名も無き一般人のフェイト   作:ハッシーツヴァイ

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おはよーごさい……?

 

1/14朝

 

 

パチリッ。

 

 

ごく自然にまぶたが開いた。

そのままスクッと布団から身を起こす。

 

「おぅ……?」

 

さっきまで熟睡していたハズなのに覚めが異常なほどいい。

 

この寺で生活習慣が改善されたとはいえ、いつもならしばらくは微睡んでいるのに。

それだけ冬季の布団の中は魅力的なのだ。ましてや昨日は夜更かししたはずなのに。

夜更かし?

 

あぁ、

 

 

「お早うごさいます。よく眠れまして?」

 

 

“彼女”は壁際にたたずみ、たおやかに腕を組んでミステリアスに僕を見下ろしている。

 

「ウン、おはよーございマスメディア」

 

マスメディア。

こんなアホなダジャレを開口一番垂れるくらい僕の頭脳はスッキリ冴えていた。

 

「……まだ寝ぼけているようね」

 

そうかもしれナインライブス。(※バーサーカーのあの棍棒みたいな斧剣の技)

 

でも夜なべした割には本当に快眠できた。

 

 

 

顔を洗って部屋に戻ってくると朝メシにはちょうどいい時間に。

配膳までは手伝えるヒマなかったなあ。

 

「そうだ。せっかくだし朝メシ、メディアさんも一緒に食いませんか?」

 

「わたくしも……?」

 

「ええ。昨夜は長々と説明ばかりさせてもらいましたから。だから今日からはアピールの方をしたいなと。現代の世界、少しでも好きになってもらいたいですし。食文化からでもね」

 

「ふむ。必要ではなくとも……………別段、断る理由も見当たらないわね」

 

メディアさんの瞳は部屋の外を見透かすように遠くにいく。

 

「寺の僧たちにはいきなり来た貴女のこと不信に思われないように暗示の魔術でもチョチョイとかけてくださいよ」

 

「ここの人間たちに魔術を?………随分と簡単に言ってくれますね」

 

彼女の声音に少し不穏なトゲがたつ。

無関係の人間を操るのは決して誉められたことではない。

彼女もそれをよく理解しているのだろう。

 

僕はやや気まずいながらも苦笑いしながら布団をたたみ、押し入れに片付ける。

押し入れの戸を閉めてから、

 

「寺の人なら………許してくれますよ。元々優しい方々ですし。害のないよう、安全に魔術を施すのはメディアさんならまさに朝飯前でしょう?」

 

「まったく、したたかな男………」

 

彼女はかさばるローブのみを霊体化させた。

青紫のドレス服だけの姿。

軽装バージョンでの実体化だ。

 

僕は部屋が片付いたのを確認してから、彼女をエスコートする形で廊下を進んだ。

 

 

「フフン、和食ですからね。女性向けのさっぱりした献立だと思いますよ?」

 

「……それは楽しみね〜」

 

メディアさんは話半分でボヤくように、寺周りを眺めていく。

だが食堂に入って香りが漂ってくると、

 

「あら………」

 

メディアさんにも好印象のようだ。

 

僕は一成くんや零観さんにも挨拶。

葛木先生も少し離れたところから無言で頷いた。

 

それからメディアさんに振り返り、コソッと

 

「………暗示は全員に行き渡りました?」

 

「細工ならばわたくし自身の方に施しました。一人一人に術をかけるより合理的ですから」

 

「おっけおっけ」

 

 

 

そして料理が並ぶ。白米、味噌汁、焼き鮭、おひたし、あと海苔。

 

いつものごとく、みんなでいただきますの合掌。

 

そして僕もさっそく焼き鮭をほぐして口に放り込みながら、

 

「ちなみにこの国のいただきますは、食材になった生き物全てと作ってくれた方に対する感謝の気持ちという意味合いが強いとかなんとか…………」

 

「唯一神に直接祈りを捧げるのとはやや方向性が違うのね。まあ、こっちの方が嫌な気はしないわ」

 

メディアさんは神さま嫌いだったか。キューピットの神さまに人生狂わされたわけだしなあ。

 

「この国では八百万(やおよろず)の神々という概念になりますからねえ」

 

「洋でいうところの妖精の類かしら」

 

というかその八百万の集合体がフェイトエクストラ登場のもう一人のキャスターだったり。

流石にエクストラの話まではまだほとんど言及していなかった。

 

 

僕は味噌汁をかきこむ。

メディアさんはお上品ながらも不慣れな箸使いで豆腐を挟んでいるところだった。

 

 

 

 

 

御馳走様をしてからは一旦部屋に戻って休憩する。

一成くんと葛木先生はもう学校に登校したたろうか?距離があるので早く出なければいけなかったと思う。彼らは彼らで大変だ。

 

