弓塚さつきの奮闘記   作:第三帝国

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MMD製作にハマってSSがおざなりになっておりました(汗)
正直スマン


第8話「それぞれの思惑Ⅱ」

「――――――――――」

 

繁華街の裏、暗く入り組んだ路地裏を男は走る。

背広や靴に埃やゴミがつくが男はそれに気にかけない。

というよりも、男は既に人として死んでいるようなもので気にかける意識自体なかった。

 

しかし、それでも男は生存本能に従い走る。

後ろから迫ってくるより人でない存在から逃れるために。

 

「――――ちっ、意外に早い」

 

10代半ばの少女であった。

華麗や美人というよりも可愛らしい顔つきをして彼女は、

学園のアイドルまではいかないがクラスのアイドルになれる逸材であろう。

 

が、そんな彼女は今現在地面に足を付けず、

アクション映画か何かのように風を切るがごとく壁を跳躍し男に迫って来ている。

女学生の平均的な身体にも関わらず人を超越した動きは異質さを強調していた。

 

やがて猫と裏の住民を除き、

誰も来ることもない路地裏の奥の奥まで行き、ついに行き止まりに辿りついた。

 

「……………」

 

男は生気がこもってない瞳で辺りを見渡すがどこも逃げ道はない。

先ほどから追って来る自分より強力な人外を感知して真後ろを振り向く。

 

「――――同情はする、同じ被害者だから」

 

オリンピック選手並みの速度で移動したにも関わらず息切れの一つもせずに彼女は呟く。

男よりも身長は年相応程度しかないが、その身体から発せられる圧倒的な力に男はたじろぐ。

 

思考に意識は死者には存在しないが、

身体に刻みこまれた生存本能が彼女の危険性に警鐘を鳴らしている。

本能が恐怖として口をパクパクと開けるが、ひゅーひゅーと空気が漏れるだけだ。

 

「……まさか死者なのに記憶でもあるのか?まあ、でも」

 

少女は眉間にしわを寄せ悲しげに、哀悼の意を示すように一度眼を瞑った。

やがて、紅色に染まった眼を見開くとだらりと下ろした両手をゆっくり、大きく振り上げる。

 

「――――仇はとってやるから来世に行くといい、転生したボクが保障する。きっと行けるはずだから」

 

相対距離は約5メートル、

にもかかわらず振り下ろされ、直後男の体は引き裂かれた。

 

ネオンの光はなく、ビルの間の月明かりだけが頼りの路地裏で殺人事件が起こった。

 

肩から腰にかけて肉が爪で引っ掻かれたように裂け、血吹雪が舞いあがる。

骨が砕ける音とともに臓物が腹から地面へ溢れ出て、肌寒い季節もあり臓器から湯気が立つ。

 

身体を支える筋肉と骨が引き裂かれた男はその場で倒れる。

やがて男の肉体は灰へと帰り、男は本当の意味で死んだ。

後に残った背広や靴が誰かがいた事を示していたがきっと誰も気が付くことはないだろう。

 

こうして死者の一人は虚無の闇へ還っていった。

 

「さようなら」

 

完全に男が消えてから少女は次の死者を狩るべく跳躍しようと構えた瞬間。

 

「おい、弓塚!!」

「え?」

 

弓塚さつきが振り返った先には息を切らした遠野志貴がいた。

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

「くそ、どこだ。」

 

ネオンの光が眩しい繁華街を歩く。

吸血鬼騒動があっても繁華街の活気には変化はなく、

すでに夜の11時は過ぎているが街はまだ眠らない。

 

が、元より頑丈ではない俺の肉体は既に眠気と疲れを感じている。

明日秋葉や翡翠が心配するかもしれない、と考えてしまうがそれでも俺は通りを歩く。

 

ふと、視界の脇に交番の掲示板が眼に入る。

そこには吸血鬼騒動が原因と思われる行方不明者の顔写真欄に彼女の写真があった。

 

「……弓塚」

 

弓塚さつき、中学からの友人である彼女は昨晩以来俺と同じ非日常の世界へと入ってしまった。

彼女はアルクェイドが探す吸血鬼によって吸血鬼にされてしまい、化け物になった。

人に害をなし、生き血を啜る怪物に。

 

真祖と協力するだけではとどまらず弓塚さつきを救うとでもいうのですか?

