱体化したとはいえやはり真祖の姫はそうでなくてはならない!!

 堕ちた魔王を一切の慈悲を持たず、蹂躙し、殺戮する破壊と恐怖、まさしく真祖の姫だ!!」

 

そうしているとバラバラになったにも関わらずロアが再起して起き上がる。

全身血まみれで重症であったが、歓喜に震えていた。

 

「志貴、じゃあ行ってくる」

「おい、待てっ……アルクェイド!!」

 

そして、彼女は行ってしまった。

 

「にい、さん……」

 

暗闇に時折吸血鬼の爪がぶつかり合い、

火花が散る光景の最中、胸の中にいる秋葉が小さく囁いた。

 

「兄さん…ごめんなさい、すべて、私のせいです。

 弓塚さんがああなってしまったのも私が四季を殺さなかったから……」

 

「あき、は」

 

秋葉はいつもと違いとても弱弱しく言葉を綴った。

まるで、昔の秋葉のように涙を流していた。

 

俺はどうするか?

怒るか?許すか?それとも?

その答えはもう決まっている。

 

「秋葉、弓塚を傷つけた事も秋葉が暴走したこと、俺に黙っていたことも俺は怒っている」

「…はい」

「よし、だから後で弓塚に謝って許してもらえ」

「は?」

 

俺の言葉に秋葉は呆けた声を出した。

 

「秋葉は家族だろ、だから俺は許すから後は弓塚に謝るだけだってことだよ」

「兄さん……でも、弓塚さんは、」

「大丈夫。俺がなんとか――――っう!!」

 

そうして立ちあがろうとするが体が重い。

四季に向かおうとすると体から力が抜けてゆく。

 

「兄さん!!あなたの体は本来ならば8年前に死んでいたようなものです!

 あの時私が混血の能力で命を分け与えたから辛うじて動いているだけなのですよ!

 しかも、唯でさえボロボロなのに同じく命を分け合っている四季に向かおうとすれば死んでしまうかも知れません!!

 お願いです……私は、家族が死んでしまう所なんて、もう見たくないのに。どうして、どうしてそう無茶をしようとするのですか…」

 

服を掴み秋葉が必死に懇願する。

ああ、まったく自分が駄目な兄なのは秋葉の顔を見ればわかるし心が痛む。

本当に俺は心配ばかりかけている――――けれども俺の決意は変わらない。

 

「俺は秋葉もそうだけど、あの二人も俺の日常にいてほしいだけなんだ」

 

友達だからクラスメイトだから、殺した責任をとるためじゃない。

隣にいてほしい、何事もない日々を共に過ごしたい、ただそれだけ話だ。

 

「………………わかりました」

 

俺の話を聞いて秋葉は顔を下に向けたが、

何かを決意したのか俺に顔を近づけて――――ちょ!!あき…!!

 

「んぐ……」

 

秋葉の唇が俺のと重なった。

混乱して離れようにも残った腕を首にまわしてしっかり固定されているせいで離れない。

秋葉と密着しているせいで女性特有の甘い香りが鼻だけでなく、身体全体を刺激する。

特に胸がアルクェイドのようにたわわには実っていないが、柔らかいだななんて一瞬考えてしまった。

 

さらに秋葉は舌をねじ込んで来る。

俺はあまりに唐突だったせいで思考が追い付かずただただ為されるがままであった。

 

くちゃ、ぺちゃ、と水音がしばらくする。

内心で相手は秋葉、相手は秋葉と念仏のように唱えるが、

悲しいことか男として身体は徐々に興奮しつつあり、理性が劣勢に陥りつつあった。

 

が、幸い状況が状況であったのと、

秋葉は俺が狼に成る前につぅ、と唾の糸を引いて離れた。

……というか俺はこんな時によりにもよって秋葉に興奮していたのか!!

 

「あ、あああああ、秋葉、あの、その」

 

いや、別にキスなんて初めてではない。

むしろ中学生の時キスどころかに朱鷺恵姉さんに……よし、忘れよう。

 

「ふふ、真っ赤ですね兄さん。

 別に気にしなくても大丈夫ですよ――――私は兄さんを異性として慕っていますし」

 

「へ――――?」

 

慌てふためく俺が可笑しいのか秋葉はクスリと、妖艶な笑みを浮かべた。

妹としか認識していなかった女性からの告白、という事態に俺はどう言えばいいかわからなかった。

というか、今日は驚愕の事実が判明しすぎていい加減俺の思考がパンクしそうだ。

 

それにまさか、秋葉が異性として俺を慕っているとは、

明日どんな顔で秋葉と会えばいいんだ?毎日顔を合わせるというのに……。

 

しかし、たしかに昔から秋葉は綺麗な子だったけど、

こうして見るとやっぱり美人になったんだとつくづく思う。

 

理想の和風美人風に顔立ちは整えられ、いささか気の強いお嬢様であるが、

気品があるし例えアルクェイドよりなくてもスリム……いかんいかん俺は何を考えているんだ!

 

…って、秋葉!!

 

「命を分け与えましたから、これできっと――――ぐっ……」

「何を言っているんだ秋葉!!顔が真っ青じゃないか!!」

 

前より明らかに顔色が悪くなった秋葉が倒れそうになり、

俺は慌てて秋葉を抱きとめようとしたが、秋葉は眼を見開くと俺の手を払い叫んだ。

 

「兄さん!!あなたのアルクェイドさんや弓塚さんを助けたいという思いは嘘なのですか!?

 兄さんは私を心配する余裕なんてないはずです!!はやく兄さんは過去との因縁を絶ちに行くべきです!」

 

秋葉の言葉が胸に突き刺さる。

そうだ、秋葉が俺のためにここまでしてくれたのに、こんな所でじっとしている暇なんてない。

身体は確かに動く、むしろいつもより調子がいいくらいだ。

 

「ありがとう、秋葉――――――絶対に帰ってくるから」

 

「ふんだ、さっさと行ってください。

 じゃないと弓塚さんに謝れないじゃないですか」

 

そして俺は死闘を演じている場所へ駆けだした。

ふと、後ろを振り返れば俺を見届けて直ぐに秋葉はぐったり地面に座っていた。

 

ありがとう、秋葉。

だから、必ず2人を助けて日常を取り戻す。

 

そう決意を新たにして全てを終わらせるべく2人の元へと走った。

 

 

 

 


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