僕もコペンハーゲンがあるが、今日は遅番なので時間に余裕がある。

 

 

 

ひとまず、テレビを直接電源ボタンからポチッとつけた。

14型くらいの小さいアナログテレビだが、こんなものまで寺は用意してくれたのだ。

ほんと彼らには頭があがらない。

 

ちなみにそう、アナログなのだ。

この世界のこの時代ではまだ地デジは完全普及していなかった。

それでも科学の粋であることには違いない。

 

「へぇ………水晶玉よりは鮮明に映るものなのですね」

 

メディアさんも女の子座りで視聴している。

隣で僕もあぐらをかいて手は後ろにつき、楽な体勢でいた。

 

 

 

チャンネルは冬木の情報を得るためにニュース番組にしている。

画面の向こうにはメディアさんの1/10程度の美人アナがいる。

 

この現代社会の根幹を為すマスメディア、情報メディア。

メディアという言葉は媒体という意味でもあったか。

 

今、インタビューでスポーツ選手に対してメスの顔しているあの美人アナも立派なキャスター。

サーヴァントのキャスターと似て非なるニュースキャスター。

 

 

「……こーゆー言葉って、メディアさんのお名前とは繋がりないんですか?」

 

「あいにく無関係よ。いわゆる同音異義語なのでしょうね」

 

「そうか残念。もしお名前の由来だったとかなら知名度補正が大変なことになりますよ。なんせ世界中だいたいどこでも、子どもだって知ってる言葉だ」

 

ほくそ笑む僕にメディアさんも笑い返して、

 

「あら、わたくし本来の知名度だけじゃご不満?」

 

「まさか。魔女の代名詞としてならファンタジー系のライトノベル等でもみかけたことありますよ」

 

彼女もそれぐらいには立派に有名だ。

中二病なら知ってる者も多いかも。

 

「ライトノベル………フェイトのゲームとはまたちがうジャンルなのかしら」

 

「こっちはねぇ、ゲームソフトじゃなくてそのまま紙の本で売ってるんですよ。現代の若者向け文学ですかね」

 

「ややこしいのね」

 

「メディアミックスな時代ですからねえ〜」

 

「………………」

 

「ま、まあ………現代文化もおいおいお教えしますよ。少しでも愛着持ってもらうためにね。フッフッフ」

 

「はいはい」

 

メディアさん、プラモやフィギュアとかもイケるクチだと思うんだけどな〜。

カーニバルファンタズムでも彼女が自作してるシーンあったし。

 

 

 

メスの顔した美人アナのコーナーが終わり、興味を無くした僕はゴロンッゴロンッと寝転りはじめた。

 

女神級美女英霊と同じ空間にいるのに、あまり緊張することもない。

朝から妙に快調で、リラックスできているのだ。

 

 

 

あまりにゴロンゴロンしてたのでメディアさんの足にぶつかってしまった。

 

「ス、スンマセン!」

 

「はあ………」

 

メディアさん、子どものイタズラに出くわしてしまったお母さんかお姉さんのよう。

僕もいい年してマジで恥ずかしくなったので座り治して姿勢を正す。

 

 

(ウヘヘッ、さっき当たったメディアさんの足、柔らかかったな)

 

 

アニメとかでもわかるように彼女は靴下とかニーハイは穿いていない。

ザ・素足なのだ。

 

ふ〜〜どうして足の裏まであんなキレイなんだよ。

指もカカトも形が整いすぎている。

あの親指の形の絶妙な丸みが…………

 

「はい?」

 

「ほァたッ!!」

 

ふいにメディアさんが振り向くとほぼ同時に僕はでんぐり返りをした!

 

「………さきほどから何をやってるのよアナタ。お馬鹿さんね」

 

僕の男として鍛え上げられた、『チラ見(バレないようさり気なくいやらしい視線スキルとその誤魔化し)』

決まったようだ。

 

大昔と違い、空気を読むことが重視される現代では必要スキルなのだ。

 

 

 

「あぁ、そうそう」

 

メディアさんが何気なくふと思い出したように、

 

「昨晩の話ね、受けることにするわ」

 

「へぇ〜………………………………………へっ!?」

 

「“貴方に協力する”と言ったのよ」

 

「ほ、ホントですかあ!」

 

「もちのろんよ」

 

彼女はフイッとそっぽを向いて、

 

「お馬鹿な男のせいで毒気を抜かれてしまったし。まあ………そろそろ悪女を気取るばかりにも飽きてきた頃合いですからねぇ」

 

 

「〜〜〜………ッッ!!」

 

感極まった僕はおもむろに手を差しだし、彼女に握手を求めた。

彼女の細指を握り、ブンブンブンと揺らしながら、

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!ぅありがとぉ〜〜ごさいまぁあああすぅ!!」

 

「大袈裟だこと………ってひゃあ!」

 

彼女を抱っこ!

