弓塚さつきの奮闘記   作:第三帝国

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Fateはいいから月姫はよ


午後12:15

 

「この間桐桜。

 ついに、ついにヒロインになりました!」

 

紫色の髪をした少女、

間桐桜がこれ以上ない程ドヤ顔でヒロイン宣言をした。

 

「長かった……。

 後輩キャラでありながらもエログロなHFルートのせいで、

 正統派金髪ヒロインと王道貧乳ツインテールヒロインルートの猛攻で影に隠れて幾星霜。

 公式のヒロインの人気度でもセイバーさんと姉さん、イリヤさんの3ヒロインに押されてた状態。

 二次創作でもセイバールートと姉さんルートを元にしたものがメジャーで、わたしのルートはマイナーでした……」

 

遠くを見るように桜は回想する。

確かに間桐桜は金髪ヒロイン枠のセイバー、ツインテール王道ツンデレヒロイン枠の遠坂凛。

とそれぞれ属性がある中で密かに主人公を慕う後輩キャラとしてFateのヒロインとして想定されていた。

 

だが、桜のルート。

HFルートは凛のUBWルートをクリアした後に解禁される隠しルート。

そして、これまでの愛と信念を主題とした内容とは打って変わって、HFルートはエログロホラー要素を前面に出したものだった。

Fate、UBWルートでは判明しなかった聖杯戦争の裏、主人公にとって日常の掛け替えのない存在が抱える闇。

 

そして型月お約束の「ヒロインがラスボス」を体現した。

と、まあそんなわけで公式人気投票では他のメインヒロインと比べると水をあけられてしまった。

 

また、二次創作の世界でも純粋にHFルートを元とすることは少なかった。

とはいえ、逆に少ない分光るものがあるように「まとうりん」「IFアーチャーのHFルート」のような名作がある。

 

そしてヒロインの人気度だが、2012年6月8日から24日にかけて行われた、

Fate/Zero、空の境界。魔法使いの夜、月姫から選ばれたオールキャラクター人気投票の結果では8位。

5位アルクェイド、6位イスカンダル、7位蒼崎青子、9位ギルガメッシュという順位であり善戦したといえる。

 

だがしかし――――。

 

「Fate/Etra CCCでは確かに、確かに前作と違ってヒロインルートはありましたよ、えええ。

 でも、でも……何で公式は4月のエイプリールでは扱いが未だラスボス色物系ヒロイン何ですかーー!!」

 

2013年に発表された「路地裏さつき ヒロイン十二宮編」

ではメガ林桜子と遊びすぎな名前で登場したように、桜の扱いは色物であった。

シオンからは「ここまで暗黒面に落ちたヒロインがトップアイドルになる世界は、間違っている」と指摘され、

逆に桜は「怨念系の役回りとか超☆上等!一周まわって楽しくなってきたところです!」と開き直る始末であった。

 

ホロウから始まりコロシアム、カニファンと桜にファンの間では腹黒キャラ属性がつき、

公式の引くことを知らぬ悪ノリと相俟って間桐桜はすっかりラスボス腹黒色物系ヒロインの扱いであるのだ。

 

「それに今旬のプリズマ☆イリヤに至っては姉さんとルヴィアさんが出ていても、

 私なんて影も形もアニメの諸事情どころか、原作からフェードアウト状態ですからね…ふ、ふふふ……」

 

なお、桜は出ていなくても毒舌シスターカレンはカーニバル以来2度目のアニメ出演となっていた。

 

「ですが、そんな黒桜の時代はもう終わりです。

 銀幕デビューが決定した私、間桐桜は正統派後輩ヒロインとして生まれ変わるのですから!!」

 

「答・コロンビア」のポーズでこれ以上ないドヤ顔で再度宣言する桜。

携帯音楽機器で態々某ユニコーンのBGMが流しているあたり、実に手が込んでいる。

だが、それは「ヒロイン十二宮編」で判明したアホの子疑惑により説得力を抱かせるだけであった。

 

「ヒロイン、ヒロイン。実にいい響きです。

 後は劇場で先輩と(自主規制)なシーンを流せば金髪ヒロインなんて目じゃないはず。

 空の境界で原作に忠実に(自主規制)なシーンを流したufotableなきっと、きっとやってくれるはずです!」

 

だが、桜はヒロインの条件を忘れていた。

すなわち男が理想とする乙女心とキャラ属性を。

一体誰が要素ガン無視の、確信犯的にエロネタに走るキャラをヒロインとして見るだろうか?

