弓塚さつきの奮闘記   作:第三帝国

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月姫プレイしてます。
初っ端から新キャラ登場してわくわくしてます。


令月余話
乾有彦ノ章


遠野志貴はオレと同類の「壊れた」奴だが、

アイツの壊れっぷりはそれ以上の筋金入りだ。

 

「命」の実感なんて羽毛以下の重みしかなく、死体が動いているような奴だ。

今はマシになったけど、大昔のガギの頃なんざ「死」の気配マシマシのヤベー空気を纏っていた。

 

どうしてそうなったかなんて分かんねーが、

確かに言えることはアイツは昔から体が極端に弱かった。

小学生のガキの頃なんて軽く運動しただけでも救急車で運ばれた時もあったくらいだ。

 

思えばいわゆる日常を過ごすだけでもアイツにとっては多分、命懸けだった。

常に死ぬかもしれない可能性が日常生活に潜んでいる・・・となれば、まあ「壊れて」当然だな。

 

で、そんな奴の一番ダチがこの乾有彦様であり、

オレも色々あって同じく「壊れた」奴だけど、幸いと言うべきか身体は健康そのもの。

お陰様で今日まで日々好きな事をしたり、愛を囁いたりと自由気ままなナンパ人生を謳歌していけている。

 

だが、どうも最近風向きが変わってきたようだ。

ナンパは失敗続きで、上手く行っていないし、悪い運ばっか引き寄せている。

 

対してダチの方は本家とやら戻ってから急に華やかになりやがった。

枯れ木も山の賑わい、どころかここ最近は満開の桜が咲き誇ってやがる!

 

しかも、しかもだ――――。

 

「弓塚、お前、マジで遠野のとこでメイドしてたんだな・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 

メイドがいた。

弓塚さつきがメイドをしていた。

 

久々だけど何だが以前より女性の色気が増して美人になっていた。

いや、元々顔立ちは可愛い系だし、黙っていれば上玉だし、ビックリだぜ。

 

現代の吸血鬼騒動とか言われている殺人事件で一時期行方不明になり、

無事保護されてるも、家庭の事情で遠野の屋敷で働くようになったと聞いたけどさ・・・。

 

それよりも髪型が変わっていた、ポニーテールだ!

オレはストレートの方が結構好きだけど、メイド服とセットなポニーテールも悪くないなっ!

安直な「萌え~」なメイド服ではなく、実用的かつ機能美と装飾美のバランスが取れているのが良い!

 

メイド服!同級生!ポニーテール・・・そしてボクっ娘!

今、オレは声を大にして言いたい、性癖のハッピーセットや!

 

って・・・落ち着け、オレ。

思考が馬鹿をしている志貴レベルに堕ちている。

文章で状況を纏めて落ち着くんだ・・・よしっ!

 

『同級生にして中学生からの腐れ縁である弓塚さつきが親友である遠野志貴の家でメイドをしていた』

 

・・・やべー、文章に変換するとますます意味が分かんなくなる。

常識とか良識に喧嘩を売り過ぎだろ、現実にあっちゃ駄目な奴だろ?

 

エロいゲームの世界だろ?18禁設定だろ?

なんでさ♪なんでさ♪なんでさ♪なんでさ♪

 

いや、なんでさ♪って何だよ。

嗚呼、ビックリしすぎて脳みその理解が追い付いていない。

つーか、よもやオカルトよりも怖い現実がまさかあるなんて・・・。

 

くっそ、これが深淵って奴か。

だとしたら聞かなきゃならない事が1つあるな――――。

 

「その。なんだ、えっと・・・。

 『志貴様』って事はそういうプレイなのか?

 もしかして、まさか、もう既に調教済みなのか!夜の御奉仕的な――――!!!」

 

「んなわけあるかーーーーー!!?」

 

「ちょ、おわああああああ!!!」

 

胸元を掴まれたけど・・・足が地面から浮いているぅぅうう!?

いくら女子の中でも体力がある方だとはいえ、ここまでの馬鹿力はなかったはずだ!

