弓塚さつきの奮闘記   作:第三帝国

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大変長らく待てせて申し訳ございません。
いくらリアルが忙しかったとはいえ、感想返しなしな上に三か月も間を空かせたのは自分でもないと思います(汗)

そんな駄目な作者ですが今後ともよろしくお願いします


第4話「それぞれの行動」

「ん・・・ぐ・・?」

 

ずきずきと痛む頭を抑えつつ眼を覚ます。

前後の記憶が定かでなく自分の状況が分らない。

 

しかし、上着を貫通する冷気。

頬についた砂と先ほどまで嗅いでいた地面の臭い。

少なくても自室のふかふかのベットではなく外であるのは確かで。

 

錆びついた工作機械が周囲に鎮座し、

古びたトタン屋根が上を覆っているここは廃工場地帯の一角のようで。

ここは、不良のたまり場として最適な場所であるが何故自分がいるのか思いだせない。

 

ふと、上を見上げると。

トタン屋根の間に空いた穴から夕日が差し込み、さらにうっすらと月が昇っている。

夕日の光は乏しいが、視界はハッキリと工場の隅まで捉えた。

 

・・・・・・まて、なんで【見える】のだ?

【夕日の光だけで】なんで百メートル先の隅までよく見えるんだ?

 

「あ、う・・・」

 

途端、ズキズキと頭痛が襲う。

そして、一斉に流れ込む記録としての記憶。

 

買い物からの帰り。

黒猫に誘われて公園に辿り付く。

後ろから掛けられた男の声を聞いた途端首に痛みが走り―――。

 

「あ・・・」

 

窓ガラスに映るかぎり、

服装は上着はなくなり下に羽織っていた制服だけ。

 

身体、特になし、

首筋にうっすら残る歯痕、赤い瞳と長い犬歯を除けば・・・・・。

 

「・・・・はは、ははは。」

 

鏡に映る姿に乾いた笑いが空しく響いた。

思いついた言葉はなんてこった、こんなはずじゃなかったのに、という単語がぐるぐると頭を駆け巡る。

 

「いや落ち着け、これは夢。

 そう、夢に違いない、こうもあっさりと吸血鬼になるなんてありえない。」

 

そもそも真祖に噛まれたならともかく、

吸血鬼に噛まれて吸血鬼になるにはリビングデッド、グールと段階を踏み永い年月を必要とする。

例外としてポテンシャルが高い人間だとその段階を一気に飛ばし吸血鬼になるが、それこそが原作の弓塚さつきである。

 

だいたい弓塚さつきであり、さつきでない自分がそんな事など・・・。

 

「あちっ!?」

 

だから試しに指先を夕日に当ててみたが指先を火傷した。

痛みが指に走ると同時に即座に傷が修復されて行った。

 

くそっ、本気で夢じゃないみたいだ。

冗談じゃない、自分は平凡な人生を望んでいたのになんでこんな事に?

確かに折角こういう世界であることを知っていたから興味はあったけど――――。

 

「いっ!!」

 

胸が、痛い。

まるで心臓を直接握られているみたいだ。

 

秋にも関わらず体は発汗し、汗が地面に落ちる。

吐く息は荒く、心臓の鼓動が早まる。

 

口に手を当てれば犬歯が伸び、

それだけでなく喉がひりひりと乾きを覚える。

人でなく化け物、吸血鬼としての本能が体に必要な血を求めている。

 

 

   血    

        ヤメロ

 

             血をよこせ

 

 

   五月蠅い

 

 

     血血血血血血血血血血血血血血血―――――。

 

 

 

吸血鬼に成ったばかりの体だろうか、ギチギチと身体が痛む。

喉が水とは別の乾きを訴え、頭が可笑しくなりそうだ。

 

「・・・これが吸血衝動か」

 

頭痛と身体の痛みのダブルコンボ。

風邪よりも辛いが、耐えられないものではない。

【原作知識】として本当の吸血衝動はこれよりも酷いことを知っているからだ。

 

だからこそ、踏み止まれる。

いや、踏み止まらなければいけない。

踏み外せば大惨事になること思えば耐えられる。

 

ゆるりと立ち上がり、

顔に張り付いた土を払いながらより日陰へフラフラと歩む。

 

今の自分に必要なのは、落ち着くまで寝ること。

というより未だ太陽が出ている以上それ以外やることがない。

 