それが分からない間桐桜はすっかり腹黒かつ、ネタキャラ要員でしかなかった。

 

「どアホーーー!!」

「ひゃん!!?」

 

そして、これまで黙って聞いていた桜の唯一の肉親が暴走する桜の頭を叩いた。

 

「黙って聞いていれば、

 脱げば人気出るとか何とか、

 桜、アンタ。ヒロイン舐めてんの!?」

 

「ね、姉さん」

 

頭を抑え、涙目の桜が振り返った先には、

王道貧乳ツインテールヒロインの遠坂凛が憤怒の表情を浮かべて桜を睨んでいた。

 

「正統派どころか、型月のドル箱にしてヒロインの覇者セイバー。

 プリズマから人気をさらに高めつつある、お兄ちゃん大好き、ロリコン銀髪魔法少女のイリヤ。

 ダークホースに、セラ、リズの銀髪メイドコンビに褐色銀髪幼女のクロエを始めとするロリコンヒロインの攻勢。

 エクストラなら貧乳ヒロインから卒業しやがった赤セイバー、淫乱ピンクのキャス狐、ロリコン枠ヒロインのドラゴン娘。

 どいつも、こいつも強い個性があってヒロインとして熾烈な戦いを繰り広げているのに、脱げば人気でるとかヒロイン舐めんじゃないわよ!」

 

溜まっていた思いを言うと、凜はフーフーと荒い息を吐く。

増え続ける型月のヒロインの中で、未だ現役で数々の派生作品に出演する遠坂凛であるが、

近年の型月のヒロイン増産体制(ただし月姫を除く)で強力なライバルが出現しつつあり危機感を覚えつつあった。

 

だから、色気の1つや2つで簡単にメインヒロインになれる。

等と甘い言葉を吐く唯一の肉親の言葉に我慢できなかった。

 

「でも、そういう姉さんだって、

 エクストラでは尻チラとか絶対領域の極みをしてたじゃないです――――あいたぁ!?」

 

「シャラップ!!CCCではセーラー服だったから関係ない!」

 

だが、エクストラで尻チラという新たな領域を開発した事実を桜が指摘するが、否定される。

 

「だいたい桜はCCCでは、何あの胸?

 パッションリップは私への当てつけかしら?

 幼女枠のメルトリリスは下半身丸出し、エロ路線しかないの?」

 

「あ、あれは私じゃなくて、オリキャラ!

 二次創作で生まれたオリキャラだから関係ないもん!!」

 

黒歴史な姿を思い出した桜が涙目で強く否定した。

エクストラCCCでは桜を模した新キャラが登場したが問題はその姿だ。

 

パッションリップの外見は桜そのものであるが、上半身はサスペンダーのみという完全な痴女。

なお、その胸のサイズは160センチあり、某メイドの90センチ代を突破し、型月ヒロインの中でナンバーワンであるのには間違いない。

 

パッションリップと同様に桜と同じ姿であるが、

幼い姿をしており、服は袖が余るぶかぶかなロングコート。

足に付けた剣のように鋭い具足『だけ』そう、下半身を覆うものは股間にある貞操帯のような下着のみであった。

しかも、コートの前は画さず全開状態でを全開にしている上に腰から下を隠すものはなく股間は殆ど丸出し。

どこからどう見ても痴女であるが、当の本人はこれ以上ないくらいドヤ顔で「貞淑に隠している」と主張しているのであった。

 

「やっぱり、桜はヒロインというよりネタキャラ専門よね」

「………………」

 

姉の茶々に桜は俯く。

昔の彼女ならここで黙って引いていたであろうが、

ホロウで虎視眈々と蟲爺の暗殺を企んでいたように成長した今の桜はここで黙って引くような人間ではなかった。

 

「あは、姉さんこそプリズマ☆イリヤではギャグ枠。

 虎聖杯では猫耳、軍服、魔法少女と大活躍だったじゃありませんか?」

 

「あ゛!?」

 