しかも、オレが足をバタつかせても弓塚の方はまったく影響を受けていない、どんな筋力してんだよ!?

 

「あ・・・あぁあぁあ――――!ご、ごめん!大丈夫?」

 

顔を青くした弓塚がオレを慌てて下ろす。

 

「ゆ、弓塚――――」

 

痛くはなかったけど、腰が抜けたぞ。

という言葉を言おうとしたが弓塚の顔を見て撤回する。

 

――――なんだって、そんな泣きそうな顔をしてんだよ、オイ?

 

「おいおい、服が伸びちまったじゃないかよ、わははは!」

「・・・・・・・・・」

 

弓塚は驚いた顔でこっちを見ている。

だけど、まだ心配そうに、怯えるようにオレを見ていた。

 

「心配すんなって、

 オレは不良だけど筋を通す良い不良で、

 弓塚がどんな事になってもダチだし、嫌う事なんてないぜ」

 

「・・・っぷ、あははは!

『良』の字に否定の『不』を書き足した『不良』

 だから良い不良なんて矛盾の極みじゃん、有彦!

 でも、うん、有彦のそーいう真っ直ぐな所、助かる・・・ありがとう」

 

オレの言葉を聞いた弓塚はひとしきり笑ってから、微笑んだ。

色気を帯びたその仕草にオレは一瞬、表現し難い違和感を覚えた。

 

「有彦?」

 

「いや、弓塚。

 なんでもねー。

 へへへ、どーいたしまして」

 

己の馬鹿さ加減にオレは笑う。

あほ臭い、色気は色気でも、女性ではなく【美しい獣の色気】

なんて詩的でオカルトな言葉、どうしてオレの中で浮かんできたんだろう?

 

「2人ともじゃれ合いはさて置き、

 久々に3人で集まれたんだから乾杯しよっか?」

 

「お、そうだな!そうしようぜ!

 気を取り直してメイドっちんのコーヒーを飲もうか!」

 

「メイドっちん、って何やねん」という小言を受けつつ、

あの忌々しい連続猟奇殺人事件以来、ようやく揃った3人で久方ぶりの祝杯を挙げた。

 

「――――うめぇな!喫茶店の味じゃん!」

 

銅製のマグカップには氷が浮かんだアイス珈琲。

対してオレが知る珈琲とは「コーヒー」でしかない。

ファミレスとか、缶とか、インスタントの物しか知らない。

 

だから断言してもいい。

これは間違いなく喫茶店に出てくる本当に美味い珈琲、って奴だ。

 

「早朝屋敷でボクが焙煎したばかりの、良い珈琲豆だからね、

 紅茶は琥珀さん、翡翠さんには及ばないけど珈琲なら何とか勝負できるよ」

 

「屋敷で焙煎って・・・流石金持ち。

 というか弓塚が焙煎したのか、すげぇ!

 そーいや、弓塚は小学生の頃から珈琲飲めたと言ってたな」

 

弓塚は昔から珈琲が飲めるし、好んで飲んで、自分で作っていた。

小遣いを貯めては珈琲の器具を揃え、わざわざ豆を買いに行っていた。

なんというか趣味嗜好、それと思考の全てが他の誰よりも一歩どころか三歩以上進んでいた気がする。

 

「焙煎機材は今は亡き親父のコレクション。

 ・・・もとい、ガラクタとして放置してた奴をさつきが再利用したんだ。

 顔なんて録に覚えてないけど、今こうして美味しい珈琲が飲めるんだから親父殿には感謝だな」

 

わざとらしく黙祷する志貴。

ガキの頃から人畜無害な顔をして結構な毒舌を吐く奴である。

 

「ん、でも金網で焙煎するのと仕組みが違うし、

 秋葉様・・・秋葉さんからは味についてアレコレ小言を言われているからまだまだ精進しないと」

 

「あははは、兄貴の俺が言うのもあれだけど、

 秋葉は根っこからの女王様気質で言い方がキツイからな。

 でも、なんだかんだで琥珀さん、翡翠も含めて皆で珈琲を美味しく飲んでいるし」

 

2人にしか実感できない内輪の話。

だけど、弓塚がこの屋敷で居場所を作れたのと、穏やかに過ごせている事だけは理解できた。

 

「上手くやっているから安心したぜ。

 でも弓塚はスゲーよな、住込みでメイドとして働いているだろ?

