弓塚さつきの奮闘記   作:第三帝国

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いよいよ明日!
ついに念願のリメイクが出るで書けました!


ACT.15「昔話」

「志貴、貴方にとって弓塚さつきはどのような存在ですか?」

 

いよいよタタリと対峙する道中、シオンは突然そう切り出した。

視線は先ほど俺に自分とタタリの関わりを語った時と違い、刺々しい。

 

「どのような存在って・・・」

 

シオンにしては抽象的な問いかけに俺は戸惑った。

 

おまけに刺々しいけど気のせいかシオンはどこかで怯え、

今までにない未知を知って感情の整理ができていない、ような・・・。

 

ここは、そうだな・・・緊張をほぐすために――――。

 

 

1、遠野家の新人メイドだな、うん!

2、ただの友人だよ。

3、今のところ、全然わかんないのよねー。アハハハ!

4、強敵と書いて友と呼ぶ!

 

 

「遠野家の新人メイドだな、うん!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」

 

渾身のキメ顔でそう言った。

計算外の回答を聞いてシオンは混乱している。

 

こうかはばつぐんだ!

 

・・・だが、これは冗談ではなく本当の話であり、一応理由もある。

原因は吸血鬼になって太陽の下を歩けず、人としての日常生活を過ごせなくなったせいだ。

とてもじゃないが自宅に帰れないし、万が一の事を考えると遠野の屋敷にいた方が対応できる。

 

だから現在は「遠野家で保護、養われている魔」という立ち位置に落ち着き、

普段は屋敷で琥珀さん、翡翠と一緒に働く夜間限定の新人メイドとして働く日々を送っている。

 

なお表向きは、

 

「行方不明になった弓塚さつきは発見されるも、

 家庭の事情で学校は一度休学し、遠野の屋敷にて住込みで働きつつ、夜間部へ編入した」

 

という形で必要書類の提出や暗示、アリバイ工作をしている最中だ。

もう少しすれば夜間だが復学も夢ではない。

 

それで新人メイドとして働くさつきについて遠野家の反応だが、

まず秋葉は・・・ロア、もとい四季さえ殺せばさつきが吸血鬼ならずに済んだから責任を感じている。

 

だけど、同じ「魔性」で表の世界には出せない悩みを抱えているから、秋葉とさつきの仲は悪くない。

一時期は互いに殺し合った仲だけど、それはそれで仕方がなかった事だと納得している。

 

翡翠は部外者が来たことで当初は警戒していたけど、

朝に俺を起こしに行く仕事を奪わないし、力仕事で頼りになる存在と認識してくれるようになった。

 

それと意外だけど翡翠がメイドとしての礼儀作法をさつきに教育する役割を自分から志願した。

言い出した時は俺や秋葉だけでなく、琥珀さんまで見たことがない顔で驚いたな、あれが素なのか?

 

琥珀さんは「し〇じろうゲットだぜ!」とさつきに対して好意的である。

さつきの方も『面白い人』と好意を抱いているけど時々距離の取り方を図っている気がする。

理由は分からないけど、それで仲が悪いところなんてないし、ゲームとか一緒によく遊んでいる。

 

それにしても同級生で中学以来の女友人が自宅でメイドさんとして働いている。

 

なんてシチュエーション、琥珀さんが『エッチなゲームみたいですね、志貴さん!』なんて煽った通りである。

 

制服や私服姿には見慣れていたけど、翡翠と同じメイド服姿はなんだか新鮮だし、

仕事モードの時は翡翠とよく似た音色で『志貴様』と言われるからドキドキする。

 

基本活動時間は夜間だけど、

夜明けの直射日光対策に白の手袋とフードを装備してる上に、

夜にシエル先輩、アルクェイドと活動する時もあるから靴は頑丈な編み上げブーツ。

などなど、と露出度がかなり低いから翡翠より清楚感が1割程増している。

 

しかもメイド服を着用している時の髪型は、俺はわりと好きだけど最近みかけないポニーテール!