貴方は何者ですか?日常を犠牲にして貴方は何故そうも死に急ぐのですか?

 

放課後の先輩の言葉が思い出させる。

たしかに友人である弓塚、さらには出会って数日程度のアルクェイドにここまで執着するのは変かもしれない。

 

いや、よく思えば俺は昔からこうだった。

まだ有彦と知り合ったばかりの昔、有彦になぜ俺に構うのか聞いた時あいつはこう答えた。

 

「オマエ、壊れているからな」

 

と言い、「このクラスで俺のライバルになるのはオマエだけだな」

とうそぶくや否や俺の給食のプリンを横取りしたのをよく覚えている。

 

なんてことはない、

公園でやってしまったあの惨殺もこうして夜の世界へ飛び込んで行くのも何もかも偶然ではない。

遠野志貴という人間は始めから周囲の人間から外れた異端者で、壊れた人間だったのだ。

にも関わらず自分を人畜無害な人間だと思い込んでいたのは喜劇か悲劇か、果たしてどちらだろうか。

 

それは恐らく悲劇だろう、

使われぬ道具ほど悲惨なものはない。

道具は常に手入れし、長く使ってこそ価値がある。

 

じゃあ、今はどうか?

例えるならば余計な錆が身体全体に張り付いたなまくらなナイフだ。

これではだめだ、錆びついた道具は磨いて錆を落とさなければ。

 

ちょうど街に来ていることだ。

人気のない所で適当に獲物でも見繕うとしよう。

こんなにも月が綺麗で、殺すには丁度良い――――。

 

「え?」

 

繁華街の隅の路地裏で一瞬、弓塚の横顔を捉えた。

 

「おい、弓塚!!」

 

まさかと思い声をあげる。

人ごみをかき分け、押しのけつつ路地裏へと走る。

さほどの走らぬ内に目的の人物を視界に確かに捉え、

目的の人物は後ろから人が追ってきたのに気づいてこちらに振り返った。

 

「…うそ!?」

 

やっぱり彼女だった。

向うは相当驚いたようで瞳が大きく開く。

直ぐに逃げるように暗く細く入り組んだ道に逃げ込んだ。

 

「おい!待て!!」

「来るな!!」

 

間違いない、あいつの声だ。

女の子なのに随分と変わったあいつだ。

 

「待てよ!」

「いいから来るな!」

 

返答は明確な拒絶、なぜか胸を苦しげに押さえながら逃げる。

足取りも確かではなく、よろけつつも離れようとする。

 

今度こそ―――――。

 

「う、」

 

その願いもむなしく突然目眩を覚え、視界が歪に歪む。

足を上げる動作は重く、服の重さすらも重く感じる。

息は幾ら吸いこんでも荒く、心臓は爆発寸前だ。

 

何時もの貧血に似た発作だ。

これが何時もなら自分の体だから仕方がないと納得できるし恨みはない。

が、俺はこの今初めて自分の体を憎らしいと感じた。

 

「あ――ハァ――――ハァ――――」

 

視界が暗く、感覚が狂う。

手を伸ばすが彼女は背を向けたまま去ってゆく。

 

ここで、こんな所で!