 その上でもうすぐ夜間高校に通うなんてオレ、本気で尊敬するな」

 

弓塚は不良街道を爆走するオレと違って、

根っこの部分は勉強を頑張れるし、家族だってちゃんとある。

にも拘らず何で「お〇ん」の真似事をする羽目になったんだが・・・本当、カミサマって奴は。

 

「お褒めの言葉、感謝乙。

 でも、まさかボクがメイドするなんて想像できなかったよ。

 描いていた未来なんて精々、高卒後地方公務員で就職。

 あるいは大学進学のために上京して就職する程度だったし」

 

「就職かぁ・・・あー、ヤダヤダ。

 未来永劫、気楽な学生身分にいたいな――――・・・」

 

もはや呪い、呪詛の概念と化した言霊だ。

しかも世の中に流れる評判によれば大卒でも就職は厳しいらしく、

今が楽しければ良い、そんなオレとは正反対な概念なんて耳にするだけでも鬱になりそうだ。

 

「ふふん、俺には関係のない話だね。

 なんだってこう見えても遠野財閥の長男だしな」

 

「あぁん!働かずに食う飯はうまいか?

 最近身の回りが華やかになっているからって調子に乗るんじゃねー!」

 

ドヤ顔を浮かべるアイツに噛みつく。

 

「もちろん美味しいさ!

 毎朝翡翠が起こしに来てくれるし、

 毎朝琥珀さんが美味しいご飯を作ってくれる!

 いやー、御曹司として生まれて本当によかった、働かずに食う飯はうまいなぁ!」

 

「くっそ!ブルジョワめ!滅びろ!滅びてしまえ!」

 

忘れがちだが、コイツは金持ちな家系生まれだ。

成金とかではなく、地元三咲町では代々名士な家柄だ。

 

だから不良なオレと志貴がつるむの件について昔は「忠告」してきた大人がいた。

ま、単にオレの反骨精神を滾らせただけに終わったけどな!

 

「あははははは!!」

 

そんな野郎2人の漫才を見ていた弓塚が心底おかしそうに笑い声をあげている。

女性的、というより男性的な笑い方で、どこも変わっていない事が確認できて安心する。

 

「本当にこの関係は良いね、うん。

 ・・・やっと日常に戻った、帰ってこれたと実感できたよ」

 

笑いながら、安堵するように弓塚が呟いた。

 

「おう、だったら今日はトコトン馬鹿話しよーぜ!

 何つったて、麗しき学生時代なんて一瞬に過ぎちまう!一秒一瞬が愛しいぜ!」

 

オレの言葉にどうしてか弓塚は虚をつかれた顔を浮かべ、

 

「――――永遠なんて少しも欲しくはない、だったかな?」

 

そんな言葉をフレーズに乗せて口にした。

ここではないどこか遠く、懐かしそうに。

二度と戻れない場所を見るかのように、呟いた。

 

「――――さつき」

 

「あっ・・・ごめん、変な雰囲気にしちゃって!

 じゃあ、話そう!今日はもう仕事がないし、とことん話そう!」

 

志貴の催促に弓塚が我に返る。

オレはなんとなく2人は共通の秘密を抱えているのを察した。

 

たぶん、あの連続殺人事件がきっかけだ。

きっと、オレが知らぬ間に何かがあったんだろう。

おおかた、オレには関われない何かを経験したんだろう。

恐らく、オレには助ける手段もなかったのだろう。

 

「おうよ、望む所だぜ、さっちん!」

 

ま、それでもオレはオレだ。

オレが2人の友人であることに変わりないし、

2人もオレがそうであり続ける事を望んでいるに違いない。

 

オレは乾有彦。

遠野志貴と弓塚さつきの親友。

それ以上でもそれ以下の何者でない。

 

それだけさ。

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