館の主人として、友人として渾身丁寧な土下座を以てお願いしたらさつきはドン引きしたな。

だけど髪が伸びてたからポニーテールにしてくれたし、最後は写真撮影まで同意してくれた。

 

メイド服!同級生!ポニーテール!

今、俺は声を大にして言いたい、性癖のバーゲンセールや!

 

答えは得た。

大丈夫だよ、先生。

俺もこれから頑張って――――。

 

「志、貴」

 

むらさきいろの、おにがいた。

めらめらと、ほのおをまとっている。

 

「怒ってないので、真面目に、考えた上で、答えて下さいね、ね?」

 

シオンが優しく微笑む。

うん、こうしてじっくり見るとなかなかの美人さんだ。

 

だけど米神に青筋を浮かべていなければ、

それと頭部に拳銃を押し付けられてなければ、よかったんだけどな――――・・・。

 

「ははははは、

 ごめん、ごめんシオン。

 ちょっと緊張を解そうと思った冗談だよ、冗談」

 

「ほう、確かに緊張は解れましたが、

 私の中で怒りという名の感情が上昇しているのを報告します」

 

・・・・・・おうぅ、ゴット。どうやらお気に召さないようだ。

 

「そもそも――――私は一度弓塚さつきに対して殺意を以て攻撃した。

 弓塚さつきは貴方にとって大切な人間では?にも拘わらず、

 何故貴方は私と共にタタリの討伐に同行しているのですか?理解できない」

 

・・・どうやら、さつきだけでなく、

俺もシオンからすれば理解できない存在だったらしい。

 

だけど、安心する。

シオンの悩みはこの程度の話だったのだから。

 

「や、シオン。

 それを言い出したら俺はアルクェイドを17分割したし、

 シエル先輩は対吸血鬼装備でさつきを殺そうとしたし、

 秋葉なんかは全身から体温を奪って殺そうとしたりと、

 両腕を切り落としたシオンよりもっと本気で、確実にさつきを殺しに来たぞ」

 

今は遊びに行ったり、デートするような関係だけど。

出会ったきっかけは常に殺し合いだ。

 

シエル先輩はさつきを吸血鬼として討伐しようとした。

さつきはシエル先輩の足をフライドチキンの感覚で食べた。

秋葉はさつきを即身仏にするつもりで殺そうとした。

俺は、と言えばアルクェイドを一度バラバラ死体にした。

 

それでいて、今は互いを信頼、信用している。

因果関係を思い返せば色んな意味で無茶苦茶な関係である。

俺たちの人物関係を『殺し愛な関係』とボヤいたさつきの理屈も頷ける。

 

「・・・・・・・・・すみません、知れば知るほど意味が分かりません」

 

シオンが頭痛に堪えるように頭を抱えた。

まるで深淵でも覗き込んだみたいだ。

 

「もう、見ました。ええ、見ましたとも。

 自分の在り方、矛盾点をよもや弓塚さつきを介して知り、

 知らない方が幸せだった事実、厄介な事実を知ることになるとは・・・本当に」

 

ハァ、とため息をシオンが吐く。

 

「え、そんなに凄いのか?さつきって?」

 

俺なんかよりも遥かに頭が良いシオンの口から、

よもやさつきが厄介な存在と評価するなんて予想外である。

魔女や代行者、魔術師、吸血鬼が蔓延るこの街のヒエラルキー的にまちがいなく最下位だと言うのに。

 

「規格外筆頭の貴方が言う台詞ですか!

