弓塚さつきの奮闘記   作:第三帝国

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第3話「運命の始まり」

時刻は10時を過ぎた。

記憶があいまいで分らないがたぶん志貴と教授でバトっているかもしれない。

 

転生あるいは憑依系主人公はこのようなイベントに即座に介入するだろう。

そして原作キャラが異性ならばここで恋愛フラグとハーレムフラグを立てるのが常道であり、

王道であり、物語を盛り上げる大きな転換点となるのだが――――だが、断る。

 

前も行った通り自分はただの女子高生。

オリ主のような特殊能力も何もない本当にただ憑依しただけ。

介入した所で足手まといどころか、原作通り旧吸血鬼化した挙句被害を拡大させ。

志貴にとどめを刺され、この世から消え去るだけだろう。

 

もしかしたら、運が良ければ再び別の世界に転生するかもしれないが。

人様に迷惑を蒙らせること前提なので正直お断りだ。

 

と、そんなわけで、

ボクは大人しく自宅でごろごろと横になりながら漫画を読んでいるわけだ。

 

やっぱ小林原文の作品はいいねー。

この劇画調な絵が堪らないね特に「黒騎士物語」とか。

まぁ、こんな趣味だから志貴とか男子と話ができても女子とあまり仲良くできないのだろうな。

 

そういえば、戦車と言えば前世で見た「ガールズ&パンツァー」を全部目にしてないな。

というか、全部見る前に転生してしまったから丁度00年代のこの世界で再び目にするまで最低12年は掛るのか。

 

くそ、なんてことだ。

12年なんてとても待てないぞ。

それ以前に西尾維新がどうもこの世界にいないように、

紳士フミカネがいなかったらそもそも作品自体生まれない可能性が・・・。

 

「さつきー、牛乳ないから買ってきなさーい」

 

などと悶々と悩んでいた時。

特大級の嫌なフラグを下の階にいる母親が立てた。

く、よりによって身内から死亡フラグを立てられるとは。

 

「もう10時過ぎているよ、お母さん」

 

「最近物騒だけど、コンビニまで自転車で行けばすぐでしょ」

 

弁解を試みたが即座に正論を以て返された。

うーむ、普段もこうしてこの時間帯に買い出しに行くこともあるから反論しにくい。

でも死亡フラグ的にあまり外に出たくないのだが・・・コンビニぐらいならいっか。

 

それに、自転車だし。

ヘタに変な所に行かなければ大丈夫、かな?

 

「はい、はーい今行きますよー」

 

そうと決まれば早めに行くのが吉だ。

手早く済ませて手早く帰って寝て明日という日常を迎えてしまおう。

 

っと、さすがにTシャツジャージは中ならともかく外じゃ無理があるな。

さてさて、外行き用の服は・・・やば、さっき洗濯したばかりか。

残っているのは明日の制服一式ぐらいしかない。

 

・・・ま、制服でもいっか。

どうせすぐ帰ってくるし学校のシャツの上から適当に上着を羽織って。

下はこれまた学校のスカートに寒いから黒のストッキングを穿いておこう。

 

髪留めも面倒だからストレートでいいや。

思わぬ場所で思わぬ人物から購入した正真正銘の守りの魔術品だけどいいや。

 

ブラは・・・・面倒臭いけど寒いし一応つけておくか。

別に形が悪くなるとか、シエル先輩の胸部装甲の厚さとか。

巨乳防御できそうな胸を持つ真祖の姫とかに出会ったから気にしているとかないから。

 

まったく気にしてない、ないったらない。

 

「あ、お姉ちゃん牛乳買ってくるの?

 だったら、ついでに105円のプリン買ってきて。」

 

下に降りると、

妹が牛乳を入れていただろう空のコップを片づけていた。

風呂上がりのせいか髪が濡れ、顔が少し赤らめ、艶めかしい。

にしてもなるほど、最近妙に牛乳の減り具合が早いと思っていたけどコイツのせいか。

 

さて、ここで妹という単語に疑問を抱いた諸君らに解説しよう。

知っての通り原作における弓塚さつきの家族構成は、予算と時間の都合上ヒロインになり損ねたがゆえにあまり詳しくない。

 

月姫の漫画版、アニメ版でかろうじて両親の名前がわかっている程度である。

が、あくまで公式が設定したわけでないらしく。それぞれ名前が違うというオマケつきで。

 

