今回は説明会みたいなものです。
誰しもが一度は見て、聞いたことがあると思う。上半分が赤色で下半分が白く、その境には白のボタンがついている。そのボタンを押せば大きくなり、投げると中から本来入らないであろうサイズの生き物が出てくる現実的に考えれば非現実的な球体。
そう、モンスターボール。これがこの魔術の名称(仮)である。この言葉を見る限りでは、単純な構造をしていると思われるかもしれないが、実は俺が今まで習得してきた魔術の中でダントツの難易度を誇る代物である。これを魔術なしで創り上げた人はマジで尊敬する。
手順はこうだ。まず対象の物体を分解する。その際に原始配列やらなんやらを全て記憶する。そしてそれらを寸分の狂いもなく復元するのである。完全記憶能力の特典持っててよかったとこの時一番喜んだ。
これだけだとたったの二工程で簡単だと思うかもしれないが、全然そんなことはない。この魔術を完璧にやる場合、魔力が0.5%も持っていかれるのである。単純に計算してもたったの200人しか救えない。第一工程だけだとしてもその三分の一程消費するのだ。しっかり丁寧に理解し、分解しないと肝心な時に構造がわからずに人体錬成したみたいになるから……それと脳内の構成がおかしいと幼児退行やら廃人化など様々な症状を引き起こす。手を抜きすぎた結果だ。
それに、今回は一瞬だけ消して、すぐに復元してるから気づかれていないが、恐らく、消したままにすると神隠しか何かだと思われていたに違いないだろう。
それに約0.2%は決して少ない数ではない。この街の人口は約5000人弱もいる。魔術の効率化は欠かせない。地上が暇つぶしとか言うアホみたいな理由で攻撃される瞬間に瞬時に魔術を展開して発動する必要もあるのだ。復元するのはアラタがアビィス・トリニティ殺してからでいいので、全ての人の構造を記憶できればなんとかなる。
一応それもさっきの実験でかなり効率化できたと思う。後は魔力と体調を万全な状態に持って行くだけだったのだが…
こいつ殺してからでも問題ないよね。構想段階の新魔術が一つあったから試したいし。うん、そうしよう。
======= バロールside =======
今回の主君は始めてあった時から不思議じゃった。転生だとか特典だとか何を言っておるのかわからん、儂を宿したことで気でも狂ったのかと疑ったものじゃ。それでも外見に見合わない知識や冷静さ、そして確かな意思を宿した目を(鏡で)見た時、此奴は今までの宿主とは違うのではないかと期待していた。
そしてその願いは、ある一点以外叶えられることになった。力に溺れず、魔術を研鑽し、何よりも儂のことを道具としてではなく相棒であるかの様に接してくれた。今までの宿主とは何もかもが違っておると、そう思った。しかし、そうではなかった。歴代の宿主の3割が死んでしまった原因、それだけは変わっていなかった。
最初は皆、自制心があった。人を殺すことを忌避していた。それが、時間が経つに連れ無くなり、最後には殺すことに抵抗が無くなった。人を殺し過ぎて周りからは悪魔と呼ばれ、殺されていった。酷いものだと人格が変わったり、虫を殺す様に通り過ぎる人を殺す様にもなった。
今の主君はその状態に近くなっている。殺す相手を定めているだけまだ理性的じゃ。これでは、儂の秘密について話さなければよかった。話したせいで、主君の魔術のレパートリーが増えてしまった……今までにない程儂を大切に扱ってくれた主君がこのままである様に、狂わない様に全力を尽くそう、そして生涯支え続けよう。
儂がするのは何気無くサポートするだけ。それだけで気づいてくれると、今は信じよう。
======= sideout =======
======= 暁斗side =======
さてと、どうしようか。バロールにも手伝ってもらったら、あの新しい魔術が使えるはずだからやってみたい。すげえやってみたい。こいつはどんな風になるのだろうか。どんな事を考え、どんな風に絶望するだろうか……
なんだ?周りの奴らが全員、それこそ豚も含めてまるで化け物でも見る様な目で俺を見ているのは何故だ?俺の外見は子供で、豚が出て来たことによって相手側は勝利ムードだったはずなのに。
何気無く、俺は自分の口元を手で触ってみた。今の自分がどんな表情をしているのかが気になったからだ。そうして始めて気がついた……俺の口は歪にゆがんでいた。そう、笑っていたのだ。
俺は何故笑っているのだろう…何も楽しいことや面白いことは無かったはずなのに……さっきまでの俺は何を考えていた?…新魔術のことだ。相手の反応について考えていて……俺は相手の死に様を想像して笑っていたのか?