 第一・・・話がそれましたね、もう一度質問します。

 志貴、貴方から見て弓塚さつきはどのような存在ですか?」

 

理性を伴った鋭利な視線でシオンが問う。

 

「別に、さつきは今でこそ吸血鬼、死徒だけど、

 俺からすれば中学からの友人、腐れ縁な仲に変わらないけど・・・。

 うん、俺は壊れた存在でお互い「普通」じゃなかったから、気づいたら一緒にいた感じかな?」

 

「壊れた存在・・・?」

 

我々魔術師の方がよっぽど壊れている。

と、言いたげで疑問を抱いていそうなシオンに対し、

目の前の相手に対してではなく、自分自身へ自分を語るように語る。

 

幼少期、俺は俺のルーツ。

七夜という名、それと四季とあの事件を忘却した事。

 

そして臨死体験をした挙げ句この「眼」を手にいれた事。

「先生」と出会って、生き方を覚えた事。

 

しかも俺には本当の家族、血縁上の父親母親を知らない事。

まったく記憶にないし挙げ句、一度遠野の家から追い出された事。

 

分家の有馬の家で育った事。

そして再度遠野家で暮らすことになった事。

 

その全てをシオンに語った上で綴る。

 

「そんな感じで俺は世間一般の人とはあり方が少し特殊なんだ。

 俺は死を理解しすぎているし、悟り過ぎている、壊れたヤツなんだよ」

 

しかも俺は人より体が弱い、脆い。

それを悪意を以て、または善意で以て指摘され、劣等感を覚えた事だってある。

 

それに「眼」を手にいれてからは信じている世界はこんなに脆く。

容易く死ぬことを理解してしまった。

 

だから俺は達観していた、俺自身を。

俺は傍観していた、この世界を。

 

そんな中、俺は同類である乾有彦と出会った。

同じ壊れた者同士、アイツがいなかったら遠野志貴はかけがえのない幼年期を無駄にした筈だ。

 

さらに中学に上がった時。

似たようなお仲間ともう1人巡り合えた。

 

「さつきは俺と同類、ああ見えて似た者同士なんだ。

 今でこそ、自分の立ち位置や振る舞い方に妥協を見出したけど、

 出会った当時のさつきは、心と肉体に折り合いがつかなくて苦労していたんだ」

 

中学時代、不機嫌そうにしていた彼女の顔はよく覚えている。

漏れ聞こえていた小学校時代の武勇伝やら迷勇伝で名前だけは知っていた。

女の子だけど男だと主張している変な奴がいる、という噂だけは耳にしていた。

 

そして、子供とは善悪の区別が未完成で、物語に出てくる妖精みたいな存在だ。

感情の制御ができていないから簡単に喧嘩になるし、【異物】に対して悪意なく暴力を振るう。

だから苛めがあったし、さつきは苛めた相手に対しては割と同じ暴力で対応したようだ。

 

それでいて苛めの証拠をガッチリ押さえて裁判沙汰を目論んだだの、

何というか・・・可愛い顔をしていて、小学生らしからぬ可愛げのない話ばかり聞こえていた。

 

「・・・・・・魂と肉体の不一致、もしくは――――」

「シオン?」

 

ボソッとシオンが呟いた。

 

「いえ、志貴。

 話を続けてください。

 貴方が語る貴方自身の在り方。

 それと弓塚さつきの人物像はとても興味深い、続けて下さい」

 

「うん、分かった続けよう」

 

シオンに催促されたので語りを再開する。

 

中学時代。

相変わらず体が弱い俺はよく保健室でお世話になった。

酷い時は自力で保健室へ行けないからそんな時はクラスの保健委員が付添人として、

保健室まで案内する事になっていけど――――その担当が弓塚さつきだった。

 

『ふぅん・・・三次元だとこんな感じなんだ、遠野君は』

 

始めて会話した内容はたしかこんな感じだった。

失礼、というよりも不思議な物言いだった。

純粋な好奇心、そんな気がした。

 

『そういう弓塚さんだって、同じ三次元じゃないか』

『ボクは異次元からの来訪者なんだよ』

 

意味不明なやり取りだった。

まだ親しくなかったが一人称がボクと言い、噂通りの変人だと思った。

 

男子とは喧嘩し、女子とは話が合わず孤立。

その癖、しっかり勉強していたから成績は上位をキープしてた自称心は男な問題児。

 