まぁ、それ以前に両者の月姫ではそもそも吸血鬼化による裏ボスルートすらないせいでロクな出番がなく。

スピンオフ的なメルブラでやっと活躍できるかと思いきや、ネタ枠でしか活動できないのは悲劇というか喜劇というか。

 

あーくそ。

元々さっちんルートはあったというなら、

魔法使いの夜よりもさっさと月姫改訂版を出せばいいのに。

仕事の遅いのはもう慣れているけど、いい加減にしてくれないかな。

だいたい運命の夜系列で食いつなぐのもそろそろ止めてだな・・・・いや、今の自分にはもう関係ないか。

 

話をもどそう。

そんなわけで家族設定が不明確ゆえに想像に任せるほかないのだが。

 

どうも、ここの弓塚家の家族構成はアニメ版基準らしく。

父親はマサハルと読み、母親はユウと呼ばれさらには憶測でしか語れなかった家族が実はもう一人おり。

 

「はいはい、買ってくるから。」

 

「いってらっしゃ~い」

 

この世界では、ボクの妹として存在している。

弓塚さつきに妹がいる事実に初めはかなり混乱したが、今はそういうものだと割り切っている。

 

性格はよく言えば天然、悪く言えばアホの子。

過去に体育倉庫から遠野先輩に助けられ、それが元で現在『遠野先輩』に片思い中だとかで。

今度先輩が家に遊びに来たらフルーツサンドウィッチを食べさせようと計画しており。

 

やっている事が、まんま原作の弓塚さつきで吹いたのが懐かしい。

んで、こうして一生懸命牛乳を飲んでいるとということは・・・はぁ、乙女だね。

 

「あぁ、そうそう」

 

「何?お姉ちゃん」

 

不思議そうに首を斜めに傾け、

ポニーテイルがそれにつられぴょこりと動く。

 

人のことはあまり言えないが、

こんな風に少し無防備なのが萌えポイントだが。

さあ、我が妹よ現実にたえられるか?

 

「貧乳はステータスだ、希少価値があるから安心しろ。

 姉の経験から正直牛乳を幾ら飲んでも成長しないし、別に無理しなくとも志貴は・・・。」

 

「うるさい、うるさい!!さっさと行って来て!!

 妹の気持ちを知っておきながら、先輩を独占する馬鹿姉なんて吸血鬼に血を吸われてしまえ!!」

 

「はいはい、行ってきますよ」

 

ボクと志貴との関係が単に友達付き合いでしかないのを、

『独占する』と表現するとは青春しているねぇ。

 

「まったくもう、まったくもう。

 先輩の具合が悪いからって膝枕してあげたり、

 プールに遊びに行ったりほんとこの姉は妹の邪魔しか考えていないよ!!」

 

何か妙な誤解を抱いている妹の罵声を聞き流しつつ、自転車の鍵を片手に玄関に向かう。

 

 

 

 

 

 

「さて、早くかえりますかな。」

 

買い物は家から出てものも10分で終えた。

コンビニは物騒なニュースとは裏腹に実に平和であり。

教授がいきなり突っこんで来ることや、殺人鬼が惨殺しに来ることもなく。

 

実に、実に平和な時間が流れていた。

 

残る作業は再び全速で自転車を漕いで帰るだけである。

こうなると、死亡フラグにビクビクしていた自分が馬鹿みたいだ。

 

よくよく考えて見れば。

原作、月姫でも弓塚さつきが吸血鬼化しない可能性だってそもそも存在する。

そして、今なら某死亡フラグなセリフを大声で言ってやりたい。

 

もう、何も怖くない。

 

 

にゃ~

 

 

「うん?」

 

などと考えていた時、猫の鳴き声が聞こえた。

視線を横に向けると、狭い路地裏に両眼を光らせた黒猫がいた。

 

まさか、また原作キャラで今度は黒レンなのか?

本当にエンカウント率高い・・・いや確かに街灯にうっすらと映る姿は黒猫だが。

黒レンかと思ったがリボンがないから違うか。

 

にしても自分から寄ってくるとはずいぶんと人懐っこい猫だな。

夜食に購入したフライドチキンの香りにでも誘われたのだろうか。

 

よし、いいだろう。

チキンを餌に、貴様をもふもふの刑を下そう。

 

「少しぐらいなら分けてもいいよ、ほら。」

 

チキンを片手にこっちおいでと手招きするが少しもよって――――。

 

「なっ!!?」

 

来ないと思ったらチキンごと咥えて持って行きやがったよあの猫!!