最近人を殺すということ抵抗がなくなっていってる気がする。このままだとなんかマズイ。この豚を殺すのはいいとして、何も知らずに死んでいった盗賊共に対しても、俺はさっきまで笑っていた様な気がする。この世界に来た俺が変わったのか?アキオの前ではこんな姿晒せないからな。自重しないと…
======= sideout =======
実を言うと、周りの連中は暁斗の笑みに怯えていたのではなく、バロールの威圧に怯えていたのだ。しかし、バロールは何も言わず、暁斗は自分の変化に気を取られて魔力に気づかなかったため、普通に笑っていただけなのにこの事実には気がついていない。見事にバロールのサポートが効果を発揮したのだ。
効果を発揮してもなお、変わらない未来もあるのだが…
「バロール、あれをやる。手伝ってくれ。」
『仕方ないのぅ、“傲慢(スペルビア)”の書庫に接続、テーマを実行する。』
これがバロールの秘密だ。こいつ自身もテーマを保持しているのだ。しかも二つも。そしてその二つがまたえげつないんだが……実質テーマ四つ!この時点でアラタに並んでしまった…
「ふ、ふん!貴様らには僕の恐ろしさをたっぷりと味合わせてやる!“嫉妬(インウィディア)”の書庫に接続、テーマを実行するんだな!」
バロールからの魔力の放出が止まり、冷や汗をかきながらも何とか自分を大きく見せようとしているようだ。部下の前だからなのだろう。デカイのは図体だけで十分だよ。
あと、何故そこだけ坊ちゃん口調?バカなの死ぬの?しかもこいつから一番遠いのが“嫉妬”ってアホなの?こいつの体型や性格から言って七つの大罪全部犯してるようなもんなのに……どうでもいい、超どうでもいい。
「あー……張り切ってるところ悪いんだけどさ…」
は〜い!ここで生涯で一度は言ってみたいセリフ第15位!超ビミョー…
「ここからは、ずっと俺のターンだから。」
あんなにハイテンションでは言えないわ。恥ずかしいし、今とのテンションの差が激しいし、なにより恥ずかしい……そろそろ終わらせよ。
「『“絶望郷(ディストピア)”』」
この言葉を口にする時、本来ならあり得ないが、俺とバロールの声が重なった気がした。
そして世界は魔力で満たされる…
==============================
ここら一帯が魔力で満たされた時、ラド=ギッシュは狼狽していた。
「(何も起きていないのか?しかし詠唱はしていたはず……一体どんな魔術なのだ…)」
魔力が辺りに満たされただけ……しかし詠唱は唱えられたことから何かしらの魔術だということは間違いない……しかし何も起きない……
そんな疑問が駆け巡ったが、今それを考えても仕方がないと思い、その魔術の元凶である目の前にいるガキを殺そうと動いた。が、思考はそこまでだった。突然の左腕への殺気により右に回避する。
「(危なかった…回避しなければ左腕がなくなるところだっ…)」
そう考えながら失いかけた左腕を見ると……そこにはあるはずの左腕が無かった。そう認識すると、思い出したかのように左腕の切断面から血が噴き出し、激痛が走り出す。
「(バッ、バカな!確かに回避したはず!それに奴は詠唱どころか一言も発していないのに何故!)」
急いで魔術で止血をしようとする。しかし、魔術の発動直前に暁斗は魔術を行使した。
「“術式解散(グラム・ディスパージョン)”」
劣等生の原作知識より抜粋した術式分解魔術である。これによりラド=ギッシュは魔術の発動に失敗いてしまう。しかし、魔術を使ったと理解できても、術式を直接破壊するような魔術があると知らないラドは余計に狼狽してしまった。
「(な、なんだというのだ。何故魔術が使えん!まさかこの空間では相手の魔術が無効化されるのか!)」
そう考えてしまった。想像してしまった。それがこの魔術、“絶望郷”を発動させているとも気づかずに…
そこからのラドは悲惨だった。魔術を使おうとしても魔力が減るだけで何も起こらず、左腕からはどんどん血が流れ出ていった。そして、暁斗が殺気を向けると、向けられた部位が消え、それを認識した直後、激痛が走り血が噴き出す、ということを繰り返していた。と言っても2〜3回だけだが。
そろそろ衰弱死をするだろうという頃、流石に何故死んだのかも分からないのは可哀想だろうと考えたのか、暁斗とバロールはこの魔術の原理をラドに話し始めた。
「『なんで死ぬのかも分からないんじゃ可哀想だからな、ネタバラシしてやるよ。この魔術はな、相手の想像と俺の想像がある程度一致した場合、それを僅かな魔力で現実にするんだよ。しかも相手にとってマイナスだと俺が思うものだけな。お前は俺の殺気を受けた時、その部位がなくなる想像をしただろう?その時俺もそのつもりで殺気を放ったから現実になったんだ。そして切断された腕を見て、激痛がして血液が噴き出すと思ったろ。だから噴き出したんだよ。魔術も一緒だ、一度は無効化されたから次からも無効化されると考えた結果だよ。』」
この魔術はバロールのテーマの一つ、“絶望(デースペーラーティオー)”と、俺のテーマの一つ、“創造(パルタム)”の合成魔術だ。原型はDグレ。無敵っぽく見えるけど、原理を知られたらメチャクチャ弱い。相手が強ければ強い程効果は薄くなる。雑魚にはめっぽう強いのだが…
説明し終えた頃にはもう虫の息で、30秒とせずに事切れた。今までは廃人化どまりだったからこうやって、血を撒き散らしながら相手を殺したのは初めてで、落ち込むかと思ったがそうでもなかった。ただ、ついに俺は人を殺したんだな…と思う程度だ。これが、相手が悪だったからなのか、バロールの影響なのかは、本人達にも分からない。
次回も楽しみにしていてください
テーマはラテン語表記を入れることにしました。
適宜修正やらなんやらをするので、意見や誤字脱字があればどんどん言ってください。