納得できないとばかりに渾身の力を振り絞って身体を駆動させるが、

 

「が――――!!?」

 

思いとは逆に身体はついて行けず、足がもつれあっさりと転んでしまった。

 

当然のことながら彼女は待ってくれるはずもなく、

転んでいる俺を置いて行くように10秒も経たぬ間に彼女は姿を消してしまった。

それこそ気配のかけらすらも残さずに。

 

「弓塚……」

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

「はぁ…」

 

辺りを見渡す志貴を尻目に屋上から見下ろす。

本当はこうして低いビルでも姿をさらすのは危険だが

又持病の貧血を起こしたらしい志貴を見捨てるわけにはいかずにこうしている。

 

だけど、次の死者を気配で探していたがまさかあいつに会うとはね。

一応ここ三咲町もそれなりに大きい地方都市なのでエンカウント率も低くなるはずなのに。

 

「だけどあの衝動は……」

 

問題はあいつを見て胸から湧き上がった衝動。

この体になって時折この世界の家族を思い出してこみ上がったものと全く同じであること。

 

父親と母親、妹。

家族構成は自分を含め4名。

 

ごく普通の家庭、

毎日がつまらなくありふれた日常の日々。

これといった信念も確固たる思想もなくただ日々を過ごす象徴。

 

そんな象徴をボクは

 

貪りたい、犯し尽くしたい。

その首筋に噛みつき血を啜りたい。

恐怖に歪んだ顔を踏みつぶし、肉片に変えたい。

 

体が疼く

つられて視線が下の人物に集中する。

 

志貴も同じようにその血を啜りた―――――。

 

「…っ!!静まれ、落ちつくんだ」

 

視線を逸らすが発作のように震えが止まらない。

眼がさめてから時折凶暴な何かが出そうで怖くてしかたがない。

気が狂いそうで輸血パックで誤魔化せなさそうだ。

 

――――ただ分ったことは、好意という感情が吸血衝動を引き起こすこと。

 

いずれこの街に来るであろう錬金術師は自虐するように呟いた。

そんな前世知識とこの現状を照らし合わせると、

 

「ボクは――――――」

 

家族はたぶん家族愛、親愛の好意から来るものだろう。

が、この遠野志貴に対する衝動はなんだろうか?

 

彼が【物語の主人公】に対する好意から来るものだからか?

彼が【学校の友達】から来るものだからか?

 

それとも、【男女間の好意】として。

つまり恋心を抱いているのか―――?

 

いやいや心は男の…つもりだが体は女の子で

一方向こうはれっきとした男子だが心は同じなので同性愛になるのか?

趣味嗜好は変化してないからきっと自分は男のままで――――。

まてまて以前空の境界でこういうのを…。

 

「ガラじゃないな、難しい事を考えるのは。」

 

頭を振り、ごちゃごちゃになった思考を除く。

TSによるギャップに今は動揺する暇はない。

まだまだ死者は100名はいるはずなので早めにケリをつけなければ。

 

「あと8日ぐらいか?」

 

頭上を見上げればゲームのように蒼くも大きくもない月が夜を照らす。

今日の月は昨日より欠けている分が少なく、満月が来つつあるのをこれでもかと見せつけている。

吸血鬼になってからは月を見ていると何となく力が沸き上がるが今はただ忌々しい。

 

「負けるか、ああ負けてたまるか。」

 

ボクは月を睨みながら呟く。

ロアを殺した後なんて考えていない。

正しくは深く考えたくないと言うべきか、どんなに原作知識を動員しても悪い予想しか思い付かない。

シエル先輩に眼を付けられた以上よほど運がないかぎり路地裏同盟のような呑気な未来はこないだろう。

 

「絶対に許さない。」

 

ロアは何が何でも許さない。

こうして死者を狩っているのも正義感からではなく、

ロアをおびき出す作戦であり、本音を言えば単なる八つ当たりにすぎない。

 

そして友人として志貴にあまりかかわって欲しくないが、

正直彼の戦力が欲しい、それこそ自分のためにという薄汚い考えが同時に浮かぶ。

当事者である彼は今まさに直ぐそこにいるが、既に志貴は巻き込まれているとはいえ気が進まない。

 

「お休み、志貴。」

 

いまだ下でうろうろしている志貴を見送りつつその場を離れる。

原作によれば死者はおよそ100体、供給源を断つには塵に返すほかにない。

さらに街全体に張り巡らせた魔法陣を破壊し、あいつを弱らせる必要がある。

 

さて、やれる所まで抵抗してみせるか――――。

 

 

 




さて、次の更新は何カ月先になるやら…

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