両脇を抱えてメリーゴーランドした。

 

そしてシバかれた。

 

 

「まったく、みもふたもない……!」

 

「ウヘッ。スンマセンなんか朝から妙に元気ハツラツで……」

 

「………………………………………昨夜の薬香、効き過ぎたかしら」

 

「ん、なにか言いましたか?」

 

「なんでも……!」

 

そそくさと着崩れをなおす彼女に、

 

「ほんなら………親しみを込めて貴女のこと、メディアさんとお呼びしても?」

 

「許します。もはや昨夜から散々と連呼してましたけれどね………」

 

 

よっしゃあ

これでく堂々と呼べるぞぉ。

いやっほい!いやっほい!

 

いやっ………ほい……

 

「……………」

 

「はあ………今度どうしたのですか?」

 

「いや、いざホントに協力してもらえるってなるとまた緊張して………」

 

メディアさんはもはやため息もつこうとしない。

 

「しっかりなさい。これから契約して、貴方はわたくしの新たなるマスターになるのですよ?」

 

「ハハッお恥ずかしい…………って、やはり契約もちゃんとするんですか!?僕がマスターってことは、正規のサーバント契約をしてくれようと……?」

 

「ええ。わたくしも貴方との関係性を考えましたが、やはり聖杯戦争のルールに乗っ取った正式な契約関係が最も適切でしょう」

 

「ほぅ?」

 

彼女からそんな意見を聞くとはやや意外ではある。

 

「その昨夜に語り聞いたフェイト?というお話………」

 

「フェイトステイナイトね」

 

「私は随分とルール破りをしていたらしいけれどね。“そういうモノ”は本来破らなくて済むならそれに越したことはないのよ」

 

「郷に入っては郷に従えというやつですかね」

 

すでに仕組まれた大魔術儀式だから、後から下手にいじくらないほうがいいのかも。

まあ、シュバインオーグほどの人も手伝って出来た仕組みだからなあ。

 

「くわえてマスターとしての態度や言葉使いもですよ。貴方、よく馬鹿な事はしでかしますけど、基本的にはわたくしをとても敬ってくれていますよね?」

 

「ええ、そりゃ社会人の基本ですし。なによりメディアさんほどの凄い方だし………」

 

「礼節を尽くしていただけるのは………結構なことです」

 

彼女は恥ずかしそうに唇をすぼめてからコホンッと小さく咳払い。

 

「が、これからは貴方が私の上につくことに変わりはありません」

 

真面目に見据えて、

 

「せめてマスターらしく示しはつけなさい」

 

「は、はい………」

 

彼女は別に僕に偉ぶれと言ってるわけじゃない。

ただマスターとしての当然のスタイルを、その在り方を最初に注意喚起してくれているのかな。

当たり前でいて、案外大事な部分なのかも。

 

ふと、

 

 

時臣ぃ………

 

あの英雄王も時臣の臣下の礼をとり、ヘコヘコしまくる態度にこそ、逆に残念に思うところもあったりしたのだろうか?

 

 

改めて考えるとマスターとサーヴァントの関係も難しい。

 

 

ただ、僕はメディアさんと本当に仲良くなりたいと思っていた。|

 

「マスター……?」

 

長く考え込んでしまっていたようだ。

彼女は僕を本気でマスターになるつもりあるのですよね?とうかがうような表情で待ってくれていた。

 

「………よっしゃ!」

 

僕は泰然と顔を上げ、

 

「要するに、もうちょいフランクにしろってことだなメディーちゃん!」

 

「それはいささか舐めすぎよ、“下郎”?」

 

「そ、そんな怒らんといてえな。冗談よ冗談………」

 

「ウフフフフフフフッッ。怒ってなどおりませんよ、マスタァ〜……」

 

メディアさんは鉄のスマイルを固めてくれちゃったのだった。

 

理想の良好関係はまだまだ遠い?