念のためシーツを体に被せ、忌々しい太陽を睨む。

幸い今はまだ『人』としての意識があるので何とかなりそうだ。

それでも、血を補給せねばそれこそ無差別に襲いかねないので何とかせねばならない。

 

「お休み、にしても新聞紙や工事用のシートがこんなに温かいとは・・・・。」

 

瞼が下がり、再び視界が暗く染まる。

寝てる間にシエル先輩に襲われないように祈りつつ意識が遠のいた。

 

 

 

 

 

『臨時ニュースです、弓塚さつきさんの物と思われる――――』

 

昼食の時間、弓塚さつきを除く3人で昼食をとっていたが、

テレビから流れたニュースに遠野志貴ならびに、3人は凍りついた。

 

たしかに今朝から見当たらないと思ってはいたが、まさかこんなことになるなんて――――。

 

「・・・・・おい、遠野。お前昨日一緒に帰ったんだろ。なんかしらねーのか?」

 

遠野志貴にとって小学校以来の腐れ縁の有彦が急かすように問いただす。

しかし、あの坂で別れてからは昨日はまったく彼女には接点がないので答えようがなかった。

 

「・・・・・いや俺はまったく。」

「そうか・・・・・・・・。」

 

そう言うなりしんみりと黙ってしまった。

あまり他人に関わり合わない人間であるがやはり弓塚のことが心配なのだろう。

 

そういえば朝から「この学校の生徒が行方不明になった」という噂が流れていたが、

関係ない噂と思っていたけど、まさか―――――志貴はふと昨日の事が思い出させる。

 

 

『じゃあな、また明日』

 

 

そう彼女は夕日と共に別れた。

志貴にとって弓塚とは、中学以来からの付き合いのある友人だ。

 

彼女は今でこそ、女学生という身分に馴染んでいるが、

同じクラスメイトとして会った時は今以上に自らクラスメイトと壁を作っていた。

 

性同一障害とよばれる症状がある。

肉体と精神が一致しない症状で、原因はよくわかっていない。

たしかに言えることは、精神と肉体が一致しないことだ。

 

『弓塚は性同一障害なんだ、みんな気にせず仲良くするように』

 

中学の始まり、

不機嫌そうに教師の隣に立つ少女について教師が言った。

当時の教師の発言は弓塚のために言ったつもりであったが。

 

集団とはしばし、異分子を排除、排斥する傾向がある。

しかし、人は知性と精神の成長と共にそうした行為を【悪い事】として抑えるようになる。

 

が、ついこの間までランドセルを背負っていた子供にそれを期待するのは無理な話で。

男子からも女子からも疎外されクラスで孤立していた。

 

そんな彼女と性別を超えた友情?を結んだのは。

 

恐らく、遠野家から追い出されれて以来。

自分と言う存在が先生に諭されたとはいえ不安定で、どこか他人事でなかったからかもしれない。

 

たしかに有間の家は自分を家族として迎え入れた。

でも、どこかで自分は他人と感じていたし。

自分は遠野から捨てられたという事実をずっと気にしていた。

 

ゆえに同病憐れむ、というわけではない。

傷口を舐め合うという意味でもなく。

ただ、一人くらい彼女の隣に居てやりたいと思ったからだ。

 

「遠野君、弓塚さんのことが気になるのですか?」

「ええ、友達ですから。」

 

何気なくシエル先輩の質問に答える。

 

「・・・・恋人とかではなかったのですか?」

「ぶっ!!!」

 

突拍子のない言葉に志貴はお冷を吐き出し、

対面にいた赤毛の親友に掛ったが、非常に些細なことである。

 

「先輩、正直ありえませんよ。あの弓塚に限って。

 あいつはそうした恋沙汰の話に興味こそあっても自分がそうした関係になることをかなり嫌ってますし」

 

なにせ、昔バレンタインデイは製菓会社の陰謀、

撲滅すべきと言って俺たち3人で馬鹿やっていたくらいだしな、と志貴は内心で呟く。

 

「まあ、遠野君がそう言うならば。そういうことにしておきましょう」

「いや、そういうことって・・・誤解ですって先輩」

 

によによ、と擬音がついてそうな笑顔で志貴を見る眼鏡の先輩。

どこぞの行きつけの病院のお姉さんと同じく可愛い年下を温かく見守るような表情をしている。

 

こうなったら、経験則からしていくら弁解しても無駄だ。

むしろ、弁解すればするほど生温かい視線で見守られ、おちょくられるだけである。

 

その点、あの吸血鬼は単純だったな。

と、志貴は思った。

 