そして、そのまま路地裏。といっても家と家との間にある隙間に走り去ったし。

 

「くそ、待ちやがれ」

 

買い物袋を手ににしたまま路地裏に入る。

一軒家と一軒家の間にある僅かな隙間の間を走る。

動物は人間と比べて俊敏で、ボクが追いかけても追いつかないはずだが。

 

街灯が予想以上に明るく、前方10メートル先までよく見え。

さらには、逃げる道が一本の道しかないせいか猫の後を追跡できる。

 

待て・・・可笑しいぞ。

なんで『猫の後を追えるんだ』

鳩にしろ犬にしろ、何にしろ人間が真正面から追いかけて追いつくなどあり得ない。

 

 

―――――ドクン

 

 

心臓が跳ねる。

 

 

―――――ドクン

 

 

嫌な予感がする。

 

 

―――――ドクン

 

 

なのに引きずられるみたいに歩むのを止めない。

 

 

―――――ドクン

 

 

『引きずられる』つまり猫は使い魔で囮。おびき出された――――!?

 

 

―――――ドクン

 

 

やめろ

 

 

――――――ドクン

 

 

いやだ

 

 

――――――ドクン

 

 

死にたくない

 

 

前方から強い光が路地裏を照らす。

 

「ここは?」

 

路地裏を抜け、住宅街の中にある小さな公園へ出た。

それも4メートル四方程しかない小さなもので公園と呼ぶには目前の器具がなければ分からなかったと思う。

 

周囲を見渡しても猫はどこにもいない。

いや、いた。目の前に。

 

「手間を掛けやがって・・・・」

 

哀れなフライドチキンはすっかり猫の胃袋に収まったようで、残りカスで十七分割な状態。

 

再度周囲を見渡すが、猫とボク以外誰もおらず。

さっきまで緊張していた自分がまるで道化みたいだ。

 

はぁ、一体全体何しに来たんだか。

猫に夜食が食われたしいい加減帰るか。

 

「野良だか何だかしらないけど、それはボクの奢りだ。ありがたく思えよ」

 

今度こそ帰ろうと視線を猫から外し、元から来た道に振り向くが。

 

 

「いや、その必要はない」

 

 

視界の隅で、

 

 

「使い魔が世話になったようだな」

 

 

黒髪長髪の男が、

 

 

「お礼に貴様の血を頂こう」

 

 

薄きみ悪く半裸Yシャツの男が嗤った。

 

「へ?」

 

前世でゲームキャラの声として、

聞き覚えのある声に思考が停止した直後。

 

ぐしゃり、と首筋から音が出た。

何が起こったのか全く理解できなかったが首の痛みが強制的に現実を認識させた。

 

 

「あ・・・がああああああ!!!」

 

痛い痛い痛い痛いぃいいい!!!

なんで、なんでこいつが・・・こいつが居るんだよ・・・!!?

 

「きゅ・・・吸、血鬼」

 

どうしてだ、どうしてこうなった。

首に噛みついた奴の顔をつかむが全く効果はない。

ああくそ、まるで万力で固定されているようだ、

 

しかも、い、意識が遠い。

抵抗をするがそれもむなしく徐々に力が抜けてゆく。

 

 

血が抜ける

 

 

魂が抜ける

 

 

意識が抜ける

 

 

代わりに別の何かが侵入する。

 

 

体温が低下してゆく

 

 

ヤスリが体を削る感覚

 

 

――痛い

 

 

――――イタイ

 

 

―――――イ・・・タ・・い

 

 

ごとり、と音がした。

 

「あ・・・」

 

ああ、なんだ違う。

自分が倒れただけか。

にしても、前から倒れたはずなのに痛くないな。

 

買い物は大丈夫だな。

中身が散乱したらしいがどれも生ものじゃないし。

けど、それも遠くに感じる。

 

力、入らないな。

地面の香りも分らなくなってきたし。

色の認識も白黒でしか分らないよ。

 

たぶん、これが死という感覚。

ボクはここで死ぬ。

 

 

でもできれば死にたくないなぁ・・・・

 

 

薄れゆく意識の中。

ただこれだけを願い――――眠るように眼を閉じた。

 

 


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