だけど、小学生以来。

誰もが臨死体験を得て纏った俺の「死」の気配に怯え、

隣の席に座るのを嫌がられる中、彼女は平気な顔をしていた。

 

『ほら、手を出して。

 あるいはボクの肩に手を添えるんだ。

 どうせ自分で歩くのも辛い、違うか?』

 

『うん、そうだけど・・・。

 弓塚さんは良いの?噂になるよ?。

 それに俺、遠野の家だけど今は有馬の家にいるんだよ?』

 

今でこそ馬鹿みたいな話だと言えるが、

中学校では男女が触れただけで付き合っているだの揶揄された。

 

加えて遠野家と言えば表向きは財閥の名士として三咲町では有名な家だ。

そこから表向き長男にも関わらず放り出された『訳あり』な俺と好んで関わろうとする同級生は稀だった。

 

『噂の伝播速度は音速並、

 プライバシーなんて基本ない存在、地方あるあるだな。

 そもそも、本当の意味で『訳あり』なら遠野君は今頃『有馬君』と呼ばれていたはずなのに、

 未だ『遠野君』とボクから呼ばれている辺り、我々子供がそこまで心配する話じゃないと思うけどね?』

 

さつきはそう言うと鼻で笑った。

思い返せばさつきは年齢と知性が一致していない頭の良さがあった気がする。

 

うん、そうだ、シオンと話している内に思い出して来た。

さらに、さつきは言ったんだ。

 

『それに、ここで遠野君に胡麻を擦っておけば、

 将来の就職的に有利になるだろうしね、源氏バンザイ!

 遠野グループバンザイ!ビバ、親方遠野グループ!なんちゃって・・・』

 

あははは、これには思わず噴き出したな。

普通は玉の輿狙いだろ!と突っ込みそうになったよ。

 

それで俺は確信した。

弓塚さつきは俺や乾有彦と同じく「普通」じゃない仲間なんだと。

 

『変わっているね、弓塚さんは。

 いや、故障しているね、弓塚さんは』

 

『割と笑顔でキツイ事言うね、君。

 しかし、故障、故障かぁ・・・まっ、そうかもね今後とも、ヨロシク』

 

それが俺と弓塚さつきの出会いだった。

 

「と、まあ。

 そんな感じで有彦と3人でつるんできたんだ。

 俺が言うのも何だけど・・・一般人の生活なんて、その・・・。

 シオンみたいな頭が良い人間が聞いても面白い話じゃなかったと思うぞ?」

 

「そんな事はありません。

 志貴の昔話を聞いて私は優越感を得てますし、

 主観を介して語られる弓塚さつきの人物像はデータ収集の一環として貴重です」

 

ドヤ顔でシオンは胸を張った。

何で俺の昔話を聞けて優越感を得ているのか謎だけど、

悲壮な覚悟を抱いていたシオンの緊張が解れているので、それで良いか。 

でも「データ収集の一環」と言うあたり、シオンらしくてうん、好きだな。

 

「・・・っ、ゴホン!

 私の計算によればまだ時間はあります、続けて下さい」

 

「おいおい、大丈夫なのか?」

 

時間はある、と断言したけど。

シオンは何だか途中から目的と手段が逆転してしまうような、

そんな頭の良さがある気がするから――――少し、ほんのちょっと不安だ。

 

「問・題・あ・り・ま・せ・ん!

 後はあのビルの中に入ればいいだけではないですか!

 何ですか?戦う前に私の緊張感をほぐすつもりではなかったのですか!?」

 

顔を赤らめつつ、目の前にそびえ立つビル。

「シュライン」を指さしながらシオンが吠えた。

 

「はいはい、分かりましたよ」

 

どう見てもムキになっている。

なんて事は口にせず、俺は要望を了承し、

かまって委員長気質のシオンの期待に応じるべく、

戦う前の短い時間だけど、俺は俺の物語と昔話をシオンに語り続けた。

 

 

 

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