地雷を踏み抜いた桜の発言に凛の米神に血管が浮き上がった。

 

「あは、怒っているのですね、姉さん。

 ふふふ、前みたいにルヴィアさん直伝のプロレス技を披露しましょうか?」

 

「あら、上等。前回は油断したけど、

 外道神父が教えてくれた八極拳の威力。まだ桜は味わったことなかったわよね?」

 

売り言葉に買い言葉。

戦う以外の選択肢はなかった。

桜は一瞬で腰を落として、両手を前に出すプロレスラーの型を作りにじり寄る。

対する凛も腰を落とし拳を握り、八極拳の構えで桜を待ち受ける。

 

このまま、姉妹対決が成されるかと思いきや――――。

 

「凛、桜。往来の前で喧嘩はよしてください」

「!」

「!?」

 

姉妹喧嘩を止める人間がいた。

聞き覚えのある声に姉妹2人は声の元に振り返り、驚く。

 

「せ、セイバーさん、どうしてここに!」

「というか、何でセイバーがメイド服なんて着ているのよ!」

 

振り返った先にいたのはセイバーであった。

理由は知らないがフィギアにもなった背中のラインが美しい某メイド服姿ではなく、

足元が汚れないロングスカートに、これまた頑丈な白いエプロンを羽織り、胸元にはきっちりとリボンを締めた正統派メイドの姿をしていた。

 

「本来。客として喫茶アーネンエルベに来たのですが、

 色々ありまして不本意ながら店員をすることになりました」

 

「アーネンエルベ……あ、ここアーネンエルベの前だったのね」

 

今更ながら凛が往来で騒いでいたのに気づく。

 

「そして、店の前で見知った方々が騒いでいたので、来ました」

「う、すみませんセイバーさん…全部姉さんが悪いので、後でヴェルデの大判焼きを姉さんが奢りますから」

「ちょっ!桜!何、私だけに戦犯を押し付けようとしてんのよ!セイバーに奢るとか破産させるつもり!」

 

ジト目で姉妹を見るセイバー。

慌ててる姉妹であるが、さり気無く姉に責任を押し付ける桜は間違いなく黒かった。

 

「結構です、今は大判焼きは不要です」

 

しかし、セイバーは桜の言葉を否定した。

あのセイバーが食べ物に釣られない、その事実に姉妹の間に衝撃が走った。

 

「え、……嘘!セイバーさんが、

 あのセイバーさんが食べ物に釣られないなんて」

 

「く、落ち着きなさい桜!

 まずは胸は……よし、私と同じまっ平らだから赤王ではないわ」

 

「な、なんですかその認識は!」

 

腹ペコキャラが根付きすぎたせいで、

食べ物に釣られないセイバーの態度に疑心暗鬼になる凛と桜にセイバーは、

不本意だと言わんばかりに吼えるが、店内から出てきた金髪の少女に追い討ちを駆けれるように肯定される。

 

「事実じゃん、セイバー。

 アーネンエルベの店員やる代わりに余った食材食べ放題で釣られたくせにー」

 

新たな登場人物、アルクェイドが店のドアから出てきた。

彼女もまた、メイド服、よくよく見れば遠野家で使用しているのと同じものを着込んでいた。

 

「あ、やっぱり」

 

「だよねー、セイバーは……。」

 

「ん、なぁ!それを暴露しないでくださいアルクェイド!」

 

「えーいいじゃん、別に」

 

アルクェイドの言葉に納得する桜と凛。

対してセイバーはアルクェイドに憤慨するが、気にしていない。

 

「私もセイバーと同じく色々あって、

 店員をやることになったんだけど、アーネンエルベに寄っていかない?」

 

紅い瞳をウィンクさせ、

アルクェイドは遠坂姉妹をアーネンエルベに招待する。

 

「……ま、そうね。

 少し暑いし、せっかくだから休ませてもらうわ」

 

「……そうですね、姉さん。

 決着は何か飲んでからもできますし入りましょう」

 

その言葉に姉妹は顔を合わせて一瞬考える。

だが、結論は直ぐに出て、アルクェイドの提案に凛と桜は乗った。

 

「はいはいー。2名様のご案内ー」

 

かくして、アーネンエルベは新たな客人を向かえ入れた。

 

 

 


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