 

ま、おいおいな。

 

 

 

そして僕は晴れてメディアさんと契約したのだった。

どう契約したかは、その呪文詠唱は……………もはやあえて言うまでもないことだろう。

 

 

 

 

 

「で、これから先の行動や計画は何かしら考えてあるのですか?」

 

メディアさんは切り替えるように長い群青色の髪をかきあげた。一房だけ編み込んだ三つ編みも揺れる。

 

 

「……当然♪」

 

僕は隅に置いてあった机を部屋の真ん中に持ってくる。

木箱のような小机だから簡単に持ち運びもできるのだ。

 

引き出しからfate資料のノートも取り出した。

 

「流石に魔力なし金なしで全て貴女頼みで協力を持ちかけたわけじゃあ、ありませんよぅ?」

 

「あら、頼もしいですこと?」

 

「え〜っと……現界の際にサーヴァントは現代の知識も与えられるからメディアさんも日本語は読めるんだよね」

 

「世界共通語の英語もね」

 

晴れてサーヴァントになってくれた以上、この全てを記してきたノートの存在も彼女にはもう隠すべきじゃないだろう。

 

 

「昨晩したフェイトの話をもっと詳細にしていきましょうか」

 

僕はメディアさんと一緒にノートを開けて読み返す。

それぞれのマスター・サーヴァントたちの正体以上に、その性格やクセ、経歴、細かいプロフィールまでも明かした。

 

明かしてしまった。

 

 

「……………」

 

「メ、メディアさん?」

 

「……スリーサイズまで書いてあるのね……」

 

「いやあ………それは……………ウィキペディア半端ないですから」

 

「スリーサイズまで書いてあるのね」

 

なぜ二回言ったし。

 

「わたくし、82・57・84ですって。どう思いますかマスター?」

 

「うん、僕の趣味的に胸は90は欲しいトコロだね。そこらへん魔術でどうにかならないかぬゅああああああああんんゴメンナサイゴメンナサイわき腹ひねらないでぇええぇええ!!出る、肝臓エキス的なものがでりゅううぅぅうう〜〜っ!!!」

 

「出しなさいッ!!タイタンのように肝ごと引っこ抜いてやるから遠慮なく出しなさいっ!!わたくしそうゆうの得意ですからねえぇぇえええ〜〜っ!!」

 

 

かくして、この凶行をさっそく令呪を使って止めてしまいそうになった。

手が赤く半光りしだしたところで気づいた彼女は、わずかに残っていた慈悲を振り絞るようになんとか許してくれた。

 

お互い荒い息をつく。

 

ギリギリセーフ。令呪はまだ一つも無事だった。

こんなアホなことで消費されなくてよかった。

 

「はあぁああ〜〜………覚悟していたつもりでしたが………ここまで赤裸々だったなんてね。羞恥心も振り切れてしまうわね」

 

クールダウンしてから彼女はポツリと、

 

「わたくしはよく女狐とも呼ばれるのだけれど」

 

「うん、存じ上げてます」

 

「……そうよね」

 

ばつが悪そうに歯噛みし、

 

「まったく、キツネにツママレたのはわたくしの方な気分よ」

 

「ハハッ………それなら僕なんて不思議の国のアリスだよ。もしくわネヴァーエンディングストーリーの主人公………」

 

「フンッ、少年少女のロマンスな物語の主役なんてとうに過ぎた20代一般人でしょうに」

 

「子どものような夢を見る時代が終わったのは自覚してるよ。僕はフェイトの登場人物じゃあ大人組だ。貴女がた英霊も………」

 

 

どれだけはっちゃけたって、バカやったって………わかっているさ。

 

僕は大人だ。

メディアさんも。

 

 

「仕組まれた聖杯降臨のからくり舞台で踊る、歴代最強のサーバント群に、歴代最若年層のマスターの子達ですか………」

 

彼女はもう一度、ノートに綴られた己を含めたそれぞれのプロフィールを見る。

僕もつられて見る。

 

「前回第四次。僕らみたいないい年した大人達が、しがらみに捕らわれて是が非でも殺し合いしなきゃいけない………そんな風潮だった。でも今回第五次。メインキャストの大半は頭の柔軟な子ども達だ」

 

「フッ……ならば貴方にはどんな役割を与えたつもりなのでしょうね、聖杯は」

 

 

僕は畳に固めた拳をグッと乗せる。

そこに宿る令呪に負けないように。

 

「僕に出来ることがあるとすれば、そもそも戦う必要なんてないって、みんなを説き伏せていくことだよ!この子達とちゃんと話し合って協力し合うんだ!そしたらきっと―――」

 

 

きっと、この世全ての悪にだって打ち勝てる。

 

 

そう言ってからページを先の方までめくり進めた。

そこからはfateの公式設定ではなく、僕が独自に考えてみた事柄や作戦スケジュールを載せてあるのだ。

僕はその字をペンでキャップの上からなぞる。

 

「ほら、確実に協力してくれそうな陣営から順々に、詰んでいこう」

 

したたかに、繊細に。そして大胆にだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、この名セリフとやらの『葛木メディアでごさいまああぁぁあす!』はなんとかならないものかしら」

 

「いやそりゃキノコが書いたやつじゃないんで。他のライターさんが悪乗りしちゃったんでしょ。きっと」

 

 

第八話

おはようござい………?

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