 

 

 

 

「ねえ、お姉さん」

「はい?」

 

ネオンの光で満ちている街中と違い。

住宅街は街灯以外の光はなく、道に人がいないことも合わさって静かな空気が流れていた。

 

が、そんな空気を壊すようにボクはできるだけさりげなく。

まさに偶然後ろに居たかのように女性に呼びかける。

 

相手は一瞬驚いたが、同性と知ったのか。

無防備にもこちらをまったく警戒していない。

 

だから、すまない。

自分の生存のために犯罪者になってくれ。

 

「ボク の 言うこと ヲ 聞 イて」

「え、あ、」

 

言葉に獲物・・・いや違う。

相手にしてもらいたい願いを込めて

 

今の所血の欲しさに人を無差別に襲う可能性はない。

しかし、吸血鬼に血が必要なのは変わらぬ事実。

 

いずれ、限界が来て無差別大量殺人を起こすか。

あるいは、ヘタに動き回ってシエル先輩に殺されるのかの未来が訪れるだろう。

だからこそ夕方から吸血鬼特有の驚異的な視力で遠くから病院を監視する。

街中、ということもありすぐに病院関係者と思わしき人物に暗示をかけず、

 

その後を住宅街まで追跡、

いかにも偶然あったかのように相対し、

吸血鬼の能力である暗示で病院関係者に輸血パックを盗りにいかせることにした。

 

これなら自分の身を晒すこともなく、

なおかつ大量殺人を行う必要もなくなり万々歳なのだが、

 

相手は頭を抑え倒れ込んだにもかかわらず。

罪悪感を感じないどころかもはや【餌】としか認識していない自分がいやになる。

 

そして10秒ほどだろうか。

やがて被害者はスッと立ち上がった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

暗示を受けた女性はじっとこちらの命令を待っている。

その瞳はうつろで表情にも生気を感じられなくない。

 

「病院から輸血パックをとってきてくれないかな。」

「ハイ、ワカリマシタ。」

 

暗示は成功、頼りない足どりだが病院へと歩き出す。

これでなんとかなりそうだ。

 

 

 

 

「コレデス。」

 

待つこと1時間。

念のため視界共有をしていたが、やはりと言うべきか。

夜勤の同僚に輸血パックを持ち出すのを発見されそうになったので、

遠隔操作に切り替え、四苦八苦しながらも無事輸血パックを持って来てくれた。

 

3リットル分の輸血パックが入った保冷ボックス。

今の自分にとって同じ重さの純金よりも貴重で価値のあるものだ。

 

「ありがとう。家に帰ったら元に戻っていいよ、後今日の事は忘れてね。」

「ワカリマシタ。」

 

操られた女性は命令を聞き、進む方角を変えすたすたと歩く。

帰りは行きよりも確かに駅の方角へ進んでいった。

さて問題は

 

「取りに行かせたはいいけど果たして飲んで良いものか・・・・。」

 

今更ながら思うのだが『血を飲むとかえって暴走するのでは?』という疑問だ。

へたれTS系ヒロインに『奇跡的な精神力で克服する』なんて根性はなく、情けないが怖気ついてしまう。

まして、奇跡とはめったに起こらないからこそ奇跡であって自分にそんな運があると安易に信じたくない。

 

自慢だが、幸運E気質なとしてとても・・・・。

 

「っつ!!!」

 

ドクリ、と体の中の何かが騒ぐ。

そして、体の内から破壊と殺りくの黒い衝動があふれ出る。 

 

「ひ、あ、ああああああああああ。」

 

体中が痛む、反転して自分でない何かが表に出そうだ。

生きるためには血が必要であるのは理解している、でも人としての抵抗感がそれを拒んできた。

 

でも、今はとにかく血が欲しいという衝動に駆られ、無意識に輸血パックに手を伸ばす。

そして、赤い液体が詰まった袋のキャプを外し、誘われるように噛みつきゆっくりと吸い上げた。

 

水よりも粘着質が高い赤い液体はさながら泥のようだ。

が、別に味が悪いという意味ではない。

むしろ力が沸く。

 

上を見上げれば、満月ではないがスモッグまみれの都会の中月がはっきり映し出される。

皮肉なことに人であったころはよく見えず理解できなかったが

 

今夜はこんなにも――――――

 

「月が奇麗だな――――――。」

 

路地裏から見上げる月は前世も合わせた中で一番綺麗に輝いていた。

 

 

 




感想返しは随時行います。

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